企業での障害者雇用が増え、精神障害者と関わる機会が増えています。しかし、どのように関わったらよいのかと戸惑う人も少なくありません。
精神障害とは、心や脳の働きに影響を及ぼし、感情、思考、行動、そして対人関係に困難をもたらす疾患です。一時的な気分の落ち込みや心の不調とは異なり、精神障害は持続的な症状や再発の可能性が高く、適切な支援や治療が必要です。現代社会において、精神障害の理解やその対応は、ますます重要な課題となっています。
代表的な精神障害である「うつ病」「統合失調症」「双極性障害」について、その特徴や影響、そして社会における誤解や偏見に焦点を当て、精神障害者を支えるための適切な対応方法について見ていきます。
精神障害とは何か?
精神障害とは、主に脳や心の働きに影響を与え、感情や思考、行動、対人関係に困難をもたらす疾患の総称のことです。精神障害は、一時的な心の不調とは異なり、持続的な症状や再発の可能性が高いことが特徴となっています。
代表的な精神障害として「うつ病」「統合失調症」「双極性障害」を紹介し、それぞれの症状と特徴について簡単に解説します。
うつ病
うつ病は、長期間にわたる強い抑うつ状態が特徴の疾患です。感情の低下、興味や喜びの喪失、集中力の低下、疲労感、睡眠障害、食欲不振などの症状が現れます。日常生活や仕事のパフォーマンスに大きな支障をきたし、最悪の場合には自殺リスクも高まるため、早期の支援と治療が必要です。
統合失調症
統合失調症は、現実と自分の認識が混乱する疾患です。妄想や幻覚(特に幻聴)がよく見られ、現実の出来事と自分の心の中で起こっていることを区別できなくなることがあります。コミュニケーションの困難さや感情の平坦化が見られ、社会的な孤立や日常生活における自立が難しくなる場合もあります。
双極性障害
双極性障害は、感情が極端に高まる「躁状態」と、感情が極度に低下する「うつ状態」とが周期的に繰り返される疾患です。躁状態では過度な興奮、極端な自信、睡眠の減少、危険な行動が見られ、うつ状態ではうつ病の症状と同様に無気力や絶望感が現れます。感情の波が激しく、そのため周囲の人々との関係に影響が出ることがあります。
精神障害の症状は様々
精神障害は一つの病気や症状だけで語れるものではなく、非常に多様である点が大きな特徴です。例えば同じうつ病でも、ある人は日常生活がほとんどできなくなるほどの症状を抱えている一方で、別の人は外見上は問題なく見えるものの、内面では深い苦しみを抱えていることもあります。精神障害の種類や程度は個人差が非常に大きく、一人ひとり異なる症状や影響が現れます。
そのため、精神障害者と関わる際には、一律の対応ではなく、個々の状況やニーズに合わせた柔軟な対応が求められます。特定の症状に対して過剰に反応するのではなく、当事者の感情や状態を尊重し、その人にとって何が必要かを理解することが大切です。
また、日によって症状の強さが変わることも多いため、状況に応じた配慮が求められます。精神障害を持つ人々と関わる上では、こうした多様性を理解し、柔軟で思いやりのあるアプローチを心がけることが求められることがあります。
精神障害への誤解
精神障害に対する誤解や偏見は、社会や職場において根強く残っており、精神障害者が十分に理解されない要因となっています。これらの誤解や偏見は、精神障害者が適切な支援を受けられないだけでなく、本人の自己肯定感を損なう原因にもなります。
次のような精神障害に関する代表的な誤解が見られます。
誤解1:精神障害は甘えや怠けの一種である
一部の人々は、精神障害を「努力不足」や「怠け」だと誤解しています。しかし、精神障害は脳や神経系の働きに影響を及ぼす医学的な疾患であり、本人の意思や努力だけでは解決できないものです。この誤解を解消するためには、精神障害の生物学的な根拠や治療の必要性について正しい情報を提供することが重要です。
誤解2:精神障害者は危険である
メディアの報道などが原因で、精神障害者は不安定で暴力的であるという偏見が広まることがあります。しかし、精神障害を持つ人々の大多数は、日常生活を送る上で問題行動を起こすことはなく、むしろ周囲との関係を築くことに努力している人が多いです。職場や社会での啓発活動を通じて、精神障害者も安全で信頼できる仲間であることを強調し、正しい理解を促進する必要があります。
誤解3:精神障害者は仕事ができない
精神障害者は仕事ができないと考える人もいますが、適切な配慮やサポートを受けることで、職場で十分に能力を発揮し、組織に貢献できることは多くの職場で示されています。特に、適性に合った仕事、合理的配慮や柔軟な労働環境で働くことによって、能力を発揮できることが多くあります。
こうした誤解や偏見を解消するためには、職場や社会全体での研修や啓発活動が不可欠です。従業員に対して精神障害に関する研修を行ったり、メンタルヘルスの理解を深めるイベントを開催するなど、精神障害についての知識を共有する機会を増やすことが重要です。
精神障害について学ぶ研修として、厚生労働省が開催している「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座」を活用するのも一つの方法です。この講座は、一般の企業の従業員を対象に、精神障害や発達障害に関して正しく理解し、職場における応援者(精神・発達障害者しごとサポーター)となるための講座です。
