2026年8月1日更新
ADHDのある社員について、管理職から次のような相談を受けることがあります。
「何度伝えても締切を忘れてしまう」
「確認漏れやケアレスミスが繰り返される」
「複数の仕事を頼むと、どれかが止まってしまう」
「本人も努力しているが、なかなか改善しない」
「どこまで配慮し、どこから本人に改善を求めればよいかわからない」
同じミスが続くと、管理職は説明や注意を繰り返します。しかし、「次から気をつけてください」「もっと確認してください」と伝えても、再び同じ問題が起きることがあります。
このような状況があるときには、本人の注意力や意欲だけでなく、仕事の渡し方にも目を向ける必要があります。
優先順位が明確になっているか、期限や完成状態が具体的に示されているか、途中で別の依頼が入ったときに何を優先するか決まっているか。本人が仕事を進めるために必要な情報が、判断できる形で伝わっていない可能性があるからです。
つまり結論をお伝えすると、ADHDのある社員にミスや締切遅れが見られるとき、本人の注意力だけを改善しようとしても解決しないことがあります。優先順位、期限、完了基準、途中確認、報告のタイミングを明確にし、本人が判断しやすい仕事の進め方を設計することが重要です。
- ADHDのある社員のミスを、本人の不注意だけで考えてはいけない理由
- 職場で起きやすい優先順位・期限・報告のズレ
- 注意を繰り返す前に見直したい仕事の渡し方
- 合理的配慮と、本人に求める役割の整理
- 管理職と人事が共有すべき判断の視点
ADHDのある社員のミスを、本人の不注意だけで考えない
ADHDには、不注意、多動性、衝動性などの特徴が見られることがあります。
ただし、同じ診断名でも、仕事への影響や本人が困っていることは異なります。すべてのADHDのある社員に、同じミスや働きにくさが見られるわけではありません。
また、仕事上の問題は、本人の特性だけで起きるものでもありません。
例えば、次のような職場環境では、確認漏れや締切遅れが起きやすくなります。
- 複数の仕事を同時に頼まれる
- 口頭で依頼され、記録が残らない
- 「早めに」「時間があるときに」など、期限が曖昧である
- 途中で新しい依頼が入り、優先順位が変わる
- 電話や声かけによって、作業が頻繁に中断される
- 仕事の完成状態や確認項目が示されていない
このような状態でミスが起きたとき、本人へ「注意してください」と伝えるだけでは、何を変えればよいのかがわかりません。
本人の特性と仕事の進め方の接点を確認し、ミスが起きにくい業務設計へ変えることが必要です。
ADHDのある社員との間で起きやすい4つのズレ
ADHDのある社員への職場対応を考えるときには、ミスの回数だけを見るのではなく、本人と管理職の間で何がずれているのかを確認します。
1.優先順位のズレ
管理職は「当然、この仕事を先にするだろう」と考えていても、本人は別の仕事を優先していることがあります。
例えば、複数の依頼を渡した際に、本人が依頼された順番に進めている一方、管理職は締切が近いものから進めることを期待している場合があります。
また、新しい仕事を頼まれたときに、本人が「今の仕事を中断して、新しい仕事を先にするべきだ」と受け取ることもあります。
優先順位は、本人の判断に任せるだけでなく、必要に応じて具体的に示します。
- 最初に取り組む仕事は何か
- その次に進める仕事は何か
- 途中で新しい依頼が入った場合、誰に確認するか
- 優先順位を本人が変更してよい範囲はどこまでか
「優先して」と伝えるだけでなく、他の仕事との順番まで示すことが重要です。
2.期限と完了基準のズレ
「早めにお願いします」「できたところまで見せてください」といった表現は、管理職にとっては日常的でも、本人には判断しにくい場合があります。
早めとは今日中なのか、今週中なのか。できたところまでとは、資料を集めた状態なのか、下書きを作った状態なのか。本人と管理職が異なる状態を想定していると、締切遅れややり直しが生じます。
依頼するときには、次の内容を具体的にします。
- 提出する日時
- 提出する形式
- 必要な項目
- どの状態になれば完了か
- 途中で確認する必要があるか
例えば、「なるべく早く資料をまとめてください」ではなく、「木曜日の15時までに、指定した3項目をExcelへ入力し、私にメールで送ってください」と伝えると、本人が行動を判断しやすくなります。
3.複数業務と中断のズレ
仕事を進めている途中で、別の依頼や質問が入ることは、職場では珍しくありません。
しかし、作業が中断されると、どこまで進めたのか、次に何をする予定だったのかがわからなくなることがあります。
その結果、新しい仕事には取り組んだものの、元の仕事へ戻れない、締切直前まで未完了に気づかないという状況が起きます。
このような場合には、次のような方法を検討します。
- 現在進めている仕事を一覧にする
- 中断したときに、再開する場所を記録する
- 新しい依頼を受けた際、優先順位を確認する
