2027年7月23日更新
障害者雇用に取り組む企業から、よく聞かれるのが、「障害者に任せる仕事が見つからない」「各部署に依頼しても、簡単な作業しか集まらない」「採用後も、担当者が仕事を探し続けている」という悩みです。
社内に仕事が存在しないとは限りません。業務の探し方や、仕事をつくるときの出発点に問題があるため、候補となる業務が見えなくなっていることがあります。
結論から言えば、業務の切り出しがうまくいかない企業には、「障害者にできる作業」から考え、必要人数分の仕事を集め、担当者の知っている範囲だけで決めているという共通点があります。
必要なのは、簡単な作業を探すことではありません。組織に必要な成果を確認し、仕事、役割、人材要件、指示・判断・評価の方法までを、一つの業務として設計することです。
- 業務の切り出しがうまくいかない企業の共通点
- 「障害者にできる仕事」から考える問題
- 必要人数から仕事を逆算する方法が続かない理由
- 担当者だけで業務を決める問題
- 業務の切り出しを業務設計へ変える考え方
障害者雇用の業務切り出しがうまくいかない3つの特徴
業務の切り出しがうまくいかない原因は、企業によって異なります。
ただし、多くの企業を支援していると、仕事の考え方に共通する3つの特徴が見られます。
特徴1:「障害者にできる作業」から考えている
最初によく見られるのが、「障害者には、どのような仕事ができるのか」という問いから業務を探すことです。
しかし、「障害者」という言葉だけでは、任せられる仕事を決めることはできません。障害の種類や程度だけでなく、これまでの経験、専門知識、パソコンスキル、得意な仕事の進め方、必要な配慮は、一人ひとり異なります。
社内に具体的な人材像がない状態で、「障害者にできる仕事」を考えると、
- データ入力
- 書類整理
- 清掃
- 備品補充
- 郵便物の仕分け
など、担当者がイメージしやすい仕事だけに限定されがちです。
これらの仕事が不要なのではありません。問題は、「障害者でもできそう」という理由だけで候補を狭めることです。
業務を考えるときは、先に、
- 組織で後回しになっている仕事は何か
- 専門職が周辺業務に取られていないか
- 本来は継続したいが、手が回っていない仕事は何か
- 今後、組織として強化したい仕事は何か
を確認します。
そのうえで、必要な能力や経験を整理し、その役割に合う人材を採用します。
「障害者にできる仕事」から始めるのではなく、「組織に必要な仕事」から始めることが重要です。
特徴2:雇用する人数から仕事を逆算している
法定雇用率を達成することは、企業に求められる責任です。
しかし、「あと何人雇用する必要があるのか」「その人数分の仕事を、どこから集めるか」という人数だけから業務を考えると、場当たり的な仕事づくりになりやすくなります。
例えば、
- 短時間で終わる作業を複数部署から集める
- 仕事量を確保するために、必要性の低い作業を増やす
- 採用するたびに、別の仕事を探し直す
- 担当者が毎日、本人へ渡す仕事を調整する
という状態です。これでは、雇用人数は増えても、安定して続く役割はつくられません。
仕事を考えるときは、人数より先に、
- 組織としてどのような成果が必要か
- どの仕事を継続的な役割にできるか
- 一つの役割として、どの程度の業務量があるか
- 繁閑差をどのように補うか
- 本人の成長に合わせて、どのように仕事を広げるか
を確認します。
一人分の作業時間を埋めるのではなく、目的、成果、責任を持つ一人分の役割をつくる必要があります。
特徴3:担当者の知っている範囲と、現在の業務だけで考えている
障害者雇用の業務を、人事担当者や一部の現場担当者だけで考えている企業もあります。担当者が熱心に業務を探していても、把握できるのは、自分が関わっている部署や仕事の範囲に限られます。
そのため、
- 他部署で後回しになっている仕事
- 複数部署で重複している業務
- 専門職が負担している周辺業務
- 外注している業務
- 今後必要になる業務
が候補に入りません。
また、現在存在する作業だけを固定的に集めることにも注意が必要です。組織変更、システム導入、業務効率化、AIの活用などによって、仕事を構成する作業や役割は変化します。
今は一定量がある定型作業でも、数年後には量が減ったり、進め方が変わったりする可能性があります。
一方で、
- システムが処理した結果の確認
- データの整理や品質管理
- 運用ルールの更新
- 例外が起きたときの報告
- 関係者との情報共有
など、新たに必要になる仕事もあります。
業務を設計するときは、現在ある作業だけでなく、組織が今後必要とする成果と、人・AI・システムの役割分担まで考える必要があります。
3つの特徴に共通するのは、仕事の出発点が違うこと
業務の切り出しがうまくいかない3つの特徴には、共通点があります。
それは、組織に必要な成果ではなく、「障害者を雇用するための作業探し」から始めていることです。
障害者雇用では、次のような取り組みを行っている企業が多くいました。
↓
障害者にできそうな作業を探す
↓
各部署から簡単な仕事を集める
↓
必要人数分の仕事量にする
一方、業務設計では、次の順序で考えます。
↓
成果につながる仕事を分解する
↓
目的・成果・判断範囲を含む役割として組み直す
↓
必要な能力や経験を明らかにする
↓
役割に合う人材を採用する
↓
本人と仕事の進め方や配慮をすり合わせる
この順序へ変えることで、採用のためだけにつくった仕事ではなく、組織に必要とされる継続的な役割になります。
業務設計の具体的な手順については、次の記事で詳しく解説しています。
障害者雇用の業務切り出しとは?組織に必要な仕事から業務を設計する方法
