新しく障害者雇用の担当者になると、たくさんの新しい知識が必要になります。今まで、企業として「障害者雇用」を進めなければならないことは理解していたかもしれませんが、実際に障害者雇用に携わると、社内のことだけでなく、行政機関や支援機関のことも知ることが必要になります。
膨大な量の情報を前に、何をどのように学べばよいか戸惑ってしまうかもしれません。
ここでは、はじめて障害者雇用の担当者になり、「障害者雇用について何から学べばよいのか・・・」という方を対象に、障害者雇用に関わる基本的なこと、かつ必要なことをお伝えしていきます。
1.障害者雇用促進法とは
日本の障害者雇用は、「障害者雇用促進法」(正式名称「障害者の雇用の促進等に関する法律」)に基づいて行われており、この法律では、障害者法定雇用率が定められています。つまり、事業主には身体・知的・精神障害の雇用が義務づけられていることを意味します。
現在の障害者雇用率は2.2%、つまり従業員45.5人に対して1人の障害者を雇用することが定められています。また、2021年3月までに、この障害者雇用率が2.3%に上がることが決まっています。
最新の令和元年障害者雇用状況の集計結果を見ると、雇用障害者数は56 万 608.5 人、対前年4.8%で、2万5,839.0人増加しています。実雇用率は2.11%となり、対前年比2.1ポイント上昇しています。また、法定雇用率達成企業の割合は 48.0%となっており、前年比 2.1 ポイント上昇しています。
障害者雇用率の全体としては上昇傾向が見られますが、民間企業に義務づけられた障害者の雇用率2.2%を達成できていない企業は全体の半数に上り、障害者を1人も雇っていない企業も3万社余りで、その割合は3割ほどとなっています。取り組んでいるところと取り組んでいないところの差がひろがり、ますます二極化している状況が見られます。
業種や規模などさまざまな理由から、障害者雇用の促進が難しい状況にある企業もあることがわかります。
2.障害者雇用納付金制度と企業名公表
障害者雇用は、事業主が相互に果たしていく社会連帯責任の理念に立ち、事業主間の障害者雇用に伴う経済的負担の調整を図っています。そのため、障害者雇用率に達していない分は障害者雇用納付金としてお金で納めることになっています。
障害者雇用未達成1名につき月50,000円を支払います。集められた納付金は、企業が身体障害者、知的障害者又は精神障害者を雇用する場合の作業設備や職場環境を改善するための助成金や、特別の雇用管理や能力開発等を行うなどの経済的な負担を補填するため、雇用を多くしている企業への調整金などに活用されています。
障害者雇用が未達成の企業は障害者雇用納付金を納付しますが、これで終わりではありません。障害者雇用の実雇用率の低い企業は、毎年6月1日の障害者雇用状況報告にもとづいて、雇入れ計画命令が出され、2年間で障害者雇用を達成できるように指導されることになっているからです。そして、計画通りにできない場合は、社名公表されることもあります。
3.障害者をカウントするための障害者手帳
障害者雇用促進法で雇用義務のある障害者とは、障害者手帳(身体、知的、精神)を保有する人が対象となっています。
また、どのような障害者手帳に該当するのかは、「身体障害」「知的障害」「精神障害」について、それぞれ「身体障害者福祉法」「知的障害者福祉法」「精神保健福祉法」により規定されています。
身体障害者とは
身体障害者福祉法では、「身体上の障害がある18歳以上の者であって、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けたものをいう」と定義されています。そして、身体の障害には、視覚障害、聴覚・言語障害、肢体不自由、内部障害、難病などが含まれます。
知的障害とは
知的障害者福祉法では、「知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別の援助を必要とする状態にあるもの」と定義されています。
ただし、知的障害者手帳の基準となるものに関しては、どのような基準で知的障害と指すのかを定める規定が見られません。知的障害は、医学、心理学、教育学の領域でそれぞれ定義が定められており、共通した理解が得られていないのが現状です。そのため、知的障害者に交付される療育手帳は、各自治体の基準によって判断されています。
知的機能の水準は、知能指数(IQ)を基準に測定されます。知的障害は、IQ70以下が基準の目安となっています。地域によって知的障害者手帳の名称や等級は異なりますが、基本的には、「最重度」「重度」「中度」「軽度」の4つの区分を設けています。
精神障害とは
