企業での障害者雇用および職場定着を進めるため、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構は、毎年、雇用管理や職場環境の整備などさまざまな改善・工夫を行った障害者雇用職場改善好事例を募集し、優秀な事例を表彰しています。
平成30年度は、精神障害・発達障害者の雇用促進・キャリアアップに取り組んだ職場改善好事例が募集され、「精神障害・発達障害のある方の雇用促進・キャリアアップに取り組んだ職場改善好事例集」として選ばれました。
今回は、その職場改善好事例として選ばれた中小企業の西村製作所(京都)の事例から、職場にはじめて精神障害を雇用するにあたり、どのように受け入れて、障害者雇用を進めていったのか見ていきたいと思います。
西村製作所の事業概要
西村製作所は、京都にあるスリッター(自動切断巻取機)および周辺機器の設計・製作・販売・メンテナンスを行っている企業です。昭和21年の創業から独自設計によるスリッターの研究開発を行い、昭和29年に日本初のスリッ ター国産1号機を完成・販売を開始しました。
製造している製品は、完全受注生産によるものが多く、チームでラインを組みながら仕事をすることが多くあります。ライン作業以外では繰り返しの作業が多くあり、障害者社員の中には自分のペースで取り組める作業が得意で力を発揮しているようです。
従業員は125人、そのうち障害者は3人です。
精神障害者雇用の経緯
雇用していた聴覚障害のある社員が退職したため、法定雇用率達成のために京都ジョブパーク(京都府が運営する総合就業支援拠点)に相談し、精神障害者の職場実習の受入れを行いました。そして、職場実習を経て、採用に至っています。
障害者社員の育成については、基本は「新卒の社員に対して、技術習得に時間をかける、初めは何もわからないのだから丁寧に指導する、短期間の離職を防ぐためにはどうしたらよいかといった視点で育成する」のと同じであると考えています。そのため障害者雇用に関しても、障害特性の理解は必要であるものの、障害の有無に関係なく、同じ視点で育成するようにしているようです。
はじめて精神障害者雇用するにあたり業務で重視したこと
スモールステップで成功体験を積む
精神障害者雇用を行うのははじめてで、ジョブマッチングや作業指導をどのように行ったらよいかわからなかったそうですが、本人のできることに視点をあてた仕事を任せていったそうです。
ある精神障害者は、はじめ文房具がうまく使用できなかったり、緊張が高まりやすく、臨機応変に対応が必要な電話や来客対応を苦手としていました。それで、総務部内にあるほかの作業をいろいろ体験し、本人ができる仕事、得意な仕事はどのようなものかを見ていきました。
苦手としていた仕事から自分のできる仕事をしていくうちに、成功体験の積み重ねが、会社に貢献したいという前向きな気持ちへと変化していきました。そのうちに成功体験の積み重ねから、苦手としていた電話や来客対応にもチャレンジしていくようになりました。
苦手な電話対応については、新入社員教育用の電話対応マニュアルを使いながら、内線応答から練習しました。また、来客時のお茶出しは、よく来社されるお客様から始めています。全てをできるようにするのではなく、段階的に指示を出し、スモールステップで苦手な業務を習得していきました。
体調の変化に対しての配慮
入社当初は、緊張によって疲れや不安な様子が見られたそうですが、定期的な面談や、主治医や就労支援機関からのアドバイスを受け、不安を軽減させていきました。
精神障害者の中には疲れやすいため、休憩の頻度をあげたりすることがあります。この会社でも、体調不良時に申し出があれば適宜休憩を取ることを認めていました。しかし、遠慮もあり、申し出ること自体が精神的な負担となっていました。
そこで、「リフレッシュ中」という札を作成し、直接の申し出がなくとも、自席に置くことで休憩を取るシステムにしました。いつでも休憩が取れるという安心感や、申し出の負担感がなくなったことがよかったのか、結果的に札の導入後は休憩する回数や時間が減少したそうです。
また、精神障害者の中には、完璧を求める人も多くいますが、この会社の精神障害者の方もそうでした。仕事をするには体調が100%の状態でなくてはいけないと考え、体調の変化を感じると大事をとって休みを取ることが多かったようです。
しかし、一緒に働く上司、先輩が定期的に面談を行って、「100%でなく、70〜80%の体調でもいいから仕事に来てくれると助かる」ことを伝えたところ、その言葉で自分が会社に必要とされていることや、仕事を休まずに続けることが大切であることを理解したようです。
職場でのキャリアアップ
仕事が慣れてくると、仕事自体に物足りなさを感じる障害者もいます。この会社では、新たに精神障害のある方を職場実習生として受け入れるときに、職場実習生の指導役を任せています。
実際にその場で実習して働いている経験を活かし、実習生に作業指導やアドバイスをしたところ、実習生から話しやすい雰囲気で実習を経験できたことがよかったと評価を受けています。また、実習生が効率的な作業のやり方をしているときには、それを前向きに取り入れ、自身の作業の効率化につなげているそうです。
出所:平成30年度障害者雇用職場改善好事例 株式会社西村製作所 (京都府京都市)
動画の解説はこちらから
まとめ
中小企業における精神障害者の職場定着のポイントについて、平成30年度「精神障害・発達障害のある方の雇用促進・キャリアアップに取り組んだ職場改善好事例集」の中から見てきました。
西村製作所は、従業員は125人の製造業の会社です。職場にはじめて精神障害を雇用するにあたり、どのように受け入れて、障害者雇用を進めていったのかを見てきました。仕事をスモールステップで成功体験を積むことや、休憩を本人がとりやすいシステムにしたこと、このような工夫や配慮は、どこの企業でも取り組めるものだと思います。
また、障害の有無に関係なく、新入社員に対して、ていねいに仕事を教える、退職を防ぐためにどうしたらよいかといった視点で育成するという姿勢は、働く障害者にとって仕事に対するモチベーションへとつながっていくものになります。
参考
【中小企業の障害者雇用】障害者雇用をはじめるときのきっかけとは?
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