一般的に知的障害は、発達期(0歳から18歳まで)の間に判明します。しかし、軽度知的障害が大人になってから判明するケースもあります。これは、軽度知的障害の特性や社会的・教育的な要因、そして診断の難しさが影響しています。
ここでは、知的障害がわかる時期や軽度知的障害が大人になってから判明する背景や原因について解説します。
知的障害は、いつわかることが多い?
知的障害は、通常、発達期(0歳から18歳まで)の間に判明することが多いです。ただし、その具体的な時期は、障害の程度(軽度、中度、重度、最重度)や個々の発達特性、そして環境要因(家庭環境、教育環境、医療機関へのアクセスなど)によって異なります。
知的障害が判明する一般的な時期と要因について見ていきましょう。
乳幼児期(0〜3歳)
乳幼児期に知的障害が判明するのは、通常、重度から最重度の知的障害を持つ場合が多いです。この段階では、発達の遅れが原因で、障害が疑われることがあります。
発達の遅れ:首が座らない、寝返りを打たない、座る、立つ、歩くといった運動発達の遅れ。
コミュニケーションの遅れ: 言葉の遅れや、音や人への反応が乏しい場合。
医療機関での診察: 定期健診や予防接種の際に、医師や保健師が発達の遅れを指摘し、精密検査を勧められることがあります。
幼児期(3〜6歳)
幼児期には、中度から重度の知的障害が判明することが多いです。この時期には、社会性や言語発達が顕著に現れ始めるため、以下のような要因で知的障害が疑われることがあります。
言語発達の遅れ: 単語や簡単なフレーズを覚えるのが遅い、質問に答えるのが難しいなど。
社会的相互作用の困難: 他の子供との交流が苦手であったり、共同遊びができないなどの社会性の遅れ。
知育活動への不適応: パズルやブロック遊びなどの知育活動が難しい場合。
学齢期(6〜12歳)
学齢期には、特に軽度から中度の知的障害が発見されることが多いです。この段階では、学校での学習や社会的な活動を通じて、知的障害が疑われることが一般的です。
学業の困難: 読み書きや計算などの基礎的な学習能力に遅れが見られる。
注意・集中の難しさ: 長時間の授業に集中できない、指示に従って行動するのが難しい。
社会的スキルの発達遅延: 友人関係の構築が難しく、いじめられやすかったり、集団行動が苦手である場合。
特別支援教育の必要性: 学校での成績不振や教師からの指摘を受けて、特別支援学級や心理評価を受けることで判明することがあります。
思春期(12〜18歳)
思春期には、特に軽度の知的障害が見つかるケースがあります。この時期は、社会性や自己管理能力が重要視されるため、以下のような要因で知的障害が疑われることがあります。
複雑な学習内容への適応困難: 抽象的な思考を必要とする教科(例: 数学、科学、歴史)での理解が難しい。
自己管理能力の欠如: 時間管理やお金の管理、計画を立てることが難しい場合。
社会的・職業的スキルの不足: バイトや社会活動において、適切な行動が取れない、コミュニケーションが苦手である場合。
精神的な問題の二次的発生: 不安障害やうつ病など、二次的な精神的問題が発生し、医療機関を受診する際に知的障害が判明することがあります。
成人期(18歳以降)
成人期になってから知的障害が判明するケースもあります。特に軽度の知的障害は、成人になってから初めて診断されることがあります。これは、以下のような要因が影響しています。
職場での適応困難: 就職してから仕事の指示を理解できない、職場のルールを守れないなどの問題が顕著化する場合。
社会生活での困難: 金銭管理、時間管理、対人関係の維持が難しいといった問題が表面化する場合。
ストレスや精神的問題の増加: 職場や家庭でのストレスからくる精神的な問題(うつ病、不安障害など)が発生し、その診断過程で知的障害が発見されることがあります。
知的障害は、発達期(0歳から18歳まで)のいずれかの時期に判明することが多いですが、軽度の知的障害の場合、成人期になってから診断されるケースもあります。障害の程度や環境要因、個人の発達特性に応じて、診断される時期や方法が異なります。
知的障害が大人になってからわかるケースは、軽度知的障害が多いです。続いて、軽度知的障害について見ていきましょう。
軽度知的障害とは
軽度知的障害とは、知能指数(IQ)が50から70程度の範囲であることを指し、知的機能および適応行動において年齢相応の発達を遂げていない状態をいいます。この状態では、抽象的な思考や複雑な課題の遂行に困難を感じることが多く、学業や社会的な適応において一定のサポートが必要とされることがあります。
なお、知的障害のある人が取得できる障害者手帳は、一般的には療育手帳と呼ばれることが多いですが、自治体によって名称が異なります。例えば、愛の手帳(東京都)、みどりの手帳(所沢市)など、地域によって異なります。また、名称だけでなく、自治体によって制度名や支援内容、取得の基準なども違うことがあります。
これは、障害者手帳の基準が障害別に異なるためで、身体障害者手帳は身体障害者福祉法によって、また、精神障害者福祉保健手帳は精神保健福祉法によって定められていますが、療育手帳の制度は法律ではなく、都道府県・政令指定都市がそれぞれ要綱などを制定して行っているため、全国で統一された基準をもっていないからです。
