2026年7月7日更新
「実習中は一生懸命だったのに、採用後しばらくしたら仕事への取り組み方が変わった」
「最近、手を抜いているように見える」
「注意したいけれど、障害のこともあり、どこまで伝えてよいかわからない」
障害者雇用の現場では、このような相談を受けることがあります。
仕事のスピードが落ちた。報告が少ない。手待ち時間が増えた。以前より集中していないように見える。周囲の社員から「さぼっているのではないか」という声が出る。このような状況が続くと、現場の管理職や一緒に働く社員は対応に迷います。
ただし、最初から「さぼっている」と決めつけてしまうと、問題の本質を見失うことがあります。障害者社員がさぼっているように見えるとき、まず確認したいのは、本人のやる気だけではありません。
仕事の基準が伝わっているか。業務量は継続できる範囲か。指示や完了基準は明確か。体調や疲労の影響はないか。フィードバックは具体的に行われているか。これらを整理することで、本人を責める対応ではなく、現場が判断しやすい対応に変えていくことができます。
仕事の基準、業務量、指示の伝わり方、体調の変化、フィードバックの状況を確認することで、注意すべきこと、配慮すべきこと、組織として判断すべきことを分けて考えられます。
現場だけで抱え込まず、人事や管理職と対応基準をそろえることが大切です。
障害者社員が「さぼっているように見える」場面
現場で「さぼっているのではないか」と感じる場面には、いくつかのパターンがあります。
- 実習中や入社直後より、仕事のスピードが落ちている
- 指示がないと自分から動かない
- 手待ち時間が多い
- 作業の途中で集中が切れているように見える
- 以前よりミスや確認漏れが増えている
- 注意しても改善が続かない
- 周囲の社員がフォローすることが増えている
- 本人は困っているように見えず、現場だけが負担を感じている
このような状況があると、現場が違和感を持つのは自然なことです。
「このままでよいのか」「他の社員との公平性はどうなるのか」「注意してもよいのか」と迷うこともあるでしょう。
大切なのは、その違和感を放置しないことです。
ただし、違和感をそのまま「本人のやる気の問題」として扱うのではなく、仕事上の課題として分解する必要があります。
「さぼり」と決めつける前に確認したいこと
仕事をしていないように見える状態にも、いくつかの理由があります。
本人が本当に手を抜いている場合もあれば、仕事の基準が伝わっていない場合もあります。
業務量が本人にとって多すぎる場合もありますし、体調や疲労の影響でパフォーマンスが落ちている場合もあります。
また、何をどこまでやればよいのか、本人が理解できていないこともあります。
まずは、次の5つを確認します。
| 確認すること | 見るポイント | 対応の方向性 |
|---|---|---|
| 仕事の基準 | 何をどこまでやればよいか、本人に伝わっているか | 作業量、品質、完了基準を具体化する |
| 業務量 | 実習中や入社直後の働き方が、継続可能な量だったか | 無理なく続けられる業務量に調整する |
| 指示の出し方 | 指示者、優先順位、期限、報告方法が明確か | 指示を具体化し、必要に応じて文字で残す |
| 体調・疲労 | 疲労や不調で集中力や作業量が落ちていないか | 勤務時間、休憩、相談ルートを確認する |
| フィードバック | 良い点、改善点、次に求める行動を伝えているか | 性格ではなく行動に対して伝える |
このように分けてみると、「さぼっているかどうか」だけで判断するのではなく、何を整えればよいのかが見えやすくなります。
実習中の姿を、そのまま採用後の基準にしない
障害者雇用では、採用前に職場実習を行うことがあります。
実習を行うことは、とても大切です。面接だけではわからない仕事の進め方、職場環境との相性、本人の得意不得意、必要な配慮を確認できるからです。
ただし、実習中の働きぶりを、そのまま採用後の標準と考えることには注意が必要です。
実習中は、本人がかなり頑張っていることがあります。採用されたいという思いがある。期間が決まっている。周囲も丁寧に見てくれている。緊張感がある。そのため、実習中は120%の力を出していることもあります。
しかし、120%の状態を長く続けることはできません。実習中はできていたのに、採用後に仕事のスピードが落ちた。集中力が続かなくなった。疲れやすくなった。
その変化は、本人が急にさぼり始めたというより、実習中の働き方が継続可能なペースではなかった可能性もあります。そのため、実習中に確認したいのは、「できるかどうか」だけではありません。
その働き方を、3か月後、半年後、1年後も続けられそうかを確認することです。
入社後に仕事ぶりが変わる理由
入社後に仕事ぶりが変わる理由は、いくつかあります。
