2026年7月31日更新
精神障害や発達障害のある人からの応募が増え、企業の障害者採用を取り巻く状況は大きく変わっています。
一方で、企業からは「どのような仕事を任せればよいかわからない」「採用しても長く続かない」「配慮しているのに、本人や現場との認識が合わない」といった声も聞かれます。
こうした状況が続くと、精神・発達障害のある人は雇用が難しい、自社には合わないと考えたくなるかもしれません。
しかし、見直す必要があるのは、応募者だけではありません。企業が前提としてきた障害者雇用のあり方が、現在の人材層や働き方に合わなくなっている可能性があります。
最初に結論をお伝えすると、精神・発達障害者の雇用で必要なのは、配慮を増やすことだけではありません。本人の能力、任せる業務、会社が期待する役割、必要な配慮、評価基準、管理職の関わり方を一体として設計し、「支援する対象」ではなく、組織に貢献する人材として活躍できる雇用へ変えていくことが必要です。
- 精神・発達障害者の雇用を取り巻く変化
- 従来型の障害者雇用が合わなくなっている理由
- 配慮だけでは採用・定着がうまくいかない理由
- 能力、業務、期待、配慮を一体で考える方法
- 経営、人事、管理職が見直すべき視点
精神・発達障害者の雇用は、例外的な課題ではなくなっている
厚生労働省が公表した2025年6月1日時点の集計では、民間企業で雇用される障害者数は70万4,610人となり、過去最高を更新しました。
そのうち精神障害者は16万8,542人で、前年から11.8%増加しています。身体障害者や知的障害者と比べても増加率が高く、企業が精神障害のある人を採用し、ともに働く機会は今後さらに増えていくと考えられます。
発達障害のある人についても、障害者雇用を選択して就職する人や、就職後に会社へ障害を伝えて配慮を求める人がいます。
精神障害と発達障害は同じものではなく、同じ診断名でも働き方や必要な配慮は異なります。しかし、外見から困りごとが見えにくく、業務の進め方、コミュニケーション、体調、職場環境などとの関係で課題が表れやすいという点では、従来の障害者雇用とは異なる準備が必要になります。
もはや、精神・発達障害者を採用するかどうかだけを考える段階ではありません。応募や採用があることを前提に、企業側の受け入れ方を見直す段階に入っています。
精神障害者の雇用が増えている背景
精神障害者の雇用が増えている背景には、人数の変化だけでなく、制度と就労環境の変化があります。
2006年4月から、精神障害者保健福祉手帳を持つ人を企業の実雇用率へ算定できるようになり、2018年4月には、精神障害者が法定雇用率の算定基礎に加わりました。法定雇用率の引き上げも続き、企業にとって精神障害者の採用は、一部の企業だけが取り組むものではなくなっています。
また、精神障害や発達障害への社会的な認知、就労支援、高等教育機関における障害学生支援などが広がり、障害者雇用を選択する人材も多様になっています。
そのため企業には、従来と同じ業務や受け入れ方を続けるのではなく、現在の応募者の経験や能力に合った雇用を考えることが求められています。
変わったのは人数だけではなく、障害者枠で働く人材像
精神・発達障害者の雇用を考えるとき、人数の増加だけに注目すると、必要な変化を見誤ります。
企業の採用、そして求職者を見て気づくのは、障害者枠で働くことを希望する精神・発達障害のある人の層が変わってきていることです。
学歴や職歴があり、事務、IT、企画、分析、専門業務などの経験を持つ人もいます。安定して働くことだけでなく、能力を発揮したい、仕事を通して成長したい、適切に評価されたいと考える人もいます。
もちろん、すべての人が高度な業務を希望しているわけではありません。しかし、「障害者だから、この仕事」という一律の捉え方では、多様になった人材の能力や希望を見落とします。
会社が用意している仕事と、応募者が持つ能力や経験が合っていなければ、採用できる人材は限られます。採用できても、本人が仕事の意味や成長を感じられず、意欲の低下や離職につながることがあります。
企業側には、障害者雇用を法定雇用率のための別枠としてではなく、人材戦略の一部として捉える視点が求められています。
従来型の障害者雇用が合わなくなっている理由
ここでいう従来型の障害者雇用とは、特定の障害者や過去の取り組みを否定するものではありません。
