2026年8月8日更新
療育手帳について調べると、「IQが何点以下なら取得できるのか」「AとBでは何が違うのか」といった情報を目にすることがあります。
しかし、療育手帳は、全国どこでも同じ基準や区分で運用されている制度ではありません。
厚生労働省の通知をもとに、各自治体が実施要綱や判定基準を定めて運用しているため、名称、障害程度の区分、判定方法、再判定の時期などに違いがあります。
また、企業の障害者雇用では、療育手帳の区分やIQの数値を見て、
「この程度なら、どのくらい仕事ができるのか」
「重度なら、任せられる仕事は限られるのではないか」
と考えてしまうことがあります。
しかし、療育手帳の判定やIQは、企業が仕事の能力を評価するためのものではありません。
この記事では、療育手帳の仕組み、判定、障害程度の区分、申請・再判定、障害者雇用との関係とともに、企業が手帳情報をどう捉えればよいのかを整理します。
- 療育手帳とはどのような制度なのか
- 自治体によって名称や判定基準、区分が異なる理由
- IQだけで療育手帳の判定が決まるわけではない理由
- 療育手帳の申請と再判定の基本
- 療育手帳と障害者雇用率の関係
- 企業が療育手帳の区分やIQと仕事の能力を分けて考える必要がある理由
療育手帳とは
療育手帳は、児童相談所または知的障害者更生相談所などにおいて、知的障害があると判定された人に交付される手帳です。
知的障害のある人に一貫した相談・指導を行い、福祉サービスや各種の援助を受けやすくすることなどを目的として設けられています。
身体障害者手帳は身体障害者福祉法、精神障害者保健福祉手帳は精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づく制度です。
一方、療育手帳は、法律によって全国一律の制度として定められているものではありません。
1973年に厚生省が示した「療育手帳制度について」という通知をもとに、各自治体がそれぞれ実施要綱などを定めて運用しています。
そのため、療育手帳を理解するときには、全国共通の部分と、自治体によって異なる部分を分けて見ることが大切です。
療育手帳は自治体によって名称や区分が異なる
療育手帳は、地域によって名称が異なることがあります。
「療育手帳」という名称のほか、東京都の「愛の手帳」のように、自治体独自の名称が使われている場合があります。
障害程度の表記についても同じです。
国の療育手帳制度のガイドラインでは、
- 重度:A
- その他:B
という大きな区分が示されています。
しかし、自治体によってはこれをさらに細分化して、
- A1・A2・B1・B2
- 1度・2度・3度・4度
など、異なる名称や区分を設けています。
そのため、企業が療育手帳を確認するときにも、
「Bだから全国どこでも同じ状態を示している」
と考えることはできません。
どの自治体が交付した手帳なのかによって、区分の意味や判定基準が異なる場合があることを理解しておく必要があります。
療育手帳はIQだけで判定されるものではない
療育手帳について、よく見られるのが、「IQ○以下なら療育手帳を取得できる」という説明です。
確かに、知能検査によるIQは、知的障害や療育手帳の判定において使われる重要な情報の一つです。しかし、IQの数値だけを見て、全国一律に療育手帳の対象や区分が決まるわけではありません。
国が示している療育手帳制度のガイドラインでも、重度の判定では知能指数だけでなく、
- 食事
- 着替え
- 排せつ
- 洗面
など、日常生活で介助を必要とする状態や、他の障害の状況なども含めた基準が示されています。
さらに、実際の療育手帳制度は各自治体が判定基準等の運用方法を定めています。
そのため、
古い記事やインターネット上の情報では、特定の自治体のIQ基準が、あたかも全国共通の基準であるかのように紹介されていることもあります。
療育手帳について確認するときは、本人が居住する自治体の最新情報を見ることが重要です。
療育手帳の判定はどこで行われるのか
療育手帳は、申請書類だけで機械的に交付されるものではありません。
知的障害があるかどうか、障害の程度などについて判定が行われます。
国の制度要綱では、
- 18歳未満:児童相談所
- 18歳以上:知的障害者更生相談所
などが判定を行う機関として位置づけられています。
判定では、知能検査だけを見るのではなく、必要に応じて本人のこれまでの発達状況や生活状況なども確認されます。
原則として医師や心理職など複数の専門職によって判定が行われ、障害の有無や程度などが検討されます。
ただし、具体的な判定方法や必要となる資料、予約方法などは自治体によって異なります。
大人になってから療育手帳を申請することもある
療育手帳というと、子どもの頃に取得するものというイメージを持たれることがあります。
しかし、大人になってから知的障害が分かり、療育手帳の申請を検討するケースもあります。
例えば、
- 学校卒業後、仕事を始めてから困難さが明確になった
- 発達障害などの相談をする中で、知的機能についても確認することになった
- 子どもの頃には手帳を取得していなかった
といった場合です。
成人後の判定では、現在の知的機能だけではなく、発達期から知的障害があったことを確認するために、子どもの頃の状況が分かる情報を求められる場合があります。
