障害者雇用が未達成の場合、もしかしたら社内の中で障害者手帳を持っている社員がいるかもしれない・・・と思うことがあるかもしれません。しかし、障害者手帳の有無について確認することは、個人的なプライバシーに関することで慎重に扱うべきことです。そんなときには、どのように社員に周知することができるのでしょうか。
社内に障害者がいるかどうかを確認したいときの手順や気をつけるべき点について見ていきましょう。
社内で障害者を把握・確認する機会はいつ?
障害者手帳を持っている社員を把握・確認する機会は、採用段階で障害者を把握・確認する場合と、採用後に障害者を把握・確認する場合があります。
採用段階で障害者手帳を持っているかを把握・確認する場合には、本人が自ら障害があることを、採用前の段階から企業に対して明らかにして応募している場合や、採用面接のプロセスの中で障害があることが明らかになった人を採用し、採用決定後に詳細な情報を確認する場合になります。
採用後に障害者を把握・確認する場合とは、採用後に障害がある状態になった社員や、採用前の時点では障害があることを明らかにしていなかったものの、採用後に明らかにすることを望んでいる社員がいて、把握・確認する場合になるでしょう。
把握・確認のタイミングによって求められる具体的な把握・確認手順や、その際の留意事項を見ていきましょう。
採用段階で障害者であることを把握・確認するときの手続き
採用決定前から障害者であることを把握する
採用決定前から障害の有無を把握する機会としては、合同面接会等のときに障害者専用求人に応募する等、採用段階から本人が自ら障害者であることを明らかにしている場合と、採用面接時等に、事業主が応募者に対して障害の有無を照会する場合があります。
一般的には、本人が自ら障害者であることを明らかにするケースがほとんどです。しかし、特別な職業上の必要性が存在する仕事や業務の目的の達成に必要不可欠な場合には、目的を示して本人に障害の有無を照会することもあります。
確認手続で明示すること
障害者であることを把握して採用した場合には、採用決定後に、その社員に対して、障害者雇用状況の報告、障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金又は報奨金の申請のために用いるという利用目的などを明示した上で、本人の同意を得て、その利用目的のために必要な情報を取得することになります。
採用決定後の確認手続は、できるだけ情報を取り扱う人数を最小限にするため、企業の人事管理部門の中でも、障害者雇用状況の報告、障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金又は報奨金の申請等、障害者雇用に関わる業務の担当者から直接本人に対して行うことが望ましいでしょう。複数の事業所がある企業のケースは、事業所ごとに担当者を設けて確認することもできます。
本人には、以下の点を明示しましょう。
・障害者雇用状況の報告、障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金又は報奨金の申請のために用いるという利用目的があること
・各種報告等に必要な個人情報の内容を提示すること
・取得した個人情報は、原則として毎年度利用するものであること
障害者雇用状況の報告、障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金・報奨金の申請は、毎年度1回行うものであり、把握・確認した情報を毎年用いることになります。
・利用目的の達成に必要な範囲内で、障害等級の変更や精神障害者保健福祉手帳の有効期限等について確認を行う場合があること
・障害者手帳を返却した場合や、障害等級の変更があった場合は、その旨人事担当者まで申し出てほしいこと
障害によっては、障害の程度の変化により、障害等級が変更になったり、障害者手帳の返却が行われる場合があります。精神障害者保健福祉手帳の場合は有効期限が2年間のため、手帳の更新手続が必要です。本人が更新するのが原則ですが、企業側でも念のため、手帳の更新がされているかを確認しておいたほうがよいでしょう。
身体障害者については、障害の程度が軽減する等の変化が予想される場合には、身体障害者手帳の交付にあたり、再認定の条件が付される場合があります。
このような状況を踏まえて、精神障害者保健福祉手帳の有効期限や身体障害者手帳の再認定の有無を把握・確認するとともに、必要に応じ把握・確認した情報の内容に変更があるかどうか確認を行う場合があることや、もし変更があった場合は自ら申し出てほしいことを伝えておきましょう。
・特例子会社又は関係会社の場合、取得した情報を親事業主に提供すること
特例子会社の認定、または関係会社特例の認定を受けた親事業主の障害者雇用状況の報告、障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金・報奨金の申請は、親事業主が、特例子会社及び関係会社の分もとりまとめて親事業主の事業所の所在地を管轄するハローワークへ行うことになっています。
