企業のジョブコーチに求められる資質やコンピテンシーはどのようなものか

「企業のジョブコーチに求められることとはどんなことなのだろうか。」「どんなことをジョブコーチであるスタッフに求めているか。」こんなことを企業のジョブコーチとして、またスタッフをマネジメントする立場から、企業のジョブコーチについて長年考えてきました。

そんな思いから、企業におけるジョブコーチに求められることについて研究してきました。今回のテーマは、「特例子会社における知的障害者とともに働く同僚・上司に求められるコンピテンシーに関する研究」(発達障害研究第40巻第3号)をもとに企業に求めれられているジョブコーチについてヒアリング調査したことをまとめています。

詳しくは、「特例子会社における知的障害者とともに働く同僚・上司に求められるコンピテンシーに関する研究」(発達障害研究第40巻第3号)をご参照ください。

企業のジョブコーチに求められる資質に関心を持った経緯

ジョブコーチ研修やジョブコーチの勉強会にもいろいろ参加してきました。本来のジョブコーチとして、1人の障害者が職場の中で仕事ができるようにすることや、環境を整えることは理解できるのですが、企業で求めているジョブコーチとは少しニュアンスが違うことを感じてきました。

また、障害者雇用を行っている企業と情報交換をしていると、1人のジョブコーチとして障害者と接するときに求められること(求めること)と企業という組織の中でのジョブコーチに求める役割(求めていること)は違っているとも感じました。ジョブコーチの目的としては【障害者が企業の中で定着すること】で同じなのですが、企業の中におけるジョブコーチの視点やアプローチの方法は異なるのではないかと感じていました。

障害者と関わる経験がある程度あったり、福祉施設等での勤務経験があるスタッフといわれる人が、企業の中でジョブコーチとして活動することに対して、【ちょっとズレている】という感覚があることがありました。これは、私自身がマネジメントしていて感じることではありましたが、他の企業のマネジメント層からもよくこのような話を聞くことがありました。

そこで、知的障害者を雇用する特例子会社10社の知的障害者と直接関わる同僚・上司の雇用を把握している特例子会社の代表者、責任者を対象にしたヒアリング調査を行なうことにしました。

ジョブコーチについては、こちらの記事も参考にしてください。
↓  ↓  ↓
ジョブコーチ(職場適応援助者)の資格取得と求められる役割

研究方法

対象者

知的障害者を雇用する特例子会社10社の知的障害者と直接関わる同僚・上司の雇用を把握している特例子会社の代表者、責任者の方を対象としました。特例子会社を対象としたのは、特例子会社の知的障害者の雇用割合が高いこと、ジョブコーチを活用するのは知的障害者や精神障害者が多いということからです。

また、一般企業のジョブコーチを探すのは難しいですが、特例子会社は厚生労働省が特例子会社の一覧を公表しており、特例子会社へ依頼することが一般企業へ依頼しやすいということもありました。

特例子会社の一覧はこちらから
平成29年6月1日現在

調査方法・質問項目

特例子会社10社の対象の方へ依頼し、半構造化面接(60分程度)を行ないました。面接で聞いた内容は、次のとおりです。

1.スタッフ社員(健常者の社員)を採用するときに、重視している点を教えてください。
2.障害や福祉に関する専門教育や経験のある人を積極的に採用していますか。採用している場合は、障害者雇用に関わる上で役に立つと思われることを教えてください。
3.はじめて障害者雇用に関わる人のための教育、研修を行っていますか。行っている場合は、その内容を教えてください。
4.知的障害者と関わる仕事をする従業員で望ましいと思う場合、具体的な行動とその理由を教えてください。
5.知的障害者と関わる仕事をする従業員で望ましくないと思う場合、具体的な行動とその理由を教えてください。
6.障害者雇用に関わる有能な方は、どのような人だと考えますか。
7.障害者雇用の従業員に関することで、課題に思っていることはありますか。ある場合は、どのようなものですか。

