2026年8月3日更新
障害者採用の面接や試験を予定しているとき、応募者から「文字で質問を示してほしい」「試験時間を調整してほしい」「支援者に同席してほしい」と申し出があることがあります。
その際、「どこまで対応すればよいのか」「ほかの応募者と違う方法にすると不公平ではないか」と迷う企業も少なくありません。
選考時の合理的配慮は、障害名に応じた対応を一律に決めることではありません。また、応募者だけに採用基準を下げることでもありません。
重要なのは、応募者が選考のどの場面で支障を感じるのかを確認し、職務に必要な適性や能力という評価目的を維持しながら、能力を適切に示せる方法を話し合うことです。
- 選考時の合理的配慮の基本的な考え方
- 採用基準と選考方法を分けて考える理由
- 配慮の申し出があったときに確認すること
- 面接や試験で検討される配慮の例
- 企業内で決めておきたい役割と判断の流れ
選考時の合理的配慮とは
選考時の合理的配慮とは、障害のある応募者が、障害のない応募者と同じように採用選考へ参加し、自分の適性や能力を示せるように、選考上の支障を減らす対応です。
たとえば、面接会場へ入ることが難しい、音声だけでは質問を理解しにくい、通常の解答方法では能力を示しにくいなど、選考方法との関係で支障が生じる場合があります。
選考時の合理的配慮は、採用後に仕事を行うための配慮とは分けて考えます。
選考時には、面接や試験を受ける際の支障を確認します。採用後には、実際の仕事、職場環境、業務指示、勤務条件などとの関係から、あらためて必要な配慮を検討します。
変えるのは採用基準ではなく、能力を確認する方法
合理的配慮を行うと、「採用基準を緩めることになるのではないか」と考えることがあります。
しかし、調整するのは、応募者の適性や能力を確認するための方法です。
たとえば、質問内容を文字でも示す、試験問題の提示方法を変える、会場設備を確認するといった対応は、応募者が持っている能力を示しやすくするためのものです。
一方で、どのような変更が可能かは、その選考で何を評価しているかによって異なります。
知識や正確性を確認する試験なのか、一定時間内の処理能力そのものを確認する試験なのかによって、試験時間の調整に対する考え方は変わります。
そのため、配慮の申し出を受けたときは、先に次の点を確認します。
- この選考で何を評価するのか
- 現在の方法でなければ確認できない能力なのか
- 方法を調整しても、評価目的を維持できるか
合理的配慮を検討するには、応募者の障害情報だけでなく、企業側の評価基準も明確にする必要があります。
配慮の申し出があったときに確認すること
どの選考場面で支障が生じるのか
「障害名は何ですか」と広く確認するのではなく、選考のどの場面で、何をすることが難しいのかを確認します。
たとえば、
- 会場までの移動や建物への出入り
- 面接時の質問や回答
- 筆記試験の問題確認や解答
- 実技試験で使用する設備や道具
など、具体的な場面から整理します。
どのような方法であれば能力を示せるのか
応募者が希望する方法と、その方法が必要な理由を確認します。
ただし、希望された方法をそのまま実施することだけが合理的配慮ではありません。
企業側から選考の目的や条件を説明し、別の方法でも支障を減らせないかを話し合う場合もあります。
企業内で誰が判断するのか
面接担当者が、その場ですべてを判断できるとは限りません。
選考方法の変更、会場設備、試験時間、支援者の同席などは、採用責任者や配属予定部署、労務担当者などの確認が必要になることがあります。
すぐに回答できない場合は、社内で確認したうえで、いつまでに回答するかを応募者へ伝えます。
選考場面別に考える合理的配慮
合理的配慮は、障害種別ごとの一覧から選ぶのではなく、選考場面で生じている支障から考えます。
応募・書類提出
求人情報や応募方法へアクセスできるか、指定された方法で書類を提出できるかを確認します。
必要に応じて、情報の提示方法や提出方法を検討します。
面接会場への移動と設備
建物への出入り、エレベーター、面接室までの移動などに支障がないかを確認します。
設備面の変更が難しい場合には、利用可能な別会場などを検討することもあります。
面接でのコミュニケーション
音声だけでのやり取りが難しい場合には、質問を文字でも示す、筆談や通訳を活用するなどの方法が考えられます。
重要なのは、応募者に代わって回答することではなく、本人が質問を理解し、自分の考えを伝えられる状態をつくることです。
筆記試験や作業課題
問題の提示方法、解答方法、試験時間、試験環境などに支障があるかを確認します。
ただし、どこまで方法を変更できるかは、試験で評価する能力との関係から判断します。
支援者や通訳者の同席
