特例子会社は、障害者雇用を推進するための目的として、比較的大きな規模の企業で設立されることが多くあります。障害者雇用のために作られた会社なので、親会社から業務も準備してもらって、一般の企業よりもスタッフも多く、運営していくのはそれほど難しくないだろう・・・と思われるかもしれません。
しかし、特例子会社も設立された当初は親会社の理解があって作られることになっても、時間が経過して設立の経緯についての詳細を知っている管理職が入れ替わったり、経営状況が変わってくるなどの変化を受けます。また、会社としての規模が大きくなったり、設立年数が経過したり、知名度があがることによって、周囲からの期待されることも増えてきます。いつまでも親会社あるからこその特例子会社ではなく、自立した特例子会社になることが求められているのが現状です。
このような状況の中で、特例子会社が存続していくためにどのようなことを課題に感じているのか、そして、どのように対応しているのかについて、ヒアリング調査をした結果から見ていきたいと思います。
障害者雇用を行なう上で課題に感じていること
特例子会社のヒアリングからは、障害者雇用を行なう上で課題に感じていることについて、いろいろな視点からの話が語られました。その中で多くの企業からあげられた点について見ていきます。
障害社員への個人的なことに関して企業として関わる範囲や限度
障害者とわかって雇用しているために、どの程度社員の個人的なことに関して企業として関わればよいのか、その範囲や限度について試行錯誤をしている企業が多いことが示されました。
多くの企業では、基本的な方針として、職場における教育や指導は行なうものの、個人的なことや家庭のことには企業としては関わらないと決めているところが多くあります。しかし、基本的にそのように組織で決めていても、知的障害社員だけでなく、保護者や家族への連絡や配慮が必要なことがあり、その対応が企業の負担になっている事例がいくつもありました。
また、保護者が特例子会社に入社すれば安心と考えたり、会社がいろいろな面倒をみてくれるという過剰な期待をすることがあげられ、福祉や教育と同じような手厚い関わりを求める場合があることも示されています。
ある特例子会社の責任者の方からは、「社員の個人的なことに関しては、企業として対応できることには限界があるものの、時としては、本人のプライベートを含めたことにどこまで真剣に話を聞いてあげられるか、こちらから声をかけてあげられるかどうかということも大切だと感じている」と話されていました。
お話にあったように、実際には、一緒に働くスタッフに声なき声を拾い上げるところや、積極的に拾っていこうとする気持ちがないと、知的障害社員の抱えている課題に気づくことが難しいことがあるのも事実です。このように決まっているから・・・と杓子定規な判断ではなく、臨機応変に柔軟に対応することが求められているようです。
また、このような情報共有については、特定のスタッフだけが知っているのではなく、スタッフ同士が積極的にコミュニケーションの場をつくったり、自主的な連携があると望ましいという意見も聞かれました。もちろん多くの会社では、定例のミーティングを設けていますが、障害社員と接していると、すぐに対応したほうがよい事案もよくあります。
そのようなときに自ら積極的に判断して行動することができる、つまり障害社員に対しても、スタッフ同士の情報共有にもタイミングをみて柔軟に対応することができるスタッフは信頼できると判断している会社もありました。
特例子会社内の人材育成(健常者の社員、障害者の社員)
企業として存続していくには、人材育成がかかせません。それは、特例子会社も同じです。特例子会社の場合には、健常者の社員が本社や関係会社から出向で所属している場合と、プロパー社員として雇用する場合があります。背景や仕事の経験、年齢、待遇などが違うことも珍しくありません。そのような点も配慮しながら、人材育成を行っていくことが求められます。
ある本社から出向者を多く受け入れている会社では、平均年齢が高くなり、組織を継続的に運営していくことや新たな取り組みをする上で、人材育成に課題を感じていることが示されていました。
人材育成というと、研修を活用することが一般的です。障害者雇用を行っている企業では、外部で行っている障害者職業生活相談員やジョブコーチ(職場適応援助者)の研修を活用しているところが多くありますが、社内の中でも障害理解やマネジメント研修を行っている企業も複数ありました。
