障害者雇用に関わる人事担当者が知っておきたいHIV(免疫機能障害者)の現状

2020年03月3日 | 障害別の特性・配慮

現在、日本には約2万人のHIV陽性者が暮らしていると言われています。そして、そのほとんどが服薬等で体調を維持しながら、健康な人と同じように働いています。

HIV感染者は、身体障害(内部障害)としての認定を受けることができ、実際にほとんどの陽性者が障害者認定を受けているそうです。障害者認定を受けることで、自立支援医療などの福祉制度を利用することができ、医療費の個人負担を軽減することができます。また、障害者雇用枠で働くHIV陽性者も増えています。

とは言え、「AIDS=死に至る病気」という従来のイメージを持っている人も多く、根強い誤解や偏見も多いようです。ここでは、HIV、AIDSとはどのようなものなのか、治療方法や感染経路、HIVと障害者雇用などについて見ていきます。

日本におけるHIV・AIDSの取り組みの変遷

1981年に発見された「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)」 による感染者は、日本でも増え続けています。現在、HIV 感染者は、平成 29(2017)年の新規報告件数で976 件、累積報告件数は 19,896 件となっており、AIDS 患者は、平成 29(2017)年の新規報告件数は、413 件、累積報告件数は 8,936 件となっています。

出典:平成 29(2017)年エイズ発生動向(厚生労働省エイズ動向委員会)

HIV感染症を完全に治す方法はまだ開発されていないものの、医療の進歩により、服薬でAIDSの発症を抑えながら、長期に渡り今までと変わらない生活を送ることができるようになっています。そのため、多くのHIV陽性者は社会で働くことができる状態にあります。

一方で、「AIDS=死に至る病気」という従来のイメージを持っている人も多く、根強い誤解や偏見も見られており、企業や職場において正しい知識や理解をしていく必要があると言えます。

厚生労働省では、職場におけるエイズ問題に対する企業の自主的な取組みを促進するため、平成7年2月に「職場におけるエイズ問題に関するガイドライン」を定め、企業における社内の意識啓発等が進めてきました。また、平成10年4月からは、HIVによる免疫機能障害により日常生活が著しく制限される場合は、福祉施策上の「身体障害」として認定し、雇用対策として、平成10年12月より障害者雇用に関する各種の助成制度の対象としました。企業で雇用される場合には、企業の障害者雇用率の算定対象となっています。

HIVによる免疫機能 障害の認定基準

免疫機能障害での障害者手帳の認定基準は、次のようになっています。

1級ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害により日常生活がほとんど 不可能なもの
2級ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害により日常生活が極度に 制限されるもの
3級ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害により日常生活が著しく制限 されるもの(社会での日常生活活動が著しく制限されるものを除く)
4級ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害により社会での日常生活 活動が著しく制限されるもの

HIV、AIDSについて、知っておくべき知識

HIV感染による免疫機能障害を知るためには、まずはHIVとエイズ(AIDS)を正しく理解する必要があります。

HIV、AIDSとはどんなもの

HIVとはHuman Immunodeficiency Virusの略称で、ヒト免疫不全ウイルスと訳されます。人間の体を細菌、カビやウイルスなどの病原体から守る(免疫)役割を果たすTリンパ球やマクロファージ(CD4陽性細胞)といった細胞に感染するウイルスです。このウイルスに感染し、病気を発症した状態をエイズ(AIDS 後天性免疫不全症候群)と呼びます。AIDSは、HIVの感染により起こるもので、Acquired Immuno Deficiency Syndromeの略称です。

HIV感染には、いくつかの段階があります。

1.HIVが人の体内に入ると、1~2ヶ月以内に急性感染症状が見られますが、その後症状が消失し、 数年から10年以上にわたり、無症候性キャリア期とよばれる無症状で経過する時期が続きます。

2.無症候性キャリア期には、外見からは特別の症状は見られませんが、免疫の司令塔の役割をもつ細胞(CD4陽性リンパ球)が徐々に減少します。

3.CD4陽性リンパ球の数が減少し続けると、免疫力が低下し、いろいろな感染症を起こしやすくなります。これを日和見感染症といいます。

4.23の指定された日和見感染症(カンジタ症、クリプトコッカス症等)を発症した場合、AIDS発症といいます。

出典:HIVによる免疫機能障害者の雇用促進(高齢・障害者雇用支援機構)

HIV感染症の治療

HIVを体内から完全に無くす方法はありませんが、治療を行うことによって、HIVの 増殖を抑え、HIV感染症の進行を抑制することができます。 ・治療は、CD4陽性リンパ球数、HIVのウイルス量等を見ながら行います。