ただし、必要となる資料や確認方法は自治体によって異なります。
「子どもの頃の資料がないから申請できない」と自己判断せず、まず居住する自治体の担当窓口や判定機関に確認することが必要です。
療育手帳を申請する基本的な流れ
療育手帳の申請方法も、自治体によって異なります。
一般的には、次のような流れで進みます。
1.自治体の担当窓口へ相談する
まず、市区町村の障害福祉担当窓口などで、療育手帳の申請方法や必要書類、判定機関について確認します。
自治体によって申請窓口や手続きが異なるため、インターネット上の一般的な情報だけで準備を進めるのではなく、本人の居住地の案内を確認します。
2.申請手続きを行う
申請書や写真など、自治体が指定する書類を提出します。
必要書類や提出方法は自治体によって異なります。
3.児童相談所や知的障害者更生相談所などで判定を受ける
知能検査や面接などを通して、知的障害の有無や程度について判定が行われます。
成人の場合には、子どもの頃の発達状況などについて確認される場合もあります。
4.判定結果に基づいて手帳が交付される
判定結果に基づき、交付対象に該当すると判断された場合に療育手帳が交付されます。
障害程度の区分は、自治体の基準に基づいて記載されます。
療育手帳には再判定がある
療育手帳では、交付後も障害の程度を確認するために再判定が行われる場合があります。
国の制度要綱では、原則として2年ごとに判定を行う考え方が示されています。
ただし、実際の再判定の時期や扱いは、自治体、年齢、本人の状態などによって異なります。
手帳に「次回判定年月」などが記載されている場合には、その時期に合わせて手続きを行います。
特に企業が障害者雇用率の確認などの目的で療育手帳の情報を管理している場合には、手帳の有無だけではなく、必要に応じて再判定に関する情報も確認しておくとよいでしょう。
療育手帳を持つことで利用できる制度やサービス
療育手帳を持つことで、障害の程度や自治体などの条件に応じて、さまざまな制度やサービスを利用できる場合があります。
例えば、
- 障害福祉サービス
- 税制上の制度
- 各種手当
- 公共交通機関などの割引
- 自治体独自の支援
- 就労に関する支援
などがあります。
ただし、利用できる制度や条件は全国一律ではありません。
療育手帳を持っていれば、すべてのサービスを自動的に利用できるというものでもありません。
実際に利用するときには、それぞれの制度の要件を確認する必要があります。
療育手帳と障害者雇用率の関係
企業にとっては、療育手帳と障害者雇用率の関係も重要です。
2026年7月1日から、民間企業の法定雇用率は2.7%となっています。障害者を1人以上雇用する義務が生じる民間企業の対象範囲は、常時雇用する労働者37.5人以上です。
障害者雇用率制度では、知的障害者も算定対象となります。知的障害者であることの確認は、基本的には療育手帳によって行われます。
ただし、療育手帳を持っていなければ、必ず障害者雇用率の対象にならないというわけではありません。
児童相談所、知的障害者更生相談所、地域障害者職業センターなど、所定の判定機関によって知的障害者であると判定されている場合には、その判定によって確認できるケースがあります。
また、重度知的障害者であるかどうかや週所定労働時間によって、雇用率上の算定方法が異なる場合があります。
そのため企業では、療育手帳の区分を確認することと、障害者雇用率上どのように算定するかを分けて確認することが必要です。
療育手帳の区分やIQは、仕事の能力を示すものではない
企業の障害者雇用では、ここが特に重要です。
療育手帳の区分やIQの数値を見ると、「IQが高いほうが仕事もできるのではないか」「重度と判定されている人には、難しい仕事は任せられないのではないか」と考えてしまうことがあります。
しかし、療育手帳の判定は、企業が仕事の能力を評価するために行われているものではありません。また、IQも人の仕事能力全体を表す数値ではありません。
企業が仕事を任せるときには、
- どのような手順なら理解できるか
- 一度覚えた作業をどの程度安定して行えるか
- 文字・数字・図・写真など、どの伝え方が理解しやすいか
- どのような場面で判断に迷いやすいか
- 経験によって身につけていることは何か
- どのような支援や環境があれば仕事を進められるか
など、実際の仕事との関係を見る必要があります。
企業が仕事を任せるための評価軸は、同じではありません。
同じ療育手帳の区分であっても、できる仕事、得意なこと、苦手なこと、これまでの経験は一人ひとり異なります。
また、仕事の手順や教え方、判断基準が明確になっているかどうかによっても、仕事のしやすさは変わります。
「本人にどの程度の能力があるか」だけを見るのではなく、「どのような仕事の設計なら、その能力を活かせるのか」まで見ることが企業には求められます。
企業では「本人の情報」だけで仕事を判断しない
療育手帳やIQについて詳しく知ると、本人についての情報は増えます。
しかし、本人の情報だけを増やしても、採用や配置の判断ができるとは限りません。
例えば、「複雑な指示の理解が苦手」という情報があったとしても、それだけでは仕事ができるかどうかは決まりません。