手帳の判定はIQで決められており、一般的にはIQ51~70が軽度、IQ36~50が中度、IQ21~35が重度、IQ20以下が最重度となっています。
大人になってから判明する背景と理由
なぜ、大人になってから知的障害がわかるケースが有るのでしょうか。
診断されなかった理由
子供の頃の見過ごし
軽度知的障害は、幼少期に顕著な症状が見られにくいことがあります。学校では、学業の遅れや特定の科目での困難があっても、それが軽度知的障害であるとは気づかれず、単なる学習の遅れや不注意とみなされることがあります。
特に、知的障害が軽度の場合、子供は周囲の環境に合わせて自分なりに適応し、表面的には問題が見えにくくなることがあります。
支援の不足と理解の欠如
軽度知的障害に関する知識や理解が不十分であったり、適切な支援体制が整っていない環境では、障害の存在が見過ごされることがあります。特に、軽度のケースでは、家庭や学校での支援が不十分であることが、早期発見を妨げる要因となっています。
大人になってから判明するきっかけ
職場での困難
大人になり、職場でより複雑なタスクや抽象的な思考が求められる環境に置かれたときに、軽度知的障害の特性が顕在化することがあります。これにより、職場での適応が難しくなり、上司や同僚から指摘されたり、自己評価の中で問題に気づくことがあります。
社会的な要求の増加
大人になると、社会生活や家庭生活での要求が増加します。これに対処できないことから、自分の知的機能に何らかの問題があることに気づく場合があります。具体的には、金銭管理の困難さ、人間関係の維持の難しさ、または複雑な問題解決への対応が難しいといった状況で、軽度知的障害が疑われることがあります。
精神的な問題の発現
軽度知的障害を抱える人々は、自分の困難に気づかずにストレスを抱えやすく、これがうつ病や不安障害といった二次的な精神的問題を引き起こすことがあります。このような精神的問題のために医療機関を受診し、その際に軽度知的障害が診断されることがあります。
なぜ、診断が難しかったのか?
適応力が高いことや社会的スティグマである偏見や差別から適切な時期に診断されなかったケースも見られます。
適応能力の高さ
軽度知的障害のある人々は、幼少期から環境に適応し、障害を隠すように学習することが多いです。周囲の助けや自分の工夫によって問題を乗り越えることができるため、障害が見過ごされることがしばしばあります。特に、学校や職場での成績や成果が平均的であれば、障害が隠れたままになることが多くあります。
社会的スティグマの存在
軽度知的障害が診断されない背景には、知的障害に対する社会的なスティグマ(偏見や差別)の存在も影響します。障害があることが本人や家族にとって「恥ずかしいこと」とされる場合、診断を受けることを避ける傾向があります。
どのような対応やサポートが必要なのか?
対応方法とサポートについて見ていきます。
診断と専門家の支援
軽度知的障害が疑われる場合には、専門の医療機関での評価と診断が重要です。臨床心理士や精神科医による知能検査や適応行動の評価を通じて、正確な診断を受けることが必要です。
適切なサポートの提供
軽度知的障害と診断された場合、日常生活や職場での適応を支援するための具体的なサポートが必要です。これには、業務の単純化や具体的な指示の提供、視覚的なサポートの導入、定期的なカウンセリングやメンタリングが含まれます。また、職場環境の調整や合理的配慮も有効です。
教育と訓練プログラム
大人になってから軽度知的障害と診断された場合、職業訓練や社会スキル訓練を通じて、日常生活や職場でのスキルを向上させることが重要です。これには、金銭管理、時間管理、コミュニケーションスキルの向上などが含まれます。
社会的支援の活用
地域の福祉サービスや支援団体のリソースを活用することも有益です。これらの組織は、軽度知的障害を持つ人々が社会に適応し、自立した生活を送るための支援を提供しています。ソーシャルワーカーや就労支援員から就労や生活支援のサポートを受けることもあります。
まとめ
軽度知的障害が大人になってから判明するケースは、軽度知的障害の特性や社会的、教育的な要因、そして診断の難しさによって引き起こされることが多くあります。知的障害は一般的に発達期(0歳から18歳)に判明しますが、軽度のケースでは、成人期において初めて診断されることもあります。これは、幼少期や学齢期において適応能力の高さや支援の不足、社会的スティグマによって障害が見過ごされてしまうことが背景にあります。
大人になってから知的障害が判明することは、職場や社会生活での適応の難しさや精神的な問題の発現などがきっかけから発見されることがあります。そのため、正確な診断とともに、個々のニーズに応じたサポートや環境整備が必要です。
知的障害者は適切な支援を受けることで、社会生活を送ることができますし、もちろん企業で働くことも可能です。その際には、わかりやすい適切な指示をだしたり、すぐに質問や相談できる担当者を決めておくとよいでしょう。
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