大人の発達障害・ASDの特徴と職場対応

大人の発達障害・ASDの特徴とは|職場で起きやすいズレと対応の考え方

2024年07月4日 | 障害別の特性・配慮

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2026年7月2日更新

発達障害、特に自閉スペクトラム症・ASDのある人と職場で関わるとき、管理職や人事が戸惑う場面があります。たとえば、「なぜこの指示が伝わらないのだろう」「なぜ急な変更に強く反応するのだろう」「なぜ相手の意図を読み取れないように見えるのだろう」「どこまで説明すればよいのだろう」と感じることがあります。
しかし、こうした場面を本人の努力不足や、コミュニケーション能力の問題だけで捉えると、職場対応はうまく進みにくくなります。ASDの特性を理解することは、本人を特別扱いするためではありません。職場でどのような情報のズレが起きやすいのかを理解し、指示の出し方や配慮の方法を整えるために必要な視点です。
この記事では、ASDの特徴、心理課題から見える視点理解の難しさ、職場で起きやすいズレ、管理職や人事ができる対応について整理します。

この記事で整理すること

この記事では、次の内容を整理します。

  • ASDとはどのような発達障害か
  • ASDの特性が職場で表れやすい場面
  • サリーアン課題から見える他者の視点理解の難しさ
  • アイスクリーム課題から見える情報共有のズレ
  • ASDのある社員への指示・フィードバック・配慮の工夫
  • 本人任せ、管理職任せにしない職場対応の考え方

ASDとは何か|職場で理解しておきたい発達障害の特性

発達障害は、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害などを含む、脳機能に関連する障害として法律上も位置づけられています。
その中でもASDは、社会的なやりとりやコミュニケーション、こだわり、感覚の敏感さなどに特徴が見られることがあります。厚生労働省の発達障害に関する資料でも、自閉症スペクトラムの特性として、見通しの立たない状況で不安が強くなりやすいこと、感覚刺激に敏感なこと、具体的・視覚的な伝え方が有効な場合があることが示されています。
ただし、ASDの特性は一人ひとり異なります。同じASDという診断名であっても、困りごとの出方、得意なこと、苦手なこと、必要な配慮は同じではありません。そのため、職場では「ASDだからこの対応をすればよい」と一律に考えるのではなく、実際の業務場面で何に困っているのかを確認することが大切です。

ASDの特性が職場で表れやすい場面

ASDの特性は、職場では次のような場面で表れやすくなります。

曖昧な指示が伝わりにくい

職場では、日常的に曖昧な指示が使われます。
「なるべく早くお願いします」「いい感じにまとめてください」「必要そうなところを確認しておいてください」「空気を読んで対応してください」こうした表現は、職場ではよく使われますが、ASDの特性がある人にとっては、何をどこまで行えばよいのかが分かりにくい場合があります。
本人が指示を聞いていないのではなく、指示の中に含まれる前提や期待値が明確になっていないために、受け取り方にズレが生じていることがあります。

急な変更に対応しづらい

予定や手順が急に変わると、混乱したり、不安が強くなったりする場合があります。
たとえば、予定していた作業が急に変わる、会議が直前に入る、優先順位が何度も変わる、担当業務が急に追加されるといった場面です。
職場では「臨機応変に対応してほしい」と考えがちですが、本人にとっては、変更の理由や次に何をすればよいのかが分からないまま、対応を求められている状態かもしれません。

相手の意図や暗黙の前提を読み取りにくい

ASDのある人は、相手の表情、声の調子、場の雰囲気、暗黙の期待を読み取ることが難しい場合があります。
そのため、周囲から見ると、「なぜ今その発言をするのか」「なぜ相手の気持ちに気づかないのか」「なぜ説明しなくても分かることが伝わらないのか」と感じられることがあります。
しかし、ここで重要なのは、「思いやりがない」と決めつけないことです。本人は悪気なく、見えている情報や理解している前提が周囲と違っているだけの場合があります。

感覚過敏によって集中しづらいことがある

音、光、におい、人の動き、室温などの刺激に敏感な人もいます。
たとえば、周囲の話し声、電話の音、照明のまぶしさ、人の出入りが多い環境などによって、集中が難しくなることがあります。この場合、本人の集中力の問題として見るだけではなく、作業環境が業務遂行に影響していないかを確認する必要があります。
感覚刺激への対応では、単に「静かな場所へ移す」と決めるのではなく、どの刺激が、どの業務に、どの程度影響しているのかを本人と確認します。

