精神障害の人が増えてきていると言われています。精神障害の方は、全国で在宅・施設入所あわせて320万人います。これは約40人に1人の割合になっています。
また、近年その人数はさらに増加傾向にあります。それは、平成30年4月から障害者雇用率に精神障害者も含まれるようになったからです。精神疾患により長期にわたり日常生活や社会生活への制約がある方は、「精神障害者保健福祉手帳」が交付され、この手帳を持つ人は障害者雇用としてカウントされるようになっています。
職場で精神障害や発達障害の方とどのように接したらよいのでしょうか。ここでは、精神障害、発達障害の特徴と接し方のポイントについて詳しく見ていきたいと思います。
精神障害とは
脳および心の機能がなんらかの原因でうまく働かず、日常生活に支障がある状態のことを言います。精神障害の分類として、統合失調症や気分障害、てんかん等があります。誰でもかかる可能性があり、服薬やその他の適切な治療と周囲の方々の配慮によって症状をコントロールできている場合も多いのが特徴です。
精神障害のある人が経験する症状は、一人ひとり違います。その人にしかわからないつらさがあるということを、周囲の人たちが正しく理解して、一緒に過ごしやすい環境をつくることが大切です。条件を整えることによって、能力を十分に発揮することができます。
統合失調症
脳の神経ネットワークがうまく機能せず、さまざまな情報をまとめることができなくなります。およそ100人に1人がかかる身近なものです。投薬治療によって症状を軽減することが可能です。
統合失調症の症状と特徴
【陽性症状】
・幻覚(主に幻聴)や妄想(主に被害妄想)
・自分の考えを周囲に知られていると感じる
【陰性症状】
・やる気が起こらない
・感情の表出が乏しい
・記憶、注意力、判断力の低下
統合失調症の接し方のポイント
ストレスが高まったり、投薬が中断されると、症状が悪化する可能性があり、症状の変化に注意し、早めに相談ができる体制を整えるようにするとよいでしょう。また、陰性症状の時には、物事を整理して考えることや複数の作業をすることが辛く感じられることがあります。そのため、ゆっくりペースで段階を踏んで行う作業が向いています。
気分障害
躁(そう)うつ病やうつ病などが含まれます。このうち、躁うつ病は、双極性障害ともいわれ、躁とうつの波が繰り返されるものですが、投薬治療などにより、症状の波が軽減されます。
気分障害の症状と特徴
【うつ状態】
・憂鬱な気分が続き、生き生きと感じられない。
・意欲の低下。何をする気にもなれない。
・自己評価が低く、悲観的。
・睡眠障害や食欲低下がみられる。
【そう状態】
・気分爽快で、上機嫌に話す。
・自己評価が高く、楽観的。時に誇大妄想。
・些細なことで激怒、攻撃的になる。
・衝動買いなど行動に抑制が効かない。
・睡眠障害や早朝覚醒がみられる。
気分障害の接し方のポイント
症状が悪化するときの徴候として、不眠や食欲不振、不安・イライラなどが高まります。こんな時は早めに相談し、休養も必要です。ミスが多くなったり、遅刻が増えるなど変化が見られたら、声をかけてみましょう。そのとき、できる範囲で話をじっくり聞き、アドバイスは専門家に任せることが大切です。
神経症・ストレス関連性障害
様々な不安障害が含まれます。多くは本人のもともとの性格的要因に、ストレスなどの外的要因が加わって引き起こすと考えられています投薬治療やカウンセリングなどによって症状を安定させていくことが可能です。
神経症・ストレス関連性障害の症状と特徴
【パニック障害】
突然、動悸、息苦しさ、窒息感、めまい、冷や汗、恐怖感などに襲われ、また再び起こったらどうしようという不安感にさいなまれる。
【全般性不安障害】
身の回りの様々なことが慢性的に不安になる。イライラ、震え、緊張などの症状がある。
【強迫性障害】
不合理な考えが何度も頭に浮かんでくる。例えば、戸締りを何度も確認しないと気が済まなくなり、日常生活に支障をきたす。
【その他】
人前で話せない・字が書けないといった「社交不安障害」や危険な目にあったりした時に生じる「急性ストレス反応」などがある。
神経症・ストレス関連性障害の接し方のポイント
声の震えや吃音、発汗、トイレが近い、イライラ、早口など症状はそれぞれです。周囲の人は、その人の様子が普段と異なってこのようなしぐさを見せた時には、不安や緊張を増長させてしまうことは控えてください。焦らず見守ることが大切です。
