「この件は、現場に任せています」障害者雇用の相談をしていると、こうした言葉を聞くことがあります。
現場に近いところで判断したほうがよい。本人の仕事をよく知っている管理職に任せたほうがよい。人事が細かく介入しすぎないほうがよい。どれも、もっともな考え方です。
ただ、「現場に任せる」と「現場任せ」は同じではありません。違いは、現場が判断できる基準や範囲が見えているかどうかです。
どこまで現場で判断してよいのか。どのような場合には人事や責任者へ戻すのか。その前提が見えないまま「現場に任せる」と、現場は自律的に動くどころか、むしろ慎重になります。
そして迷うたびに、「人事に確認してください」「障害者雇用担当者に聞いてください」と、判断がまた特定の担当者へ戻っていきます。
この記事では、障害者雇用における「現場に任せる」と「現場任せ」の違いを、役割分担と判断の置き方という視点から整理します。
- 「現場に任せる」と「現場任せ」の違い
- 任せたはずなのに、現場が判断できなくなる理由
- 判断が人事・障害者雇用担当者へ集中する構造
- 「任せる」が成立している組織で見えているもの
- 会社全体ではなく、部門単位から始めてもよいのか
- 自社が「任せる」と「任せっぱなし」のどちらに近いかを見る視点
「現場に任せた」だけでは、現場は自律的に動けない
「現場に任せる」と聞くと、現場に裁量を渡す。管理職が自分で考える。人事が細かく指示しない。といった、自律的な組織をイメージしやすいかもしれません。
しかし、任せたからといって、自動的に判断できるようになるわけではありません。
例えば、現場の管理職が本人から、「この業務を外してほしい」「勤務時間を変更したい」と相談を受けたとします。
管理職として本人の状況は理解できる。業務への影響もある程度分かる。
それでも、「これは自分の判断で決めてよいのか」「ほかの社員との扱いはどう考えるのか」「会社として認めてよい範囲なのか」が分からなければ、判断をためらいます。
そのとき、「人事に確認しよう」となるのは、必ずしも管理職の判断力が低いからではありません。自分が判断してよい範囲が見えていないため、確認せざるを得ないことがあります。
「現場任せ」になると、判断は詳しい人へ戻っていく
判断の基準や範囲が曖昧なまま、「現場で対応してください」「現場に任せています」と渡されると、現場には判断する責任だけが残ることがあります。
すると、迷ったときに何が起きるでしょうか。
現場の管理職が人事へ相談する。人事も個別の事情だけでは判断しにくいため、障害者雇用担当者へ確認する。担当者が過去の事例や本人の状況を知っているため、最終的にその人が整理する。短期的には、この方法が最も早く進みます。
しかし、それが繰り返されると、「現場に任せているはずなのに、判断はいつも担当者に戻る」という状態になります。
- 管理職が迷うと、すぐ「人事に確認して」となる
- 相談内容にかかわらず、障害者雇用担当者へ案件が集まる
- 現場がどこまで決めてよいのか分からない
- 「前回はどうしたのか」を毎回担当者へ確認している
- 人事と現場の間を同じ相談が行き来する
ここで問題にしたいのは、「管理職が判断しない」「人事が現場の判断に委ねている」といった個々の対応そのものではありません。判断をどこまで任せるのかという前提が、組織の中で共有されているかどうかです。
「任せる」とは、判断を丸ごと手放すことではない
では、「現場に任せる」が成立している状態とは、どのような状態でしょうか。
重要なのは、現場が自分たちで判断できる状態になっていることです。
例えば、どのようなことは現場で判断してよいのか。どこからは人事や責任者と確認する必要があるのか。迷った場合、どこへ戻せばよいのか。こうした前提がある程度見えていれば、現場は毎回ゼロから考える必要がありません。
もちろん、すべてのケースを事前に決めておくことはできません。障害者雇用では、本人の状況も仕事も職場環境も異なります。
だからこそ、「このケースの答えはこれ」という個別の正解を大量に用意するのではなく、現場がどこまで考え、どこから組織として判断するのかが見えていることが重要になります。
現場が判断できる前提を置き、迷ったときには組織へ戻せる状態にすることです。
「現場で考えてください」と渡すだけなのか。
「ここまでは現場で判断できる」と見えているのか。
この違いが、「現場に任せる」と「現場任せ」を分けます。
任せたのに担当者へ判断が集まるなら、役割分担を見直す
「現場に任せているのに、人事への相談が減らない」という会社があります。
このとき、「現場の理解が足りない」「管理職にもっと判断してもらう必要がある」と考えたくなるかもしれません。
もちろん、知識や経験を増やすことが必要な場合もあります。ただ、その前に確認したいことがあります。
それは、現場へ何を任せたのかが、具体的に共有されているかです。
仕事を任せたのか。日常的な支援を任せたのか。配慮について本人と話すところまで任せたのか。配慮を最終的に決めるところまで任せたのか。「現場に任せる」という一つの言葉の中に、複数の役割が混ざっていることがあります。
すると、管理職は「そこまで決めるとは聞いていない」と感じる。人事は「現場に任せたはず」と感じる。担当者だけが、その間をつなぎ続ける。という状態になります。
このとき必要なのは、誰かにもっと頑張ってもらうことではなく、どの判断が、どこに置かれているのかを見ることです。
会社全体で決めないと、「現場に任せる」はできないのか
ここで、「会社全体で基準を整えないと始められないのでしょうか」という疑問が出てきます。必ずしも、最初から全社でそろえる必要はありません。
