良かれと思った支援が力を奪う|合理的配慮は何でもすることではない

良かれと思った支援が、本人の力を奪うことがある|合理的配慮を設計として考える

2026年06月23日 | 障害別の特性・配慮

担当者が頑張るほど、 組織が止まる

 

障害者雇用を組織の力に変える5日間

登録者限定レポート
「障害者雇用は、配慮の話ではなく、設計の話だ。」

現場で起きている「配慮の範囲」への迷い

「どこまで配慮すればいいのでしょうか。」障害者雇用の現場で、よく聞かれる問いがあります。
体調が不安定なとき。本人が困っていそうなとき。負担になりそうな場面。現場は、「本人のために」と考えながら判断します。
でも私は最近、「配慮が足りない」よりも、「良かれと思った支援が、本人の力を奪っている」場面の方が増えているように感じています。

合理的配慮が注目される社会的背景

民間企業の法定雇用率は、令和6年4月から2.5%、令和8年7月には2.7%へと段階的に引き上げられます。障害のある方を雇用する企業の範囲も広がり、採用だけでなく定着・活躍までを考える必要が高まっています。それに伴い、合理的配慮に関する現場の迷いも増えています。
令和6年度、ハローワーク等に寄せられた障害者差別・合理的配慮に関する相談は438件。前年比78.8%増です。そのうち合理的配慮の提供に関する相談が340件を占めています。
相談が増えているのは、合理的配慮の考え方が社会に浸透していることとともに、現場での判断が難しいケースが多い、「どこまで対応するか」が見えにくいことが要因と考えられます。
現場は「どう対応すればいいかわからない」と感じている。制度が整備されるほど、むしろ現場の判断は難しくなっていく。そんな構造が見られます。

先回りした配慮が本人の仕事の機会を奪う事例

リハビリを続けている人が、家族に何でもやってもらううちに、できていたことまで、自分ではしなくなってしまった。そんな事例があります。家族は、愛情や良かれと思っての気持ちからサポートします。しかし、そのサポートが、本人が力を使う機会を減らしてしまうこともあるのです。
職場でも、同じことが起きています。障害者雇用の現場で関わる場合には、仕事を担う一人の社員として本人と向き合うことが前提です。合理的配慮はその前提のもとで、仕事に必要な部分を調整することです。本人ができること、成長できる機会まで先回りして奪ってしまうと、結果として本人の仕事の幅を狭めてしまうことになりかねません。

合理的配慮における距離感

配慮というと、関わることが良いことのように思えます。でも、近づきすぎたり、離れすぎたりすることは、本人の成長や自立にとって負担になることがあります。

近づきすぎれば、お互いに傷つくことがあります。離れすぎれば、孤立してしまうことがあります。職場でいえば、近すぎる配慮は、困る前に先回りすることや、本人ができることまで代わりに行うこととして現れます。一方で、遠すぎる配慮は、困っていても気づかない、声をかけるタイミングを逃す、本人を孤立させることにつながります。
大切なのは、「困らない状況」をつくるだけではなく、本人が自分で考え、必要なときに相談できる状態をつくることです。

配慮しすぎが生まれる理由と背景

配慮しすぎは、悪意から生まれるわけではありません。「困らせたくない」「失敗させたくない」「本人が大変そうだから」という善意から始まります。あるいは、過去に何かトラブルがあって、それ以来慎重になりすぎているケースもあります。
障害者雇用の現場では、「障害があるから特別に配慮しなければ」という意識が働きやすい。その意識自体は悪くありません。ただ、それが行きすぎると、本人を「特別な存在」として扱うことになり、かえって仕事を担う機会や成長の機会を奪ってしまうことがあります。
「本人のために」という思いが強いほど、先回りしすぎになりやすい。これが、障害者雇用の現場で繰り返し起きる構造です。

障害者雇用で判断が個人差になりやすい理由

困ってしまう前に配慮した方がよい。本人に任せた方がよい。本人の希望を尊重した方がよい。どれも大切な視点です。だからこそ、同じ組織の中でも、関わり方が人によって変わってしまうことがあります。
ある担当者は先回りして全部やってしまう。別の担当者は距離を置きすぎてしまう。担当者が変わるたびに、本人への関わり方が変わってしまう。障害者雇用は、制度だけでは整理できない、個人の価値観が出やすい領域です。同じ方針を持っているつもりでも、現場では少しずつ違う形で運用されていきます。それが積み重なると、本人にとっても、現場にとっても、混乱の原因になります。

合理的配慮の本来の意味と判断基準

合理的配慮というと、「本人の希望をすべて受け入れること」 「何でもしてあげること」というイメージを持たれることがあります。でも本来の意味は、障害のある人が他の人と同じように働くうえで支障になっていることを、業務や職場環境との関係で調整し、能力を発揮しやすくすることです。
配慮の目的は、困らせないことではなく、本人が力を発揮できる状態をつくること。そのためには、まず本人に確認することが大切です。本人が何に困っているのか。どの業務に影響しているのか。何を変えれば働きやすくなるのか。これを調整することです。本人に聞かずに先回りすることは、配慮ではなく、思い込みになってしまう恐れがあります。
そうならないためには、個人の善意だけでなく、組織として「どこまで配慮するのか」「どこから本人に任せるのか」を考え方として共有していくことが必要です。個人の善意だけに頼る組織は、担当者が変わるたびに方針がぶれやすくなります。

合理的配慮とチーム全体のマネジメントの関係

障害者雇用のマネジメントが上手だと感じる組織や人は、本人だけを見ているわけではありません。チーム全体を見ながら、必要な調整を考えています。本人に対して適切な距離で関わりつつ、チームの中での役割や業務の流れも同時に見ている。その視野の広さが、「ちょうどいい距離」を自然に生み出します。
合理的配慮は、特別扱いすることではありません。全員を同じに扱うことでもありません。チーム全体を見ながら、本人が力を発揮できる状態を整えること。それは、マネジメントの一部です。
障害者雇用がうまくいっている現場は、他のメンバーも働きやすい現場であることが多くみられます。それは、合理的配慮を通じて、組織全体のマネジメントが整えていくからです。

組織として合理的配慮の考え方を共有する必要性

「合理的配慮は個人の優しさではなく、組織の判断設計なのではないか」最近、そんなことを考えるようになりました。
現場では、正解が一つとは限らない状況に日々直面します。また、担当者が変わることで、配慮のあり方が変わることもあります。そんな中で「どんな形で関わっているのだろうか」と、その立ち位置を考えることを大切にしています。
合理的配慮は、何かを多くしてあげることではなく、本人が力を発揮できる状態をつくることです。自社では今、本人の力を引き出す配慮ができているのか。まずは、その問いから考えてみることが大切なのかもしれません。

こうしたテーマは、制度の説明だけでは整理しきれません。現場では、本人の希望、体調、業務内容、チーム全体の状況を見ながら、「どこまで配慮し、どこから本人に任せるのか」を判断する場面が日々起きています。
障害者雇用ドットコムでは、管理職・現場担当者向けに、合理的配慮の基本理解だけでなく、実際の現場ケースをもとに「本人の力を引き出す配慮」と「組織としての判断軸」を考える研修を行っています。
また、現場ごとに対応が分かれている、判断に迷うケースがある場合には、実際のケースを整理しながら、組織としての考え方を整える場もご一緒しています。合理的配慮を、個人の善意や経験だけに任せず、組織として考えていきたい方は、お気軽にご相談ください。

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