特例子会社は、障害者雇用を進めるための制度で、特別の配慮をした子会社を設立して要件を満たすことにより、特例子会社に雇用されている障害者が親会社や関係会社に雇用されているものと見なされて、障害者の雇用率として含めることができる制度です。
障害者雇用がなかなか進まなかったり、本体や子会社と同じ人事制度で雇用することが難しい場合に、特例子会社を作ることによって障害者雇用を促進できることや、効率的に設備投資できるなどのメリットがあります。一方で、雇用してから数年経つと支給される助成金なども減少していき、本体からも事業として独り立ちすることが求められる場合も少なくありません。
そんな状況になると、特例子会社が独自に事業をしていくことや、親会社や関係会社以外からも仕事ができるようにしたいと感じるかもしれません。このようなときに考えていくべき点はどのようなことなのか見ていきたいと思います。
特例子会社で親会社や関係会社以外にも事業を広げていきたい
「特例子会社で親会社や関係会社以外にも事業を広げていきたい」という相談をいただくことがあります。営業方法がわからない、そこを解決することで、外部からの営業先を確保したいということが趣旨のようです。
特例子会社であっても、一企業であり、事業内容と採算が合うものにしたいという考えはよくわかります。確かに外部への営業ができ、それを受注できれば、事業の幅は広がっていくでしょう。ただ、営業の前に考えていただきたい点は、親会社や関係会社以外へも事業を広げていくということは、特例子会社が行っている業務は、そもそも競合他社と太刀打ちできるものになっているのかという点です。
最近は、マーケティングや営業もWEBを活用して、大変効率的に、また効果的に行なうことができるようになりました。オウンドメディアやSNS、広告などを活用して成功している事例も多く見聞きするので、それらを活用すれば何か事業に広がりが持てるのではないかという期待も持ちたくなるでしょう。
しかし、このようなマーケティングや営業が成果を出せるかどうかは、まず特例子会社が行っている事業内容そのものが、他の一般的な競合会社と比較して優位なことや強みが示されているのかという点をクリアしていることが求められます。それができていないと、マーケティングや営業に費用を費やしたとしても成果にはつながらず、かなり厳しいものになるでしょう。
特例子会社で行っている業務で多いもの
特例子会社の業務として多いものは、「障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査調査結果」(野村総合研究所、2018年12月)から示されているので、この調査から見ていきたいと思います。なお、この調査は特例子会社464社中、有効回答数が200社(有効回答数43.1%)となっています。
業務内容として多かったものは、次のとおりです。
・事務補助 79.1%(155社)
・清掃、管理 50.0%(98社)
・その他 30.1%(59社)
出典:「障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査調査結果」(野村総合研究所、2018年12月)
その他の業務30.1%に含まれるものは、次のとおりです。仕事内容は多岐に渡りますが、大きな分類をすると事務代行やパソコンを使用した事務補助、軽作業にあたるものがほとんどです。
出典:「障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査調査結果」(野村総合研究所、2018年12月)
業務内容から事業に格上げするために必要なこと
特例子会社で行われている業務の多くは、親会社や関係会社で既に行われている業務の一部を持ってきたり、ニーズがありそうなことを新たに業務としたり、派遣やアルバイト、外注などで行っていた業務を内製化することで、業務とすることが多くなっています。
特例子会社を立ち上げてしばらくは、会社運営を軌道にのせることでいっぱいかもしれませんが、ある程度の目安ができたら、その業務を事業にしていくことを考えていく必要があるでしょう。
また、親会社、関係会社以外の外部からの業務受注を得たいのであれば、外部の企業がどのようなサービスを提供しているのか、またそもそも一般的にはどれくらいの市場価値があるのかを調べてみることも必要です。どれくらいのニーズがあり、顧客層はどのような人たちで、一般的な価格はどれくらいかを見ると、自社の状況や強みがわかってくるかもしれません。
もし、強みが明確になっていない場合や、そもそも事業の内容やビジネスモデルが弱い場合には、マーケティングや営業を行う前に、事業計画の見直し、または新規事業を考えたほうが良い場合もあります。
ちなみに親会社、関係会社からの業務の割合は、さきほどの調査結果を見ると、50%以下と半分以下の割合は8.5%でした。100%の会社は43.5%、75~100%未満の会社が42.5%と8割強が親会社や関係会社からの業務を行っていることになります。
出典:「障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査調査結果」(野村総合研究所、2018年12月)
特例子会社の業務先の多くが親会社や関係会社からだと言うことに対して、自立できていないという意見もありますが、そもそも特例子会社の設立の目的や企業毎によって異なります。外部の人間がとやかく言うことではないと思いますし、親会社や関係会社の間でしっかり意思統一ができていれば問題はないでしょう。
ただ、経営環境や経営陣が変わっていく中で、特例子会社設立時の意義やどのような位置づけをするのかに変化が起こることがあります。そのようなときには、早めに対応していくことが必要です。
特例子会社設立時に考えておくべきこと
特例子会社を設立する場合、多くの企業では障害者雇用率を達成することに注意がいき、5年後、10年後の運営や中期経営計画、親会社や関係会社との関係性については、あまり明確に決めないままになっているところも多いようです。
もちろん将来のことは予測不能なことは多いものですが、少なくとも設立時には、5年、10年のビジョンや組織の中において特例子会社をどのような立ち位置にするかというのはわかるような形で示しておくとよいでしょう。
また、はじめは親会社や関係会社の仕事を中心にしていても、どこかで特例子会社に独り立ちしてほしいと考えているのであれば、その準備や人材育成、人材補充をしていく必要もあります。
まとめ
特例子会社の運営や事業の拡大について考えてきました。特例子会社と言うと、一括にまとめられてしまいがちですが、親会社の業種、従業員数、障害者雇用の考え方など異なりますので、それぞれの組織に合った障害者雇用や特例子会社を運営していくことが求められます。
特例子会社の中では、親会社や関係会社以外からの仕事を行う割合は一般的にかなり低いものですが、その必要性に迫られているのであれば、単に業務を外部から持ってくるという考え方からは脱却し、自分たちの強みは何か、どんなコトができるのかを真剣に考え、ビジネスモデルを構築する必要があります。
特例子会社で、障害者がたくさんいるのに強みなどあるのかと思われるかもしれませんが、親会社や関係会社の強みや影響力も強みになる可能性がありますし、地域性なども関わってきます。また、社会には必要とされる新しい事業や業務が次々と生まれています。目の前のコトだけでなく、少し視野を広くもつことで新しい事業や取引先が生み出される可能性は広がっていると言えるでしょう。
特例子会社の設立や新規事業企画などに携わった経験から、課題を整理し、具体的なアドバイスをすることができます。
参考
特例子会社のメリット・デメリット~制度や仕組みについて考える~
特例子会社の実態~障害者雇用を推進していて課題に感じている点~
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