2026年8月21日更新
若年性認知症と診断された社員について、「これまでと同じ仕事を続けてもらってよいのだろうか」「配置転換や業務変更を考えた方がよいのか」「本人にどこまで仕事を任せられるのか」「会社だけで対応するのは難しいが、どこに相談すればよいのか」と迷う企業は少なくありません。
若年性認知症は、65歳未満で発症する認知症です。働き盛りで発症することも多いため、本人や家族だけでなく、企業にとっても「仕事をどう続けるか」が大きな課題になります。
しかし、若年性認知症と診断されたことと、すぐに働けなくなることは同じではありません。
大切なのは、診断名だけで就労の可否を判断するのではなく、現在、仕事にどのような影響が出ているのか。仕事や環境を変えることで続けられることはないか。医療や外部支援から、どのような情報や支援を得る必要があるのか。を整理することです。
さらに、2026年4月からは、病気を抱える労働者の「治療と就業の両立支援」が事業主の努力義務となりました。
若年性認知症への対応も、単なる「障害特性への配慮」だけではなく、病気を抱えながら働く社員の就業継続をどう支えるかという、企業の人事・労務、マネジメント上の課題として考える必要があります。
・若年性認知症とは何か、企業が押さえておきたい基本
・2026年4月から始まった「治療と就業の両立支援」の考え方
・社員が若年性認知症と診断されたとき、企業が確認したいこと
・仕事内容や職場環境を見直すときの視点
・若年性認知症支援コーディネーターなど外部支援の活用
若年性認知症と診断されても、すぐに「働けない」と決まるわけではない
社員が若年性認知症と診断されたと聞くと、「これから仕事を続けることは難しいのではないか」と考えるかもしれません。しかし、若年性認知症の原因となる疾患や症状、進行の程度、仕事への影響は一人ひとり異なります。
そのため、「若年性認知症だから、この仕事はできない」と診断名だけで判断するのではなく、現在、実際の仕事で何ができていて、どこに難しさが生じているのかを見る必要があります。
これまでとまったく同じ仕事内容を続けることは難しくても、仕事内容や役割、勤務環境などを見直すことによって働き続けられる場合もあります。
一方で、病状の変化によって必要な対応が変わることもあります。つまり、最初に一度対応を決めれば終わりではなく、状況を確認しながら見直していくことが重要です。
若年性認知症とは?企業が知っておきたい基本
若年性認知症とは、65歳未満で発症する認知症を指します。
働き盛りの年代で発症することがあるため、高齢期の認知症とは異なり、仕事を続けられるのか。収入をどう維持するのか。家族の生活はどうなるのか。職場ではどのような対応が必要なのか。といった「就労」に関する問題が大きくなりやすい特徴があります。
また、認知症といっても原因となる疾患は一つではなく、現れる症状や経過にも個人差があります。
職場では、記憶だけを見るのではなく、これまでできていた業務でミスが増えた。仕事の段取りが難しくなった。複数のことを同時に処理することが難しくなった。これまでと仕事の進め方が変わった。といった変化として現れることがあります。
ただし、こうした変化が見られたからといって、職場が「認知症ではないか」と診断するものではありません。
職場で変化に気づいたときは「診断」ではなく「仕事上の事実」を見る
長く働いている社員について、「最近、以前とは少し違う」と上司や同僚が気づくことがあります。このとき重要なのは、職場が病名を推測することではありません。
確認したいのは、仕事上、実際にどのような変化が起きているのかです。
たとえば、以前はできていた作業で間違いが増えている。同じ説明を何度も確認するようになった。仕事の優先順位をつけることが難しくなっている。業務に以前より時間がかかるようになった。といった事実です。
これらを整理したうえで、必要に応じて産業医や産業保健スタッフ等に相談し、適切な医療につながることを考えます。
会社の役割は診断することではなく、仕事上起きていることを把握することです。この区別は非常に重要です。
2026年4月から「治療と就業の両立支援」が事業主の努力義務に
企業が若年性認知症と就労を考えるうえで、2026年は大きな変化があります。
改正労働施策総合推進法により、2026年4月1日から、病気を抱える労働者の治療と就業の両立支援に取り組むことが事業主の努力義務となりました。
これにあわせて、厚生労働省から「治療と就業の両立支援指針」が示されています。
治療と就業の両立支援とは、病気になった社員について、「働けるか、働けないか」だけで判断するのではなく、治療を受けながら働き続けるために必要な職場環境や就業上の措置を検討する考え方です。
努力義務とは「必ず雇用を継続しなければならない」という意味ではない
ここは誤解しやすいところです。
治療と就業の両立支援が努力義務になったからといって、どのような状態でも、必ず同じ仕事・同じ働き方で雇用を継続しなければならないという意味ではありません。
企業には、安全や健康を確保しながら、病状や仕事内容などを踏まえ、必要な就業上の措置や配慮を検討することが求められます。
厚生労働省の指針では、たとえば、就業場所の変更。作業の転換や業務内容の変更。労働時間の短縮。通院時間の確保。必要なフォローアップ。などが、状況に応じて検討する就業上の措置・配慮として示されています。
