この記事でわかること
障害者雇用の対応が担当者によってバラバラになるのは、関わる人の善意や経験の差ではありません。200社以上の企業の障害者雇用に関わってきた中で見えてきたのは、「見ている対象が違う」「成功体験が属人化している」「優先する視点が違う」という3つの構造的な理由があるということです。
バラバラな対応を揃えるとは、全員が同じ判断をすることではありません。「迷ったときに立ち戻れる判断軸」を組織として共有することです。担当者が変わっても揺らがない対応をつくるためには、個人の努力ではなく、組織として考え方を積み上げる仕組みが必要です。
同じ組織なのに、なぜ対応が違うのか
障害者雇用に関わる現場で、こんな場面に出会うことがあります。
ある担当者は、メンバーが困っていそうだと感じると、すぐに声をかけて手を貸します。別の担当者は、本人が相談してくるまで待ちます。また別の担当者は、できる限り本人に任せる方針で関わります。
同じ会社、同じメンバー、同じ状況。なのに、対応がまったく違う。「うちの組織でも、そういうことがある」と感じた方は、おそらく少なくないと思います。
これは、誰かが間違っているわけではありません。悪意があるわけでもない。それぞれが「本人のために」と考えながら判断しています。
では、なぜこうなるのでしょうか。200社以上の現場を見てきて感じるのは、これは個人の問題ではなく、構造の問題だということです。
考え方が分かれる理由① 見ている対象が違う
同じ人のことを話しているのに、話がかみ合わない。障害者雇用の現場でよく起きることです。その理由の一つは、関わる人によって「見ている対象」が根本的に違うからです。
現場の支援担当者は、本人の困りごとを見ています。今日、この人は困っていないか。声をかけた方がいいか。そこに意識が向きます。
管理職はチーム全体を見ています。この人への対応がチームに与える影響は何か。他のメンバーとの公平性はどうか。そちらに意識が向きます。
人事は、制度との整合性を見ています。就業規則に照らして問題はないか。前例としてどう扱うか。
経営は、事業として持続可能かを見ています。雇用を継続するために、組織としてどこまで対応できるのか。そこに意識が向きます。
同じ人のことを話しているのに、それぞれが見ている景色が違う。だから判断が違う。
これは誰かが間違っているわけではありません。それぞれの役割の中で、当然の視点を持っています。ただ、その視点が共有されないまま個別に動くと、組織としての対応がバラバラになっていきます。
考え方が分かれる理由② 成功体験が違う
長く障害者雇用に関わってきた人は、うまくいった経験も、うまくいかなかった経験も積み重ねています。「あの時こうしたらよかった」「こうしたらうまくいった」という感覚が、判断の基準になっています。
一方、新しく担当になった人は、そういった経験がまだありません。手探りの中で、自分なりに考えながら動いています。
同じ状況を見ても、見えているものが違う。だから判断が違う。
問題は、この「成功体験」が個人の中に留まっていることです。うまくいった対応が言語化されず、共有されないまま、担当者の頭の中だけにある。だから担当者が変わると、一から手探りが始まります。
考え方が分かれる理由③ 優先する視点が違う
障害者雇用の現場では、こんな考え方がよく出てきます。
「困らせないことが大事」 「本人に任せる方がいい」 「本人の希望を尊重すべき」 「仕事なのだから、できるようにしていく必要がある」どれも、正しい視点です。どれも、相手を思ってのことです。
ただ、同じ場面に対して、どの視点を優先するかは人によって違います。育ってきた環境、これまでのキャリア、大切にしてきたことが違えば、自然と判断が変わります。
だからこそ、個人に任せたままでは、組織として揃えることが難しくなります。
判断が個人に委ねられたままになる弊害
「バラバラ」の状態が続くと、現場でどんなことが起きるでしょうか。
担当者が変わるたびに、本人への関わり方が変わります。ある時期はとても手厚く対応されていたのに、担当者が変わった途端に関わり方が変わる。本人にとっては、何が正解なのかわからなくなります。
また、「あの人はこうしてくれたのに」という不満が生まれやすくなります。本人も、周りのスタッフも、誰も悪くないのに、関係がこじれていく。
さらに、困ったことが起きるたびに担当者が一人で判断しなければならず、疲弊していきます。「これでよかったのかな」という迷いを抱えたまま、次の場面に対応する。それが積み重なっていきます。
バラバラな対応は、個人の問題から生まれているのではありません。組織として考え方が共有されていないという、構造の問題から生まれています。
組織として揃えるとはどういうことか
「組織として揃える」というと、全員が同じ対応をするように統一することだと思われるかもしれません。でも、そういうことではありません。
合理的配慮は、本来、個別性が高いものです。同じ障害名でも、その人の状況や職場の環境によって、必要な調整は変わります。全員に同じ対応をすることが正解ではありません。
