精神障害者保健福祉手帳の2級・3級には、制度上の違いがあります。
では、「2級」と分かったとき、企業はそこから何を判断できるのでしょうか。
「採用してよいのか」「この仕事を任せてよいのか」「どこまで配慮する必要があるのか」
実は、こうした仕事上の判断は、手帳の等級だけから出すことはできません。
精神障害者保健福祉手帳の等級は、制度上の認定に関する情報です。企業が仕事を任せるための能力評価ではありません。
企業に必要なのは、「2級だからどうする」「3級だから大丈夫」と考えることではなく、何を判断するために、どの情報を見るのかを分けることです。
この記事では、精神障害者手帳の等級と仕事の評価軸がなぜ異なるのか、企業が採用・配置・配慮で何を見ればよいのか、そして誰が判断するのかを整理します。
- 精神障害者手帳の等級と仕事能力が同じではない理由
- 制度の評価軸と、企業が仕事を判断するときの評価軸の違い
- 企業が等級を採用・配置判断に使いたくなる背景
- 採用・配置・合理的配慮を分けて考える必要性
- 手帳の更新・失効と雇用率の確認を、仕事の評価と分ける理由
- 採用・配置・配慮について「誰が判断するのか」を決める重要性
精神障害者手帳の等級と仕事能力は、なぜ一致しないのか
精神障害者保健福祉手帳には1級、2級、3級があります。
厚生労働省の判定基準では、等級は、
- 精神疾患(機能障害)の状態
- 能力障害(活動制限)の状態
などを確認し、精神障害の程度を総合的に判定します。
ここで重要なのは、この制度が企業での仕事能力を評価することを目的につくられたものではないということです。
一方、企業が採用や配置で知りたいのは、
- 予定している仕事に必要な能力や経験があるか
- 業務のどこで支障が生じる可能性があるか
- 本人自身で対処できることは何か
- 職場でどのような調整が必要か
- 周囲とどのように仕事を進められるか
といった、実際の仕事との関係です。
企業が仕事を任せるための評価軸は、同じではありません。
そのため、「2級だから仕事が難しい」「3級だから配慮は少なくてよい」というように、制度上の等級から仕事上の結論を出すことはできません。
同じ等級であっても、これまでの経験、得意なこと、苦手なこと、症状が仕事に影響する場面、本人ができる対処、職場環境などは異なります。
なぜ企業は、手帳の等級を仕事の判断に使いたくなるのか
企業が手帳の等級を仕事能力と結びつけてしまうのは、必ずしも障害への理解が不足しているからだけではありません。
等級は数字で示されます。しかも、公的な制度によって認定されている情報です。そのため、「何か客観的な判断材料として使えるのではないか」と考えたくなるのは自然なことです。
特に、社内に採用・配置・配慮の判断基準が十分に整理されていない場合、担当者は判断の根拠を探します。
すると、
- 手帳の等級
- 診断名
- 障害名
- 支援機関から提供された情報
など、外部から得られる情報に判断を預けやすくなります。
しかし、こうした情報だけでは、「この仕事を、この職場で任せられるか」という会社としての判断はできません。
問題は、等級の読み方を知らないことだけではなく、会社側に仕事を判断するための基準が整理されていないことにもあります。
企業が本当に判断したいのは「この仕事を、この条件で任せられるか」
企業が採用や配置で判断したいのは、「精神障害者として働けるか」という抽象的な問いではありません。
本来判断したいのは、「この仕事を、この職場、この条件で任せられるか」ということです。
そのためには、少なくとも次の情報を分けて見る必要があります。
1.任せる仕事
まず、どの仕事を任せるのかが明確になっている必要があります。
同じ人であっても、
- 定型的な業務なのか
- 判断や優先順位変更が頻繁に必要な業務なのか
- 対人対応が多いのか
- 一人で集中して進める仕事なのか
によって、仕事のしやすさは変わります。
本人について詳しく知る前に、企業側が「何を任せるのか」を明確にすることが必要です。
2.仕事に必要な能力・経験
その仕事に必要な知識、スキル、経験などを確認します。
障害があるかどうかではなく、予定している仕事に必要なことができるかを見る視点です。
3.仕事上で生じる支障
障害や症状があること自体ではなく、実際の仕事のどの場面で支障が生じるのかを確認します。
例えば、「疲れやすい」という情報だけでは、仕事上の判断には十分ではありません。
どのような勤務時間や業務量で影響が出やすいのか、どのような状況なら対応できるのかまで、仕事との関係で見る必要があります。
4.本人自身ができる対処
困りごとがあったとき、本人自身がどのように対処しているのかも重要な情報です。
仕事上の支障があるからといって、すべてを会社が対応するわけではありません。
本人自身でできる対処と、職場側に必要な調整を分けて考えます。
5.会社側で必要となる対応
本人の対処だけでは仕事上の支障を十分に減らせない場合には、職場で必要な調整や合理的配慮を検討します。
その際には、「本人が希望しているから実施する」「前例がないから実施しない」ではなく、実際の仕事との関係や、企業として継続して実施できるかを含めて検討する必要があります。
採用・配置・配慮は、それぞれ別の判断