そして重要なのは、一度決めた措置を固定するのではなく、治療や病状の経過に応じて見直していくことです。
若年性認知症では、特にこの「見直し」の視点が重要になります。
若年性認知症も「治療と仕事の両立」という視点で見る
厚生労働省では、若年性認知症についても「若年性認知症における治療と仕事の両立に関する手引き」を示しています。
つまり、若年性認知症への企業対応は、「認知症について理解する」だけではありません。
疾病を抱える社員が、現在どのように働くことができるのかを考える。という人事・労務上のテーマでもあります。
若年性認知症だから特別な対応をするというより、病状。本人の状態。仕事内容。職場環境。医療側からの情報。などを組み合わせて、働き方を検討していく必要があります。
雇用継続を考えるときは「元の仕事ができるか」だけで判断しない
若年性認知症と診断された社員について、「以前と同じ仕事ができるか」だけで考えると、できる。できない。という二択になりやすくなります。
しかし、雇用継続を考えるときには、もう少し仕事を分けて見る必要があります。
今、どの仕事ならできるのか。何を変えれば続けられるのか。という見方です。
たとえば、複数の判断を同時に求められる仕事は難しくても、業務範囲を整理すれば遂行できることがあるかもしれません。
これまで担当していた業務全体を続けることは難しくても、一部の業務なら担える場合もあります。
逆に、本人の努力だけでは安全性や業務品質を維持することが難しくなることもあります。
だからこそ、本人の能力だけを見るのではなく、仕事との組み合わせを見ることが重要です。
若年性認知症の社員の雇用継続を考える3つの視点
対応に迷ったときは、まず次の3つに分けて考えると整理しやすくなります。
① 現在、仕事にどのような影響が出ているか
「認知症だから」という大きな括りではなく、現在の業務で何が起きているかを確認します。
できている仕事。難しくなっている仕事。間違いが生じやすい場面。安全面で気になること。周囲の支援が必要になっている部分。などを見ることで、必要な対応が見えやすくなります。
② 仕事や環境を変えることで続けられる部分はあるか
次に考えるのは、「本人をどう変えるか」だけではありません。
仕事内容や職場環境を変えることで働きやすくできないかを考えます。
仕事の範囲。役割。作業環境。勤務時間。確認方法。周囲のサポートなど、仕事側を調整できる場合があります。
ここで重要なのは、単に仕事を減らせばよいということではありません。何のために変更するのか、変更した結果どうだったのかを確認しながら見直す必要があります。
③ 医療や外部支援から何の情報を得る必要があるか
企業だけでは、病状や今後の見通しについて判断できません。一方で、主治医は職場の仕事内容をすべて知っているわけではありません。
そのため、企業から仕事内容や勤務状況について情報を提供する。本人の同意を得ながら、医療側から就業上の留意事項について情報を得る。必要に応じて外部支援機関とも連携する。という情報のやり取りが重要になります。
医療に雇用判断を任せるのでも、会社だけで病状を判断するのでもありません。それぞれが持っている情報を持ち寄って考えることが必要です。
若年性認知症支援コーディネーターという相談先もある
若年性認知症では、本人や家族、企業だけで問題を整理することが難しい場合があります。
そのときに知っておきたい支援者の一つが、若年性認知症支援コーディネーターです。
若年性認知症支援コーディネーターは、若年性認知症の本人や家族の相談に対応し、医療、介護、福祉、就労などの関係機関との調整を行う役割を担っています。
就労継続についても、必要に応じて職場などと連携しながら支援を行います。
たとえば、仕事を続けたいが、本人や家族だけでは利用できる制度が分からない。医療だけでなく、就労や生活面にも課題がある。企業側も、どの支援機関と連携すればよいのか分からない。といった場合には、相談先の一つとして考えることができます。
また、状況によっては地域障害者職業センターや障害者就業・生活支援センター、産業保健総合支援センターなど、他の支援機関との連携が役立つこともあります。
外部支援につないでも「会社の判断」がなくなるわけではない
主治医や支援機関と連携すると、「専門家に判断してもらえばよい」と思うことがあるかもしれません。
しかし、それぞれの役割は異なります。医療では、病状や治療、医学的な観点から就業上の留意事項について情報を得ることができます。外部支援機関では、本人や家族への支援、福祉や生活、就労支援などを調整できます。
一方、どの仕事を担当してもらうのか。どのような働き方にするのか。どこまで業務を変更するのか。職場としてどのような体制を整えるのか。といった雇用・業務上のことは、外部から得た情報を参考にしながら、企業が考える必要があります。
専門家と連携することと、会社が判断を手放すことは別です。
ケース|元の仕事が難しくなったら、退職しかないのか
たとえば、長年ある業務を担当してきた社員にミスが増え、受診した結果、若年性認知症と診断されたとします。
これまでと同じ仕事内容を、そのまま続けることは難しくなっていました。
このとき、「元の仕事ができないから、働くこともできない」と考えると、選択肢は非常に狭くなります。
一方で、現在できる仕事は何か。判断や記憶への負担を減らした仕事は考えられないか。業務範囲を変更できないか。職場環境を変えれば続けられる部分はないか。と見ていくと、別の選択肢が見えることがあります。
