発達障害のある学生は、「こだわりが強く、対人コミュニケーションがうまく行かない」「同時に複数のことを行おうとすると混乱してしまう」「記憶力は優れているのに、物事を相対的に理解するまで時間がかかる」などの特性があります。
こうした悩みを抱えている学生は、本人の怠慢や努力不足、家庭の養育の問題が原因と捉えられる傾向にありますが、生まれつき、またはごく早期からあるため直すというよりも、その特性を理解して、対処方法を考えることが有効的です。
発達障害のある学生は、増加傾向にあります。今まで明確な指針が少なかった大学・大学院や専門学校でも取り組みが求められるようになりました。特に「合理的配慮」は、学校や職場などで求められています。
不安を抱える本人がどこへ相談すればよいのか、どのようなサポートを受けることができるのか、大学などの高等教育機関において合理的配慮をどのように求めていくのか見ていきましょう。
発達障害の特性
相互的な対人関係やコミュニケーションのつまずき、また興味や行動力のこだわりを特徴とする「自閉症スペクトラム障害(ASD)」、年齢にそぐわない多動・衝動性や、状況への不注意を特徴とする「注意欠如・多動性障害(AD/HD)」、読字困難・書字困難・算数困難などの「学習障害(LD)」など、発達障害と一言でいってもいろいろな特性があります。
これらの特性は、見る視点によって、評価がわかれます。長所として捉えることもできますが、短所として捉えることもできるのです。どのようなことがあるのか、考えていきたいと思います。
集中できることは長所でもあるが、過度な場合は悪影響もある
発達障害の中には、とても集中する特性をもつことがあります。「集中できることはいいことではないか?」と疑問に思う人もいるかもしれませんが、普通の集中状態とは違い、体や心の健康を保てないことがあります。
例えば、「3日も寝ずに取り組み、気が付いたら気を失っていた」「こだわりが強く、日常生活など他のことには無頓着になってしまう」など、過集中によって体力や気力を消耗してしまう人がいます。集中できることは長所でもあるのですが、過集中で心身共に疲れ切ってしまい、授業への出席や健康面に悪影響を及ぼすことがあります。
大学生時代はこのような状況があってもまだ許容してもらえるかもしれませんが、社会人となるとそうもいきません。過集中の傾向があるのであれば、自分でコントロールする準備を学生生活のうちにしておくことが大切です。
情報を整理して適切に判断することが苦手
必要な情報に自らアクセスすることが苦手であるため、レポート課題や補講があることを先生や友達に指摘されるまで気付かなかったり、情報を適切に取捨選択することが難しく、かたよった情報に振り回されたり、独り善がりになってしまうことがあります。
また、大学では自分の授業科目を履修登録したり、情報を自分で収集して行動することが求められますが、このような自分で情報収集して、判断したり、スケジュールを組むことが苦手な人もいます。そのためいろいろな約束事を安易に受け入れて、いっぱいいっぱいになってしまったり、オーバーワークになってしまったりします。
困り事や悩み事があるときはどのように支援を求めればよいか
学生支援室に相談する
修学面あるいは学生生活面で悩みや不安がある場合は、教員や学部・研究科・学校の事務所に相談しましょう。学生が相談できる身近な存在として、各学部にはクラス担任あるいは学年担任、学生担当教務主任の教員がいて、学生生活を送るためのアドバイスを行ったり、修学上の問題を抱える学生の早期発見に努めて適切な対応を行っています。
また、多くの大学では学生支援室、障害学生支援室等(大学によって名称は変わります)を設けています。障害学生、サポート学生、教職員の相互理解の促進と連携を推進するコーディネート機関として位置づけられていることが多く、 障害学生の支援・相談窓口(大学によっては進路に関することも扱っています)、支援活動をする学生の支援・相談窓口、教員や職員との連携の窓口、大学の環境や制度改善への提案などを行っています。
サポートする内容は大学によって異なりますので、それぞれの大学の学生支援室、障害学生支援室等のホームページを見たり、実際に行ってみるとよいでしょう。多くの大学で行っているサポートを見ていきたいと思います。
障害学生の支援・相談窓口
・修学に必要な情報提供、具体的なアドバイス
・卒業後の進路に関する支援
・サポート学生を見つけるための活動支援
・サポート学生の募集機会の提供
・学習・生活のスキルアップ相談
・トラブルの調整
