障害者雇用を人事だけに任せると、採用、配慮、配置、定着、現場対応の判断が人事担当者に集中しやすくなります。しかし、障害者雇用で本当に重要なのは、人事が頑張ることだけではなく、経営として「誰が、何を、どの基準で判断するのか」を設計することです。人事を責めるのではなく、人事を孤立させない組織設計が必要です。
この記事でわかること
- 障害者雇用が人事任せになると、組織の中で何が起きるのか
- 本当に止まっているのは採用ではなく「判断」であること
- 担当者が変わるたびにリセットされる原因と構造
- 経営層・CHROが見るべき視点と整えるべき判断の置き場所
- 人事を孤立させないために必要な組織設計の考え方
「人事が担当すること」と「人事だけの仕事にすること」は違う
2026年7月から、民間企業の障害者法定雇用率は2.7%に引き上げられました。これにより、障害者雇用に取り組む企業の裾野はさらに広がっています。
その中で、多くの企業がまず取り組むのは、採用計画の見直しや受け入れ体制の整備です。障害者雇用には、採用、労務、配置、定着、制度運用など、人事が関わるべき領域が多くあります。
ただ、ここで一つ明確にしておきたいことがあります。障害者雇用を「人事が担当すること」と、障害者雇用を「人事だけの仕事にすること」は、まったく違います。前者は必要な役割分担です。後者は、組織の中に大きな歪みを生みます。
この記事は、人事部門を批判するものではありません。人事を孤立させないために必要な経営設計について整理しています。
障害者雇用が人事任せになると、何が起きるのか
たとえば、障害のある社員への合理的配慮をめぐって、現場からこんな相談が上がることがあります。「本人の特性は理解しているつもりです。必要な配慮も大切だと思っています。ただ、どこまで配慮し、どこから仕事として求めてよいのかが分かりません」
人事としては、障害者雇用として採用している以上、本人が力を発揮できるように適切な配慮をしてほしいと考えます。
一方で、現場には現場の迷いがあります。「配慮は必要だと思う。でも、仕事として採用している以上、どこまでを本人に求めてよいのか」「他のメンバーとの業務分担を、どう考えればよいのか」「本人に合わせることと、組織として業務を回すことのバランスを、誰が判断するのか」
ここで起きているのは、誰かの姿勢の問題ではありません。配慮をどの基準で判断するのかが、組織として整理されていないことです。障害者雇用がうまく進まない企業では、このような迷いが繰り返されます。
人事は採用活動を進め、現場への説明を行い、本人との面談を重ね、必要な配慮についても調整しています。それでも、判断が必要になるたびに現場は人事に戻し、人事は個別に調整し、必要に応じて経営に上げようとします。
しかし、経営層の側に「障害者雇用は人事が見ている」という前提があると、その問いは経営の議題になりにくくなります。結果として、判断が宙に浮きます。
これは、人事の力量不足ではありません。むしろ、人事が真面目に対応している企業ほど、この状態になりやすいと感じます。なぜなら、人事が頑張れば頑張るほど、周囲からは「人事が対応してくれている」と見えるからです。
そしていつの間にか、障害者雇用は経営の問いではなく、人事の実務になっていきます。
本当に止まっているのは、採用ではなく「判断」である
雇用率が上がると、多くの企業はまず採用人数に目が向きます。何人足りないのか。いつまでに採用するのか。どの職種で募集するのか。
もちろん、採用計画は必要です。ただ、障害者雇用で本当に難しくなるのは、採用した後です。
・どの業務を任せるのか
・どの範囲まで配慮するのか
・どこからは本人に求めるのか
・現場の管理職は何を判断し、人事は何を支援するのか
・組織として、どの状態を「うまくいっている」と見るのか
ここが曖昧なままだと、現場は判断できません。配慮は個人の善意に委ねられます。管理職ごとに対応が変わります。そして、担当者が変わった瞬間に、それまでの取り組みがリセットされます。
障害者雇用が属人化する本当の理由
担当者が変わるたびに対応がリセットされる——これは多くの企業が経験している課題です。しかし、その原因は「担当者のノウハウが引き継がれなかった」だけではありません。
本来、組織として持つべき判断軸が、担当者個人の中に置かれてしまっている状態です。
・人事担当者が経験で調整している
・支援機関との関係性に依存している
・過去の判断が記録されていない
・管理職ごとに対応が違う
・担当者が変わると、またゼロから説明になる