てんかん
「てんかん発作」を繰り返し起こしますが、発作が治まっているときは、元通りの状態で生活できるのが特徴です。多くの場合、適切な投薬治療で発作を抑制することが可能です。
てんかんの症状と特徴
発作を起こして転倒する、意識がない状態でうろうろする、口をもぐもぐさせるなど様々です。なかには、意識が数秒なくなるだけで、周囲の人からはほとんど気づかれないものもあります。また、しびれ、熱っぽさ、変な臭いがするなど、感覚の異常を起こすものもあります。
てんかんの接し方のポイント
特性や対処法を本人や本人をよく知る関係機関、または支援者の人にきちんと聞いておき、よく理解しておきましょう。そして、発作が起きないように、服薬しているか、睡眠をとっているかなど気にかけましょう。また、全身の「けいれん」が起きる可能性がある場合は、危険なものなどを遠ざけるなど対応しましょう。
発達障害とは
発達のアンバランスによって日常生活に支障がある障害特性を持つもので、自閉症、アスペルガー症候群などが含まれます。人とコミュニケーションをとることや対人関係の構築が苦手な反面、特定の分野で優れた能力を発揮することもあるため、その人が「何が苦手」で「何が得意」かをよく理解したうえで接することが必要です。
大きな音や光に反応してパニックを起こす感覚過敏の方もいます。多くの人は、強い対人不安・集団不安があり、集団での生活に、強い疲労感や緊張感を感じています。また、抽象的であったり曖昧な表現の理解が苦手なこともあるため、分かりやすく簡潔な会話を心がけることが大切です。
その人の特性をつかんで、できない原因を取り除けば、その人の持っている能力を発揮することができます。そのために環境を整えることがとても大切になります。
広汎性発達障害(PDD)
対人関係や社会性、コミュニケーションが苦手といった特徴に加え、パターン化した行動やこだわりなどがみられます。しかし、細かいところに目がいく、こだわりが仕事にマッチングするとその人の持っている能力を発揮するなどの特徴があります。
自閉症とアスペルガー症候群の違い
【自閉症の特徴】
・言葉の発達の遅れ
・コミュニケーションの障害
・対人関係・社会性の障害
・パターン化した行動、こだわり
【アスペルガー症候群の特徴】
・基本的に、言葉の発達の遅れはない
・コミュニケ―ションの障害
・対人関係・社会性の障害
・パターン化した行動、興味・関心のかたより
・不器用(言語発達に比べて)
自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害は、本質的にはひとつの障害単位だと考えられ、近年「自閉スペクトラム症(ASD)」という診断がつく場合も増えてきています。
注意欠陥多動性障害(ADHD)
注意欠陥多動性障害(ADHD) には、不注意、多動・多弁、衝動的に行動するなどの特徴があります。じっとしていることが苦手だったり、集中力を持続することが難しいなどの特徴があります。しかし、想像的、感覚的、直感的な能力を発揮するなどの特徴があります。
学習障害(LD)
「読む」「書く」「計算する」等の能力が、全体的な知的発達に比べて極端に苦手です。基本的、全般的な知的発達に遅れはないものの、「読む」「書く」「計算する」など、特定の能力を使用したり習得したりするのが苦手な特徴があります。しかし、本人の得意な分野を活用すれば能力を発揮するなどの特徴があります。
動画の解説はこちらから
まとめ
精神障害者保健福祉手帳を交付される精神障害(統合失調症、気分障害、神経症・ストレス関連性障害、てんかんなど)発達障害(PDD、自閉症スペクトラム症、ADHD、LDなど)の特徴と接し方のポイントについてみてきました。
精神障害、発達障害ともに症状や特徴があり、これらを知ることによって、どのように接したらよいかのヒントになります。障害があると何もできない人と捉えられることがありますが、そんなことはありません。環境を整えたり、お互いに理解することで力を発揮できる場面をつくることは十分にできます。
参考
発達障害(LD:学習障害)の障害者と一緒に働くときに知っておきたいポイントとは?
発達障害を理解する~eラーニングで学べる発達障害しごとサポーター~
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