障害者を一つの集団として捉え、限定した定型業務を用意し、職場が配慮しながら長く在籍してもらうことを主な目的とする雇用モデルを指しています。
このモデルだけでは、現在の精神・発達障害者雇用に対応しにくい理由があります。
障害名から任せる仕事を決めてしまう
「発達障害のある人には、単純で繰り返しの仕事が向いている」「精神障害のある人には、負担の少ない仕事がよい」と考えることがあります。
しかし、診断名だけでは、本人ができる仕事や苦手な仕事は判断できません。
集中力を活かせる人もいれば、変化のある業務で力を発揮する人もいます。対人業務を負担に感じる人もいれば、説明や接客を得意とする人もいます。
必要なのは、障害名から仕事を選ぶことではなく、仕事に必要な能力と、本人の経験、得意なこと、苦手なことを照らし合わせることです。
配慮が先にあり、仕事の期待が曖昧になる
採用時に、勤務時間、休憩、通院、指示方法などの配慮を確認することは重要です。
ただし、配慮の話だけが先行し、何を担当してもらうのか、どの状態を仕事ができていると評価するのかが曖昧なまま採用すると、雇用後に認識のズレが生じます。
本人は求められていることがわからず、管理職はどこまで仕事を求めてよいのか迷います。その結果、仕事を任せられない、注意やフィードバックができない、周囲が業務を引き取るといった状況が起こります。
配慮は、仕事を求めないことではありません。本人が役割を果たし、能力を発揮するために、業務上の障壁を調整するものです。
定着を「在籍していること」だけで測ってしまう
障害者雇用では、離職せずに長く働いていることが重視されます。定着は重要ですが、在籍しているだけで雇用が成功しているとは限りません。
仕事が少ないまま長期間過ごしている、成長や役割の変化がない、管理職や周囲が対応を抱え続けているのであれば、持続可能な雇用とはいえません。
本人が役割を理解しているか、能力を発揮できているか、仕事の幅が広がっているか、現場に過度な負担が生じていないかも確認する必要があります。
必要なのは、能力・業務・期待・配慮の一体設計
精神・発達障害者の採用・定着を考えるときは、次の要素を別々に扱わないことが重要です。
本人が持つ能力や経験
実際に任せる業務
会社が期待する役割と成果
仕事を行うために必要な配慮
評価やフィードバックの基準
不調や問題が起きたときの判断体制
例えば、本人の希望だけを聞いても、社内に該当する仕事がなければ採用後に行き詰まります。会社が用意した業務だけを説明しても、本人の能力や働き方と合わなければ定着しません。
配慮だけを決めても、役割や評価が曖昧であれば、本人と管理職の双方が迷います。
採用・定着の問題は、どれか一つの要素が不足しているのではなく、これらの接続部分にズレが生じていることが少なくありません。
採用時に確認すべきなのは、障害名より仕事との接点
精神・発達障害者の採用では、障害特性や配慮事項を詳しく確認しようとしがちです。しかし、会社が知りたいことを、診断名だけから判断することはできません。
採用時には、次のような仕事との接点を確認する必要があります。
- どのような業務を経験してきたか
- どのような環境で能力を発揮しやすいか
- 苦手な状況が仕事にどう影響するか
- 本人が自分の状態をどの程度把握しているか
- 困ったときに、どのように相談できるか
- 会社が予定している業務と希望が合っているか
- 必要な配慮が、実際の職場で継続可能か
配慮を提供できるかだけでなく、その配慮があれば予定する仕事をどのように遂行できるのかまで確認します。
ただし、採用面接だけですべてを見極めることは困難です。実習、職場見学、業務体験、支援機関からの情報など、複数の接点を組み合わせて判断することも必要です。
定着の問題は、採用後に突然始まるわけではない
採用した人が定着しなかったとき、「本人の体調が安定しなかった」「職場との相性が悪かった」と整理されることがあります。しかし、雇用後に表面化した問題をたどると、採用前からズレが生じていたケースがあります。
求人票では補助業務と説明していたのに、配属後は判断を伴う業務が多かった。面接では静かな環境と伝えていたのに、実際の職場では電話や声かけが頻繁にあった。本人は専門性を活かせると考えていたが、会社は定型業務を想定していた。
