障害者雇用が進みつつありますが、中小企業における障害者雇用は大企業に比べるとなかなか難しい状況が見られます。障害者雇用率の実雇用率の達成度合いをみても明らかです。
昨年の実績を見ても、それがわかります。実雇用率の分岐点は従業員が500人以上かどうかで、ここを下回る企業は実雇用率が2.0%をきっていますが、それ以上の企業は2.0%と雇用率を達成しています(平成30年度の調査では、雇用率は2.0%)。
ここでは、障害者雇用を進める上で中小企業が抱えている課題とともに、精神障害者が活躍している中小企業について見ていきたいと思います。
障害者雇用を進める上での中小企業の抱える課題
障害者雇用を進める上での中小企業の抱える課題として、どのような点があるのかについて見ていきたいと思います。「中小企業における障害者雇用促進の方策に関する研究」では、就労支援機関を対象として、中小企業のメリット・デメリットについて回答したアンケート結果がありますので、こちらから見ていきたいと思います。
大企業と比較して、中小企業の場合には、障害者雇用を進める上で、経営トップに直接働きかけやすい点や、上司・同僚等の面倒見が良いというメリットもある一方で、採用基準・賃金体系等が固定的であったり、職務経験・キャリア形成の幅が狭いといった難しさが見られます。
メリットとしては、次のような点があげられています。
・支援機関が経営トップに直接はたらきかけやすい
・上司や同僚の面倒見が良い
・地域の支援ネットワークを利用しやすい
一方、デメリットとしては、次のような点があげられています。
・賃金を柔軟に設定できる
・障害者がキャリア形成しやすい
・障害者が様々な職務を経験できる
・採用の基準が緩やかであり、障害者が就職しやすい
・障害者が通勤しやすい場所にある
出所:中小企業における障害者雇用促進の方策に関する研究(2013.障害者職業総合センター)
中小企業の場合には、一般的に大企業と比較すると、規模などの点から仕事の種類や設備等ではどうしても限界が見えてくるようです。一方で、経営トップの意思が反映されやすいことや、上司や同僚からの配慮が多いことがうかがえます。
障害者の職場定着している理由
同じ調査の中で、障害者の職場定着ができている理由について、従業員が56~300人の企業と、301~900人の企業と比較しています。これを見ると、中小企業は「作業を遂行する能力」や「仕事に対する意欲」など、本人の業務状況をあげるケースが多く見られますが、大企業は「現場の従業員の理解」をあげるケースが相対的に多く見られています。
出所:中小企業における障害者雇用促進の方策に関する研究(2013.障害者職業総合センター)
中小企業では、仕事の種類が限られてしまうこともあり、「作業を遂行する能力」や「仕事に対する意欲」が仕事を続けられるかどうかに直結することが多いようです。つまり、中小企業で障害者雇用をするときには、大企業で障害者雇用を行うよりも仕事内容と本人の能力や適性が影響を及ぼすことが多いことが推察されます。
中小企業で精神障害が活躍している職場がありますが、やはり仕事内容と本人の能力や適性に重きをおいていることがわかります。実際にその事例を見ていきたいと思います。
精神障害者が活躍する職場
ヴァルトジャパン(東京)
精神障害者を中心に約6,000人の障害者と業務契約を結び、大手企業など約20社から受注したデータ入力などを障害者アウトソーシングチームに委託しています。
仕事内容は、ライティング、画像処理、データ入力、サイトパトロール、AIデータ生成、ビックデータ整理などです。
業務の仕上がり具合については、単調な仕事でも集中力が落ちない人が多く、300ページものアンケート結果をパソコンに1日で入力する作業もあるそうですが、ほぼミスがない上、回答の仕方が誤っていると用紙に付箋で説明を付けるなどきめ細かい対応ができる人もいるようです。
また、基本的には在宅での業務が中心となりますが、WEBを通して仕事と健康の管理ができるシステムを導入していたり、対面だと緊張する人が多いため、連絡は主にチャットを活用するなどの配慮も行なわれています。
ビジネスプランニングセンター(大阪市)
ビジネスプランニングセンターは、A型事業所として運営されており、「障害者総合支援法」の就労継続支援事業となっています。
働いている人の8割が精神障害者で、仕事内容は、チラシやお客様向けの通信紙といった広告デザイン、ホームページ作成や動画などのウェブコンテンツ作成、iPadやiPhone、Macで使うアプリケーションの開発を行っています。
仕事内容については、健常者が手掛けるものと全く遜色がないそうですが、納期やノルマは設けず余裕を持たせており、顧客にも納期を守れないことを説明して理解を得ているそうです。これができるのは、顧客の中には実情を知っている人はたくさんいるそうですが、極力そういう言い方はせずに、社外的には短時間勤務の社員が20人程いるという言い方をしているからです。
実際に働いているのは、1日4時間の短時間中心の社員がほとんどで、全員が毎日出社することも難しい状況があるようです。それでも、潜在能力を引き出すため面談をし、本人の適性をつかむことができれば、十分に戦力として活躍できる場を作ることができることを示していると感じました。
こちらで働く50代女性は、前職の営業職でうつ病になりました。しかし、自分の得意分野として、時間はかかるものの情報を集めて文章を書くことができるとわかりました。働く場での評価と期待を伝えると熱心に働き、短時間で文章をまとめる主力ライターとなったそうです。
中小企業が障害者を雇用するためのポイント
中小企業が、障害者雇用を進める上であげられたメリットや職場定着で重視されている点、実際に活躍する障害者がいる中小企業の例をみていくと、ポイントとして考えられるのは、【業務と本人の適性のマッチング】ができるかどうかという点になるでしょう。業務を切り出すとともに、その業務に求められる適性をしっかり把握することで、障害者の採用の可能性が広がってくると思います。
また、業務の切り出しという点では、今回事例にあげた会社は、どちらもWEBを活用した仕事内容でした。チラシやデータ入力、WEB関連の業務はどこの企業でも必要とされるものですし、中には外部業者へ委託している会社も多いでしょう。どこまで専門的なものを求めるのかという点は考える必要があるかもしれませんが、業務の切り出しとしては検討できるものとなるでしょう。
しかし、障害者と接する機会がほとんどなく、状況がわからないために不安で雇用ができないという企業も少なくないようです。その場合には、ぜひ障害者雇用に関わる機関から情報収集してください。就労支援機関や特別支援学校、福祉作業所の見学や実際に障害者を雇用している企業の話を聞いたりすることで理解を深めることができます。また、障害者雇用関連のセミナーは、ハローワークや労働局、障害者職業センターなどの公的機関で行っています。
まとめ
障害者雇用が進んでいると言われていますが、中小企業における障害者雇用は大企業に比べるとなかなか難しい状況が見られています。しかし、このような状況の中でも精神障害者が活躍している中小企業があることをお伝えしてきました。
そのポイントとして考えられるのは、【業務と本人の適性のマッチング】ができるかどうかという点です。業務を切り出すとともに、その業務に求められる適性をしっかり把握することで、障害者採用できる可能性を広げることができるでしょう。
障害者と接する機会がほとんどなく、状況がわからないために不安で雇用ができないという企業の方は、ぜひ障害者雇用に関わる機関から情報収集してみてください。
参考
平成30年障害者雇用状況の集計結果からみた今後の障害者雇用とは
【障害者総合支援法】就労継続支援事業と就労移行支援事業の概要と対象者
【中小企業の障害者雇用】障害者雇用をはじめるときのきっかけとは?
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