障害者雇用について、「何度対応しても、似たような問題が起きる」「担当者は動いているのに、なぜか前に進まない」「何を改善すればよいのか、だんだん分からなくなってきた」という状態になることがあります。
このとき、担当者の経験が足りないのではないか。現場の理解が足りないのではないか。本人との相性や適性に問題があるのではないか。と、「誰」に原因があるのかを探したくなるかもしれません。
もちろん、個人の知識や経験、コミュニケーションが影響することもあります。ただ、それだけを見ていると、組織の中で起きている別の問題を見落とすことがあります。
それが、「どこで判断が止まっているのか」という視点です。
障害者雇用の課題は、一か所で起きるとは限りません。
採用の入口なのか。情報共有なのか。配慮の判断なのか。役割分担なのか。止まっている場所が違えば、次に確認すべきことも変わります。
この記事では、障害者雇用の課題を「誰が悪いか」ではなく、「自社では、どこで判断が止まっていそうか」という4つの視点から整理します。
答えを判定する記事ではありません。まず、自社を見るための「当たり」をつけるために使ってください。
- 障害者雇用の課題を「人」だけで見ない理由
- 自社の止まり方を見る4つの視点
- 採用の入口で止まっているときに見られるサイン
- 情報共有・配慮判断・役割分担で起きやすい止まり方
- 複数当てはまるときの考え方
- 次の対策を考える前に、なぜ「場所」を見つける必要があるのか
この記事は「原因を判定する診断」ではありません
最初に、この4つの視点の使い方を整理しておきます。
この記事で行うのは、「あなたの会社の原因はこれです」と判定することではありません。実際の組織では、複数の問題が重なっています。
採用時の仕事設計が曖昧だから、現場への情報共有が難しくなる。役割分担が曖昧だから、配慮の判断が人事に集中する。一つの止まりが、別の止まりにつながることもあります。
そのため、4つすべてに当てはまる会社もあれば、二つ、三つが強く当てはまる会社もあります。
ここで見つけたいのは、「自社では、まずどこを見ると状況を整理しやすそうか」です。
「うちは、このあたりで判断が止まっているかもしれない」と、自社を見る場所を絞り込むための視点です。
止まっている場所を見ると、問題の見え方が変わる
障害者雇用で問題が起きると、目につきやすいのは人の行動です。
「管理職が判断してくれない」「人事に相談が集まりすぎている」「本人との調整が難しい」「担当者によって対応が違う」こうした現象は、確かに起きています。
ただ、その背景に、誰が決めるのか決まっていない。判断するときの基準が共有されていない。必要な情報が、判断する人まで届いていない。といった状態が隠れていることがあります。
つまり、「誰がうまくできていないか」だけではなく、「どこで判断が止まっているか」を見る。
この見方に変えることで、次に確認する場所が変わってきます。ここから、4つの視点で自社を見てみましょう。
視点1|採用の入口——任せる仕事と役割は決まっているか
最初に確認したいのは、採用の入口です。
障害者雇用を進めようとしたとき、「障害のある人に任せられる仕事がない」という声が出ることがあります。実際に業務の制約がある場合もあります。
一方で、仕事そのものの有無だけではなく、「誰に、何を、どこまで任せる役割なのか」が整理されているかも確認する必要があります。
採用人数は決まっている。
しかし、どの部署へ配属するのか。どの仕事を担当してもらうのか。誰が指示を出すのか。何をできる状態になればよいのか。が曖昧なまま採用が進むと、採用後に現場が仕事を探すことになります。
- 採用人数は決まっているが、任せる仕事が決まっていない
- 配属先や指示する人が採用後に決まる
- 「障害のある人にできる仕事がない」という話で止まる
- 採用したあと、現場が仕事を探している
問い:自社では、採用する「人数」より先に、任せる「役割」が見えていますか。
視点2|情報共有——情報は、判断に使える形でつながっているか
次に見るのは、情報共有です。
障害者雇用では、多くの情報が生まれます。
採用面接で確認したこと。
本人から聞いた配慮事項。
現場で起きたこと。
面談で話したこと。
これまで行ってきた対応。
情報そのものは、かなり残っている会社もあります。
