障害者雇用を進めるには、スタッフに障害の専門家は必要か

障害者雇用を進めるには、スタッフに障害の専門家は必要か

2020年10月12日 | 企業の障害者雇用

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「障害者雇用を進めたいけれど、障害に関する専門家がいないので難しい」と言われる企業がありますが、障害者雇用を進めるのに、障害に関する専門家は必要なのでしょうか。

障害者雇用を行っている企業をヒアリング調査した結果から見ていきたいと思います。

特例子会社10社のヒアリングをしてみた結果から見た結果とは

知的障害者を雇用する特例子会社10社の知的障害者と直接関わる同僚・上司の雇用を把握している特例子会社の代表者、責任者を対象として、「知的障害者と一緒に働く社員(同僚・上司)を雇用、採用するときに求めるコンピテンシー(特性、資質)として、どのようなことを重視しているか」という点をヒアリング調査しました。

このときに求めるコンピテンシーとして求められていた基本特性の中で高いものは
・「関係の構築」
・「対人関係理解」
・「技術的、専門的、マネジメント専門能力」
・「柔軟性」
・「セルフ・コントロール」
でした。

それぞれの点について見ていきたいと思います。

関係の構築

「関係の構築」は、職務の目標達成に関係する人たちとの関係作りを意味しており、知的障害社員との関係づくりに重きがおかれています。

同僚・上司が知的障害社員を一緒に働く仲間として受け入れることができるようになると、職場における関係構築がなされ、業務を円滑にまわすことができているようです。そして、同時に、このような関係づくりができると、知的障害社員が同僚・上司を受け入れる関係も成り立っていることが見られました。

例えば、ある企業では、「知的障害社員は、(同僚・上司が)自分たち(知的障害社員)と一緒に仕事をしてくれる人かどうかを判断し、誠実に対応することを望んでいて、一時的に体裁を整えたとしても障害者社員たちがそれを見抜く」という趣旨の話がありました。

関係構築がうまくいっている職場の同僚・上司は、知的障害者はサポートされる人ととらえるのではなく、同僚、部下として受け入れ、業務遂行のための同じ目標を持ちながら一緒に働く仲間としてとらえていることがわかっています。

対人関係理解

「対人関係理解」は、言葉で表現されない相手の思考や感情を察知することや理解することを求めるもので、知的障害社員と職場内の同僚・上司、両者との間でコミュニケーション力を重視するものでした。

知的障害社員の中には、自分の考えや思いを伝えることが難しい人たちも中にはいますが、一緒に働く同僚・上司が話を聞き、相手(知的障害社員)をわかろうとする気持ちをもつことが大切であると考えていることが、ヒアリングの中から示されました。

基本的には、職場という環境での対人関係が中心になるため、コミュニケーションの内容は業務に関わることが中心とはなるものの、状況に応じて、時にはプライベートを含めた話を聞いたり、知的障害社員がコミュニケーションの苦手さがあれば、同僚・上司から声をかけることなども含め、わかろうとする努力が大切だということです。

実際には、相手のことをすべて理解することは不可能なことですが、それでも、理解しようとする気持ちがあれば、お互いを理解し合おうとできる可能性は高くなります。

そして、このような業務以外の働きかけを自発的にしている同僚・上司に対しては、責任者は職場内の知的障害社員のことを任せても安心、信頼できると評価されていることが多く見られました。

企業の中では、就業時間外のことは支援機関を中心にサポートするように取り決めていることも多いですが、職場の中では何気ない会話の中から支援やサポートに結びつくような内容の事柄が話されることもあります。また、そのようなところから、早期に支援に結びつくこともあります。

会社という組織で動くため、基本的な規定や考え方を決めておくことは、ある程度必要なときもありますが、状況に合わせてバランスの良い対応ができることも求められていることが示されていました。

対人関係理解

「対人関係理解」は、知的障害社員だけでなく、職場内の同僚との相互理解が求められていました。

今までのキャリアや、背景の違いから、意見の相違があるような状況に直面した時に、どのように互いを尊重し、よりよい解決を見つけていくか、また組織として統一した対応をするためにどのようにできるかという点を、大切にしているところは多かったです。逆にいうと、このバックグラウンドの違いが、大きな課題になっていることも少なくないことを示しています。