・障害学生の団体の活動支援
支援活動をする学生の支援・相談窓口
・支援団体・サポート学生の活動支援
・トラブルの調整
・支援スキルアップ
・機器や筆記用具の提供
教員や職員との連携の窓口
・教員への配慮依頼
・支援方法のアドバイス
・各部署との連絡調整
大学の環境や制度改善への提案
・施設・設備の点検と整備改善
・利用者懇談会
・他大学・諸機関との情報交換
・地域や関係団体との連携
また、学生は学生生活の中で合理的配慮の支援を受けることができるでしょう。
合理的配慮をしてもらう
合理的配慮は個々の学生の状態や特性などに応じて提供するもので、多様性があり、個別性が高いものです。大学は、障害のある学生が他の学生と同じように教育を受けたり、研究に参加できる機会をもてるように、合理的配慮の検討や実施を行っています。
しかし、学生が要望すれば何でも大学が受け入れるものではありません。合理的配慮とは、大学にとって実施に伴う負担が過重ではなく、教育や評価の基準を変えない範囲において必要かつ適当な変更・調整を意味します。また、課題や評価の要求レベルを変えることなく方法や手段を変更・調整して支援することになります。大学における具体的な合理的配慮の事例をいくつか見ていきましょう。
学校における合理的配慮の事例
例えば、自閉症スペクトラム障害があり、感覚過敏が顕著で授業中に集中力を保つことが困難な場合には、すぐに移動できるような座席の配慮、耳栓やサングラスの使用が認められることがあります。
また、学習障害があり、読み書きの困難が顕著で時間内の課題遂行が困難な場合には、講義の録音許可、講義資料の提供、試験の問題用紙や解答用紙の拡大、試験時間の延長が認められることがあります。
ADHDの学生で、履修時に関する重要な情報(休講や諸行事など)の確認が難しい場合には、情報を一緒に確認したり、都度確認するよう指導したり、履修登録等に関しては指導教員が適宜対応することもあります。
合理的配慮は、障害学生支援室によるアセスメントや本人の要望に基づいて、本人が所属する大学や学部との調整によって提供されるものであり、一人一人の障害の状態やその時々の教育的ニーズに応じて適時、見直しを図ります。
学生支援部門等を利用することのメリット
何らかの苦手さがある学生にとっては、誰かに相談したり、サポートを受けることはとても心強いものです。大学に設置されている学生支援部門はそれを支えてくれる1つになるでしょう。
実際に、大学にある学生支援部門を利用した学生たちからは次のような感想がありました。
「分からないことを友人や先生に聞くことができず授業についていけなくて困っていましたが、支援室では遠慮せずに相談することができ、基礎的なことからレポートの作成の仕方など、分かるまで個人に合わせてきめ細かく対応してもらえて助かっています」
「他人とコミュニケーションを取るのが苦手で、先生に質問や相談ができないのですが、いろいろな方法で先生とのやりとりを仲介してもらい、疑問点を解決することができました」
「勉強に行き詰まって、一時期は退学することも考えていましたが、支援室で困り事を調整し、環境を整えてもらったおかげで解決の方向に向かい、今は順調に学業を続けられています」
支援室の面談を通して、自分がどこでつまずいているかを知ることができたり、どんなサポートを受けることができるのかが分かったり、大学生活はもちろんですが、卒業後の進路についても考えるきっかけになります。もし悩んでいるのであれば、まずは、学生支援をしてくれる部門に行って相談してみるとよいでしょう。
まとめ
発達障害学生が抱える大学生活の困りごととその解決方法、合理的配慮について見てきました。不安を抱える本人は一人で悩みがちですが、多くの大学では学生支援室、障害学生支援室等を設けていて、ここに相談することによって、合理的配慮に基づいたサポートを受けることができます。
合理的配慮は個々の学生の状態や特性などに応じて提供するもので、多様性があり、個別性が高いものです。大学は、障害のある学生が他の学生と同じように教育を受けたり、研究に参加できる機会をもてるように、合理的配慮の検討や実施を行っています。
もし学生生活に悩んでいることがあれば、まずは、学生支援をしてくれる部門に行って相談してみるとよいでしょう。
参考
【発達障害】自閉スペクトラム症(ASD)の特性や困難さの感じ方
発達障害者(自閉症スペクトラム)と一緒に働くときの配慮とは?
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