それでも、「なぜ、この対応になったのか分からない」「前任者は何を考えていたのか分からない」ということがあります。
ここで確認したいのは、情報量ではありません。その情報が、次の判断に使える形でつながっているかです。
例えば、「週3日の勤務にした」という結果は残っていても、なぜ週3日なのか。誰が判断したのか。何を見て判断したのか。いつ見直す予定なのか。が分からなければ、次に同じ状況が起きたとき、その判断を使うことができません。
- 配慮や対応の内容は残っているが、理由が分からない
- 担当者が変わると、それまでの経緯が分からなくなる
- 「前任者はどうしていたのか」がよく話題になる
- 面談記録はあるが、その後どう判断したのかが残っていない
問い:自社に残っているのは「起きたこと」だけでしょうか。それとも「なぜそう判断したか」まで次の人がたどれますか。
視点3|配慮の判断——会社として考えるための基準はあるか
三つ目は、合理的配慮などの判断です。
本人から、「この業務を外してほしい」「勤務時間を変更したい」「この方法で仕事をしたい」といった希望が出ることがあります。
本人の希望を聞くことは重要です。ただ、そのあと企業には、どのような就業上の支障があるのか。業務との関係はどうか。会社として実施できる範囲はどこか。他の方法は考えられないか。といった確認があります。
このとき、会社として判断するときの考え方が共有されていないと、「私は認めてもよいと思う」「私はそこまでは配慮ではないと思う」と、対応する人によって判断が変わりやすくなります。
これは、担当者の能力だけの問題とは限りません。対応する人による違いに見えても、その背景に、組織として共有された判断の基準がない場合があります。
- 「どこまで配慮するか」を担当者の感覚で決めている
- 同じような相談でも、対応する人によって判断が違う
- 「これは配慮として認めるべきですか」という相談が毎回同じ担当者へ来る
- 本人の希望を聞いたあと、会社として誰が判断するか曖昧になる
問い:自社では、配慮について迷ったとき、何を見て会社として判断するか共有されていますか。
視点4|役割分担——誰が、どこまで決めるか分かっているか
四つ目は、役割分担です。
障害者雇用には、多くの人が関わります。
現場の上司。人事。障害者雇用担当者。管理職。産業保健スタッフ。場合によっては外部支援機関。関係者が多いこと自体が問題なのではありません。
確認したいのは、「誰が何をするか」だけでなく、「誰が何を判断するか」が分かれているかです。
例えば、現場はどこまで決めてよいのか。どの段階で人事へ相談するのか。人事は整理する人なのか、決める人なのか。管理職は何を引き受けるのか。が曖昧なままだと、迷った案件は、最も詳しい人へ集まります。
そして、「あの人に聞いたほうが早い」という状態になります。「現場に任せる」と「現場任せ」も同じではありません。
現場で判断できる範囲や、相談が必要になる条件が見えているのか。それとも、「現場でお願いします」とだけ渡されているのか。ここには大きな違いがあります。
- 管理職が判断せず、「人事に確認して」となることが多い
- 相談内容にかかわらず、障害者雇用担当者へ案件が集まる
- 現場がどこまで決めてよいのか分からない
- 人事・現場・管理職の間を同じ相談が行き来する
問い:自社では、「相談する人」と「判断する人」が同じになっていませんか。
4つのうち、どれが一番近いでしょうか
ここまで、
- 採用の入口
- 情報共有
- 配慮の判断
- 役割分担
という4つの視点を見てきました。
一つだけ強く当てはまる場合もあれば、複数がつながっている場合もあります。
例えば、採用時に役割が曖昧だったため、現場で判断することが増える。現場の判断理由が共有されないため、人事へ相談が集中する。人事へ相談が集中するうちに、配慮の判断も担当者の経験に依存する。というようにつながることもあります。
そのため、4つのうち、どれが「最も悪いか」を決める必要はありません。
まず、「うちの場合は、このあたりから見たほうがよさそうだ」という一つを見つけます。それだけでも、「何をすればよいか分からない」という状態から一歩進めます。
ただし、どこから整理すると動きやすいのかは、会社によって違います。
まずは、「自社ではどこで判断が止まっているのか」を一つ見つけることから始めます。
自社だけで考えていると、「いつもの見方」に戻ることもある