ヒアリングした10社の中には、同僚・上司が出向者だけの企業や出向者が多数を占める企業もありました。このような企業では基本的なスタンスが企業組織内で決まっていることや、企業文化の共通理解がされていることもあり、このような課題を感じることはなかったようです。それよりも、その業界特有の風土や組織の中で、それぞれが培ってきた人事管理ノウハウや、顧客対応、各拠点における部下との接し方やトラブル対応等の何十年と勤務してきた経験が、障害者雇用の中でも活かされているという話もありました。

技術的・専門的・マネジメント専門能力

「技術的・専門的・マネジメント専門能力」は、職務に関する専門知識やスキルを活用することを示しています。内容としては、業務に関することと、障害に関することが関係しますが、障害に関する経験や知識の有無については、事業所によって意見がわかれていました。

障害に関してある程度の知識は必要と考える事業所がある一方で、障害に関わる知識はいらないという事業所がありました。明確な回答は出さなかったものの、障害に対する経験、知識はあればあったでよいという程度の認識の企業が多かったです。障害に対する知識が必要と明確に答えた企業は、1社だけでした。

なぜ、障害に関する知識や経験が必要ないと感じるのかとさらに問うと、2種類の答えに分類されました。

1つは業務経験として、求める業務に関する経験を重視しているからです。例えば、清掃業務であれば、ビルメンテナンス関係の業務経験、事務処理であれば、企業の事務部門の業務経験、喫茶部門であれば、飲食店、接客等の経験があるなど、実務での即戦力の方を重視されていました。その上で業務を一緒に行なう同僚・部下として知的障害者がいるため、業務しやすい環境を整え、仕事ができるようにすることが期待されています。

このような回答が出たのは、従業員が100名以上の複数の業務を部門単位で持っている特例子会社が多かったです。

2つ目は、障害に関する知識や経験がある人材として採用する場合に、福祉機関からの出身者が多く、企業人と視点が異なっている点が挙げられました。

福祉の中では障害者一人ひとりに個別対応や注意をむけることが多くありますが、企業の中では、組織やチームとしての成果や効率化を目指すことがほとんどです。 1人の知的障害社員の業務のために会社のやり方を大幅に変更するような対応を個々にしていたのでは、業務が回らなくなる可能性もあります。

もし、業務で苦手分野があれば、より能力を発揮できそうな適切な業務を行なう場所へ配置転換したり、組織全体の中で役割を見直して、どのような活躍の場があるのかを考えていくことなど、全体の組織としての最適化を重視する考え方をすることが必要になるときもあります。しかし、中にはそれが受け入れにくいスタッフもいるということでした。

また、今までの学んだことゆえに、知的障害者だからこの業務は難しいと判断してしまうことも見られるそうで、障害に関する知識や経験があると、逆にそれにとらわれてしまうことがあると感じている事業所もありました。障害に関わってきた人を見ていると障害者との間で一対一の関係になりやすく、業務を行なう上では、組織として、チームとしてどのような影響があるのかを考えながら動いてほしいという思いがあることや、個々の対応や寄り添いすぎてしまう、手を出しすぎてしまうことが気になるという意見もありました。

もちろん障害に関する知識や経験がプラスに働くこともあります。ある企業では、現時点で新たにスタッフを採用するときは、障害関連の経験は必要ないと答えていましたが、それでも特例子会社立ち上げ時には、社内の中で障害や障害者に関する知識や、障害者採用のネットワークがなかったため、その時に障害者に関わったことのある経験者がいたことは意義があったと話されていました。

柔軟性

「柔軟性」とは、組織や働く環境の変化がある中で、自分のやり方に固執せず必要にあった対応をとれるかという点です。知的障害者と一緒に働く同僚・上司の中には、親会社の方針によって出向してくる社員と、特例子会社で障害者雇用に携わる意思を持って入社してくるプロパー社員がいますが、この柔軟性は、特に出向者に向けての意見が多く出されました。

出向者の場合は、多くの人が親会社で働いていた業種、業務とは全く関係のない業務に携わることになるわけですが、その変化を受け入れ、新たな業務として自身に求められていることに柔軟に対応できるか、前向きにとらえるかを重視している会社は多かったです。

また、出向者社員、プロパー社員にかかわらずバックグラウンドが多様であるため、考え方や捉え方、感じ方が異なる人がいる中で、それを受け入れる柔軟さを求めているところもありました。

