特例子会社の設立を考えている企業の方にお伝えしておきたいこと、それは、設立は簡単ですが、経営・運営していくのは、なかなか厳しいという現実です。
特例子会社を検討されている会社の方とお話すると「特例子会社を作れば障害者雇用がすべて解決される」と過度な期待を寄せているように感じることがしばしばありますが、この問題をクリアにしておかないと、設立後に厳しい状況に陥ることになります。
そうならないために考えておくべきポイントについて、説明しています。
特例子会社を設立するのは簡単、ただし運営は難しい
特例子会社制度は、事業主が障害者の雇用に特別の配慮をした子会社を設立した場合、一定の要件を満たすことによって、その子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなし、実雇用率を算定することができる制度です。つまり、特例子会社で雇用している障害者の雇用率を、親会社(関係会社)の雇用率とみなすことができます。
しかし、考えておくべき点は、雇用率のことだけではありません。特例子会社は、「障害者の雇用率をカウントする」という意味では、その名の通り特例部分がありますが、設立後には、1つの企業として経営・運営していくことが求められるからです。それは、一般の企業でも売上をあげるために、日々努力して、新しいサービスや目新しい企画を作り出していかなければ、存続することが難しいように、特例子会社も同じように売上を上げていく必要があります。
また、障害者雇用では、障害者を雇用したときに多くの助成金を受け取ることができますが、それも一段落つくと、助成金は減っていく一方になります。そのため、特例子会社を継続的に経営・運営していくためにどのように事業開発を行っていくのか、親会社(関係会社)との間で、障害者雇用についての理解を相互に深めていく努力と合わせて、欠かせないものとなっています。
特例子会社自体は、設立するのは難しいことではありません。特例子会社を設立することは、一般の会社を作るのと同じように書類を整えて提出すればできます。しかし、問題は設立したあと、継続的に特例子会社を経営・運営し続けられるようにすることです。
特例子会社設立を考えている企業のなかには、「特例子会社を作れば障害者雇用がすべて解決される」と過度な期待を寄せているように感じることがしばしばありますが、この問題をクリアにしておかないと、設立後に厳しい状況に陥ることになります。
ちなみに特例子会社の設立を検討する上で、考えられるメリット・デメリットは、次のことです。
特例子会社設立のメリット
・障害者雇用に関する配慮が行ないやすくなる。
・設備投資が効率よくできるため重度障害者に合わせた職域の整備が可能になる。
・業務・コストを集中させることができる。
・障害者雇用の助成金が利用できる。
・親会社と切り離して独自制度の設計と運用が可能となる。
・会社のイメージが向上する。
特例子会社設立のデメリット
・親会社(関係会社)の障害者雇用の意識が薄れてしまう。
・特例子会社自体の業務のバリエーションが少ないため障害者のキャリア形成が難しい。
特例子会社を設立し、多くを見学したなかで、やはり大きなメリットとなると感じることは、親会社と切り離した独自の制度設計と運用が可能となる点です。親会社と切り離した給与テーブルや人事評価制度を特例子会社独自で作れますし、障害の特性上、長時間勤務が難しい場合にも短時間勤務といった労働条件設定も行いやすくなるからです。
特例子会社設立を考えたら読んでおくべき本
特例子会社の立ち上げを経験し、これから特例子会社をつくるべきかと考えている方向けに電子書籍「特例子会社の設立を考えたら必ず読む本」を執筆しました。
この本では、特例子会社とはどのようなものなのか、設立するまでにどのような手続きが必要なのか、設立することのメリットやデメリット、特例子会社の抱える課題、実際に運営されている特例子会社の事例、これからの特例子会社に求められることについてお伝えしています。
また、私が実際に特例子会社を立ち上げたときのこと、悩んだことを含め、他の数多くの特例子会社を見学やヒアリングした中で役にたつと思う情報をしっかり詰め込んだ物となっています。
特例子会社を立ち上げるときには、おそらく同じ地域で特例子会社を設立している会社に見学にいくことも多いと思いますが、多くの場合、特例立ち上げから数年経つと、設立時に関わった人はほとんどいなくなっており、設立時の押さえておくべきポイントについて、聞けなかったりすることが多くあります。
もちろん運営という面や、どのような仕事をしているのかということを見る上では役立つと思いますが、ゼロからのスタートを考えるときには、この本を読んでからはじめてください。
特例子会社を設立する上で、絶対に考えておくべき点
「特例子会社」と一言でいっても、障害者雇用を促進するという目的は共通するものの、さまざまな特例子会社があります。それは、親会社の考え方やその他の環境や状況によって大きく異なるからです。
また、障害者雇入計画書を提出していると、特例子会社の立ち上げを検討することで社名公表を一時的に回避できることからも、とりあえず特例子会社を立ち上げようという話になりがちですが、特例子会社はできてからがスタートになります。仕事ももちろんですが、雇用する障害者やプロパー社員のことも考えていく必要がありますし、助成金が減っていく中で、どのように売上を作っていくかが大きなポイントとなります。
その上で大切なのは、ビジネスモデルを考えるという視点です。障害者にできる仕事はないかという点から業務を作っても、もしかしたらその業務がなくなることも十分ありえることです。私も親会社からの業務を切り出して、やっと障害者社員が仕事ができる状態になったときに、景気の悪化により、親会社の社員の仕事が減少したために仕事を返還してほしいと言われた経験があります。
また、さまざまな業務が電子化されたり、ペーパーレス化されたり、コロナのような環境の変化で働き方が一気に変わるということも十分ありえます。たとえ今、切り出した仕事が5年後、10年後も続けられるかどうかは、誰にもわかりません。
そうした中で、現状の仕事を確保しつつ、どのような分野で収益をあげていくのか、もし、今、スキルや実績が伴っていないのであれば、数年後先に収益化できるようにどのようにビジネスモデルを構築していくのか、時代のニーズは何かなどを考えながら、それに合わせたスキルアップ、研修、スタッフ育成をしていくことが必要となっています。
特例子会社の設立を考えるときには、長期的な視点をもち、特例子会社を設立することが適しているのかどうかを慎重に検討しつつ、事業構築ができる人材を投入することを合わせて検討しておくとよいでしょう。
まとめ
特例子会社を設立するかどうかを検討する時に考えてほしい点として、「設立後の運営」について説明してきました。
多くの特例子会社の仕事内容を見せてもらってきて、それぞれの会社が頑張っているのを感じます。一方で、業種や職種にもよるかもしれませんが、特例子会社を経営、運営していくのは、なかなか難しいとも感じています。
ただ、障害者雇用だけという視点や枠組みを少し広げて考えると、また、違った方向性が見えてくることもあります。障害者雇用を上手にしている会社の裏ビジネスモデルのような仕組みを作ることによって、売上やBS、PLをそれなりに整えることもできるからです。この辺については、文章にするのはちょっとどうかなという気もしますので、特例子会社の設立を検討されている方には、無料個別相談の中でお伝えしています。
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