企業が障害者雇用を行う理由~担当者がおそれる企業名公表とは~

企業が障害者雇用を行う理由~担当者がおそれる企業名公表とは~

2016年04月16日 | 障害者雇用に関する法律・制度

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なぜ、企業では障害者雇用を行う必要があるのでしょうか。

企業における障害者雇用は、障害者雇用促進法によって障害者の法定雇用率が定められているため行なう必要があると考える企業もありますが、そもそも障害者の法定雇用率とはどのようなものでしょうか。

ここでは、障害者雇用の基本的な点である法定雇用率やそれを報告するロクイチ調査、雇用納付金や社名公表について、わかりやすく解説していきます。

なぜ企業は障害者雇用をしなければならないのか

障害者雇用をおこなうことが法律で定まっている

民間企業では、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(障害者雇用促進法)に定める法定雇用率を上回る障害者を雇用することが定められています。このため民間企業では、法定雇用率2.3%の障害者を雇用する義務があります。つまり従業員43.5人に対して1名の障害者雇用が定められていることになります。(令和3年3月より法定雇用率が2.3%に引き上げられました。)

障害者雇用促進法では、「障害者がその能力に適合する職業に就くこと等を通じてその職業生活において自立することを促進するための措置を総合的に講じ、もつて障害者の職業の安定を図ることを目的」(第1条)としています。これに基づき、事業主に対して障害者雇用率制度のほか、障害者の職業生活の自立を支援するための障害者本人に対する職業リハビリテーションについて規定されています。

また、詳細は雇用納付金のところで説明しますが、常時雇用している労働者数が100人以上の企業は、障害者雇用率に相当する人数に達するまで、障害者を雇用していない人数分の雇用納付金を徴収されます。この徴収された雇用納付金は、障害者を多く雇用している事業所の経済的な負担を軽減するなど、雇用に伴う経済的な負担のアンバランスを調整し、障害者雇用の水準を高めることに還元されるものになります。そして、障害者を雇用する場合の作業設備や職場環境を改善する助成金になります。

法定雇用率とは

障害者雇用促進法では、民間企業には、法定雇用率2.3%の障害者を雇用する義務が定められており、この「2.3%」が障害者の法定雇用率となります。民間企業における雇用率は「2.3%」ですが、官公庁では2.6%、教育委員会では2.5%、特殊法人では2.6%が義務づけられています。

法定雇用率の算定式は、分母が常用労働者数から失業者数を足したものになっており、分子が身体障害者と知的障害者である常用労働者の数と失業している身体障害者及び知的障害者の数で法定雇用率が決められています。また、平成30年4月からは、分母、分子ともに精神障害者の数が加えられています。

法定雇用率の算定方法

出典:厚生労働省

近年、精神障害者の雇用が進んでおり、法定雇用率の引き上げが大幅に予想されるため、激変緩和措置として、平成30年4月1日~令和5年3月31日は、身体障害者・知的障害者を算定基礎として計算した率と身体障害者・知的障害者・精神障害者を算定基礎として計算した率との間で、政令で定める率の法定雇用率になります。そして、令和5年4月1日以降は、身体障害者・知的障害者・精神障害者を算定基礎として計算した率になります。

企業は、毎年6月1日時点の障害者雇用状況をハローワークに報告する必要がある

事業主である企業は、毎年1回6月1日現在の身体障害者、知的障害者及び精神障害者の雇用に関する状況(障害者雇用状況報告書)を本社の所在地を管轄するハローワークに報告する必要があります。この報告は、「ロクイチ調査」と呼ばれており、毎年11月か12月頃に全国の障害者雇用の状況として報告が発表されます。

報告義務のある事業主は、法定雇用障害者数が1人以上となる事業主、すなわち常用雇用労働者数(除外率により除外すべき労働者数を控除した数)が43.5人以上の事業主です。

