うつ病は、現代社会で多くの人が直面する精神疾患の一つです。ストレスの多い生活環境や、予期せぬ出来事が心に大きな負担をかけることで、うつ病は誰にでも発症する可能性があります。
気分がひどく落ち込み、何事にも興味や喜びを見いだせなくなるだけでなく、身体にも様々な症状を引き起こし、日常生活に支障をきたすことがあります。また、うつ病は子どもから高齢者まで幅広い年齢層で見られ、特に中年期に多く見られることが特徴です。
今回は、うつ病の原因や症状、そしてうつ病の人にどのように接したらよいのかについて解説します。
うつ病とはどんな病気?
うつ病は、気分障害の一つです。気分障害は、個人の感情状態に著しい変動を引き起こす精神的な健康問題の総称を指します。代表的な例として、双極性障害やうつ病が挙げられます。双極性障害は、気分の極端な浮き沈みが特徴で、躁状態(エネルギッシュで過度に楽観的な状態)と抑うつ状態(極端に気力が低下した状態)を繰り返します。一方、うつ病は持続的な悲しみや意欲の欠如を伴い、日常生活に大きな支障をきたします。
「うつ状態」は、活動が低下し、気分が沈むなど、心身のエネルギーが低下した状態になります。精神的には意欲や関心がなくなったり、疲れがとれず、考え方が後ろ向きになり、身体的には、頭痛、肩こり、動悸、食欲の低下、不眠などのさまざまな症状が現れます。
また、「躁状態」とは、気分や意欲が高まり、過活動になっている状態です。話が饒舌になったり、よく動いたり、気分が高揚したり、怒りっぽくなったりすることもあります。
うつ病は、気分がひどく落ち込んだり、何事にも興味を持てなくなったり、食欲減退、全身のだるさなど心や身体に様々な形で現れ、日常の生活に支障が出るまでになった病気です。
また、うつ病は、子どもから高齢者まで幅広い年齢層で発病する可能性がありますが、特に日本では、中年期に一つのピークがあります。
各年齢層や性別によるうつ病の特徴は、次のようになっています。
児童思春期:本人が自分の気持ちをうまく表現できずに、成績低下やひきこもりなどの行動上の問題や、頭痛や体調不良などの身体的不調の形で現れるため、周囲に気づかれにくい場合があります。
中壮年期:過重労働、経済不況に伴うリストラや経済苦などから中壮年者はうつ病になりやすい環境に置かれています。
高齢者:環境の変化(退職や家族内の役割の変化)や心身の衰え(体力の低下や病気がち)をうまく受け入れることができない場合にうつ病になりやすいとされています。
女性:妊娠や出産、育児での身体的・心理的負担や、更年期においての身体の変調、喪失体験、ストレスなどが重なることでうつ病になることがあります。
うつ病は一生の間に約15人に1人という割合で発病すると言われるほど、一般的な病気となっており、多くの人が経験する病気となっています。一方で、症状で悩んでいても病気であると気づかなかったり、医療機関の受診に抵抗があったりして、うつ病にかかっている人の4分の1程度しか治療を受けていないとも言われています。
なぜ、うつ病は起こる?
厚生労働省の患者調査によると、経済不況や高齢化、情報化・社会構造の複雑化など様々なストレスの増加等を背景としてこころの病気に悩む人が年々増加していると言われています。また、自死の9割以上が何らかの精神疾患にかかっていると推定され、とくに中高年の自死では「うつ病」が背景に存在していることが多いと言われています。こうしたことから、現代社会においては「うつ病」が大きな健康問題の1つとなっています。
WHOによる世界精神保健調査「心の健康問題に関する疫学調査」では、日本では、気分障害にかかる人の割合は、人口の10%近くなることがわかっています。
うつ病の原因は、ストレスの増加などいろいろな要因があると言われていますが、何らかの出来事やタイミングをきっかけに、「気持ちが晴れない」「気持ちが落ち込む」「憂鬱だ」と感じることが続いたことで、「うつ状態」になる可能性があります。
次のような出来事やタイミングがきっかけとなることがあります。
・ストレスの継続:慢性疲労・経済的困窮・対人関係の葛藤など
・一過性の強いストレス:被災体験・仕事や学業などの強い心理的負担など
・喪失体験:大切な人を失う・財産や名誉を失う・身体機能を失うなど
・女性の場合:出産・子育て時期・更年期など
・身体の病気をしたこと
「うつ状態」を経験することがすべて「うつ病」になるわけではありません。その多くは時間の経過やストレスの軽減などで回復します。しかし、このような様々な出来事によるストレスが重なることによって、うつ病が発病することがあります。
うつ病の症状
うつ病の症状としては、気持ちの変化だけではなく、身体の症状を引き起こすことがあります。そのため最初は内科などを受診する場合も多くなっています。うつ病の症状として現れる症状としては、次のようなものがあります。
心にあらわれる主な症状(精神症状)
・気分の落ち込み:悲しい。憂鬱さを感じる。落ち込んでいる。
・意欲の低下:何もする気が無くなる。
・強い不安:理由がないのに、強い不安を感じる。
・強い焦燥感:イライラしやすくなる。
・興味や喜びの喪失:何事にも興味がわかず、楽しくない。
・思考力や集中力の低下:思考力や集中力が低下したり、判断力が鈍る。
・疲れやすさ・気力の減退:疲れやすくなる。元気がない(だるい)。
・強い罪責感:根拠なく自分を責める。自分は価値がないと感じる。
・死への思い:自死をほのめかす。
身体にあらわれる主な症状(身体症状)
・頭痛
・耳鳴り、めまい
・肩こり
・睡眠の障害(寝つきが悪い、朝早く目が覚める、夜中に目が覚めて再び眠りにつけない、眠りが浅い)
・息苦しさ
・食欲の低下、体重減少
・下痢・便秘などの胃腸症状
・腰痛、背中の痛み
・発汗
また、うつ病の症状は、朝に状態が悪く、午後から夜にかけて徐々に改善するなど、1日の中でも体調の変動が見られることがあります。
うつ病になりやすい性格などはあるのか?