支援機関の職員や通訳者の同席が、本人の意思疎通や選考への参加を助ける場合があります。
同席者の役割を事前に確認し、基本的な質問や回答は応募者本人を中心に進めます。
合理的配慮を検討するときに避けたい対応
選考時には、次のような対応を避ける必要があります。
- 障害名だけで必要な配慮を決める
- 全員に同じ選考方法を使うことだけを公平だと考える
- 選考の目的を確認せず、申し出をすぐに断る
- 面接担当者が、その場で実施の可否を断定する
また、合理的配慮を検討するためであっても、本人の生活、病歴、家族、通院、服薬などを必要以上に聞くことは避けます。
確認する目的を応募者へ説明し、選考上の支障や職務に必要な適性・能力との関係から、必要な範囲で確認することが重要です。
公正な採用選考については、厚生労働省の「公正な採用選考の基本」も確認してください。
合理的配慮の制度については、「雇用分野における障害者への差別禁止・合理的配慮」に示されています。
面接担当者だけで判断しないために会社で決めること
応募者から配慮の申し出があったとき、対応が担当者個人の経験や判断に任されていると、同じ申し出でも回答が変わります。
会社として、少なくとも次の点を確認しておく必要があります。
- 配慮の申し出を誰が受けるのか
- 選考の目的と評価基準を誰が確認するのか
- 実施の可否を誰が判断するのか
- 面接官や試験担当者へ誰が共有するのか
- 応募者へ誰が回答するのか
重要なのは、すべてのケースに同じ結論を用意することではありません。
応募者の申し出、選考方法、評価基準、企業側の実施方法を確認し、会社として判断できる流れをつくることです。
- 配慮の申し出を受ける担当者が決まっている
- 選考で評価する適性や能力を説明できる
- 応募者へ、どの場面で支障があるかを確認している
- 配慮の実施可否を判断する人が決まっている
- 決定した方法を面接官や試験担当者へ共有している
当てはまらない項目が複数ある場合、個々の面接官の対応力ではなく、会社としての確認・判断・共有の流れを見直す必要があります。
選考時の合理的配慮は、障害名や一般的な配慮例だけでは判断できません。
何を評価する選考なのか、応募者はどの場面で困っているのか、企業としてどのような変更が可能なのかを整理する必要があります。
30分相談では、選考方法、評価基準、応募者からの申し出を伺い、自社では何を確認し、誰が判断する必要があるのかを一緒に整理します。
選考時の合理的配慮に関するよくある質問
Q:合理的配慮を行うと、応募者を特別扱いすることになりませんか
合理的配慮は、応募者だけに有利な評価基準を設けることではありません。
選考上の支障を減らし、職務に必要な適性や能力を示せる方法を検討するものです。
Q:希望された配慮は、すべて実施する必要がありますか
希望された方法と必要な理由を確認し、選考の目的や企業側の実施方法を踏まえて話し合います。
希望された方法とは異なる方法で、同じ支障を減らせる場合もあります。個別の申し出については、内容を確認せず一律に判断しないことが重要です。
Q:試験時間を調整すると、公平な評価ができなくなりませんか
試験時間を調整できるかは、その試験で何を評価しているかによって異なります。
知識や正確性を評価するのか、一定時間内の処理能力を評価するのかを整理し、評価目的を維持できる方法を検討します。
Q:支援者や通訳者の同席を認めてもよいですか
本人の意思疎通や選考への参加を助けるために、同席を検討することがあります。
ただし、同席者が本人に代わって回答するためのものではありません。事前に同席者の役割を確認します。
Q:配慮の申し出がなかった場合も、企業から確認したほうがよいですか
募集案内や面接日程の連絡時に、「選考を受けるうえで必要な配慮があれば申し出てください」と案内する方法があります。
応募者が申し出やすい窓口と連絡方法を示しておくことが大切です。
まとめ
選考時の合理的配慮は、障害名に応じた対応を一律に決めることではありません。
応募者から、
- 選考のどの場面で支障があるのか
- どのような方法であれば能力を示せるのか
を確認し、職務に必要な適性や能力という評価目的を維持しながら、選考方法を検討します。
また、配慮の実施可否を面接担当者だけに任せず、選考の目的、判断者、情報共有、応募者への回答方法を会社として整理しておくことが重要です。
一般的な配慮例を知るだけでは、個別の選考で適切な判断ができるとは限りません。
応募者の申し出と自社の評価基準を結びつけ、何を変更できるのかを話し合える状態をつくる必要があります。
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