例えば、次のような調整が考えられます。

  • 電話や人の出入りが多い場所から、座席を離す
  • 集中が必要な業務を、比較的静かな時間帯や場所で行えるようにする
  • 照明やパソコン画面の明るさを調整する
  • 安全面や業務上の連絡に支障がない範囲で、耳栓やイヤーマフなどの使用を検討する
  • においや室温など、本人が強く負担を感じる環境要因を確認する

ただし、感覚の感じ方や必要な調整は人によって異なります。「ASDだから静かな席が必要」と一律に判断するのではなく、実際の業務への影響と、会社として実施可能な方法を整理することが重要です。

心理課題から見るASDの特性理解

ASDの特性を理解するうえで、「心の理論」という考え方がよく取り上げられます。心の理論とは、他人にも自分とは異なる考え、感情、意図、信念があることを理解する力を指します。
職場では、この力がさまざまな場面で使われています。
たとえば、相手が何を知っているかを想像する、相手が何に困っているかを考える、自分が知っている情報を相手も知っているとは限らないと考える、相手の立場から説明の仕方を変えるといったことです。ASDの特性がある場合、このような他者視点の理解や、情報の共有状況を整理することに難しさが出ることがあります。
ここでは、代表的な心理課題であるサリーアン課題とアイスクリーム課題を通して、職場で起きやすい情報のズレを見ていきます。なお、これらは特性理解のための心理課題であり、職場で診断や判定を行うためのものではありません。

サリーアン課題から見る「他者の視点理解」の難しさ

サリーアン課題では、サリーとアンという二人の登場人物が出てきます。
サリーはビー玉をかごの中に入れて、部屋を出ます。サリーがいない間に、アンはビー玉をかごから取り出し、箱の中に移します。その後、サリーが部屋に戻ってきます。
ここで問われるのは、「サリーはビー玉をどこで探すでしょうか?」という質問です。
この課題で求められる答えは「かごの中」です。なぜなら、サリーはビー玉が箱に移されたことを知らないからです。サリーにとって、ビー玉は最後に見た「かごの中」にあると考えるのが自然です。
一方で、ASDの特性がある場合、この課題で「箱の中」と答えることがあります。これは、自分が知っている情報、つまり「ビー玉は箱に移された」という事実をもとに考えてしまい、サリーがその情報を知らないという状況に立つことが難しいためです。
この課題では、自分が知っている情報と、サリーが知っている情報を分けて考える必要があります。見ているのは、知識量や正解できるかどうかではありません。自分が知っていることと、相手が知っていることを分けて考えられるかという視点です。
職場でも、同じようなズレが起きることがあります。たとえば、会議場所が変更になり、本人はその情報を知っている一方で、同僚はまだ知りません。このとき、本人が「自分は知っているから、相手も知っているはず」と考えてしまうと、同僚が元の会議室に向かった理由が分かりにくくなります。
ASDの特性がある場合、自分が知っている情報と、相手が知っている情報を分けて考えることに難しさが出ることがあります。そのため、相手がまだ知らない前提に立つことが難しく、職場で情報共有のズレが起きる場合があります。

アイスクリーム課題から見る「情報共有のズレ」

アイスクリーム課題は、サリーアン課題よりも複雑な視点理解を扱う課題です。登場人物は、ジョンとメアリーです。
ジョンとメアリーは公園にいます。公園にはアイスクリーム屋さんが来ています。メアリーはアイスクリームを買いたいのですが、お金を持っていないため、家に取りに帰ります。その後、アイスクリーム屋さんは公園から教会の前に移動することになります。
アイスクリーム屋さんは、移動することをジョンに伝えます。さらに、アイスクリーム屋さんは移動中にメアリーの家の前を通り、メアリーにも「教会の前に行く」と伝えます。その後、ジョンはメアリーの家に行き、メアリーの母親から「メアリーはアイスクリームを買いに行った」と聞きます。
ここで問われるのは、「ジョンは、メアリーがどこに行ったと思うでしょうか?」という質問です。この課題で求められる答えは「公園」です。
ジョンは、アイスクリーム屋さんが教会の前に移動したことを知っています。しかし、メアリーがその情報をアイスクリーム屋さんから聞いたことは知りません。そのためジョンは、「メアリーはアイスクリーム屋さんがまだ公園にいると思って、公園に行った」と考えるはずです。
一方で、ASDの特性がある場合、この課題で「教会」と答えることがあります。これは、自分が知っている情報、つまり「アイスクリーム屋さんは教会の前に移動し、メアリーもそれを知っている」という情報をもとに考えてしまうためです。
しかし、問題で問われているのは「メアリーが実際にどこへ行くか」ではありません。「ジョンが、メアリーはどこへ行ったと思っているか」です。
アイスクリーム課題では、「自分が知っていること」「メアリーが知っていること」「ジョンが知っていること」を分けて考える必要があります。つまり自分の視点だけでなく、ジョンの視点に立ち、さらにジョンがメアリーの状況をどう理解しているかまで考える必要があります。誰が何を知っているのか、誰がどの前提で動いているのかを整理しにくいと、認識のズレが起きやすくなります。