うつ病になった人の性格を調べた調査では、几帳面で、真面目で、完璧主義の人が多いといわれてます。
具体的には、勤勉で几帳面に仕事をこなす、良心的・道徳的で、強い正義感・責任感を持つ、ものごとを自分の手で完璧に仕上げないと気がすまないなどの性格の人が多く、責任感が強かったり、困難をがんばって乗り越えようとするタイプの人が多いようです。
そのため、うつ病を発病し、作業の能率や集中力が落ちると、それを挽回しようとして焦ってさらにがんばろうとするため、悪循環を生み、「うつ状態」をさらに強めてしまうことになります。几帳面だったり、真面目で完璧主義だと自覚している場合には、何事も徹底的にこなすことをめざすのではなく、いい意味で「手抜き」をすることも、時には必要かもしれません。
一方で青年期など比較的若い年齢で発症するタイプのうつ病の場合には、このようなタイプばかりではありません。ものごとに対して回避的であったり、他罰的であったり、あるいは自己愛的な傾向が見られることもあります。
いずれにしても、このような性格傾向の方すべてがうつ病になるわけではありません。
うつ病の経過・回復のプロセス
うつ病は、突然重い症状が現れるわけではありません。本格的な症状が出る前段階として、心身に様々な変調が見られます。そのため心身の変調に気づいたら、早めに精神科を受診したほうが良いでしょう。早期発見・早期治療することは、病気が重くなったり長びいたりするのを防ぐことができます。
うつ病を発症してから、治療を始めるまでの時期は、絶望感、閉塞感、焦燥感などから、「不安・イライラ・憂鬱」を強く感じるとても苦しい時となることが多いようです。この時期には、専門医に相談をし、こころの休息だけでなく、身体もゆっくりと休める必要があります。
回復期に入ると、悲観的な気分はまだ強いのに、行動力の方は少し回復してくるために、かえって自死を引き起こしやすいと言われています。主治医と相談しながら、本人も周りも焦らずに、少しずつ活動の範囲を広げていくことが大切です。回復には波がありますが、良くなったり、少し後戻りしたりを繰り返しながら回復していきます。そのため焦らずにゆっくりとペースを取り戻していくことが大切です。
うつ病の人には、どのように対応したらよい?
うつ病は「こころの風邪」という表現が広まったこともあり、身近な軽い病気のイメージが定着してきていますが、軽い病気ではありません。誰もがかかりうる病気という点では風邪と同じとも言えますが、風邪のように短期間で治る病気ではなく、適切で積極的な治療が必要な病気です。
また、うつ病は、単なる気分の落ち込みとは違って、本人の努力だけではどうにもならない病気です。心身ともに十分に休養し、本来の機能を取り戻すことが大切になります。
うつ病の人に対して、「頑張って」とか励ましの声をかけてはいけないと言われています。これは、うつ病の人は既に精神的・身体的に極限の状態にあり、「頑張る」ことができない状況にあるためです。そのため「頑張って」と言われることで、さらに自分を追い詰めたり、プレッシャーを感じたりしてしまうことになります。
励ましの言葉は、一般的にはポジティブな意味を持ちますが、うつ病の人にとっては、「自分が十分に努力できていない」「もっと頑張らなければならない」と感じさせてしまい、症状の悪化につながることがあります。また、疲弊している状態では、励ましに応じることができず、さらに無力感を感じさせる可能性があります。うつ病の人には、無理に励まさず、安心して休めるような環境を提供することが大切です。
うつ病についての理解や知識は広がりつつありますが、今でも「気の持ちよう」とか、「根性が足りない」という接し方をする人がいます。しかし、気力や周囲の励ましでは、うつ病は治りません。また、そのような接し方は本人が「できない」、「もうダメだ」と悲観的になって自分を責めたり、「早くどうにかしなければ」と焦り、かえって病状を悪化させてしまうことになります。
うつ病についてよく知り、正しい知識を持つことが大切です。また、本人のつらさや焦りなどを理解しながら、あたたかく見守ることが必要なときがあります。
また、うつ病にかかると冷静な判断能力が極端に低下していることがあります。たとえば「仕事を辞めようか」、「離婚しようか」というような大きな決断を、うつ病の症状である悲観的な考えのままで行わない方がよい場合もあります。時には、重要な決定を先送りにしたほうが適切なケースもあります。
まとめ
うつ病は、決して軽視できない深刻な病気です。ストレス社会と呼ばれる現代において、誰もがうつ病にかかるリスクを持っており、適切な理解と支援が求められています。
うつ病の症状のある人に対しては、励ましの言葉ではなく、安心して休める環境を整え、専門的な治療を受けることが必要です。また、周囲の人々がうつ病について正しい知識を持ち、患者の回復を焦らず、温かく見守ることが大切です。
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