- 同時に抱える仕事の数を整理する
- 集中が必要な業務を行う時間帯を決める
すべての仕事を一つずつ渡す必要はありません。本人が自分で管理できる範囲と、管理職による整理が必要な範囲を確認します。
4.報告・確認のタイミングのズレ
管理職は「困ったら相談してほしい」と伝えていても、本人は、どの状態を「困っている」と判断すればよいかわからない場合があります。
本人が自分で解決しようとして時間がかかり、締切直前になってから問題が明らかになることもあります。
報告や相談を本人の感覚だけに任せず、必要に応じて確認するタイミングを決めます。
- 作業を始める前に、進め方を確認する
- 一定の工程が終わったら報告する
- 予定時間を超えたら相談する
- 判断できない状態が続いたら確認する
- 締切の前日に進捗を共有する
「わからなかったら聞いてください」ではなく、「30分考えても進め方が決まらない場合は相談してください」と伝えることで、相談の目安がわかりやすくなります。
注意を繰り返す前に、仕事の進め方を見直す
同じミスが続くと、管理職は「前にも説明した」「本人が確認していない」と感じます。
もちろん、本人が決められた確認を行うことは必要です。しかし、注意を繰り返しても同じ問題が起きる場合には、本人が実行できる形で仕事が設計されているかを確認します。
タスクと優先順位を見える形にする
口頭で複数の仕事を伝えるだけでなく、本人が後から確認できる形にします。
例えば、タスク管理表、共有システム、メール、チャット、付箋などを活用できます。
ただし、ツールを導入するだけでは十分ではありません。
- 誰がタスクを登録するのか
- 優先順位を誰が変更するのか
- 完了した仕事をどのように記録するのか
- 管理職はいつ進捗を確認するのか
という運用方法も決める必要があります。
大きな仕事を小さな工程に分ける
完了までに時間がかかる仕事では、最終期限だけを伝えても、途中の進め方がわからないことがあります。
例えば、資料作成であれば、次のように工程を分けます。
- 使用する資料を集める
- 構成と見出しを作る
- 必要なデータを入力する
- 途中段階で方向性を確認する
- 修正して完成させる
仕事を分ける目的は、本人を細かく監視することではありません。
早い段階で認識のズレを確認し、本人がやり直しを減らしながら仕事を進められる状態をつくることです。
チェックリストは確認する場面とセットで使う
チェックリストは、確認漏れを防ぐために役立つことがあります。
しかし、項目を作成するだけでは使われなくなることもあります。
チェックリストを使用する場合は、
- どの作業で使用するのか
- いつ確認するのか
- 完了後に誰が見るのか
- 項目が多すぎないか
- 実際にミスを防ぐ内容になっているか
を確認します。
本人に「チェックリストを使ってください」と渡すだけでなく、仕事の流れの中に確認する場面を組み込むことが重要です。
ミスが起きたときは、行動と仕組みを振り返る
ミスが起きた場合には、本人の性格や意欲ではなく、職場で確認できる行動をもとに振り返ります。
例えば、
- 依頼内容を記録していなかった
- 優先順位を確認しないまま進めた
- 途中で別の仕事が入り、元の仕事へ戻らなかった
- 確認項目が多く、一部が抜けた
- 困っていたが、報告のタイミングがわからなかった
など、どの場面で問題が起きたのかを整理します。そのうえで、本人が次に行う行動と、管理職が変更する仕事の渡し方を分けて考えます。
配慮と、本人に求める役割を分けて考える
ADHDのある社員への対応では、業務の進め方を工夫することと、仕事上の責任を求めないことが混同される場合があります。
例えば、会社として次のような調整を行うことができます。
- 優先順位を明確にする
- 依頼内容を文字でも残す
- 途中確認のタイミングを決める
- 集中しやすい時間や環境を確認する
- タスク管理の方法を一緒に整理する
一方で、本人にも次のような行動を求めることができます。
- 決めた方法でタスクを確認する
- 優先順位がわからない場合は相談する
- 約束したタイミングで進捗を報告する
- ミスが起きた場合に、原因と次の行動を振り返る
- 使用すると決めた確認方法を継続する
合理的配慮は、本人に仕事を求めないことではありません。
本人が役割を果たしやすい環境を整えたうえで、どの行動を本人に求めるのかを明確にすることが大切です。
ADHDのある社員に向く仕事を、職種名だけで決めない
ADHDのある人には、この仕事が向いている、この仕事は向いていないと紹介されることがあります。
しかし、診断名だけで適職を決めることはできません。
同じ職種でも、次のような条件によって働きやすさは変わります。
- 業務の変化が多いか、一定の手順で進められるか
- 同時に複数の仕事を管理する必要があるか
- 集中を妨げる中断が多いか
- 期限や完了基準が明確か
- 本人の経験や得意分野を活かせるか
- 相談や確認をしやすい体制があるか