分析方法

質的記述分析を用い、ヒアリング内容から知的障害者と一緒に働く社員に求めるコンピテンシーに関する記述を抜き出し、Spencerら(1993)のコンピテンシー・ディクショナリのクラスター(大分類)6項目、基本コンピテンシー(小分類)20項目にそって、ヒアリング内容を分類しました。

Spencerら(1993)のコンピテンシー・ディクショナリは、人事の方はよくご存知と思いますが、ある職務または状況に対し、効果的、またはすばらしい業績を生む原因として関わっている個人の根源的特性に基づくものとして、仕事内容にあった特性、求められる資質がまとめられています。これらの特性の大分類や下位項目にあたる点を参考にして分類しています。

結果

回答企業の概要

インタビュー企業の概要
特例子会社の設立年数、従業員数、障害者数、知的障害者数、事業内容は、次の表のとおりです。

知的障害者とともに働く同僚・上司に求めるコンピテンシー

知的障害者とともに働く同僚・上司に求める経験、資質に関する点をヒアリングしたものから、117の求める資質に関する点を抜き出し、カードを作成しました。その後に、評定者4名により、カテゴリー定義を元にカテゴリーに分類し、評定者4名中3名以上が一致すると判断した64項目を基本コンピテンシーとしました。

知的障害者とともに働く同僚・上司に求める資質として回答が多かった点は、次のとおりです。

「関係の構築」 8件
「対人関係理解」「技術的、専門的、マネジメント専門能力」「柔軟性」 7件
「セルフ・コントロール」 6件

具体的な内容については、次の表をご覧ください。

ジョブコーチに求められる資質とは?

知的障害者とともに働く同僚・上司に求めるコンピテンシーとして求められていた基本特性の中で高いものは、「関係の構築」「対人関係理解」「技術的、専門的、マネジメント専門能力」「柔軟性」「セルフ・コントロール」でした。

ちなみにSpencerらのコンピテンシー・ディクショナリの分類では、知的障害者とともに働く同僚・上司は「支援・人的サービス」に関わる従事者にあたるため、求められるコンピテンシーとして「インパクトと影響力」「人材育成」「対人関係理解」となります。今回の結果からは、「人材育成」と「対人関係理解」は共通して求められるコンピテンシーでしたが、ジョブコーチに求める資質としては「インパクトと影響力」についてはそれほど重視されていませんでした。

具体的な内容について見ていきたいと思います。

ジョブコーチに求められる資質「関係の構築」

「関係の構築」は、職務の目標達成に関係する人たちとの関係作りを意味しており、知的障害社員との関係づくりに重きがおかれていました。これは、同僚・上司が知的障害社員を一緒に働く仲間として受け入れることにより、職場における関係を構築して業務を円滑にまわすことを意味します。

ある企業では、「知的障害社員は、(同僚・上司が)自分たち(知的障害社員)と一緒に仕事をしてくれる人かどうか判断するので、誠実に対応することを求めており、一時的に体裁を整えたとしても障害者社員たちがそれを見抜く」と話していました。

一緒に働く同僚・上司は、知的障害者はサポートされる人ととらえるのではなく同僚・部下として受け入れ、業務遂行のための同じ目標を持ちながら一緒に働く仲間としてとらえていることが求められていることがわかります。

ジョブコーチに求められる資質「対人関係理解」

「対人関係理解」は、言葉で表現されない相手の思考や感情を察知することや理解することが求められていて、知的障害社員と職場内の同僚・上司、両者との間でコミュニケーション力を必要としていることが示されました。

知的障害社員の中には、自分の考えや思いを伝えることが難しい社員もいますが、一緒に働く同僚・上司が話を聞き、相手(知的障害社員)をわかろうとする気持ちをもつことが大切であると考えていることがうかがえます。職場では業務に関わることが中心となるものの、時にはプライベートを含めた話を聞いたり、知的障害社員がコミュニケーションの苦手さがあれば、同僚・上司のほうから声をかけることも求められていました。