障害者雇用率未達成の事業主で一定の基準を下回る事業主に対しては、ハローワークの所長が「障害者の雇入れに関する計画書」の作成を命令します。なお、行政の指導にもかかわらず障害者雇用に適正に取り組まなかった企業については、その旨を厚生労働大臣が公表します。

この企業からハローワークへ行う障害者雇用報告では、平成18年4月から、精神障害者(精神障害者保健福祉手帳所持者)を各企業の雇用率に算定できることとなっています。また、納付金・調整金・奨励金においても、同じように精神障害者が算定できます。

また、短時間労働(週20時間以上30時間未満)の精神障害者、平成22年7月以降は、身体障害者又は知的障害者である短時間労働者についても、0.5人分として雇用率に算定できるように変更されています。

障害者雇用納付金

障害者雇用納付金制度の考え方は、障害者を雇用することは事業主が共同して果たしていくべき責任であるとの社会連帯責任の理念に立っています。そのため事業主間の障害者雇用に伴う経済的負担の調整を図るため、とともに、障害者を雇用する事業主に対して助成、援助を行うことにより、障害者の雇用の促進と職業の安定を図ろうとしています。

法定障害者雇用率を達成していない場合、法定人数に不足している障害者1人あたり月50,000円が徴収されます。障害者雇用の義務は43.5人以上の企業に課されますが、雇用納付金の徴収は、100人以上の企業が対象となっています(平成27年4月~)。

この徴収されたお金は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構に集められて、法定雇用労働者数以上に障害者を雇用している企業に調整金や報奨金、障害者の雇用に当たり、施設・設備の整備等や適切な雇用管理を行うための特別な措置を実施する事業主等を対象とした障害者雇用納付金制度に基づく助成金として活用されています。

 
障害者雇用納付金制度出典:平成27年度障害者雇用促進ハンドブック (東京都産業労働局)

雇用納付金制度は罰金ではないため、障害者雇用納付金を納めたとしても、障害者雇用義務が免除されるわけではありませんので 、法定雇用率に合った障害者雇用を進めることが求められています。

企業の人事担当者が恐れていること 企業名公表

障害者雇用のセミナーなどに行くと、障害者雇用を進める一つの理由として、障害者雇用納付金があげられています。もちろん、法定雇用に達しない分の障害者雇用納付金を払うことは、企業として避けたいことではありますが、それ以上に企業の人事の方が意識しているのは、企業名が公表されることです。

もちろん多くの企業の方が、社名公表は避けたいことと考えていますが、特に、消費者と直接関わりのある企業や株式公開している企業では、企業名公表は避けなければならないこととしている傾向が強いように感じます。また、大企業(上場企業含め、多くの人が知っている企業)の関連会社の方も同様です。

企業名公表ではありませんが、障害者雇用が進められてこなかったことを理由に社名が大きく取り上げられたのが、1999 年におこったJAL 訴訟問題です。JAL 訴訟問題とは、1999 年12月17 日、JAL の一部の株主が「同社の経営者が障害者の雇用を積極的に行わずに多額の障害者雇用納付金を支払い、同社に納付金相当の損害を与えてきた」としてJAL の経営者を相手に株主代表訴訟を行い、被告が譲歩するという形で和解が成立しています。

参考文献:長江 亮、障害者雇用と市場評価-大阪府内個別企業障害者雇用状況開示のイベントスタディ-(2004)

このように社会的にも企業における障害者雇用に注目が集まっています。厚生労働省では、障害者雇用促進法に基づき、障害者の雇用状況が特に悪く、改善が見られない企業名を毎年度公表しています。

平成27年度 障害者の雇用状況に関する企業名公表

平成28年3月29日に発表されました。平成27年度は、障害者雇用状況で改善が見られない場合に、企業名を公表することを前提として指導された企業は一定の改善が図られたため、社名公表された民間企業はありませんでした。また、国及び都道府県の機関に関しては、雇用状況に改善が見られない場合、障害者採用計画の期間終了後に適正実施を勧告できることになっていますが、こちらも一定の改善が見られ、勧告された機関はありませんでした。

