新型コロナの影響で、多くの企業がテレワークを導入するようになりました。このような中で、障がい者雇用においてもテレワークによる新たな働き方を進める企業が増えています。
しかし、テレワークで精神障がい者を雇用できるのか・・・と不安に感じる企業は少なくありません。そのような中で、テレワーク勤務での精神障がい者雇用を進めている企業、ヤマトシステム開発株式会社(以下、YSD)さんの取り組みについてお聞きしました。
ヒアリングには、ITオペレーティングカンパニー事業推進派遣グループの金子様、長尾様、人事部の半田様にご協力いただきました。
注)障害者雇用ドットコムでは、「社会モデル」の考え方を取り入れ、「障害」表記をしていますが、今回は、ヤマトシステム開発株式会社さんのポリシーに基づき「障がい」表記となっています。
ヤマトグループにおける障がい者の取り組み
ヤマトグループの障がい者雇用と言えば、「障がい者の月給一万円からの脱却」を書いた小倉昌男氏の著書「福祉を変える経営」やスワンカフェ・ベーカリーなどが有名ですが、その他にも障がい者に関する積極的な取り組みが行われています。
どのような取り組みが行われているのかを、まず見ていきたいと思います。
スワンカフェ・ベーカリー事業
障がい者の雇用・収入の確保・自立支援などをサポート。全国にパンの製造販売やカフェを行うチェーン店舗を展開している。
障がい者のクロネコDM便配達事業
障がい者が地域で共生するために必要な仕事創りの一環として、ヤマト運輸株式会社の「クロネコDM便配達業務」を斡旋している。
ヤマト自立センターの就労移行支援事業
障がい者の自立支援を目的とし、就労に必要な知識や技術の習得、就労先の開拓、就労後の定着まで利用者が地域で自立して働けるように支援している。
障がい者の働く場パワーアップフォーラム
「経済的自立力を備えた新しい福祉」の可能性を講師の方々と共に考え、各地の実践報告をおこなう場として、幅広く参加者を迎えたパワーアップフォーラムを開催している。
「夢へのかけ橋」実践塾
「経済的な自立力を備えた新しい福祉」に向かって行動を起こす施設の合同研修会を開催している。2年間PDCA サイクルをかけて成果を出す取り組みとなっている。
障がい者福祉助成事業
障がい者施設・団体を対象に、障がいのある方の収入確保のための新規事業の立ち上げや生産性向上に必要な設備や機器を購入にかかる資金の助成を行っている。また、障がいのある学生への奨学金を支給している。
ヤマトグループでは、障がい者の支援に向けたさまざまな取り組みが行われており、障がい者雇用が進んでいるイメージがありますが、実は、YSDでは一時期、障がい者の雇用が進んでない時期があったそうです。どのような経緯があったのか、またそれに対する取り組みについて、見ていきたいと思います。
YSDの障がい者雇用の取り組み
YSDでは、一時期、障がい者の雇用が進まない時期がありました。それは、障がい者の雇用を担っていた部門がグループ内での事業統合により、別の会社に移管されてしまったためです。
それにともない、新たに障がい者の雇用を人事部が中心となり進めることになりました。障がい者雇用を担う部門として人事部では、いろいろな検討を行った結果、人事部が中心となり、事業推進する各部門で障がい者雇用を進めていく方針で決まりました。
社内全体としては、これまでにも障がい者雇用を進めていたため、理解がありました。しかし、今までは、担当してもらっていた仕事は社内の清掃や社内書類の配布が中心でしたが、各部門で雇用していくためには、デスクワークを中心とした仕事を担当してもらう必要がありました。
また、障がい者雇用に関する採用市場が変化しており、今までは身体障がい者の採用をメインにしていましたが、精神障がい者の採用も検討する必要性が出てきていました。大きく違っていることに、受け入れることになった対象の部門では、会社の方針は理解できるものの、実際に仕事で何ができるのだろうと不安を感じたそうです。
その中の1つの部門、ITオペレーティングカンパニーでも、今まで進めてきた障がい者雇用とは違ったかたちでの新たな雇用の創出を目指すことになりました。
実際に採用するまでには、障がい者雇用に関する知識を習得するために無料・有料問わず、セミナーや企業見学へでかけ、情報収集からはじめました。その後、障がい者の人材紹介や就労移行支援センターとのネットワークを築き、採用活動を行いました。
このような活動を経て、2018年の10月に2名の精神障がい者を受け入れました。事前に準備をおこなってきたものの、やはり受け入れる時には、不安や心配があったそうです。
実際に一緒に働いてみると、障がいを持つ方は音のない静かな環境が苦手だということや、暗黙の了解を察することが得意でないことがわかりました。一方で、配慮や制限はあるものの、その人の個性や配慮事項を理解することで、能力を発揮してもらえるのだということに気づいたそうです。
しかし、残念ながら雇用した2名は定着しませんでした。その理由を次の3つに分析されています。
