昨年発覚した中央省庁の障害者雇用水増し問題を受けて、今年2月に初の障害者枠での国家公務員採用試験が行われ、常勤、非常勤を合わせて4月1日までに既に2,750人ほどが入省し、多くの障害者が働き始めています。
新しいスタートに期待と不安がある中で、省庁でも新戦力をどのように受け入れて、活かしていくのか、新たに部署をつくるなど、対応を進めていることがうかがえます。中央省庁では、今年末までに約4,000人を採用する方針を示しています。
ここでは、国家公務員の障害者雇用採用から1ヶ月経った現状について見ていきたいと思います。
国家公務員として採用された人の状況は?
人事院の試験を経て省庁に入った30代の女性は、障害者採用の人だけを集めた部署で研修中です。
「上司は『残業はせず、有給休暇もきちんと取って』と言ってくれ、配慮を感じる。でも、一般の職員はいつも夜中まで働いているのが分かるので、正直落ち着かない」
と、現在の状況を話しています。研修終了後の半年後は職場に配属される予定になっており、職場に配属された後に今のような働き方や配慮があるのかと心配しています。
別の省庁に採用された30代の男性は、
「以前勤めていた企業よりも気遣いがあり、給料も2倍に。人間らしい生活ができる」
と話しています。
出所:障害者採用、環境整備大忙し 中央省庁 水増し発覚→年内に4000人(SankeiBiz 2019.5.14)
外務省では「オフィス・サポート・執務室」を新設
146人の水増しが判明した外務省では、障害者雇用に特化した民間の特例子会社を参考に、省内の各部署から一部の事務作業を請け負う「オフィス・サポート・チーム」を新設しています。
今春に入省した約20人の障害者が配属され、資料のファイリングやデータ入力の業務、書類の裁断などの業務に携わっています。仕事に慣れてくれば、他部署へ異動するなど、希望や適性に応じて仕事の幅を広げていく考えを持っているようです。
職場の環境としては、室内には車いすに合わせて電動で高さを変えられる机や、視覚障害者が見やすいように文字を大きくするモニターなどが設置され、疲れを感じた場合には、すぐに休憩を取れるスペースを設けています。また、心理療法士などの支援者を配置しているそうです。
河野外務大臣は現状を視察して、
「いろんな環境の人がいるが、皆さんに最大限能力を発揮してもらい、日本の外交を前に進めたい。まだ手探りのところもあるので、遠慮なく提案してほしい」
と呼びかけました。
出所:外務省が障害者雇用拡大へ新部署「手探りだが提案を」(NHK 2019.4.9)
他の省庁でも障害者雇用の環境整備
障害者雇用水増しがあった28行政機関のうち5番目に数が多かった農林水産省では、専門家の指導を受けて車いすでも入れる多機能トイレの増設を進めています。多機能トイレは8階建ての本館の一部にしかないため、今後全階に整備していく予定があります。また、厚生労働省が実施する養成講座に職員が行き、受け入れに向けた配慮を学んでいます。
金融庁では水増しはありませんでしたが、昨年6月時点で法定雇用率には10人が不足していました。視覚障害者向けにパソコンの文字拡大装置や読み上げソフトの導入などを進め、近隣の就労支援機関と連携をとり、採用活動に力を入れています。
経済産業省は、22人の常勤職員を採用しました。独自の募集でより責任の重い係長級を5人雇用しています。また、今後は、語学が堪能な人に通商や貿易などの海外分野を担ってもらう考えを示しています。
障害者の受け入れが進まなかった霞が関の風土変革は進むのか
障害者雇用の取り組みは本格化してきましが、今まで、障害者職員の受け入れが進まなかった霞が関の風土変革はやさしいものではありません。このような状況を不安視してか、障害者のための労働組合「ソーシャルハートフルユニオン」(東京)には、採用が本格化した今春から「国家公務員になったが、組合に加入することはできるか」という問い合わせが相次いでいるそうです。
この障害者のための労働組合「ソーシャルハートフルユニオン」は、働く障害者(障害手帳必要)のための労働組合です。障害者が安心して働くための相談窓口として、そして仕事に関する様々な問題を解決する組織となっています。
正社員・契約社員・パート・アルバイトなどの雇用形態や会社・業種を問わず、一人で加入できます。特例子会社や就労継続支援A型で働く人も加入できます。ただ、国家公務員は労働基準法などの労働法ではなく、国家公務員法が適用されるためソーシャルハートフルユニオンでは公務員の労働問題に直接関わることができないようです。
ちなみに職員の身分が国家公務員とされる独立行政法人は「行政執行法人」と呼ばれる7法人が適用ですが、それ以外の独立行政法人職員は非公務員として扱われます。
行政執行法人(平成30年4月1日現在)
国立公文書館・統計センター・造幣局・印刷局・農林水産消費安全技術センター・製品評価技術基盤機構・駐留軍等労働者労務管理機構
霞が関内の人事管理は各省庁の独立性が強く、外から見えにくくなっていることもありますし、今紹介したような労働組合「ソーシャルハートフルユニオン」に直接関わってもらうこともできません。トラブルが発生したときに、一方的に泣き寝入りしない仕組みが必要となっていますし、企業で求められているような合理的配慮の一環として相談体制を整えることもできるでしょう。
まとめ
昨年発覚した中央省庁の障害者雇用水増し問題を受けて、障害者枠での国家公務員採用試験が行われ、2,750人ほどが入省し、多くの障害者が働き始めました。
146人の水増しが判明した外務省では、障害者雇用に特化した民間の特例子会社を参考に、省内の各部署から一部の事務作業を請け負う「オフィス・サポート・チーム」を新設するなど、新たな取り組みも行われているようです。
一方で、今まで、障害者職員の受け入れが進まなかった霞が関の風土変革はやさしいものではありません。企業で求められているような相談体制を整えるなどの合理的配慮が行われるようにしていく必要があるでしょう。
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