企業側の仕事が、
- 手順が毎回変わるのか
- 決められた手順で進められるのか
- 判断基準が明確になっているのか
- 口頭指示だけなのか
- 図や写真などで手順を示せるのか
- 困ったときに誰へ確認するか決まっているのか
によっても状況は変わるからです。
障害者雇用では、本人の特性と、仕事の設計をセットで見ることが重要です。
療育手帳の情報は、そのために知っておく情報の一つであり、採用・配置の結論そのものではありません。
社内で確認しておきたいポイント
- 療育手帳の区分やIQだけから「できる・できない」を決めていないか
- 手帳の制度上の情報と、仕事上の判断を分けているか
- 本人が実際にできることや経験を確認しているか
- 仕事の手順や判断基準を明確にできているか
- 必要な支援と、誰がその支援を担うのか整理しているか
- 採用・配置・配慮を誰が判断するのか決まっているか
療育手帳の区分やIQについて理解することは必要です。
しかし、それだけでは「この人にどの仕事を任せるか」という企業の判断にはなりません。
手帳や判定の情報を、実際の仕事、職場環境、教え方、支援体制とつなげて考える必要があります。
「どこまで手順を細かくするのか」
「本人への支援を誰が担うのか」
「現場、人事、管理職の誰が判断するのか」
こうした迷いが繰り返される場合は、本人への支援方法だけではなく、仕事の設計や組織の判断の流れを整理することが重要です。
FAQ|療育手帳について企業からよくある質問
Q:IQが何点以下なら療育手帳を取得できますか
全国一律に「IQが○点以下なら療育手帳を取得できる」と決められているわけではありません。
療育手帳制度は自治体ごとに判定基準等の運用方法が定められています。
IQは判定に使われる重要な情報の一つですが、自治体の基準に基づいて、日常生活の状況なども含めて判定されます。
実際の取得要件については、本人が居住する自治体の最新基準を確認する必要があります。
Q:療育手帳のA・Bは全国共通ですか
国の制度ガイドラインでは重度をA、その他をBとする区分が示されています。
ただし、自治体によってはA1・A2・B1・B2などに細分化したり、異なる名称や区分を使用したりしています。
そのため、手帳に記載されている記号だけを見て、全国共通の状態を表していると考えないことが大切です。
Q:療育手帳は大人になってからでも取得できますか
大人になってから申請するケースもあります。
成人の場合は知的障害者更生相談所などで判定が行われ、発達期からの状況について確認されることがあります。
具体的な必要書類や判定方法は自治体によって異なるため、居住する自治体の窓口へ確認してください。
Q:療育手帳には更新がありますか
療育手帳では、障害の程度を確認するために再判定が行われる場合があります。
国の制度要綱では原則2年ごとの判定という考え方が示されていますが、実際の再判定時期は自治体や本人の年齢、状態などによって異なります。
手帳に記載された次回判定時期や自治体の案内を確認してください。
Q:療育手帳を持っていなければ障害者雇用率の対象にはなりませんか
必ずしもそうではありません。
知的障害者であることの確認は基本的には療育手帳によって行われますが、療育手帳を所持していない場合でも、所定の判定機関による判定によって知的障害者であることを確認できる場合があります。
実際の雇用率算定については、ハローワーク等に確認すると確実です。
Q:療育手帳の区分やIQが分かれば、任せられる仕事を判断できますか
療育手帳の区分やIQだけでは判断できません。
企業では、実際に担当する仕事に必要な能力、本人の経験、理解しやすい伝え方、得意・不得意、仕事上で生じる支障、必要な支援などを確認する必要があります。
手帳やIQは本人を理解するための情報の一部であり、仕事能力そのものを示すものではありません。
まとめ|療育手帳の判定と、仕事の判断は分けて考える
療育手帳は、児童相談所や知的障害者更生相談所などで知的障害があると判定された人に交付される手帳です。
国の通知をもとに各自治体が制度を運用しているため、名称、判定基準、障害程度の区分、再判定の時期などには違いがあります。
そのため、「IQ○以下なら取得できる」「Bならこの程度」と全国共通の基準として単純に考えることはできません。
企業にとってさらに重要なのは、療育手帳の区分やIQと、仕事の能力を同じものとして扱わないことです。
手帳や判定は制度上の情報です。
採用や配置では、本人が実際にできること、経験、仕事の手順、判断の難しさ、職場環境、必要な支援などを組み合わせて考える必要があります。
本人について知るだけではなく、本人が働く「仕事の側」を見る。
この視点を持つことで、療育手帳の情報を障害者雇用の実際の判断につなげやすくなります。
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参考資料
※療育手帳は自治体によって名称、判定基準、区分、申請方法、再判定の取扱いなどが異なります。実際の申請では居住する自治体、障害者雇用率の取扱いについては厚生労働省・ハローワーク等の最新情報をご確認ください。
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