この講座は特別な支援者を育成するのではなく、サポーターとしての応援者を職場に増やすことが意図されています。企業で働く一般の従業員が、障害等に関する基礎的な知識や情報を得る機会は限られています。そのためこの講座を受講することで、精神障害や発達障害に関しての理解を深め、障害の有無に関わらず、職場の雰囲気や人間関係がよくなり、精神障害、発達障害者を含め、誰にとっても働きやすい職場環境が広げることが期待されています。
精神障害者と関わる上での心構え
それでは、実際に精神障害の方と関わるときには、どんなことに気をつけるとよいのでしょうか。そのポイントについて見ていきます。
共感と理解
精神障害を持つ人々との関わりでは、まず彼らの経験に対する共感と、精神障害に対する正しい理解が不可欠です。精神障害は目に見える障害とは異なり、外見では分かりづらいことが多いため、本人が感じている苦痛や困難を軽視してしまいがちです。
しかし、本人の感じている感情や苦しみを軽んじることなく、まずは「その人が感じていることは現実であり、重大な問題である」という姿勢で接することが大切です。
また、精神障害を持つ人を「病気を持った人」としてだけ捉えるのではなく、一人の人間として尊重する心構えが重要です。病気だけに焦点を当てるのではなく、その人の全体像を理解し、人格を尊重することが、良好な関係を築く上での基本です。心のサポートを行う際には、専門的な知識がなくても、相手の話に耳を傾けること、相手の感情に共感を示すことが大きな助けとなります。
無理に励まさない
特にうつ病などの精神疾患を抱えている場合、過度な励ましや「頑張れ」という言葉が逆効果になることがあります。「頑張れ」という言葉は一見、相手を応援する言葉に思えますが、精神障害を持つ人にとっては「これ以上何を頑張ればいいのか」「自分は十分に努力していないのか」と感じてしまうことがあります。彼らはすでに心身共に疲弊している場合が多く、頑張る余力がない状態にあることも少なくありません。
そのため、相手を励ますつもりでかけた言葉が、プレッシャーや自己嫌悪を引き起こしてしまう可能性があることを理解し、慎重に言葉を選ぶ必要があります。代わりに「無理しなくてもいい」といった言葉や、ただ黙って寄り添う姿勢が、相手に安心感を与えることがあります。適切な言葉選びが、相手との信頼関係を築く上での大きなポイントとなります。
バランスの取れた距離感
精神障害者と関わる際、重要なのはバランスの取れた距離感を保つことです。過度に相手に関わりすぎると、相手にとってプレッシャーや負担となり、自分を過剰に意識してしまう原因になります。一方で、無関心に見えてしまうと、相手は孤立感を深め、サポートを求める機会を失ってしまうかもしれません。
大切なのは、相手が自分のペースで進むことを尊重し、無理な期待や急かすような態度を取らないことです。精神障害者はその日の体調や気分によって行動や感情の変動が激しいことがありますが、それを理解し、相手のペースに合わせて柔軟に対応することが必要です。相手がサポートを必要としている時には手を差し伸べ、必要以上に干渉せずに、相手の自己決定権を尊重するバランスが求められます。
精神障害者と関わる上での心構えは、相手の感情や状態に敏感になりつつも、適切な距離感を保ち、共感と理解を持ちながらサポートする姿勢を持つことです。
精神障害者と接するときに気をつけるべき点
とはいえ精神障害についての理解を深めることは大切ですが、日々接する人々、特に上司や同僚、家族などの支援者は、時として精神的な負担を感じることがあります。精神障害者に寄り添う姿勢は重要ですが、その過程で自分自身の心のケアをおろそかにしてしまうことは避けなければなりません。
精神障害者と関わる側の人々が健全なメンタルヘルスを維持するためには、次のような点について気をつけることが大切です。
心の負担を感じたら、無理せず相談する
支援者自身が心の疲れやストレスを感じた場合には、周囲に相談することが大切です。自分一人で抱え込むのではなく、上司や同僚や家族、専門のカウンセラーに話すことで、気持ちが楽になることがあります。また、相談を通じて新たな視点や助言を得ることができ、適切な対応方法を見つけやすくなるでしょう。
サポートネットワークを活用する
仕事や日常生活で精神障害者に関わる人々は、サポートしあえるネットワークを構築し、積極的に活用することが重要です。例えば、メンタルヘルスに関する企業内の相談窓口や、地域の精神保健福祉センターを利用することで、適切な助言や支援を受けられる環境を整えることができます。支援者自身が孤立しないように気をつける必要があります。
休息とリラクゼーションの重要性
精神障害者と関わる中で、支援者自身が適度な休息を取ることも意識すべき点です。特に家族など、長い時間関わっているのであれば、定期的に趣味や運動などのリフレッシュ方法を取り入れることで、ストレスを軽減し、精神的な余裕を保つことができます。自己ケアをしっかり行うことで、長期的に安定したサポートを提供できるようになります。
まとめ
精神障害は非常に多様であり、個人ごとに異なる症状やニーズがあります。そのため、精神障害者に対しては、柔軟で思いやりのある対応が不可欠です。また、精神障害に対する誤解や偏見は根強く残っており、それらを解消するためには正しい知識を広めることが重要です。
一方で、日々接する人の中には、時として精神的な負担を感じることがあります。精神障害者に寄り添う姿勢は重要ですが、その過程で自分自身の心のケアをおろそかにしてしまうことは避けなければなりません。話すことで気持ちが楽になることもあります。心の負担を感じたら、無理せず相談しましょう。
0コメント