サリーアン課題は、「自分が知っていること」と「相手が知っていること」を分けて考えられるかを見る課題です。アイスクリーム課題は、さらに一歩進んで、「相手が、別の人の状況をどう理解しているか」まで考える課題です。
ASDの特性がある場合、複数の人がそれぞれ異なる情報を持っている状況を整理することに難しさが出ることがあります。そのため、職場では「言ったつもり」「分かっているはず」にせず、情報共有の範囲を明確にすることが大切です。

ASDの特性理解を動画で確認する

サリーアン課題やアイスクリーム課題は、ASDのある人に見られやすい「他者の視点理解」や「情報共有のズレ」を理解するうえで参考になる心理課題です。
記事で整理した内容を、動画でも解説しています。ASDの特性を、職場での指示や情報共有の工夫につなげて考えたい方は、あわせてご覧ください。

ASDのある社員への職場対応で大切なこと

ASDのある社員への対応では、本人に努力を求めるだけでは限界があります。職場側も、伝え方、確認の仕方、配慮の進め方を整える必要があります。

1. 指示は具体的に伝える

まず大切なのは、指示を具体的にすることです。
曖昧な表現ではなく、何をするのか、いつまでに行うのか、どの順番で進めるのか、どの程度の完成度を求めるのか、困ったときは誰に確認するのかを伝えます。
たとえば、「急いで資料をまとめてください」ではなく、「今日の15時までに、A社向けの提案資料のうち、1ページ目から5ページ目までを確認してください。誤字と数字の間違いを中心に見て、修正点は赤字で入れてください」のように伝えると、本人が動きやすくなります。

2. 期限・優先順位・完成イメージを明確にする

ASDのある人に限らず、職場で混乱が起きやすいのは、期限や優先順位が曖昧なときです。
特に、複数の業務が同時に進んでいる場合、「どちらを先にすべきか」「どこまで仕上げればよいか」「途中で確認した方がよいか」が分からないと、本人は自分なりに判断するしかありません。
その結果、上司の期待と違う進め方になり、「なぜ確認しなかったのか」と言われてしまうことがあります。これを防ぐには、最初に優先順位と確認のタイミングを決めておくことが有効です。

3. 口頭だけでなく文書でも共有する

口頭での指示は、その場では分かったように見えても、後から確認しづらいことがあります。
そのため、重要な指示は、メモ、チャット、メール、手順書など、後から見返せる形で残すことが大切です。
特に、業務手順、期限、変更点、注意事項、評価基準は、文字で共有しておくとズレが減ります。
厚生労働省の発達障害に関する職場配慮の資料でも、具体的・視覚的な伝え方や、手順を示す支援などが配慮のポイントとして示されています。

4. フィードバックは早めに、具体的に行う

フィードバックは、できるだけ早めに、具体的に行うことが大切です。
「もっとちゃんとやってください」「空気を読んでください」「普通はこうします」という伝え方では、何を変えればよいのかが分かりにくくなります。
たとえば、「報告が遅い」ではなく、「作業が予定より30分以上遅れそうなときは、その時点でチャットで知らせてください」のように、次に取る行動が分かる形で伝えます。
本人を責めるためのフィードバックではなく、次に同じズレが起きにくくなるように伝えることが重要です。

5. 急な変更が必要なときは、理由と見通しを伝える

職場では、急な変更が避けられないこともあります。
その場合は、変更だけを伝えるのではなく、なぜ変更するのか、何が変わるのか、何は変わらないのか、いつまでこの対応が続くのか、困ったときは誰に確認するのかを伝えると、本人が状況を整理しやすくなります。
急な変更に弱いから任せられない、と考えるのではなく、変更時に必要な情報を整えることが大切です。

ASDへの配慮を管理職個人に任せすぎない

ASDのある社員への対応では、管理職が一人で工夫している職場も少なくありません。もちろん、管理職の理解や関わり方は重要です。
しかし、対応が管理職個人に依存していると、担当者が変わると対応が変わる、配慮の範囲が人によって違う、現場だけに負担が集中する、本人も誰に相談すればよいか分からなくなるという状態になりやすくなります。
合理的配慮は、本人の希望をすべて受け入れることではありません。同時に、現場の感覚だけで「それは難しい」と判断するものでもありません。業務遂行との関係、本人の困りごと、職場全体への影響、実現可能な代替案を整理しながら、組織として判断する必要があります。
配慮の範囲で迷う場合は、合理的配慮とわがままを分ける判断基準を整理しておくと、管理職だけに判断が集中しにくくなります。