治療には、以下の 2つがあります。

HIVの増殖を抑える治療

多剤併用療法という治療法で、効き方の異なる数 種類の薬を組み合わせて服薬することで、HIVの 増殖を抑え、HIV感染症の進行を遅らせます。

日和見感染症の予防と治療

CD4陽性リンパ球数の変化を見ながら、日和見感 染症の予防薬を服薬したり、あるいは日和見感染症 の症状が見られた場合には、治療薬を服薬します。

治療法は進歩しており、服薬や通院の回数は少なくて済むようになってきています。 服薬は1日に1~2回程度、通院は1~3ヶ月に1回程度のようです(※副作用や他の病気がある場合等、個別の事情によっては頻度が異なる)。きちんと治療を受けていれば、長期的に普通の職業生活・日常生活を送ることが可能です。

治療を長期的に継続するためには、次のような条件を整えることが大切です。
・病気や治療の理解
・定期的な受診
・服薬生活のリズム
・理解してくれる人の存在

HIVの感染経路

感染経路は主に以下の 3 つとなっています。

性行為による感染

感染している人との性行為で感染することがあります。

血液からの感染

感染している人との注射器の共用等で感染することがあります。

母子感染

妊娠中の母親の胎内や、出産時の血液等、また母乳を通して感染する場合があります。

この 3 つ以外の普段の生活では感染することはありません。 例えば、以下のことでは感染しません。

・握手
・体の接触
・一緒に飲食をする(食べ物のシェア、食器の共用)
・汗、涙、唾液、せき、くしゃみ
・蚊やダニ
・洋式トイレや洗面台、給湯室、風呂の共用

HIVと障害者雇用

HIV陽性者のほとんどは服薬等で体調を維持しながら、 すでに健康な人と同じように働くことができています。また、平成10年12月から障害者雇用促進方においても、身体障害の範囲に「ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害」が加えられており、障害者雇用率制度、障害者雇用納付金制度、助成金制度等の適用の対象になっています。

下記のような点からも障害者雇用の一つの選択肢として考えることもできるでしょう。

身体障害者として認定

HIV陽性者は障害者(内部障害)としての認定を受けることができ、多くの陽性者 が障害者認定を受けています。障害者認定を受けることで、自立支援医療などの福祉制度を利用することができ、医療費の個人負担を軽減することもできます。

自立支援医療制度(更生医療)とは、身体障害者の自立と社会経済活動への参加の促進を図 るため、医療費の自己負担額を軽減する公費負担医療制度のことです。免疫機能障害の場合、月額0円~2万円(前年度の所得に応じる)の自己負担で治療を継続できるようになっています。

HIVは服薬でコントロールできる

HIV感染症の治療は、毎日の服薬によってウイルスの増殖を抑え、免疫が低下しないようにすることです。 HIVは、そのまま放置すると体内の免疫が 低下し、エイズ発症と呼ばれる様々な症状を引き起こしますが、適切な服薬をしていれば、健康な人とほとんど変わらない 生活を送ることができます。 多くのHIV陽性者は、1~3か月に一度、医療機関を受診し、医師の診察と血液検査、薬の処方を受けています。

日常生活では 感染しない

HIVは人の血液、精液、膣分泌液、母乳などの体液に存在し、これらの体液が身体に侵入することで感染が成立します。感染経路は、性行為、血液(注射針の共用など)、母子感染 に限られます。

ですから職場で一緒に働くことで、同僚や顧客に感染することはありません。また、 HIV自体は非常に弱いウイルスで、C型肝炎ウイルスの10分の1程度、B型肝炎ウイルスの100分の1程度の感染力しかないと言われています。

HIV陽性者の73%は就労

HIV陽性者には20~50歳代の働き盛りの男性が多く、アンケートに答えたHIV陽性者の73%が主に就労しており、また、就労者の90%が週5日、76%が週35時間以上、働いています。

出典:「全国の HIV 陽性者の生活と社会参加に関する調査」(厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業・地域におけるHIV陽性者等支援のための研究)

まとめ

HIV感染者は「免疫機能障害者」として、身体障害者手帳を取得でき、企業は雇用すれば障害者雇用率に算定することができます。

しかし、偏見や差別も根強いようです。障害者枠で応募しても、面接で障害名を明かしただけで断られたり、職場に感染を伝えた後、休職に追い込まれたケースもあるそうです。「全国の HIV 陽性者の生活と社会参加に関する調査」でも、勤務先の誰かに病名を開示している人は23.2%で、多くの人は職場では病名を開示しないで働いていました。

一方で、HIV陽性者を雇用する企業も増えています。今後、職場におけるエイズ問題に関するガイドラインについてや、プライバシーに配慮した障害者の把握などについても見ていきたいと思います。

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