大切なのは、「うちの組織としてはここまで考える」という判断の軸を持つことです。
たとえば、一時的な配慮をどこまで続けるのか。本人の希望をどこまで受け入れるのか。担当者が迷ったときに、誰に相談すればいいのか。そういった基準を、言葉にして共有しておくことです。
ある製造業の特例子会社の方が、研修の中でこんなことをおっしゃっていました。「品質管理には限度見本がある。合理的配慮にも、同じようなものが必要だと感じた」と。
この言葉が、とても本質を突いていると思います。全員が同じ判断をするためではなく、同じ方向を向いて考えられるように。そのための「限度見本」が、組織には必要です。
組織として判断軸を共有するための第一歩
では、どこから始めればいいのでしょうか。
まず、現場で起きていることを言語化することです。「こういう場面でこう判断した」「こういう時に迷った」という経験を、担当者同士で共有する場を持つことが出発点になります。
一人で抱えていた迷いが、共有されることで「あ、自分だけじゃなかった」という安心感が生まれます。そして「うちの組織ではこういう場合はどう考えるか」という対話が始まります。
正解を一つに決めることが目的ではありません。それぞれが持っている経験や価値観を持ち寄りながら、組織としての考え方を少しずつ積み上げていくことが大切です。
その積み重ねが、担当者が変わっても揺らがない組織をつくっていきます。
組織として合理的配慮の考え方を共有する必要性
あなたの組織では、合理的配慮の考え方が共有されていますか。担当者によって対応が変わっていませんか。困ったときに、一人で抱え込んでいる人はいませんか。
バラバラになっているのは、関わる人たちの力不足ではありません。組織として考え方を共有する仕組みが、まだできていないだけです。
合理的配慮を揃えるとは、全員が同じ対応をすることではありません。「本人の力を引き出す」という方向を共有し、迷ったときに立ち戻れる判断軸を持つことなのだと思います。そして、その判断軸は、一人で考えるのではなく、組織の中で対話しながら育てていくものなのかもしれません。
よくある質問
Q:障害者雇用の対応が担当者によってバラバラになるのはなぜですか?
見ている対象の違い(本人・チーム・制度・事業)、成功体験が個人の中に留まっていること、優先する視点の違いという3つの構造的な理由があります。誰かが間違っているのではなく、組織として判断の軸が共有されていないことが背景にあります。
Q:合理的配慮を「組織として揃える」とはどういうことですか?
全員が同じ対応をするよう統一することではありません。「迷ったときに立ち戻れる判断軸」を組織として持つことです。合理的配慮は個別性が高いため、一律の対応が正解とは限りません。大切なのは、同じ方向を向いて考えられる基準を言葉にして共有しておくことです。
Q:担当者が変わるたびに対応が変わってしまいます。どうすればよいですか?
うまくいった対応や迷った場面を言語化し、組織として共有する仕組みをつくることが出発点です。担当者の頭の中にある経験を「組織の知恵」として蓄積することで、担当者が変わっても同じ水準の対応が続けられるようになります。
Q:現場の担当者が一人で抱え込んでいます。どう変えればよいですか?
まず、担当者が一人で判断している場面を整理することが大切です。配慮の範囲、人事への相談タイミング、迷ったときの相談先が決まっていないと、担当者は孤立したまま判断を重ねることになります。「迷ったら誰に相談するか」を組織として決めるだけでも、担当者の負担は大きく変わります。
Q:合理的配慮の「限度見本」とはどういう意味ですか?
製造業の品質管理で使われる「これ以上はNG、これならOK」という判断の基準のことです。合理的配慮においても、「うちの組織ではここまでは対応する、ここからは別の方法を考える」という目安を持つことが、担当者が現場で迷わないために有効です。全員が同じ判断をするためではなく、同じ方向を向いて考えるための基準として機能します。
こんな状況はありませんか?
・管理職によって関わり方が違う
・配慮の線引きに毎回迷っている
・「本人のため」と思いながら判断に自信が持てない
・担当者が変わるたびに対応が変わってしまう
・現場が一人で抱え込んでいる
・「うちとしてどう考えるか」が言葉になっていない
一つでも当てはまる場合、問題は担当者の経験不足や善意の不足ではないのかもしれません。組織として判断軸を共有する機会が、まだ十分につくられていないだけかもしれません。
障害者雇用ドットコムでは、管理職・現場担当者向けの研修だけでなく、実際に起きているケースを整理しながら、「私たちの組織ではどう考えるのか」を言語化する場をご一緒しています。
「何が正解か」を決めることが目的ではありません。迷ったときに立ち戻れる考え方を持ち、担当者が変わっても揺らがない組織をつくること。その第一歩として、まずは現場で起きているケースを整理してみませんか。
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