精神保健福祉法では「統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者」と定めています。
精神障害の種類としては、統合失調症、気分障害、てんかん、発達障害などの多岐にわたります。精神障害者手帳の等級は、1級から3級までの3つの区分に分けられており、1級が一番重く、3級が一番軽い障害の程度となります。
精神障害者手帳には、2年間の有効期限があります。そのため精神障害者を雇用しても更新を行っていないと、手帳を所持していないことになり、障害者としてカウントすることができなくなってしまいます。
4.特例子会社とはどのような制度なのか
日本の障害者雇用は、【1.障害者雇用促進法とは】でもお伝えしてきましたが、「障害者雇用促進法」に基づいて行われています。この法律では、障害者法定雇用率が定められており、事業主には身体・知的・精神障害の雇用が義務づけられています。
しかし、業種や規模などさまざまな理由から、障害者雇用の促進が難しい状況にある企業もあります。そのような場合に、「特例子会社」を設立することがあります。
特例子会社制度は、事業主が障害者の雇用に特別の配慮をした子会社を設立した場合、一定の要件を満たすことによって、その子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなし、実雇用率を算定することができる制度です。つまり、特例子会社で雇用している障害者の雇用率を、親会社(関係会社)の雇用率とみなすことができるのです。
また、特例子会社を設立しなくても、一定の基準を満たすことによって、実雇用率を算定できる方法として、「企業グループ算定特例」と「事業協同組合等算定特例」などの制度もあります。
「特例子会社」を検討する上で考えておきたいメリット・デメリット、設立までの流れと要件については、HRプロのコラムで執筆していますので、詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
5.障害者雇用に関する助成金
障害者の雇用を促進するために、いくつもの助成金制度や優遇措置が設けられています。例えば、次のようなものがあります。
・特定求職者雇用開発助成金
・障害者トライアル雇用奨励金
・障害者短時間トライアル雇用奨励金
・障害者初回雇用奨励金(ファースト・ステップ奨励金)
・特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)
・障害者職場定着支援奨励金
・障害者雇用安定助成金(障害者職場適応援助者・ジョブコーチ)
たくさんありますので、はじめはすべてを把握することは難しいかもしれませんが、大きく分けると障害者を雇用時に活用する助成金とそうでないものに分類することができます。雇用時に活用できる助成金は、申請できる時期が限られていますので、早めにハローワークなどで確認するとよいでしょう。
6.障害者と一緒に働く
障害者と一緒に働く時に覚えておくべきことは、障害に配慮することは大切ですが、企業で雇用するということは、学校のような学ぶでも福祉のような職業訓練する場ではないということです。【雇用】の場において、彼らが仕事で活躍できるような場にすることが大切です。
【障害があるから仕事ができない】と決めつけるのではなく、職場の環境を整えたり、業務のやり方を変えたり、障害に対する配慮や手順などを工夫することによって、どんな障害があっても活躍してもらう職場をつくることを心がけていただきたいと思います。
例えば、重度知的障害者が従業員の8割近くを占める日本理化学工業では、字が読めず、数字の単位も理解できない知的障害者の社員たちでも理解できるように、色や代替物で識別できるような仕組みをつくって、彼らが仕事できるような仕組みづくりをしています。
当時、すぐに飽きて落ち着きのない知的障害の社員がいて、その彼に赤い缶からだした材料を量るときには赤いおもりを秤にのせて、針が上にも下にもつかずに真ん中で止まったら下ろすようにと教えました。
すると、彼は途中で飽きるどころか、一生懸命30数ロットを一気にやり終えたのです。もちろん課長が、時々そばに行って指示通りにできているのかを確認し、「すごいね。教えた通りにできているね。」と褒めたそうですが、このびっくりする報告をもらって、知的障害者は、彼らの理解力の中で安心して作業ができるようにしてあげて、時々見守って褒めてあげれば、より一生懸命やってくれる人たちなのだと知ったのです。
この気づきから、現場では仕事ができないのは彼らの努力が足りないせいにせず、彼らの理解力で安心してできる仕事の与え方を考えることを管理者の責任とし、管理者1人でどうしても方法が見つからない時は、会社全体で考えることにしたのです。