ひとつは、職場に慣れて緊張感が下がることです。これは必ずしも悪いことではありません。安心して働ける場所になってきたという見方もできます。
ただし、安心感が出た結果、仕事の基準が曖昧になってしまうと、作業の質や量が落ちることがあります。
もうひとつは、疲労が蓄積することです。特に精神障害や発達障害のある人の場合、入社直後は頑張れていても、環境変化、対人関係、通勤、勤務時間、業務量の影響で、少しずつ疲労がたまることがあります。本人が「大丈夫です」と言っていても、実際には無理をしている場合もあります。
また、仕事の目的や優先順位がわからないまま作業していることもあります。
何を大切にすればよいのか。どこまで丁寧にやるべきなのか。早さと正確さのどちらを優先すべきなのか。この基準が見えないと、周囲からは「手を抜いている」と見えることがあります。
仕事の基準を具体的に伝える
障害者社員に注意や指導をするとき、最初に必要なのは、仕事の基準を具体的に伝えることです。
「ちゃんとやってください」「もっと真面目にしてください」「さぼらないでください」このような言い方では、本人が何を変えればよいのかわかりにくいことがあります。
伝えるべきなのは、性格や態度への評価ではなく、仕事として求める行動です。
たとえば、次のように伝えます。
- この作業は10時までにここまで終える基準です
- 終わったら、担当者に完了報告をしてください
- 確認漏れがあるので、次回からチェック表を使いましょう
- 手が空いたときは、自分で判断せず、次の作業を確認してください
- この作業では、早さよりもミスがないことを優先してください
このように、行動、期限、報告方法、品質基準を明確にすると、本人も改善しやすくなります。
注意するときは、人格ではなく行動に伝える
障害者社員に限らず、注意や指導では、人格ではなく行動に焦点を当てることが大切です。
「やる気がない」「責任感がない」「さぼっている」このような言葉は、本人を防御的にさせやすく、改善行動につながりにくくなります。
一方で、具体的な行動として伝えると、話し合いがしやすくなります。
| 避けたい伝え方 | 伝えたい表現 |
|---|---|
| 最近さぼっているよね | この1週間、午前中に終わる予定の作業が午後まで残ることが増えています |
| もっと真面目にやって | この作業では、チェック表に沿って確認してから提出してください |
| やる気が見えない | 手が空いたときは、次の作業を確認する行動をとってください |
| 周りに迷惑がかかっている | 未完了の作業を周囲が引き継ぐことが増えているため、途中で状況を共有してください |
注意すること自体が悪いのではありません。仕事として必要なことは、障害の有無に関係なく伝える必要があります。
ただし、何を改善してほしいのかが本人に伝わる形にすることが大切です。
仕事の意義を伝えることも大切
仕事ぶりが変わってきたとき、注意や管理だけでは改善しにくいことがあります。そのようなときは、仕事の意義を伝えることも大切です。
本人が、自分の仕事が誰の役に立っているのかを理解できると、仕事への向き合い方が変わることがあります。
たとえば、共用部の清掃を担当している場合、単に「きれいにしてください」と伝えるだけではなく、次のように伝えることができます。
「食堂をきれいにしてくれているので、社員が気持ちよく使えています」
「この作業が終わっていると、次の担当者がすぐに作業に入れて助かっています」
「この確認をしてくれていることで、ミスを防げています」
仕事の意義を伝えることは、ほめることだけが目的ではありません。本人が、自分の仕事の役割を理解するための情報提供です。
障害者雇用では、本人が「自分は何のためにこの仕事をしているのか」を理解しにくいまま、作業だけを任されていることがあります。その場合、仕事の目的、相手、役割を言葉にすることで、仕事への向き合い方が変わることがあります。
体調や疲労の影響も確認する
仕事ぶりが変わったときには、体調や疲労の影響も確認する必要があります。
特に精神障害のある人の場合、入社直後は頑張れていても、数週間から数か月後に疲労が出てくることがあります。通勤、勤務時間、人間関係、業務量、環境変化などが重なると、本人が思っている以上に負担がたまることがあります。
このとき、本人が自分から「しんどいです」と言えるとは限りません。むしろ、「大丈夫です」と言いながら無理を続けてしまうこともあります。その結果、仕事のスピードが落ちたり、ミスが増えたり、集中力が続かなくなったりすることがあります。
そのため、「さぼっている」と感じたときほど、次のような点を確認してみます。
- 最近、疲れがたまっていないか
- 勤務時間や作業量に無理はないか
- 休憩の取り方は適切か
- 通院や服薬の影響はないか
- 体調が崩れそうなサインを本人が把握しているか