精神障害者雇用では、「採用できるか」「どこに配置するか」「どこまで配慮するか」が一つの問題として扱われることがあります。
しかし、この3つは同じ判断ではありません。
採用で判断すること
採用では、募集している仕事との適合を見ます。
予定している仕事に必要な能力や経験があるか、仕事上の支障がある場合にどのような対応が必要になるかなどを確認します。
配置で判断すること
配置では、本人の能力や経験を、どの業務・職場環境で活かせるかを考えます。
採用できる人であっても、すべての部署・業務に同じように配置できるとは限りません。
反対に、ある仕事では難しいことがあっても、仕事の内容や環境が変われば力を発揮できる場合もあります。
合理的配慮で判断すること
合理的配慮では、本人が仕事をするうえで生じている支障を確認し、どのような調整によってその支障を減らせるかを検討します。
企業では、「2級」という一つの情報から、採用・配置・配慮の3つの答えを同時に出そうとしないことが重要です。
何を判断しようとしているのかを先に分けることで、必要な情報も見えやすくなります。
本人の希望と、会社の判断も分けて考える
合理的配慮については、「本人から希望されたことを、どこまで受け入れればよいのか」と迷う企業もあります。
本人が自分の困りごとや必要な配慮について伝えることは、とても重要です。一方で、本人から希望が出たことが、そのまま会社の最終的な対応内容になるわけではありません。
企業では、
- 本人は何に困っているのか
- その困りごとは仕事にどのような影響があるのか
- 希望している対応によって支障を減らせるのか
- 別の方法で同じ目的を実現できないか
- 会社として継続的に実施できるか
などを確認し、本人との対話を通じて対応を検討します。
一方で、仕事・配置・配慮について会社としてどう対応するかを判断することは、企業側の役割です。
どちらか一方だけで決めるのではなく、本人から得た情報と、企業側の仕事・職場環境・実施可能性をつなげることが必要です。
手帳の更新や等級変更と、仕事の評価を混ぜない
精神障害者保健福祉手帳には有効期限があり、2年ごとに更新の手続きが必要です。
更新の際には、再び精神障害の状態について認定が行われ、等級が変わる場合もあります。
企業では、このときに、「等級が変わったので、仕事も変えたほうがよいのではないか」「手帳が更新されなかったら、雇用を続けられないのではないか」と考えてしまうことがあります。
しかし、ここでも判断を分ける必要があります。
障害者雇用率上の確認
障害者雇用率制度では、精神障害者については精神障害者保健福祉手帳の所持者が算定対象です。
そのため、手帳の有効期限が切れた、更新されなかったなどの場合には、障害者雇用率上の取扱いを確認する必要があります。
なお、手帳が有効で、1級・2級・3級の間で等級が変更されたことだけを理由に、精神障害者としての雇用率算定対象から外れるわけではありません。
仕事を続けられるかという判断
一方、「現在の仕事を続けられるか」「仕事内容を変更する必要があるか」「配慮を見直す必要があるか」という判断は、手帳の等級だけで決めるものではありません。
現在の仕事の状況、本人の状態、業務遂行、必要な配慮などを確認して判断します。
また、合理的配慮の対象も、障害者雇用率の算定対象と全く同じではありません。雇用率の算定、仕事の評価、合理的配慮は、それぞれ別の目的で確認するものです。
この3つを混ぜないことが重要です。
誰が採用・配置・配慮を判断するのか
必要な情報を集めても、企業の中で「誰が判断するのか」が決まっていなければ、対応は止まります。
例えば、「本人から配慮の希望を聞きました。どうしましょうか」と人事から現場へ伝える。
現場は、「人事が採用したのだから、人事が決めてほしい」と考える。
一方、人事は、「実際に仕事をするのは現場なので、現場で判断してほしい」と考える。
このような状態になると、情報は共有されていても結論が出ません。
企業では、少なくとも、
| 判断する場面 | 会社として整理しておきたいこと |
|---|---|
| 採用 | 誰が採用基準を確認し、最終的な採否を決めるのか |
| 配置 | 誰が業務・職場との適合を確認し、配置を決めるのか |
| 合理的配慮 | 本人との対話を踏まえ、誰が実施内容・範囲を判断するのか |
| 状態変化 | 誰が情報を集め、仕事・配慮の見直しを判断するのか |
といった判断の役割を、自社の体制に合わせて整理しておく必要があります。
すべてを一人の担当者が判断する必要はありません。
重要なのは、判断が必要になったときに、誰へ渡せば結論が出るのかが分かっていることです。
必要なのは「等級の正しい読み方」だけではない
精神障害者手帳の制度や等級を理解することは必要です。
しかし、制度の知識を増やせば、採用・配置・配慮の迷いがすべて解消するわけではありません。
精神障害者雇用で判断が止まる企業では、
- 何を任せるのかが明確になっていない
- 採用・配置・配慮の判断が混ざっている
- 本人の情報を、仕事上の判断にどうつなげるか決まっていない
- 誰が最終的に判断するのか曖昧になっている
- 状態が変化したときの見直し方が決まっていない
といったことがあります。