平成27年度 障害者の雇用状況に関する企業名公表(厚生労働省)

平成27年度の障害者雇用の指導状況

平成27年度は、平成25年1月1日から平成26年12月31日の間に雇入れ計画を作成した221社のうち雇用状況の改善が特に悪かった35社と、平成26年度に企業名を公表又は公表猶予した20社の計55社を対象に、障害者の雇用状況に改善が見られない場合、平成27年度中に企業名を公表することを前提とした指導が実施されました。

指導の内容は、対象企業を管轄するハローワーク所長から、対象企業に対し、障害者の雇用に関する事業主の責務、障害者の雇用の現状、これまでの雇用率達成指導の経緯等について説明があり、様々な雇用事例の提供や助言、求職情報の提供、面接会への参加勧奨等を行いつつ、雇用義務を達成するよう指導・支援が継続的に行われます。また、必要に応じて都道府県労働局幹部による訪問指導、厚生労働省に来省を求めての指導を実施されます。

今回指導の対象になった企業は、1,000人以上の企業が12社、1,000人未満の企業が43社となっています。また、産業別では卸売業・小売業が18社と最も多く、次いで情報通信業の8社、製造業の5社、運輸業・郵便業の5社、サービス業の5社となっています。

民間企業の障害者雇用指導
55社の指導の状況は、雇用義務を達成した企業が38社、全国平均実雇用率(1.82%)を達成した企業が14社、実雇用率が全国実雇用率以上、または不足数が0人と見込まれる企業が3社でした。

障害者雇用の行政指導の結果
気になる社名公表基準ですが、平成28年1月1日時点で、平成26年の全国平均実雇用率である1.82%未満の場合となっています。また、初回の公表に限り公表が猶予される条件は以下の2つです。

  • 直近の障害者雇用の取組の状況から、実雇用率が速やかに平成26年の全国平均実雇用率(1.82%)以上、あるいは不足数が0人となることが見込まれる。
  • 特別指導期間終了後の1年以内に特例子会社の設立をし、実雇用率が平成26年の全国平均実雇用率(1.82%)以上、あるいは不足数が0人となると判断できる。

平成26年度 障害者の雇用状況に関する企業名公表

平成27年3月31日に発表されました。平成26年度は、障害者雇用促進法第47条に基づき、障害者雇入れ計画の適正実施勧告に従わず、障害者の雇用状況に改善が見られない場合、企業名を公表するとして、企業8社の企業名公表がされました。

また、国等の機関については、障害者雇用促進法第39条第2項に基づき、雇用状況に改善が見られない場合、障害者採用計画の期間終了後に適正実施を勧告するとして、2機関の適正実施勧告がされました。

平成26年度 障害者の雇用状況に関する企業名公表(厚生労働省)

障害者未達成の社名公表は、平成24年度、25年度と社名公表はありませんでしたし、社名公表があった平成23年度は3社、平成22年度が6社だったことから、8社の企業名が公表されたのには、障害者雇用に取り組む企業にとってインパクトがあったようです。

平成26年度の障害者雇用の指導状況

平成26年度は、平成23年及び平成24年の1月1日から平成26年12月31日の間に雇入れ計画を作成した617社のうち雇用状況の改善が特に悪かった84社と、平成25年に公表猶予した12社の計96社を対象に指導が実施されました。

平成24年の1月から雇入れ計画は2年間の計画作成となっていますが、それ以前は雇入れ計画が3年間の計画作成でしたので、平成26年度は雇入れ計画2年と3年の企業が混在しています。

社名公表になった企業は、東北1社、関東3社、東海3社、中国1社でした。平成26年度 障害者の雇用状況に関する企業名公表には、各企業の指導経過が時系列に掲載されており、障害者雇用状況の推移も掲載されています。この推移を見ていくと、障害者の実雇用率がゼロで推移しており、社名公表になっても仕方がないかなと感じる企業もありますが、基礎労働者数が大幅に増加しており、実雇用率も増加している企業であっても社名公表になっている企業もありました。