一つひとつは小さな違いでも、積み重なると本人の不安や不調、現場の負担につながります。
定着支援は、採用後に面談を増やすことだけではありません。採用メッセージ、求人票、面接、業務設計、配属、評価が一貫しているかを確認することから始まります。
人事だけではなく、経営と管理職が関わる必要がある
精神・発達障害者の雇用を、障害者雇用担当者だけで進めることには限界があります。
任せる仕事を決めるのは現場です。期待する役割や評価基準には、管理職が関わります。どの部門で、どのような人材に活躍してもらうのかは、経営方針や人材戦略にも関係します。
人事が採用し、配属後は現場へ任せるという流れでは、管理職が対応を抱えやすくなります。反対に、現場が求める人材像だけで採用すると、合理的配慮や雇用管理の視点が不足することがあります。
現場のマネジメント層、人事、障害者雇用担当者、管理職が、少なくとも次の前提を共有する必要があります。
- なぜ精神・発達障害者を雇用するのか
- どのような業務や役割を任せるのか
- 配慮と業務上の期待をどう整理するのか
- 誰が日常的なマネジメントを担うのか
- どの段階で人事や支援機関へ共有するのか
- 定着や活躍をどのような指標で見るのか
障害者雇用を一部の担当者による個別対応から、会社の人材マネジメントへ移していくことが求められます。
自社の雇用モデルを確認する7つの視点
精神・発達障害者の採用を増やす前に、次の点を確認してください。
- 障害者向けの仕事を、過去の慣習だけで決めていないか
- 採用したい人材像と、実際に用意できる業務が一致しているか
- 求人票、面接、配属後の説明に違いがないか
- 配慮と、本人に期待する役割を分けて説明できているか
- 管理職が評価やフィードバックを避けていないか
- 問題が起きたときの共有先と判断者が決まっているか
- 定着を在籍期間だけでなく、役割、成長、現場の持続可能性から見ているか
複数の項目で迷いがある場合、問題は本人の障害特性だけではなく、採用から配属、マネジメントまでの設計にある可能性があります。
よくある質問
Q:精神・発達障害者には、どのような仕事が向いていますか
障害名だけで向いている仕事を決めることはできません。
仕事に必要な能力や環境と、本人の経験、得意なこと、苦手なことを照らし合わせて判断します。同じ診断名でも、適性や必要な配慮は異なるため、個別に仕事との接点を確認することが必要です。
Q:配慮を手厚くすれば、定着しやすくなりますか
配慮は重要ですが、配慮だけでは定着しません。
任せる業務、期待する役割、評価基準、相談方法が曖昧であれば、本人も管理職も働き方を判断できません。配慮と業務上の期待を一体で整理することが必要です。
Q:支援機関に相談すれば、企業側の負担は減りますか
支援機関は、本人の状態や必要な配慮を理解し、職場定着を支える重要な存在です。
ただし、業務を決め、指示し、評価するのは企業です。支援機関へ雇用管理を任せるのではなく、企業と支援機関がそれぞれ担う役割を明確にする必要があります。
Q:精神障害と発達障害を同じ考え方で扱ってよいですか
精神障害と発達障害は異なり、同じ障害の中でも個人差があります。
一方で、診断名だけで仕事や配慮を決めず、本人、業務、職場環境の関係から考えることは共通しています。障害別の知識を持ちながら、最終的には個別の仕事との接点を確認することが重要です。
まとめ
精神・発達障害者の雇用が増える中で、企業が変えるべきなのは、配慮の数だけではありません。
障害者を限定された仕事へ配置し、担当者や管理職が個別に対応する雇用から、本人の能力、業務、期待、配慮、評価を一体で考える雇用へ転換する必要があります。
採用しても定着しないとき、その原因を本人の障害特性や意欲だけに求めても、同じ問題が繰り返されます。
採用時に伝えたこと、実際に任せた仕事、本人が期待していた働き方、管理職が求めていた成果、提供している配慮の間に、どのようなズレがあるのかを整理することが重要です。
精神・発達障害者の雇用を、支援や配慮だけのテーマではなく、経営方針と人材戦略の一部として捉えることが、持続可能な採用と定着につながります。
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