自社の課題を整理しようとすると、「現場にもっと理解してもらう必要がある」「担当者を育成したほうがよい」「本人への面談を増やしたほうがよい」など、これまで考えてきた対策に戻ることがあります。
もちろん、それらが必要な場合もあります。一方で、違う問いから見ることで、初めて見えてくることもあります。
「採用で止まっていると思っていたが、実際には任せる役割が曖昧なのかもしれない」「配慮の問題だと思っていたが、誰が判断するのかが決まっていないのかもしれない」といった見え方です。
自社だけでは当たり前になっていることも、ほかの組織の例や問いと照らし合わせることで、「ここが止まっていたのかもしれない」と気づくことがあります。
そのため、まずは4つの視点を使って、自社の状態を一度書き出してみることをおすすめします。
社内で確認しておきたいポイント
- 採用前に、任せる仕事・配属・指示する人まで見えているか
- 対応結果だけでなく、判断した理由も次の人が確認できるか
- 配慮について迷ったとき、会社として見る基準があるか
- 現場・人事・管理職のうち、誰が何を判断するか分かれているか
- 同じ相談が、毎回特定の人に集まっていないか
- 4つのうち、自社で最も気になる場所はどこか
ここで答えを出し切る必要はありません。
重要なのは、「誰が足りないか」ではなく、「どこをもう少し見たほうがよいか」が見えてくることです。
情報共有なのか。
配慮の判断なのか。
役割分担なのか。
メルマガでは、障害者雇用を「人の問題」だけで捉えず、組織として整理するための視点や不定期に勉強会の案内をお届けしています。
FAQ|自社の止まっている場所を見るときによくある疑問
Q:4つのうち、どれが一番問題なのか判断できますか
この記事は、4つの優劣や問題の深刻度を判定するためのものではありません。
自社ではどこから見ていくと状況を整理しやすいか、その当たりをつけるための視点です。
一つだけ当てはまる場合もあれば、複数がつながっていることもあります。
Q:4つすべてに当てはまったら、問題が深刻ということですか
必ずしもそうとは限りません。4つはそれぞれ独立しているわけではなく、互いに影響します。
一つの場所で判断が曖昧になることで、別の場所にも影響が出ている場合があります。
数の多さだけで判断するのではなく、まずどこから整理すると動きやすそうかを見ます。
Q:中小企業でも、この4つの視点は使えますか
はい。企業規模にかかわらず確認できます。
少人数で担当者が他業務と兼務している場合などには、一人の担当者に情報や判断が集まりすぎていないかを見ることも一つのポイントになります。
Q:最も当てはまる場所が分かったら、すぐに改善策を決めればよいですか
まずは、その場所で実際に何が起きているのかをもう少し具体的に確認します。
例えば「情報共有」が気になる場合でも、情報そのものが不足しているのか、共有先が曖昧なのか、判断理由が残っていないのかでは、考えることが違います。
この4つは、改善策を決める前の入口として使うものです。
Q:「人の問題」を考えなくてよいということですか
そういう意味ではありません。
個人の知識、経験、コミュニケーションなどが影響するケースもあります。
ただし、人だけを原因として見ると、判断基準・情報共有・役割分担など、組織側の条件を見落とす可能性があります。
人と組織の両方を見るために、「どこで止まっているか」という視点を加えます。
まとめ|「何をするか」の前に、「どこで止まっているか」を見る
障害者雇用がうまく進まないと、研修を増やす。面談を増やす。支援機関へ相談する。担当者の経験を増やす。といった対策を考えたくなります。どれも必要になることがあります。
ただ、その前に、自社では、そもそもどこで判断が止まっているのかを確認しておくことが重要です。
採用の入口なのか。情報共有なのか。配慮の判断なのか。役割分担なのか。止まっている場所が違えば、次に見るべきことも違います。
そして、この4つを見る目的は、「悪い場所」を見つけることではありません。自社が次に整理する場所を見つけることです。
「誰が悪いのか」から少し離れて、「どこで判断が止まっているのか」。
この問いから自社を見直すと、これまでとは違う課題の見え方が出てくるかもしれません。
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