このため、特例子会社や関係会社において把握した社員の障害に関する情報は、親事業主に対して提供される必要があることから、特例子会社や関係会社において情報の収集を行う際には、取得した情報を、親事業主に提供することを伝えておきましょう。
・障害者本人に対する公的支援策や企業の支援策
利用目的を明示する際に、申告することにより社員本人が得られるメリットとして、職業リハビリテーション等の公的支援策や、企業が障害者に対して行う支援策についても伝えることが薦められています。
本人への明示方法
利用目的を本人に明示する方法については、次のような方法をとることができます。。
例1:利用目的を明記した契約書その他の書面を相手方である本人に手渡し、又は送付する。
例2:ネットワーク上において、本人がアクセスした自社のウェブ画面上、又は本人の端末装置上にその利用目的を明記する。
ただし、知的障害者等、本人の判断能力に疑義がある場合には、利用目的等について本人が理解できるように十分に説明を行うとともに、本人だけでなく家族等に対しても説明を行ったほうがよいこともあります。
また、本人が成年被後見人であって、本人から成年後見の登記事項証明書が提出された場合は、本人のみならず、登記事項証明書に記載された後見人に対しても利用目的等について説明を行い、その同意を得るようにしましょう。
本人の同意を得るにあたっては、企業が障害者雇用状況の報告等以外の目的で、社員から障害に関する個人情報を取得することがあったとしても、それを活用して障害者雇用状況の報告等のためにその情報を用いることについて同意を得るようなことはせず、あくまで別途の手順を踏んで同意を得ることがガイドラインとして示されています。
例えば、障害者雇用状況の報告等のために用いるという利用目的が、他の多くの事項が記載された文書の中に記載されており、この利用目的が記載された部分が簡単に識別できない書面を、口頭で補足せずに単に手渡しただけの場合があったとします。
このような場合、社員がその部分に気づかずに、自らの障害に関する情報がどのように利用されるのか理解しないまま同意を行う可能性も考えられます。このため、企業は、社員本人が、情報の利用目的及び利用方法を理解したうえで、同意を行うことができるよう別途説明を行うなどの配慮をする必要があるとしています。
採用後に障害者を把握・確認する
採用後に障害者を把握・確認するケースとは、採用後に障害を有することとなった者や、採用前や採用面接時等においては障害を有することを明らかにしていなかったが、採用後、明らかにすることを望んでいる者を把握・確認する場合を指します。
この場合の把握・確認方法は、雇用している社員全員に対して申告を呼びかけることを原則としますが、例外的に個人を特定して照会を行うことができる場合も考えられます。
なお、把握・確認手続は、情報を取り扱う者の範囲を必要最小限とするため、原則として、企業の人事管理部門において障害者雇用状況の報告、障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金・報奨金の申請担当者から直接本人に対して行うこととします。
いくつかの事業所を有する企業の場合は、事業所ごとに担当者を設けて確認することもできるでしょう。しかし、把握・確認を行うきっかけによっては例外もありますので、慎重に行なうようにしてください。
社員への呼びかけ方法の適切な例と不適切な例
採用後に障害者を把握・確認する場合の呼びかけの方法は、雇用する社員全員に対して、メールの送信や書類の配布等、画一的な手段で申告を呼びかけることが原則となっています。
呼びかけ方法として適切な事例
例1:社員全員が社内LANを使用できる環境を整備し、社内LANの掲示板に掲載する、または社員全員に対して一斉にメールを配信する。
例2:社員全員に対して、チラシ、社内報等を配布する。
例3:社員全員に対する回覧板に記載する。
例4:社員全員が定期的に見ると想定される事業所内の掲示板に掲示する。
例5:社員全員に対して、自宅に文書を郵送する。
呼びかけ方法として不適切な事例
例1:社員全員が社内LANを使用できる環境にない場合において、社員全員に対してメールを配信する。
例2:休憩室にのみチラシを置いておく。
例3:社内サークル等、ある特定の集団に対してのみチラシを配布する。
例4:障害者と思われる社員のいる部署に対してのみチラシを配布する。
個人を特定して照会を行う
採用後に障害者を把握・確認する場合は、雇用している社員全員に対して申告を呼びかけることを原則としますが、例外的に、個人を特定して障害者手帳等の所持について照会を行うことができる場合もあります。