また、このような働きかけを自発的にしている同僚・上司に対して、責任者は職場内の知的障害社員のことを任せても安心、信頼できると評価していることがわかりました。

企業では就業時間外のことは支援機関を中心にサポートするように取り決めていることが一般的に多いのですが、職場の中では何気ない会話の中から支援に結びつくような内容の事柄が話されることが多くあります。その中で気づいたり、知的障害社員から信頼されているからこそ相談を受けたことから、早期に支援が必要なことに結びつく場合も少なくありません。

会社という組織で活動していくため、基本的な規定や考え方を決めておくことは必要ではあるものの、状況に応じたバランスの良い対応ができることが求められていることも示されていました。

ジョブコーチに求められる資質「対人関係理解」

「対人関係理解」は知的障害社員だけでなく職場内の同僚との相互理解が求められていることが示されました。ジョブコーチは、障害者のことだけわかれば良いのではなく、他のスタッフとの関係も大切にしてほしいということです。

よく見られるのが、同僚・上司間の今までのバックグラウンドの違いが影響して、知的障害社員への考え方や対応の違いが見られることです。そのような状況に直面した時に、どのように互いを尊重しよりよい解決を見つけていくか、また組織として統一した対応をするためにどのようにできるかが課題になっていることもヒアリングの中で語られていました。

今回ヒアリングをした10社の中には、同僚・上司が出向者だけの企業や出向者が多数を占める企業がありました。このような企業では基本的なスタンスが企業組織内で決まっていることや、企業文化の共通理解がされているからと思われますが、「対人関係理解」が必要という内容はほとんどありませんでした。また、課題どころか、その業界特有の風土や組織の中で、それぞれが培ってきた人事管理ノウハウや、顧客対応、各拠点における部下との接し方やトラブル対応等の何十年と勤務してきた経験が活かされていることが語られていました。

ジョブコーチに求められる資質「技術的・専門的・マネジメント専門能力」

「技術的・専門的・マネジメント専門能力」は、職務に関する専門知識やスキルを活用することを示しており、業務に関することと障害に関することがあります。この内容の障害に関する経験や知識について、求めているか求めていないかについては事業所によって意見がわかれました。

障害に関してある程度の知識は必要と考える事業所がある一方で、障害に関わる知識はいらないという事業所もありました。なぜ障害に関する知識や経験が必要ないと感じるのかとさらに聞いたところ、大きく2つの答えにわかれました。

1つは業務経験として、求める業務に関する経験を重視してためでした。例えば、清掃業務であればビルメンテナンス関係の業務経験、事務処理であれば企業の事務部門の業務経験、喫茶部門であれば飲食店、接客等の経験があるなど、実務での即戦力の経験を重視するということです。その上で業務を一緒に行なう同僚・部下として知的障害者に対して、業務しやすい環境を整え、戦力にすることが期待されていました。

ちなみにこのような答えが多かったのは、従業員が100名以上で、複数の業務を部門単位で持っている特例子会社が多かったです。今回の調査では、10社中3社が従業員100人以上に該当し、3社ともが同じように考えていました。

2つ目は、障害に関する知識や経験がある人材は福祉機関からの出身者が多く、企業人と視点が異なっている点が挙げられました。福祉の中では障害者一人ひとりに個別対応や注意を向けていきますが、企業の中では組織やチームとしての成果や効率化を目指すことが多くあります。

1人の知的障害社員の業務のために会社のやり方を大幅に変更するような対応を個々にしていたのでは、業務が回らなくなることもあります。そのため業務で苦手分野があれば、より能力を発揮できそうな適切な業務を行なう場所へ配置転換したり、組織全体の中で役割を見直して、どのような活躍の場があるのかを考えていくこを求めていました。

また、今までの経験からか、知的障害者だからこの業務は難しいとスタッフが判断してしまうことも見られ、障害に関する知識や経験があるとそれにとらわれてしまうことがあると感じている事業所も多かったです。