仕事の名称から判断するのではなく、業務を構成する要素と、本人の能力、経験、得意なこと、苦手なことを照らし合わせます。
管理職だけで対応を抱えない
業務の優先順位や日常的な指示は、管理職が中心となって整理します。
一方で、対応が長期化している、業務内容を大きく変更する必要がある、評価や配置に影響する場合には、管理職だけで判断しないことが重要です。
人事や障害者雇用担当者と、次の内容を共有します。
- どのようなミスや遅れが起きているか
- どのような仕事の渡し方をしているか
- 本人と確認した内容
- 現在行っている調整
- 改善したことと、改善していないこと
- 今後、組織として判断する必要があること
管理職によって指示方法や求める基準が異なると、本人も仕事の進め方を判断できません。
どのような場面で優先順位を示し、どの段階で途中確認を行い、問題が続いた場合に誰と考えるのかを、組織で共有しておく必要があります。
自社の業務設計を確認する7つの質問
ADHDのある社員への仕事の渡し方について、次の項目を確認してください。
- 複数の仕事を渡すときに、優先順位を示しているか
- 期限を日時で具体的に伝えているか
- どの状態になれば仕事が完了したといえるか共有しているか
- 大きな仕事を、必要に応じて小さな工程へ分けているか
- 途中確認や報告のタイミングを決めているか
- ミスが起きたとき、注意だけでなく仕事の進め方も見直しているか
- 配慮することと、本人に求める行動を分けて説明しているか
複数の項目で答えに迷う場合、本人の注意力だけではなく、仕事の渡し方や管理体制を見直す必要があります。
よくある質問
Q:ADHDのある社員には、一つずつ仕事を渡すべきですか
すべての仕事を一つずつ渡す必要はありません。本人が複数の仕事を管理できる範囲を確認し、必要に応じて優先順位や期限を見える形にします。
重要なのは、仕事の数を一律に制限することではなく、本人が次に何を行うかを判断できる状態をつくることです。
Q:ADHDのある社員が集中できないときは、静かな席へ移せばよいですか
静かな席が有効な場合もありますが、作業環境だけで解決するとは限りません。
周囲の音や人の動きだけでなく、電話や声かけによる中断、複数業務の同時進行、優先順位の変更、仕事の区切りが不明確であることなどが、集中しにくさにつながっている場合があります。
まず、どの業務で、どのようなときに作業が止まるのかを確認します。
そのうえで、集中が必要な時間帯を決める、依頼を記録に残す、中断後の再開位置を明確にする、同時に抱える仕事を整理するなど、本人と会社の双方が実施可能な方法を検討します。
Q:チェックリストを使えば、ミスはなくなりますか
チェックリストは、確認漏れを減らすために役立つ場合がありますが、使用するだけですべてのミスがなくなるわけではありません。
項目が多すぎる、確認する時間が決まっていない、実際の作業と合っていない場合には、使われなくなることもあります。
どの作業で、いつ、どの項目を確認するのかを、仕事の流れに組み込むことが必要です。
Q:同じミスを繰り返す場合、注意してもよいですか
仕事上必要なフィードバックや指導は行えます。ただし、「何度言えばわかるのか」「注意力が足りない」と人格や特性を責めるのではなく、職場で起きた事実と業務への影響を具体的に伝えます。
そのうえで、本人に求める次の行動と、管理職が見直す仕事の渡し方を整理します。
Q:ADHDのある社員に向いている仕事はありますか
診断名だけで、向いている仕事を決めることはできません。
本人の経験、得意なこと、苦手なことに加えて、仕事の変化、中断の多さ、優先順位の明確さ、集中できる環境などを確認します。
職種名ではなく、業務の内容や進め方との相性を見ることが重要です。
Q:ミスが続く場合、合理的配慮として業務を減らすべきですか
すぐに業務を減らす必要があるとは限りません。
まず、優先順位、期限、完了基準、途中確認などを整理し、仕事の進め方を調整できないか確認します。
業務量の調整が必要な場合には、何を、どの期間変更し、いつ見直すのかを決めます。長期的な業務変更や配置に関わる場合は、管理職だけで決めず、人事と検討します。
まとめ
ADHDのある社員にミスや締切遅れが見られるとき、本人の注意力や意欲だけに原因を求めても、同じ問題が繰り返されることがあります。
優先順位、期限、完了基準、途中確認、報告のタイミングが、本人に判断できる形で示されているかを確認することが重要です。
一方で、配慮として仕事の進め方を調整することは、本人に責任を求めないことではありません。会社が調整することと、本人に行動として求めることを分け、双方が確認できる形にします。
また、対応を管理職個人の経験に任せると、同じ状況でも仕事の渡し方や評価が変わります。
ミスへの注意を繰り返す前に、本人が役割を果たしやすい業務設計になっているかを、管理職と人事で見直すことが必要です。
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