もちろん障害に対する最低限の知識や配慮すべきことについては、ないよりもあったほうが役立つことがあるかもしれませんが、それよりも障害があるから仕事ができないと諦めたり、決めつけるのではなく、どうしたら仕事ができるようになるかを考えて工夫することや、マネジメントをして、成長させていくために必要なことを考える必要があるのです。企業として存続していくには、人材育成はかかせないものです。
7.障害者雇用をサポートする機関の種類と特徴
ここまで、障害者雇用について知っておいていただきたいポイントを見てきました。たくさんの項目があって、とてもできない・・・と思われたかもしれません。
でも、大丈夫です。障害者雇用をサポートしてくれる機関はたくさんあります。どのような機関を活用するかは、それぞれの企業が求める採用したい人材や必要なことによって異なりますので、以下の機関の特徴などを見ながら検討してください。
ハローワーク
ハローワークは、企業が障害者雇用を進めることができるように、職域開拓、雇用管理、職場環境整備、特例子会社設立等についての相談を受けつけたり、各種助成金の案内などを行います。また、年に数回、障害者の合同面接会を主催しています。
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所とは、障害者総合支援法に定められた障害福祉サービスのひとつである「就労移行支援」を提供する事業所のことです。就労移行支援事業所は、障害者で働く意志のある人に、仕事をする上で必要なスキル等を身につける職業訓練のほか、面接対策などを通して就職活動のサポートをしています。
障害者職業センター
障害者の職業的自立を促進・支援するため、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が設置・運営するセンターです。障害者雇用促進法に基づいて、職業リハビリテーションの実施・助言・援助などを行っています。各都道府県に1ヶ所以上あります。
障害者職業センターでは、障害者本人に対する専門的な職業リハビリテーションサービス、事業主に対する障害者の雇用管理に関する相談・援助、地域の関係機関に対する助言・援助を実施しています。
障害者就業・生活支援センター(ナカポツ)
「障害者就業・生活支援センター」は地域の福祉を担っていて、各市町村レベルで設置されいます。
「障害者就業・生活支援センター」という名前にあるように、就業及びそれに伴う日常生活の仕事と生活の両方をサポートするセンターとなっています。そのためスタッフは「就労支援員」と「生活支援員」がいて、「就職」「住居」「役所への手続き」など様々な「日常の支援」を行っています。
就職を希望する障害者、または在職中の障害者の抱える課題に応じて、雇用及び福祉の関係機関との連携の下、就業面及び生活面の一体的な支援を行うのが特徴です。
障害者の訓練機関(国リハ、障害者職業能力開発校)
国立職業リハビリテーションセンターは全国で2ヶ所あり、東日本は所沢、西日本は吉備にあります。障害状況等に応じた職業訓練・職業指導の実施をしています。
また、宿舎もあり、職業訓練とともに生活支援をおこない、修了後は独立した生活を送れるような準備をしています。
障害者職業能力開発校は、障害や、能力に適する職業訓練を行なう機関で、都道府県が設置しています。数ヶ月~1年の訓練期間に、それぞれの科で専門的な知識やスキルを学び、就職を目指しています。
例えば、東京障害者職業能力開発校では、次のような科があります。
【3か月間コース】
・就業支援
【6か月間コース】
・職域開発
・調理・清掃サービス
・オフィスワーク
【1年間コース】
・ビジネスアプリ開発
・ビジネス総合事務
・グラフィックDTP
・ものづくり技術
・建築CAD
・製パン
・実務作業
特別支援学校
2007年3月まで盲学校、聾学校、養護学校に区分されていましたが、2007年4月から特別支援学校に一本化されています。特別支援学校には、幼稚部、小学部、中学部、高等部、高等部の専攻科が設けられています。
特別支援学校の高等部では、企業等と連携して現場実習等の就業体験の機会を広げたり、校内実習の改善や企業関係者を講師とした授業の実施などのキャリア教育・職業教育を行っているところが増えています。特に知的障害の高等特別支援学校では、就職率100%を目指すなど、その傾向が強くなっています。
また、上記以外にも、職場定着支援サービスが、2018年4月からスタートしています。これは改正障害者総合支援法に基づくサービスとして、一般就労をしている障害のある方が長く職場に定着できるよう、福祉サービスを提供する事業所がさまざまなサポートをするものです。