セルフ・コントロール

「セルフ・コントロール」は、ストレス状態の中でも感情をコントロールし、行動するコンピテンシーです。感情的に知的障害社員に接しないことは当然ですが、その他にも、障害者雇用の現場では、セルフ・コントロールが必要とされる場面が多いことが示されています。

例えば、特例子会社によっては、通常の業務に加えて、障害者雇用率を達成するため障害者雇用の拡大を求められることが日常的にあり、新しい業務をつくったり、新たに人材を採用したりと、常に働く環境が変化している状況がみられることも少なくありません。また、日々の業務の中で知的障害社員の課題や対応すべきことに直面する機会もあります。

このような仕事の内容や、環境の変化に対応しながら、ストレスに対する耐性が期待されることも示されていました。

今まで見てきた求められる特性についてまとめると、知的障害者と一緒に働く同僚・上司に求められるコンピテンシーでは、人材育成や対人関係理解の高さに対する点が重視されていました。知的障害者一人ひとりを個人として尊重できる人、認められる人であることが求められており、知的障害があるのでできないと考えることや、上から目線で見る人は難しいという意見が複数の企業からあげられました。

また、社会人の一人として受け入れつつも、時には配慮が必要なこともあり、優しすぎず、厳しすぎずそのバランスをとりつつ、社会人として育成できるのかを大切にしていることがわかりました。

障害者と一緒に働くために重視されていることとは

障害者雇用が主な目的となっている特例子会社でも、「障害に詳しくて、企業経験があまりない人か、障害には詳しくないけれど、企業経験がある人か、どちらを採用しますか?」という趣旨の問いには、障害には詳しくないけれど、企業経験がある人を選ぶ企業が多く見られました。

では、企業経験と言われる要素として何が必要なのかという点ですが、
・組織の構成、役割を把握しているか
・個も大切だが、それよりも組織やチームが優先されることを理解しているか
・企業運営には、優先すべき順番があることを理解しているか 
などの点があげられるでしょう。

特例子会社の代表者、責任者から語られた、障害関係の経験者の懸念点として挙げられた点は、障害に関してもっている知識や経験で判断してしまう傾向が見られることでした。そのため障害についての専門的な知識があること(特に社会福祉士や精神保健福祉士などの有資格者であること)よりも、知的障害社員が何らかの点が苦手そうなときに、どのような方法をとると有効的かを考え、配慮を示すとともに、業務と人材のマネジメントができることを重視していることが強調されていました。

まとめ

障害者雇用を進めるには、障害の専門家は必要なのかという点について見てきました。企業の状況にもよるので一概には言えませんが、特例子会社でも必要ないと言われる企業があるくらいなので、絶対に必要なものとは言えないでしょう。それよりも企業という組織の中で働いた経験や、もし、経験がないとしてもその進め方を受け入れられるか、などの方がポイントになるように感じます。

一方で、特例子会社を立ち上げるような時には、知識や経験のある人がいたほうが、障害者雇用の状況を把握しやすく、関連機関とのネットワークなども活用しやすいという面もあります。また、障害者雇用をゼロからスタートする時には、たしかに障害者雇用の情報に詳しい専門家がいたほうがスムーズに効率よく進められることもあります。

しかし、スタッフとして採用するほどの必要性があるかどうかは、企業の状況によって異なります。どれくらい障害者を雇用する必要があるのか、長期的にサポートするスタッフが必要なのかにもよるでしょう。今は、コンサルティングや、専門家の顧問サービスなどもありますので、そのようなサービスを活用するほうが、場合によっては、障害者の専門スタッフを雇用するよりもメリットがあるかもしれません。

ただ、一緒に働く職場の人間が、障害についての知識が全くいらないかと言えばそうではありません。特例子会社のほとんどの企業で、入社してから研修を行っています。それは単に、知識を習得するだけでなく、知的障害社員へ伝える言葉や指導方法、接し方など、今の言い方で良かったのか、もっと違った形で行なったほうが良かったのではないかと振り返ったり,見直す機会として有効的と考えているからです。また、研修から、自分たちの接し方を振り返り、実践している内容について確証や自信をもって取り組むための機会として活用しているところもありました。障害者雇用を進める上でも、PDCAを回し、より働きやすい職場、効率的な業務体制を作っていくことは大事です。

参考資料

松井優子、小澤温「特例子会社における知的障害者とともに働く同僚・上司に求められるコンピテンシーに関する研究」(2018)、発達障害研究第40巻3号

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