ここでは、個人を特定して障害者手帳等の所持について照会を行うことができるケースはどのようなときなのか、また、その時の照会を行う際の留意事項、照会を行って障害者手帳等の所持を把握し、かつ本人の同意のもとで利用目的に必要な情報を確認する手順を示します。
照会を行う根拠として適切な例と不適切な例
障害者である社員本人が、職場において障害者の雇用を支援するための公的制度や社内制度の活用を求めて、企業に対し自発的に提供した情報を根拠とする場合は、個人を特定して障害者手帳等の所持を照会することができます。
照会を行う根拠として適切な例
例1:公的な職業リハビリテーションサービスを利用したい旨の申出
例2:企業が行う障害者就労支援策を利用したい旨の申出
照会を行う根拠として不適切な例
例1:健康等について、部下が上司に対して個人的に相談した内容
例2:上司や職場の同僚の受けた印象や職場における風評
例3:企業内診療所における診療の結果
例4:健康診断の結果
例5:健康保険組合のレセプト
個別の状況によっては照会を行う根拠として不適切な場合があり得る例
例1:所得税の障害者控除を行うために提出された書類
例2:病欠・休職の際に提出された医師の診断書
例3:傷病手当金(健康保険)の請求に当たって事業主が証明を行ったこと
社員本人の障害の受容の状況や病状等によっては、これらの情報をもとに照会を行うこと自体が、本人の意に反するようなケースが生じうる可能性があると考えられる事例です。これらの情報をもとに照会を行おうとする際には、照会を行うことが適切かどうかの見極めを、企業において個別ケースごとに慎重に行う必要があります。
判断に迷うような場合、本人の障害の受容の状況や病状等を把握している専門家(保健医療関係者、例えば産業医など)がいるときには、そうした人にあらかじめ相談するなどして、照会を行うことが適切かどうかを判断するとよいでしょう。
なお、障害者の把握・確認は、原則として、情報を取り扱う担当者を必要最小限とするため、企業の人事管理部門において障害者雇用状況の報告、障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金・報奨金の申請担当者から直接本人に対して行います。
照会に当たっての注意事項
照会を行う理由を明確に
照会を行う際には、障害者雇用状況の報告、障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金又は報奨金の申請のために用いるという利用目的を明示したうえで、障害者手帳等の所持の確認を行ないます。
このようなケースの場合は、なぜある社員を特定して尋ねるのか、根拠となる情報を明らかにすることや、本人に対して経緯を明確にすることが求められています。
強要の禁止
照会に関しては、障害者手帳等の所持を否定した場合や、呼びかけに対する回答を拒否した場合に、回答するよう繰り返し迫ったり、障害者手帳等の取得を強要することはふさわしくありません。
照会に対して回答することは業務命令ではないことを明確にするために、「この照会は、社員に対して、障害者雇用状況の報告、障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金・報奨金の申請のために用いることに同意する場合にのみ回答をお願いするものであり、必ず回答しなければならないというものではない。」という旨を明らかにすることが望ましいでしょう。
動画の解説はこちらから
まとめ
社内に障害者がいるかどうかを確認したいときに行う手順について見てきました。
社内で障害者を把握・確認する機会は、採用前の段階から障害者枠での応募を行なうなど、本人が自ら障害があることを企業に対して明らかにして応募している場合や、採用面接のプロセスの中で障害があることが明らかになった人を採用する場合があります。
採用後に障害者を把握・確認する場合とは、採用後に障害がある状態になった社員や、採用前の時点では障害があることを明らかにしていなかったものの、採用後に明らかにすることを望んでいる社員がいて、把握・確認する場合になります。
また、基本的には社員全員に対して周知することが一般的ですが、例外的に、個人を特定して障害者手帳等の所持について照会を行うことができる場合についても説明してきました。
いずれにしても障害者手帳の有無について確認することは、個人的なプライバシーに関することで慎重に扱うべきことです。確認手続で明示すること、本人への明示方法、呼びかけ方法の適切な例と不適切な例などを示していますので、十分検討して行なってください。
障害者の把握・確認については、厚生労働省からガイドラインがでていますので、しっかり読んでから行なうようにしてください。
参考資料:プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドラインの概要
参考
障害者手帳を持っていない発達障害者や難病の雇用で活用できる助成金
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