- 困ったときに相談できる相手がいるか
もちろん、会社が医療的な判断をする必要はありません。企業が確認するのは、仕事を続けるうえで必要な勤務条件や相談体制です。
現場だけで判断しない
障害者社員の仕事ぶりが変わったとき、現場だけで対応しようとすると、判断が難しくなります。
注意してよいのか。配慮すべきなのか。業務量を変えるべきなのか。本人にどう伝えるべきなのか。これらを現場の管理職だけが抱えると、対応が属人的になります。
ある管理職は厳しく注意する。別の管理職は配慮として何も言わない。人事は状況を知らない。本人は何を求められているのかわからない。このような状態になると、本人も現場も混乱します。
大切なのは、現場で起きていることを人事や管理職と共有し、対応基準をそろえることです。
共有するときは、感情ではなく、事実を整理します。
- いつから仕事ぶりが変わったのか
- どの業務で変化が出ているのか
- 作業量や品質にどのような変化があるのか
- これまでどのように伝えたのか
- 本人はどのように受け止めているのか
- 体調や勤務条件に変化はないか
- 現場だけでは判断が難しい点は何か
このように整理すると、「さぼっている人をどう注意するか」ではなく、「仕事を安定して進めるために何を整えるか」という話に変わります。
合理的配慮と注意・指導は対立しない
障害者雇用では、「配慮が必要な人だから、注意しないようにしよう」と考えてしまうことがあります。しかし、合理的配慮と注意・指導は対立するものではありません。
合理的配慮は、本人が仕事を遂行しやすくするための調整です。一方で、仕事として必要な基準を伝えることも、雇用管理の一部です。
たとえば、指示の出し方を具体的にすることは配慮です。そのうえで、決められた手順を守ることを求めるのは、仕事上の指導です。
体調が不安定になりやすい人に相談ルートを決めることは配慮です。そのうえで、体調に不安があるときは早めに相談することを求めるのは、仕事を続けるための基準です。
配慮することと、何も言わないことは違います。必要なのは、本人が働きやすい環境を整えながら、仕事として求めることを具体的に伝えることです。
関連記事
まとめ
障害者社員がさぼっているように見えるとき、現場の違和感を無視する必要はありません。
仕事ぶりが変わっている。周囲の負担が増えている。期待する行動ができていない。そのような状況があるなら、組織として確認する必要があります。
ただし、最初から「さぼっている」と決めつけてしまうと、必要な対応を見誤ることがあります。確認したいのは、仕事の基準、業務量、指示の伝わり方、体調や疲労、フィードバックの状況です。
実習中は120%で頑張っていたのかもしれません。指示や完了基準が曖昧なのかもしれません。体調や疲労の影響で、以前のように働けなくなっているのかもしれません。
仕事として求めることは伝える必要があります。大切なのは、本人を責めることではなく、何を求め、何を配慮し、どこから組織で判断するのかを整理することです。
障害者雇用は、現場の我慢だけで続けるものではありません。本人、人事、管理職、現場が同じ基準を持ち、仕事が安定して進む仕組みをつくることが大切です。
よくある質問
Q1. 障害者社員がさぼっているように見えるとき、注意してもよいですか?
仕事上必要なことは、障害の有無に関係なく伝える必要があります。ただし、「さぼっている」「やる気がない」と決めつけるのではなく、どの行動をどう改善してほしいのかを具体的に伝えることが大切です。
Q2. 実習中はできていたのに、採用後にできなくなることはありますか?
あります。実習中は、採用されたい気持ちや期間が決まっている緊張感から、本人が無理をして頑張っていることがあります。
採用後に同じ働き方を長期的に続けられるかは、別に確認する必要があります。
Q3. 仕事の基準はどのように伝えればよいですか?
「ちゃんとやってください」ではなく、作業量、期限、品質、報告方法を具体的に伝えます。
たとえば、「この作業は10時までに終える」「終わったら担当者に報告する」「確認後に提出する」のように、行動で伝えることが大切です。
Q4. 体調や疲労が原因かどうか、会社はどこまで確認できますか?
会社が医療的な判断をする必要はありません。確認するのは、勤務時間、業務量、休憩、相談ルートなど、仕事を続けるうえで必要な条件です。
必要に応じて、本人の同意を得たうえで人事や支援機関と連携することも考えられます。
Q5. 現場だけで対応が難しい場合はどうすればよいですか?
人事や管理職に早めに相談し、状況を共有してください。
どの業務で何が起きているのか、これまでどう伝えたのか、どこに判断の迷いがあるのかを整理すると、組織として対応しやすくなります。
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