ただし、どのケースでも雇用継続できるとは限りません。本人の病状や安全性、仕事内容、会社の体制などによって判断は変わります。
大切なのは、診断名から結論を決めるのではなく、仕事との関係を見ながら判断することです。
雇用継続だけが、いつでも唯一の正解ではない
若年性認知症への支援というと、「できるだけ長く働き続けてもらうこと」だけが目標になりやすいかもしれません。
しかし、雇用継続そのものを目的にしてしまうと、本人や職場に無理が生じることもあります。
病状の変化によっては、仕事内容をさらに見直す。勤務時間を変更する。休職を検討する。就労以外の支援や福祉サービスについて考える。といった選択が必要になる場合もあります。
重要なのは、一度決めた働き方を守り続けることではなく、現在の状態に合わせて判断を更新していくことです。
社内では「誰に、何を共有するか」も考える
若年性認知症と診断された場合、社内での情報共有も課題になります。
支援するためには、上司や人事、関係する社員が一定の情報を知る必要がある場合があります。一方で、病名や健康に関する情報を必要以上に広く共有することは適切ではありません。
そのため、「全員に知らせるか、知らせないか」ではなく、仕事上必要な支援をするために、誰が何を知る必要があるのかを考えます。
本人の意向を確認しながら、必要な範囲で情報を共有することが重要です。
また、支援が特定の上司や担当者だけに依存すると、その人の異動や退職によって対応が途切れることがあります。必要な配慮や現在の業務上の対応については、組織として引き継げる状態をつくっておくことも大切です。
若年性認知症への対応で迷ったときに戻りたい3つの問い
若年性認知症の社員への対応には、一つの正解があるわけではありません。病状も、仕事も、職場環境も異なるからです。
だからこそ、「認知症だからできない」「配慮すれば働き続けられる」と最初から結論を決めるのではなく、現在の状況を見ながら、本人、医療、支援機関、企業それぞれの役割を整理していくことが重要です。
よくある質問
Q:若年性認知症と診断されたら、会社は仕事を辞めてもらう必要がありますか
診断されたことだけで、直ちに就労継続ができないと決まるわけではありません。
現在の病状、仕事内容への影響、安全性、就業上の措置によって続けられる仕事があるかなどを確認しながら検討する必要があります。
Q:2026年4月から努力義務になった「治療と就業の両立支援」とは何ですか
病気を抱える労働者が治療を受けながら働き続けるために、企業が相談対応の体制や職場環境を整え、必要な就業上の措置や治療への配慮を行う取組です。
努力義務は、すべてのケースで雇用継続を義務づけるものではありません。病状や業務、安全・健康への影響などを踏まえて個別に検討します。
Q:障害者手帳を持っていなくても、治療と就業の両立支援の対象になりますか
治療と就業の両立支援は、障害者手帳の有無を前提とした制度ではありません。
病気を抱える労働者の治療と就業の両立を支援するための取組です。
障害者雇用制度や合理的配慮とは関係する場合がありますが、同じ制度ではないため分けて考える必要があります。
Q:本人から若年性認知症だと聞いていない場合、会社から受診を求めてもよいですか
職場が病名を決めつけるのではなく、まずは仕事上起きている変化や健康面への懸念を確認することが基本です。
必要に応じて産業医や産業保健スタッフ等と連携し、適切な受診につなげることを検討します。
Q:主治医から「仕事を続けられる」と言われたら、そのまま働いてもらえばよいですか
医学的に就業可能であることと、現在の仕事内容をそのまま安全に遂行できることは必ずしも同じではありません。
主治医等からの情報を参考にしながら、実際の業務内容、職場環境、安全性などを企業側でも確認し、必要な就業上の措置を検討します。
Q:若年性認知症について企業が相談できる外部支援はありますか
若年性認知症支援コーディネーターのほか、産業保健総合支援センター、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなどが、状況に応じて相談・連携先になることがあります。
何について支援が必要なのかを整理したうえで、適切な機関につなぐことが大切です。
まとめ|診断名ではなく「今の仕事との関係」から考える
若年性認知症と診断された社員への対応では、診断されたから働けない。配慮すれば必ず働き続けられる。というどちらか一方で考えることはできません。
まず確認したいのは、現在、仕事にどのような影響が出ているのか。仕事や職場環境を変えることで続けられる部分はあるのか。医療や外部支援からどのような情報を得る必要があるのか。ということです。
2026年4月からは、治療と就業の両立支援が事業主の努力義務となりました。企業には、病気を抱える社員について、単純に「働ける・働けない」と判断するのではなく、本人の状態と仕事内容を踏まえて必要な支援や就業上の措置を検討する視点が、これまで以上に求められています。
若年性認知症への対応も、本人だけの問題として見るのではなく、仕事、職場、医療、支援をどう組み合わせるかという組織の課題として考える。
その視点が、本人と企業の双方にとって無理のない雇用継続を考える第一歩になります。
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