特性理解だけでは、職場対応がうまく進まないこともある

ASDの特性を理解することは、職場対応の第一歩です。しかし、実際の現場では、特性を理解していても、うまく進まないことがあります。
たとえば、
・本人に合う業務が整理されていない
・配置後の期待値が共有されていない
・配慮の範囲が管理職ごとに違う
・困ったときの相談フローが決まっていない
・チーム全体への影響を誰も整理していない
という状態です。
この場合、問題は本人の特性だけではありません。業務の配置、指示の出し方、判断の基準、相談の流れが整っていないことが、職場対応を難しくしている場合があります。
発達障害雇用で起きやすい配置ミスマッチや対応の属人化については、発達障害雇用がうまくいかない背景を配置と判断設計から整理する記事でも詳しく解説しています。

まとめ|ASDの特性理解は、職場対応を整えるための出発点

ASDのある人は、他者の視点を想像すること、暗黙の前提を読み取ること、急な変更に対応すること、感覚刺激の多い環境で働くことに難しさを感じる場合があります。
しかし、それは本人の努力不足や性格の問題だけで説明できるものではありません。
職場で起きているズレの多くは、
・指示が曖昧である
・情報共有の前提がそろっていない
・業務の期待値が明確でない
・配慮の判断基準が共有されていない
・管理職個人の対応に任されている
ことによって生じています。
ASDの特性を理解することは大切です。ただし、特性理解だけで終わらせず、職場として指示の出し方、情報共有、配慮の進め方、相談フローを整えることが必要です。
発達障害のある社員が働きやすい職場は、特定の人だけに優しい職場だけに限りません。指示が明確で、情報共有が整理され、判断の基準が見える職場は、多くの社員にとっても働きやすい職場になります。

ASDの職場対応でよくある質問

Q. ASDのある社員には、どのような指示の出し方がよいですか?

曖昧な表現を避け、具体的に伝えることが大切です。何を、いつまでに、どの順番で、どの程度の完成度で行うのかを示します。口頭だけでなく、チャットやメール、手順書など、後から見返せる形で共有するとズレが減りやすくなります。

Q. ASDのある社員が急な変更に対応しづらい場合、どうすればよいですか?

変更そのものをなくすことが難しい場合でも、変更の理由、変わること、変わらないこと、次に行うことを明確に伝えると整理しやすくなります。急な変更を本人の苦手さだけで捉えず、見通しを持てる情報提供を行うことが大切です。

Q. ASDのある社員への配慮は、どこまで行うべきですか?

本人の希望をそのまま受け入れるのではなく、業務遂行との関係、困りごとの根拠、職場全体への影響、実現可能性を整理して判断します。必要な場合は代替案も検討し、実施後に見直すことが重要です。

Q. ASDのある社員とのコミュニケーションで注意することはありますか?

遠回しな表現や暗黙の期待だけに頼らず、具体的に伝えることが大切です。また、本人が理解できているかを確認するときも、「分かりましたか」と聞くだけでなく、次に行う作業を本人の言葉で確認するとズレに気づきやすくなります。

Q. 管理職だけで対応するのが難しい場合はどうすればよいですか?

管理職個人に任せすぎず、人事、支援機関、産業保健スタッフなどと連携し、相談フローや記録の残し方を整えることが大切です。対応が属人化すると、担当者が変わったときに支援が途切れやすくなります。

ASDのある社員への職場対応を整理したい方へ

ASDの特性を理解していても、実際の職場では判断に迷う場面があります。
どこまで配慮するのか。業務の指示を誰が、どのように伝えるのか。本人への対応と、チーム全体の業務運営をどう両立するのか。管理職だけに負担が集中していないか。
こうしたことを個人の経験や善意に任せると、対応が属人化しやすくなります。
ASDのある社員への対応を安定させるには、本人への理解だけでなく、職場としての指示の出し方、情報共有の方法、相談の流れ、配慮の判断基準を整えることが必要です。

管理職が発達障害のある社員への関わり方を学び、現場で判断できるようにしたい場合は、マネジメント研修をご覧ください。
個別の配慮や受け入れ体制を整理したい場合は、障害者雇用コンサルティングでご相談いただけます。
まず自社の状況を整理したい場合は、30分相談からご相談ください。

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参考

発達障害の定義やASDの職場配慮の考え方については、厚生労働省および発達障害者支援法の情報を参考にしています。雇用分野では、事業主に対して過重な負担とならない範囲で合理的配慮の提供が義務づけられています。

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