属人化とは、「担当者しか知らない」ということではありません。組織が持つべき判断の置き場所が設計されていないことが、本質的な原因です。だから、人が変わると止まるのです。
| よくある誤解 | 実際の問題 |
|---|---|
| 担当者のノウハウが引き継がれなかった | 組織として判断軸が設計されていなかった |
| 担当者の経験不足 | 判断の置き場所が個人に依存していた |
| 支援機関との連携不足 | 組織内の判断基準が言語化されていなかった |
経営層・CHROが見るべきは、雇用率だけではない
CHROや経営企画、DEIを担う立場の方が見るべきなのは、雇用率の達成だけではありません。
経営として確認したい問い
・自社にとって障害者雇用は、単なる法令対応なのか
・多様な人材が力を発揮する組織づくりの一部なのか
・現場のマネジメント力を高める機会なのか
・人的資本経営の中で、どのように位置づけるのか
・経営は、どこまでを人事に任せ、どこからを経営判断として扱うのか
この問いに答えるべきなのは、人事担当者だけではありません。もちろん、人事は実務を担います。しかし、障害者雇用の意味づけ、優先順位、判断基準、現場への権限設計は、経営の仕事です。
ここがないまま人事に任せると、人事は常に個別対応に追われます。採用できない、定着しない、現場が受け入れない、配慮の判断で揉める——こうした問題が起きたとき、多くの場合、表面上は「人事課題」に見えます。しかし実際には、経営としての設計がないことによって、人事課題の形で現れているだけです。
人事を孤立させないために必要な「判断の置き場所」
障害者雇用を経営課題として扱うとは、経営層が細かな実務まで直接見るという意味ではありません。大切なのは、人事が判断しやすくなる前提を整えることです。
| 判断すること | 主な関係者 | 曖昧なままだと起きること |
|---|---|---|
| 障害者雇用の目的・位置づけ | 経営・CHRO | 人事だけの実務になる |
| 配置・業務範囲 | 現場・人事 | 任せる業務が決まらない |
| 合理的配慮の基準 | 人事・現場・本人 | 毎回判断が揉める |
| 現場負担の調整 | 経営・現場・人事 | 管理職が疲弊する |
| 判断履歴の管理 | 人事・管理職 | 担当者変更でリセットされる |
これがないと、現場は迷います。人事は抱え込みます。経営には、問題が深刻化してから上がってきます。逆に、判断の軸が組織の中にあると、人事は動きやすくなります。現場も「何を大切にすればよいのか」が分かる。管理職も判断しやすくなる。担当者が変わっても、取り組みがリセットされにくくなります。
障害者雇用を人事から取り上げる必要はありません。必要なのは、人事だけに背負わせないことです。
障害者雇用を経営設計として見直すと、何が変わるのか
判断の置き場所が整うと、組織の中でこんな変化が起きます。
・現場が判断しやすくなる
・人事が個別調整だけに追われなくなる
・配慮の判断がブレにくくなる
・担当者が変わってもリセットされにくくなる
・本人も働き方の見通しを持ちやすくなる
・経営層が障害者雇用の意味を説明しやすくなる
障害者雇用は、単なる採用施策ではありません。組織がどのように人を見るのか。どのように業務を設計するのか。管理職が判断できる状態をどうつくるのか。そうした組織の判断力が、非常に見えやすく出る領域です。
このような状態があるなら、組織の取り組みを見直すタイミングです
次のような状態はありませんか。
・障害者雇用の対応が人事担当者に集中している
・合理的配慮の判断で毎回迷う
・現場管理職によって対応が違う
・経営には雇用率や人数の報告しか上がっていない
・担当者が変わると、取り組みがリセットされる
・採用しても定着しない理由が整理できていない
・現場が受け入れに不安を持っている
・人事が本人・現場・経営の間で板挟みになっている
一つでも当てはまる場合、見るべきなのは担当者の努力不足ではなく、組織の中で判断がどこに置かれているかです。
障害者雇用を人事だけに背負わせないために
障害者雇用は人事が関わるべきテーマです。しかし、人事だけで完結するテーマではありません。
採用、配慮、配置、定着、現場支援は、組織全体の判断や協力が必要です。必要なのは、人事だけで対応ができない状態ならば、人事を孤立させない設計です。多くの場合、問題は「誰が悪いか」ではなく、判断の置き場所が設計されていないことにあります。
あなたの組織では、障害者雇用は誰の議題になっていますか。
よくある質問(FAQ)
Q1. 障害者雇用は人事の仕事ではないのですか?