8.障害者雇用について効率的に学べる研修会
2日間で概要がわかる「障害者職業生活相談員研修」
障害者職業生活相談員資格認定講習は、各都道府県内の会場で毎年実施されます。講習は、無料で行われ、上記のような障害者雇用の概要について、2日間で学ぶことができます。
このような役割を果たすことができるように、障害者職業生活相談員資格認定講習では、次のことを学んでいきます。
・障害者雇用の理念
・障害者の雇用の現状と課題
・関係行政機関と障害者対策
・障害者職業生活相談員
・障害者の心理、職業能力
・施設・設備の改善
・労務管理と人間関係管理
・適職の選定と職業能力の開発
・職場適応の向上
・意見交換会、事業所見学、支援機関見学等
※プログラム内容は、各都道府県の会場によって若干変わることもあります。
【障害者職業生活相談員資格認定講習の概要】
主催:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
講習期間:2日間(計12時間)
講習費用:無料 テキストが配布されます。
開催場所・講習日程:各都道府県内の会場で毎年1~3回程度実施されています。
学ぶ方法が選べる「精神・発達障害者しごとサポーター」研修
増加している精神障害、発達障害者の雇用を安定させるポイントの1つは、職場において同僚や上司がその人の障害特性について理解し、共に働く上での配慮を怠らないことです。
しかし、企業で働く一般の従業員が、障害等に関する基礎的な知識や情報を得る機会は限られています。そのため、厚生労働省が一般の企業の従業員を対象に、精神障害や発達障害に関して正しく理解し、職場における応援者(精神・発達障害者しごとサポーター)となるための講座を実施しています。
この「しごとサポーター」というネーミングは、特別な「専門的支援者」というよりも、サッカーチームのサポーターを想起させる意図があるように思います。つまり、サポーターとしての応援者を職場に増やすことで、障害の有無に関わらず、職場の雰囲気や人間関係がよくなり、精神障害、発達障害者を含め、誰にとっても働きやすい職場環境が広げることが期待されているのです。
そのため特定の誰かを専門的に支援するものではなく、また、特別な資格制度ではありません。また、講座を受講したことにより、職場の中で障害者に対する特別な役割を求めるものでもありません。
幅広く多くの方にサポーターになってもらうため、「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座」の対象者は、障害のある方と一緒に働いているかどうか等は問われず、企業に雇用されている人であれば誰でも受講可能となっています。
「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座」で学べる内容としては、次のことです。
・精神疾患(発達障害を含む)の種類
・精神・発達障害の特性
・共に働く上でのポイント(コミュニケーション方法)等
「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座」の講座時間は、90~120分程度(講義75分、質疑応答15~45分程度)の単日講座で、精神・発達障害についての基礎知識や一緒に働くために必要な配慮などを短時間で学ぶことができます。講座は、出前講座と集合講座が準備されています。
【精神・発達障害者しごとサポーター養成講座の概要】
主催:厚生労働省
講習期間:90~120分程度(講義75分、質疑応答15~45分程度)
講習費用:無料
受講方法:集合講座、出前講座、e-ラーニング
開催場所・講習日程:
集合講座は、全国各地で開催しています。受講を希望されるエリアを確認してください。
動画の解説はこちらから
まとめ
はじめて障害者雇用に取り組む担当者の方が知っておくべき点について、お伝えしてきました。すでに障害者雇用への取り組みが進んでいる組織にいらっしゃる方は、法律的なことや助成金などについては、今までの前任者などが行なってきたことかもしれません。しかし、障害者雇用について担当するのであれば、今回紹介したような障害者雇用の仕組みや背景に対して理解しておくことは重要です。
また、今後も障害者雇用率は上がっていくことが十分予想されますので、現状で雇用率を達成しているから大丈夫ではなく、次にどのような施策を企業の中で行なっていく必要があるのかを常に考えていく必要があります。
参考
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