原因①:職場環境になじめなかった。
原因②:仕事を依頼する際、業務指示と実際に作業するタスクを整理できなかった。
原因③:業務の片手間で担当者がサポートしていたため、本人と向き合いきれなかった。
これらの理由の他に、障害者の中には、働きたいけれど通勤ができない方や、スキルがあっても人と接することへの恐れがある方もいると考え、次の採用活動ではテレワークで行える仕事を募ることにしたそうです。
実際にテレワーク勤務の採用活動をしてみたところ、志望動機の中に、通勤がストレスになっていた、在宅で働きたかったという意見が多く、テレワーク勤務へのニーズが高いことがわかりました。
また、一般的に、精神障がい者の雇用管理は難しいと言われていますが、継続的に働いてもらえるよう、入社した方が安心して働ける体制を作りました。チャットやWEB会議を活用し、気軽に日々のコミュニケーションを取れるようにしています。
例としては、業務ごとのグループトークを活用して、気軽に質問ができるようにしたり、週に1度の振り返り面談を行ない、目標管理や生産性の向上につなげています。また、仕事のことだけでなく、信頼関係を構築するために、あえて日常会話をする時間も設けています。
このような取り組みは、テレワークしている社員から「対面だと緊張していてうまく伝えることができないが、顔を見ることもできるTV会議だと落ち着いて話せる」「チャットの短い文章がわかりやすく、履歴も残るので見直すことができて安心」という意見があり、好評のようです。
採用は、人材会社を通してアセスメント後に面接をおこないます。面接では、障がいについての理解やパソコンスキル、コミュニケーションなどの自己管理ができることを重視しています。過去に、採用した方の中には、さまざまな資格をもつ方もいたそうですが、資格があったとしても、それが業務に直結するわけではないと感じ、現在の採用では、特別なスキルは求めていません。
仕事内容については、1年目は定量的な仕事を中心とし、2年目以降、質なども見ながら、定性的な業務が任されます。
体調管理については、YSDで開発した点数で体調を判断できる専用システムを用いた体調報告を行って、点数が低いときには、業務管理者が体調を把握し状況に合わせた対応や、フォローがおこなわれます。
このようなテレワークでの雇用を進めてきて感じたことは、テレワークだからこそ「本人の自主性を高めて業務してもらえる」メリットがあることです。また、社員の中には、体調管理も含めて自己理解や自己管理の意識が高まっている効果もあります。
また、チャットなどを通しての指示は、会話の内容を振り返ることができるので、指示の抜け漏れも少なくなったという効果もありました。
社内で精神障がい者へのテレワーク導入の取り組みに成功した経験を基に、他の企業に対して障がい者雇用の推進を支援するためのサービスを提供しています。どのようなサービス提供しているのかについては、後編でお伝えしていきます。
テレワークで働いている障がい者の方はどんな人か
YSDでは、いろいろな障がい者の方が活躍しています。
年齢:30~50代の方が中心
職業経験:就業の経験がない方から、元公務員、元営業管理者などの方など
障がい:肢体障がい、神経症(不安障がい等)、双極性障がい、ASD、ADHD等
基本的にテレワークでの勤務を前提としているものの、導入時には出社してもらう機会を設けていることから、現在、雇用されている方は、関東圏に住んでいる方が中心となっています。
ヤマトシステム開発株式会社のホームページはこちらから
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ヤマトシステム開発株式会社
まとめ
YSDさんの精神障がいの方のテレワークの取り組みについてお聞きしました。
今まで障がい者雇用を主に担ってきた部門が移管されるという変化から、新たな障がい者雇用にチャレンジする状況になりました。YSDさんでは、「まず、やってみよう」という社風もあり、前向きに取り組んでこられたことをお聞きすることができました。
事前にいろいろな準備や支援機関との連携を築いてこられたものの、実際に精神障がい者を雇用し、うまくいかないこともあったそうです。それでも軌道修正をかけながら、今の形を作られてきたことがわかります。はじめてのことは不安が伴うものですが、まずはじめてみる、そして、よりよい方法を検討してみることが大切だと改めて感じました。
コロナ禍の中で働き方も変化しつつあります。障がい者雇用も変わっていくことが求められている中で、YSDさんの取り組みは、精神障がいの方がテレワークで仕事ができる体制づくりや仕組みづくり、そして適切な配慮などを示す事例になると感じます。
参考
Withコロナの障がい者雇用の働き方~テレワークで障がい者の可能性を引き出す~後編~
【GBOの雇用後編】精神・発達社員が活躍するテレワーク3つのポイント
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