また、ある会社では、研修を大切な場として捉えつつも、知的障害社員と直接関わる時間を多く設け、一人ひとりを人として理解していくことが大切だと感じていることも示されていました。障害特性理解に関する知識はある程度必要とはしながらも、障害名や障害特性によって知的障害社員本人の可能性を狭めることにつながらないように、本人をしっかり見ていくことを重要視していることを強調していました。
企業として人をどのように育成していくかという点については、健常者の社員だけでなく、障害社員のリーダーやマネジメントにあたる人材の育成に関心が高いことが示されています。特に、出向者が多く、ベテランの社員が多い企業においては、障害社員のキャリアアップやモチベーション向上について検討しているところが多くありました。
特例子会社の中で、これからの企業の運営を任せていく人材をどのように育成していくかを検討しているかを考えているという話も多く聞きました。障害の有無に関係なくマネジメント層をどのように育成していくのかについては、多くの企業にとって大きな関心事になっています。
障害による配慮と新たなチャレンジとのバランス
ヒアリングの中で多く取り上げられた点として、ある業務ができない場合に、障害の特性によりできないのか、本人の甘えによるのかの見極めをどのように行っていくのかが課題になっている点です。
多くの会社では、知的障害者を雇用することに対して、合理的配慮はするものの特別扱いはしないことを方針としています。障害への配慮と能力の見極めもある程度は必要にはなってきますが、障害があるからと・・・特別扱いをすることなく、基本的な人材育成を行なって業務ができるようにサポートしていく姿勢を示していました。これによって、できる業務が増えたり、今まで気づかなかった能力が開花することが語られ、新たなことへも積極的にチャンジすることの大切さが強調されています。
ある特例子会社では、障害社員に対してマネジメントがしっかりできているのであれば、障害による配慮とともに新たなチャレンジも積極的にできていることが語られていました。つまり本気になって叱ったり、ほめるべきときにしっかり評価することにより、障害社員との信頼関係が保たれているのであれば、本人の甘えかどうかを見抜くことができるということです。また、同時に口先だけの対応をしていると、障害社員に見抜かれているスタッフがいることも触れられており、障害の有無に限らず、人材育成に真摯に接するべきことを求められていました。
ヒアリング内容について
知的障害者を雇用する特例子会社10社の知的障害者と直接関わる同僚・上司の雇用を把握している特例子会社の代表者、責任者の方を対象としたヒアリング調査になります。このヒアリングでは、知的障害者と一緒に働くスタッフの適性を明らかにすることを主な目的としていますが、それに関係することについてもヒアリングをしています。
多くの特例子会社では、知的障害者だけでなく、精神障害者や身体障害者も雇用しており、特定の障害種別という括りで見ていないことや、組織、企業として組織運営をどのように行っていくのかという点から回答していただいているため、障害者雇用を行っている企業、これから行なう企業にとっても共通する部分が多く、参考になる情報だと考えています。
まとめ
特例子会社が企業として、存続していくためにどのようなことを課題に感じているのか、そして、どのように対応しているのかについて、ヒアリング調査をした結果から見てきました。
課題として多くあげられた点は、以下の点です。
・障害社員への個人的なことに関して企業として関わる範囲や限度
・特例子会社内の人材育成
・障害による配慮と新たなチャレンジとのバランス
これらに共通するのは、マネジメントとコミュニケーションです。企業における背景は多少異なることがあるものの、知的障害者とともに働くスタッフにはコミュニケーションが重視されており、知的障害社員の個別理解とともに、一緒に働く他のスタッフとの情報共有やよい関係を築くことが求められています。
また、組織全体と障害社員を見ながら、どのように業務や人材育成を行なっていくかを考えてマネジメントしていくのか、そしていろいろな背景がある中で問題や課題に直面する柔軟さが重要視されていました。
特例子会社の設立を検討されている場合には、次の記事も参考にしてください。
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