例えば、障害者雇用を多く受け入れている一つの部門で、「ここでは、どこまで現場で判断しているのか」「どの段階で人事へ相談しているのか」を整理するところから始めることもできます。
部門単位であれば、実際の仕事や管理職の動きも見えやすいため、自社の状態を確認しやすい場合があります。小さな単位から始めること自体は、一つの方法です。
一方で、部門ごとに判断の考え方が大きく異なると、別の問題も生まれます。
例えば、A部門では認められた対応が、B部門では認められない。異動したら、これまでのやり方が通用しなくなった。人事から見ると、部署ごとに判断が違い、どこまで会社方針なのか分からない。といったことです。
つまり、部門単位から始めることはできる。ただし、部門をまたぐ段階では、会社としてどう整合させるかが次の論点になります。
どの単位から始めるのか、どこまで全社でそろえるのかは、会社の規模や体制によって異なります。
ここでは「全社でなければ意味がない」と考える必要はありません。まず、自社で実際に判断が止まっている場所を見ることが出発点になります。
「現場に任せる」と言う前に確認したいこと
- 「現場に任せる」とき、何を任せているのか共有されているか
- 現場がどこまで判断してよいのか分かっているか
- 迷ったとき、どこへ相談・判断を戻すか分かっているか
- 同じような相談が、毎回人事や障害者雇用担当者へ戻っていないか
- 部署によって判断が大きく異なっていないか
- 担当者がいない場合でも、現場と人事で次の判断ができるか
ここで重要なのは、「現場にもっと判断してもらおう」と結論を急がないことです。現場が判断しないのには、理由があるかもしれません。
まず、判断できる状態になっているのかを見る必要があります。
「任せる」と「任せっぱなし」の違いは、組織の側にもある
障害者雇用では、「もっと現場主体で」「現場に任せたほうがよい」と言われることがあります。確かに、本人の仕事や日々の状況を最も近くで見ている現場だからこそできる判断があります。
一方で、現場だけでは決めにくいこともあります。その境界が見えないまま「任せる」と、現場は慎重になり、結局は人事や担当者へ確認します。そして、判断できる担当者に判断が集まっていきます。
現場が判断できるところと、組織として判断するところの境界が見えている状態をつくることです。
どのような基準を置くのか。どの範囲を現場に任せるのか。部門ごとの考え方を、どこまで会社としてそろえるのか。その答えは、会社によって違います。
だからこそ、いきなり仕組みを作るのではなく、まず、自社ではどこで判断が止まっているのかを見ることが必要です。
人事の問題なのか。
それとも、任せ方そのものに確認すべきことがあるのか。
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FAQ|「現場に任せる」ときによくある疑問
Q:現場に任せるなら、人事は関わらないほうがよいのでしょうか
そうとは限りません。現場で判断できることと、人事や会社として判断することは同じではありません。
現場が日々の仕事に近い情報を持ち、人事が制度や会社全体との整合を見るなど、役割が異なる場合があります。
重要なのは、「任せる=人事が関わらない」とするのではなく、どこまでを誰が判断するのかが見えていることです。
Q:管理職が毎回人事へ確認するのは、判断力が足りないからですか
必ずしもそうとは限りません。判断してよい範囲や会社として見る基準が分からなければ、慎重な管理職ほど確認することがあります。
個人の判断力だけでなく、なぜ確認が必要になる構造になっているのかを見ることも必要です。
Q:部門単位でルールを決めてもよいのでしょうか
一つの部門から整理を始めることは可能です。
実際の仕事や管理職の動きが見えやすい範囲から確認することで、課題を捉えやすくなる場合もあります。
ただし、部門ごとの判断が異なる場合、異動や部門間連携の場面で新たな迷いが生じることがあります。
そのため、部門単位で始めた後、どこまで会社として整合させるかが次の検討事項になります。
Q:「現場任せ」になっていると分かったら、まず何を決めればよいですか
この記事では、具体的な基準や役割分担の作り方までは扱いません。
まず、どのような相談が現場から人事へ戻っているのか、どの場面で「誰が決めるのか」が曖昧になっているのかを確認します。
「現場に任せる」ことそのものを見直す前に、どこで判断が止まっているのかを把握することが出発点です。
まとめ|「任せる」とは、判断できる状態を渡すこと
「現場に任せる」と「現場任せ」。違いは、現場が判断できる前提があるかどうかです。
任せたつもりでも、どこまで決めてよいのか分からない。迷ったときの相談先が分からない。会社として何を基準に判断するのか見えない。という状態であれば、現場は判断をためらいます。
そして、「人事に確認しよう」「担当者に聞こう」と、判断がまた詳しい人のところへ戻ります。
任せるとは、判断を丸ごと手放すことではありません。現場が判断できるところと、組織として判断するところが見える状態にすることです。
その整理は、必ずしも会社全体から始めなければならないわけではありません。部門単位から見ることもできます。ただし、部門をまたいだときには、判断の整合が次の論点になります。
まずは、自社では、「現場に任せる」と言ったあと、判断がどこへ流れているのか。そこから確認してみてください。
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