業務設計が進む企業は、経営・人事・現場が関わっている
障害者雇用の業務を、人事担当者だけで考えていても、組織全体にある仕事や、現場で必要とされている役割を十分に把握することはできません。
業務設計が進んでいる企業では、障害者雇用だけを独立した取り組みにせず、経営方針、人材育成、働きやすさ、業務改善と結びつけて考えています。
中小企業の株式会社共立アイコムでは、障害のある社員を一つの部署に集めるのではなく、画像処理、データ管理、Webシステム、デザイン、製造工程など、それぞれの経験や能力に応じて各部署へ配置してきました。
また、障害者のためだけに特別な仕組みをつくるのではなく、全社員が仕事をしやすくなるように、
- 仕事の見える化
- 動画を使った業務習得
- 業務習熟表による段階的な目標設定
- 情報共有の仕組み
- 各部門やチームリーダーによる運用
に取り組んでいます。
こうした取り組みの背景には、社長自身が働きやすい職場づくりを重視し、無理な作業や働き方を見直してきたという経営の方針があります。
この事例からわかるのは、障害者雇用の担当者が、障害者に任せられそうな作業を探すだけでは十分ではないということです。経営が組織として目指す方向を示し、人事が採用や調整を担い、現場が実際の仕事と成果を明らかにすることで、組織に必要な役割と、それに合う人材をつなげることができます。
詳しい事例は、次の記事で紹介しています。
中小企業の障害者雇用|社員が働きやすい会社を目指したら、障害者にも働きやすい職場ができていた
失敗例がわかっても、自社の業務を決められるとは限らない
この記事では、業務の切り出しがうまくいかない企業の共通点を示しました。
しかし、自社で業務設計を進めるためには、
- 社内にある仕事のうち、何を候補として残すか
- どの仕事を組み合わせるか
- 一つの役割として継続する業務量があるか
- どこまでを本人の判断範囲にするか
- どの能力や経験を採用条件にするか
- 誰が指示・確認・評価を担うか
- 部署間の意見をどのように調整するか
を決める必要があります。
これらの答えは、企業の業務内容、組織体制、採用方針によって異なります。
業務設計コンサルティングでは、実際の業務や組織体制を確認しながら、何を残し、どのような役割として成立させるのかを一緒に整理します。
よくある質問
Q:各部署へ業務アンケートを出しても、仕事が集まりません
「障害者に任せられる簡単な仕事はありますか」と質問すると、候補が限定されます。
「時間がなく後回しになっている仕事」「専門職が負担している周辺業務」「継続したいが十分にできていない仕事」など、組織課題を確認する質問へ変える必要があります。
Q:簡単な作業を複数の部署から集める方法は間違いですか
集めた仕事が組織に必要で、継続的に発生し、一つの役割として目的や成果を説明できるのであれば、担当業務になることはあります。
問題は、仕事量を埋めるためだけに、目的の異なる作業を寄せ集めることです。
Q:先に採用してから、本人に合う仕事を考えてもよいですか
採用後に本人の強みを活かして業務を調整することは必要です。ただし、基本となる役割や業務量、必要な能力、指示・評価の体制がないまま採用すると、本人や現場に負担が集中します。
採用前に役割の基本条件を整理し、選考で本人の経験や配慮事項とすり合わせることが重要です。
Q:業務設計は人事部だけで進められますか
人事部だけでは、実際の仕事の流れ、成果、判断基準を十分に把握できない場合があります。
経営・管理部門、人事、配属部署、現場リーダーがそれぞれの情報を持ち寄り、必要に応じて本人や支援機関の意見も確認します。
Q:AIで定型作業が減る場合、どのように仕事を考えればよいですか
現在ある作業を固定するのではなく、組織が今後必要とする成果から考えます。
AIやシステムに任せる部分、人が確認・判断する部分、関係者との調整が必要な部分を分け、新しい役割として組み直します。
まとめ
障害者雇用の業務切り出しがうまくいかない企業には、次の3つの特徴があります。
- 「障害者にできる作業」から考えている
- 雇用する人数から仕事を逆算している
- 担当者の知っている範囲と、現在の業務だけで考えている
これらに共通するのは、障害者を雇用するための作業探しが出発点になっていることです。
必要なのは、組織に必要な成果から仕事を分解し、目的、役割、判断、評価を含む一つの業務として設計することです。
そのうえで、役割に必要な能力や経験を整理し、その役割に合う人材を採用します。
業務の切り出しがうまくいかないときは、仕事の数を増やす前に、仕事を考える出発点と、社内で業務設計を行う体制を見直す必要があります。
「各部署へ依頼しても仕事が集まらない」「一人分の業務にならない」「採用後も担当者が仕事を探し続けている」という場合、作業の数ではなく、組織に必要な成果と役割から整理し直す必要があります。
コンサルティングでは、実際の業務内容や組織体制を確認しながら、
- 候補となる業務の選定
- 業務の工程・判断・確認の分解
- 一人の役割としての組み直し
- 採用する人材要件の整理
- 指示・相談・判断・評価の体制
を、自社に合う形で具体化します。
参考資料・関連記事
- 障害者雇用の業務切り出しとは?組織に必要な仕事から業務を設計する方法
- 中小企業の障害者雇用|社員が働きやすい会社を目指したら、障害者にも働きやすい職場ができていた
- 厚生労働省「障害者雇用対策」
- 国際労働機関「Generative AI and Jobs」
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