障害者雇用には、採用、労務、配置、定着、制度運用など、人事が関わるべき領域が多くあります。ただし、人事が担当することと、人事だけが背負うこととは違います。障害者雇用を組織で機能させるには、経営、現場管理職、人事がそれぞれ判断する範囲を整理する必要があります。
Q2. 障害者雇用が人事任せになると、どのような問題が起きますか?
現場が判断できずに人事へ確認を戻す、人事が個別調整に追われる、合理的配慮の基準が管理職ごとに変わる、担当者が変わると対応がリセットされる、といった問題が起きやすくなります。
Q3. 障害者雇用で経営層が見るべきことは何ですか?
雇用率や採用人数だけでなく、障害者雇用を自社の経営にどう位置づけるか、どの部署がどの役割を担うか、現場管理職にどこまで判断を委ねるか、人事がどこまで支援するかを整理することが重要です。
Q4. 合理的配慮で毎回揉めるのはなぜですか?
配慮内容そのものだけでなく、誰が何を基準に判断するかが整理されていないことが原因になっている場合があります。判断基準がないまま個別対応を続けると、本人・現場・人事の間で認識のズレが生じやすくなります。
Q5. 障害者雇用に組織で取り組むためには、何から始めればよいですか?
まずは、現在の障害者雇用の課題がどこに集中しているのかを整理することです。たとえば、離職者が増えている場合、それは本人との相性だけの問題ではないかもしれません。仕事の設計に無理があるのか、採用時に会社が求める人材像が十分に伝わっていないのか、現場の受け入れ体制にズレがあるのかを見ていく必要があります。
また、障害者雇用が人事だけの取り組みになっている場合は、障害者雇用を含めた人材活用について、経営としてどのような方針を持っているのかを確認することが大切です。課題がどこで起きているのか、誰が何を判断しているのかを整理すると、見直すべきポイントが見えてきます。
障害者雇用の判断構造を見直したい方へ
障害者雇用で同じような確認や調整が繰り返されている場合、見るべきなのは、担当者の努力不足ではなく、組織の中で判断がどこに置かれているかです。
合理的配慮で毎回迷う。
現場が判断できず、人事に確認が戻ってくる。
人事が本人・現場・経営の間で調整に追われている。
担当者が変わるたびに、これまでの対応がリセットされる
こうした状態が続いているなら、必要なのは「もっと頑張ること」ではなく、組織の判断構造を整理することかもしれません。
組織判断レビューでは、障害者雇用に関する課題を、採用・配慮・配置・定着・現場対応・経営判断の流れから整理し、どこで判断が止まっているのか、どこにズレがあるのかを見える化します。
人事だけが抱え込む状態から、現場・人事・経営が判断しやすい状態へ整えたい方は、まずは現在の状況を整理することから始めてみてください。
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