もちろん障害に関する知識や経験がマイナスばかりでなく、プラスに働くこともあります。ある企業では、現時点で新たにスタッフを採用するときは障害関連の経験は必要ないと答えていましたが、特例子会社立ち上げ時には、社内の中で障害や障害者に関する知識や、障害者採用のネットワークがなかったため、その時に障害者に関わったことのある経験者がいたことは意義があったことと話されていました。

ジョブコーチに求められる資質「柔軟性」

「柔軟性」という面では、組織や働く環境の変化がある中で、自分のやり方に固執せず必要にあった対応をとることが求められていました。障害者を雇用している特例子会社といえども、経営環境の変化が激しい中で、業務の様々な変化や仕事内容が変わる中で、どのように対応できるかということです。

また、そのような変化があったときに、今まで経験してきたこととは全く違うことを行わなければならないときにも、その変化を受け入れ、新たな業務として自身に求められていることに柔軟に対応できるか、前向きにとらえるかを重視している会社が多かったです。

そして、スタッフのバックグラウンドが多様な場合には、考え方や捉え方、感じ方が異なる人がおり、それを受け入れる柔軟さや協調性が求められていることも示されていました。

ジョブコーチに求められる資質「セルフ・コントロール」

「セルフ・コントロール」は、ストレス状態の中でも感情をコントロールし、行動するコンピテンシーです。社会人として、感情的に知的障害社員に接しないことは当たり前のことですが、その他にもセルフ・コントロールが必要とされる場面においても適切な自己管理ができることが求められていました。

例えば、特例子会社によっては、障害者雇用率を達成するため障害者雇用の拡大を求められることが日常的にあり、新しい業務をつくったり、新たに人材を採用したりと、常に働く環境が変化している状況があります。また、日々の業務の中で知的障害社員の課題や対応する機会もあります。このような予期しない状況や変化に対応しながら、ストレスに対する耐性をもっていることが期待されていました。

まとめ

企業のジョブコーチに求められる特性について、特例子会社10社にヒアリング調査したことから見てきました。

Spencerの示す支援・人的サービスの従事者におけるコンピテンシーの一般的モデルでは、インパクトと影響力、他の人達の開発(知的障害者の人材育成)、対人関係理解が重視されていました。今回の調査結果で知的障害者と一緒に働く同僚・上司に求められるコンピテンシーと比較すると、インパクトと影響力という点では、求められている割合が低くなっていましたが、人材育成や対人関係理解の高さは共通して求められている資質でした。

求められていることは、細かくみていくときりがありませんが、企業で話されていた中で共通しているのは、知的障害者一人ひとりを個人として尊重できる人、認められる人であることでした。また、知的障害があるので、特定の業務はできないと考えることや、上から目線で見る人は難しいという意見が複数の企業からあげられています。

障害社員を社会人の一人として受け入れつつも、時には配慮が必要な状況があることを察し、優しすぎず、厳しすぎずそのバランスをとりつつ、社会人として育成できるのかを大切にしていることもうかがえました。知的障害社員が仕事をしていて何らかの点が苦手そうに感じたとき、どのような方法をとると彼らが仕事しやすいのかを考え、配慮を示すということです。

これらの研究をして、改めて感じたのは、求められているのは業務運営と人材のマネジメントだと言うことです。これは障害者雇用をしているかどうかに関係なく、組織運営をしていくのに必要だと思います。もし、障害者雇用が組織の中でうまくいっていないのであれば、まず人材マネジメントを見直す必要があるかもしれません。

参考文献

Lyle,M.Spencer・Signe,M.Spencer(1993). Competence at Work: Models for Superior Performance.梅津 祐良・成田 攻・横山 哲夫 (2011):コンピテンシー・マネジメントの展開(完訳版). 生産性出版.

松井優子・小澤温(2018).「特例子会社における知的障害者とともに働く同僚・上司に求められるコンピテンシーに関する研究」(発達障害研究第40巻第3号)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です