企業名公表までの流れ

障害者雇用の実雇用率の低い企業は、毎年6月1日の障害者雇用状況報告にもとづいて、雇入れ計画命令が出され、2年間で障害者雇用を達成できるように指導されます。その流れを見ていきます。

前述のところでもお話しましたが、ロクイチ調査と呼ばれる雇用状況報告(毎年6月1日の状況)にもとづいて、障害者雇用率が低い企業には、ハローワークの所長から、雇入れ計画作成命令が出されます。2年で障害者雇用を達成するための計画書を作成し、ちょうど事業計画書を作成するように、障害者雇用を達成するための時期や方法を記載していきます。

この雇入れ計画書にもとづき、ハローワークから指導が入ります。計画の1年目の終わり頃には雇入れ計画が計画通りに進捗しているか確認され、できていないと雇入入れ計画の適正実施勧告がなされます。また、雇用状況の改善が特に遅れている企業に対しては、計画期間終了後に9か月間、社名公表を前提として特別指導が実施されます。そして、改善が見られない場合には、企業名の公表となります。

不足数の特に多い企業は、厚生労働省からの直接指導も実施されているようです。実際に雇入れ計画書を提出していたある企業では、計画通りに進まないと、○ヶ月後に厚生労働省へ該当企業の社長が出向くように連絡がきていると、かなり焦っていました。雇入れ計画書を提出すると雇用する時期が決まっているため、とにかく障害者雇用をしなければ・・・と、採用ありきの障害者雇用になってしまう傾向が強いように感じます。

雇用する準備ができていないと、障害者雇用の定着は難しい傾向にあります。企業にとっても、担当者にとっても、そして何よりも採用される障害者にとってもよい採用・雇用になりにくくなってしまいますので、計画的に障害者雇用を進めることをおすすめします。

障害者雇用率達成指導の流れ

出典:厚生労働省

動画の解説はこちらから

まとめ

障害者雇用に関する企業名公表についてみていくため、なぜ、企業が障害者雇用に取り組んでいこうとするのか、障害者雇用促進法を中心にお伝えしました。

企業では、障害者雇用促進法にもとづき、法定雇用率2.0%の障害者を雇用する義務があります。つまり従業員43.5人に対して1名の障害者雇用が定められています。そして、この法定雇用率が達成できないと、障害者雇用納付金の徴収や社名公表があります。

企業の人事の方が特に気にする社名公表に至るには、行政からの指導が入り、障害者雇用の雇入れ計画書を作成することになります。平成27年度と平成26年度 障害者の雇用状況に関する企業名公表の情報から、障害者雇用の指導状況やどのように企業名公表のプロセスがとられているのかを紹介してきました。

実際に雇入れ計画書作成命令が出された企業の担当者の方とお話すると、2年間という年限が決まっているので、常に期日に追われている様子がうかがえます。また、採用ありきの障害者雇用になってしまう恐れもあり、職場定着も難しい状況も見られます。ぜひ、計画的に障害者雇用を進めていただきたいと思います。

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参考

令和3年の障害者雇用未達成の企業名が6社公表されました

【初めての人でもわかる】障害者雇用促進法の概要をわかりやすく解説

障害者雇用納付金制度の概要をわかりやすく解説

なぜ、企業は障害者雇用をしなければならないのか

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2 コメント

  1. 金田

    指導の会社が55社しかないのですか?一回全企業お願いしたい。

    返信する
    • 障害者雇用ドットコム編集部

      障害者雇用状況の集計結果等を見ると、指導されている企業の数は雇用未達成の企業の数全てに対して行っているわけではないことがわかります。3月末に障害者雇用の改善が見られない企業名の公表が行われました。企業名公表までの流れなどを示していますので、参考にしていただければ嬉しく思います。
      障害者雇用の改善が見られない企業名の公表 

      返信する

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