こうした状態で「精神障害についてもっと理解しよう」と研修を増やしても、判断の流れそのものが変わらなければ、現場の迷いは残ることがあります。
どの情報を使い、何を判断し、誰が決めるのか。精神障害者雇用を安定して進めるためには、この判断の仕組みを会社として整えることが重要です。
社内で確認しておきたいポイント
- 手帳の等級を、仕事能力の代わりに使っていないか
- 採用・配置・配慮で、それぞれ何を判断するのか分けられているか
- 本人の情報と、担当する仕事の情報をつなげて確認しているか
- 本人自身ができる対処と、会社が行う配慮を分けているか
- 雇用率の確認と、仕事を続けられるかという判断を混ぜていないか
- 採用・配置・配慮・状態変化について、誰が判断するのか決まっているか
こうした点が曖昧な場合、問題は「精神障害について知らないこと」だけではない可能性があります。
個別の対応方法を増やす前に、社内の判断基準や役割分担を整理することで、現場の迷いを減らせる場合があります。
「この配慮をどこまで実施するのか」
「配置を見直す必要があるのか」
「人事・管理職・現場の誰が決めるのか」
こうした迷いが繰り返されている場合は、個別ケースへの対応を増やす前に、組織のどこで判断が止まっているのかを整理することが重要です。
FAQ|精神障害者手帳の等級と企業の判断について
Q:精神障害者保健福祉手帳2級なら、採用は難しいのでしょうか
手帳の等級だけから、採用が難しいかどうかを判断することはできません。
企業では、募集している仕事に必要な能力や経験、仕事上で生じる支障、本人ができる対処、必要な配慮、その配慮を職場で実施できるかなどを確認して採用を判断します。
2級という情報は制度上の認定情報であり、採用可否の結論ではありません。
Q:手帳の等級は、配置を決める参考になりますか
本人を理解するための情報の一つにはなりますが、等級だけで配置を決めることはできません。
配置では、本人の能力や経験、担当する業務、仕事上で生じる支障、職場環境などとの関係を見る必要があります。
重要なのは「何級か」より、「どの仕事・環境であれば役割を果たしやすいか」です。
Q:手帳の等級が変わったら、仕事内容も見直す必要がありますか
等級が変わったことだけを理由に、仕事内容を変更する必要があるとは限りません。
仕事内容や配慮を見直す必要があるかどうかは、現在の状態や業務遂行、仕事上の支障などを確認して判断します。
一方で、手帳の更新や有効期限については、障害者雇用率上の取扱いに関係するため、制度上の確認を別に行う必要があります。
Q:手帳が更新されなかったら、合理的配慮も必要なくなりますか
手帳が更新されなかったことだけで、合理的配慮の対象外になるとは限りません。
雇用分野における差別禁止・合理的配慮の対象は、障害者雇用率制度と同じ範囲に限定されておらず、障害者手帳の有無だけで決まるものではありません。
雇用率算定の確認と、仕事上で必要な合理的配慮の検討は分けて考える必要があります。
Q:本人から希望された配慮は、すべて対応する必要がありますか
本人の希望をそのまますべて実施するという考え方ではありません。
本人が何に困っているのか、その困りごとが仕事にどう影響しているのかを確認し、必要性や実施可能性、代替手段などを本人と話し合いながら検討します。
合理的配慮では、本人からの情報と、企業側の仕事・職場環境・実施可能性をつなげて判断することが重要です。
Q:配慮は人事と現場のどちらが判断すればよいのでしょうか
一律にどちらかだけが判断するものではありません。
実際の仕事や職場環境を把握している現場、制度や全社方針を把握している人事など、それぞれが持つ情報をつなげる必要があります。
重要なのは、自社として「誰が情報を集め、誰が検討し、誰が最終的に判断するのか」をあらかじめ整理しておくことです。
まとめ|等級ではなく「何を、誰が判断するか」を決める
精神障害者保健福祉手帳の等級は、精神障害の程度を制度上の基準に基づいて認定した情報です。
企業が仕事を任せるための能力評価とは、目的も評価軸も異なります。
そのため、「2級だから難しい」「3級だから大丈夫」というように、等級から採用・配置・配慮の結論を出すことはできません。
企業が確認したいのは、
- 何の仕事を任せるのか
- その仕事に必要な能力や経験があるか
- 仕事上でどのような支障が生じるのか
- 本人自身で対処できることは何か
- どのような配慮が必要で、企業として実施できるか
といった、実際の仕事との関係です。
そして、もう一つ重要なのが、その情報をもとに誰が判断するのかを決めることです。制度について詳しくなることだけでは、現場の迷いはなくなりません。
何を判断するために、どの情報を使い、誰が決めるのか。この判断の流れを組織として整理することが、精神障害者雇用を個人対応から組織的な取り組みに変えていく一歩になります。
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参考資料
※制度や手帳の取扱いは変更される場合があります。障害者雇用率の算定や手帳の更新等については、厚生労働省、ハローワーク、自治体等の最新情報をご確認ください。
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