最近では、大人の発達障害がテレビ番組で特集されたり、インターネットで情報が流されたりと広く知られるようになってきました。そのため自分の生きづらさの問題が発達障害にあるのではないかと考え、20代、30代で病院を受診する人が増えています。
発達障害かもと思ったら・・・、また身近な人が発達障害の可能性がある場合には、どうしたらよいのでしょうか。発達障害は、個々の特性の現れ方が千差万別です。そのため専門的な専門の医師を受診することをおすすめします。
専門医をどのように探すのか、病院の受診や診断の流れについて見ていきます。
発達障害を疑ったら専門医の受診する
「自分が発達障害かもしれない・・・」と思ったら、発達障害専門の医師を受診しましょう。発達障害は、個々の特性の現れ方が千差万別です。WEBなどで、寄せ集めの情報や対処法に頼ると、自分の特性には合致しない、間違った方法を試すことになり、それによって特性から生じる課題や問題を大きくすることにもなりかねませんので、注意が必要です。
発達障害は、診療領域では精神科に該当します。しかし、その中でも発達障害専門の医師を選んだほうがよいのは、同じ精神科医の医師でも専門的に見ている疾患によって診断の観点が異なるため、他の精神疾患と混同され誤診される恐れがあるからです。
発達障害の診断経験の豊富な専門医を受診し、適切な対処法を聞くことは、適切な薬物療法によって症状が抑えられたり、生きづらさを軽減できることに繋がることがあります。
発達障害専門の医師を紹介してくれる公的機関
精神医学の世界では、これまで大人の発達障害はあまり認知されてこなかったため、大人の発達障害を専門に診る医療機関はまだ多くありません。受診する場合には、大人の発達障害を専門に診てくれるかどうか、事前に確認しておく必要があります。
専門医がうまく探せないときは、最寄りの地域の保健所や発達障害者支援センター、精神保健福祉センターに問い合わせる方法もあります。
専門医を受診するまでの流れ
自治体の相談窓口にたずねる
最寄りの保健所、発達障害者支援センター、精神保健福祉センターに相談することができます。自分の気になっている状況を話し、大人の発達障害を診断できる医療機関を紹介してもらいましょう。
インターネットで探す
大人の発達障害専門の医院や病院をホームページなどから探しましょう。
初診の予約をとる
該当する医療機関が見つかったら、電話などで初診の予約を取ります。医療機関によっては指定日を設けて、初診受付をしているところがあります。大人の発達障害を診る医療機関は少ないため、受診希望者が殺到している医療機関では初診の予約が数ヶ月待ちになることもあります。
受診する前の準備
受診する前の準備として、日常生活で困っていることや相談したいことをリスト化しておきましょう。また、自分の過去の様子が分かるもの(母子手帳、成績等)を準備します。
なぜ、大人になってから診断をしようと思うのか
社会に出るまで自分の発達障害に気づかなかった人が、どうして大人になってから、わざわざ発達障害の診断を行なうことがあるのでしょうか。それは、診断がないまま社会に出たときに、発達障害の特性によってさまざまな問題が生じてしまい、疲れてしまったり、メンタル面でのダメージを受けやすくなるからです。
例えば、職場などでは、発達障害の特性の結果、上司や同僚に「やる気がない」などと誤解されやすいことがあります。職場でどのような問題があるのか見ていきましょう。
職場で起こるさまざまな問題
社会へ出るときには、対人関係が大きく変化します。気心の知れたプライベート中心の交友関係から、いろいろな人たちの人間関係へと複雑化します。そして、出社、退社時の挨拶や身だしなみ、相手に合わせた言葉遣いなど、社会的なマナーや一般常識が厳しく求められるようになります。
しかし、発達障害の人はこのようなマナーや常識を欠いていることが多いため、非常識、生意気と誤解されることが多くなります。このほか発達障害者特有の要因からミスや誤解などいろいろな問題を起こしがちです。発達障害の人が職場で指摘しやすい主な問題には、次のようなものがあります。
・返事をする必要性を感じていないため、呼びかけても返事をしない。
・報告・連絡・相談ができない。
・「あれはできた」「なるべく早くしあげて」など、曖昧な表現での質問が何を指しているのかがわからない。
・指示された内容を勝手に解釈して、言われた通りに行わない。
・要求されている仕事のレベルが理解できないことから、中途半端に終わらせてしまう。
・手先が不器用なことから、仕事が雑になりがちで、作業が遅い。
このような問題は、職場の上司や同僚の目には、「やる気がない」「怠けている」としか見えず、誤解されてしまうことになります。
悩んだら専門医の診断が大切
発達障害に関連しそうな問題に悩み、努力しても仕事や対人関係がうまくいかない人は、発達障害専門の医師がいる医療機関へ行くことをおすすめします。企業によっては産業医を配置していますが、発達障害について詳しく診断できる産業医は多くはありません。
実際、仕事でのつまずきなどをきっかけに、自分で発達障害を疑い、専門医を受診して初めて診断を受けたという人も少なくありません。中には、職場での問題もなく、対人関係も良好な人が実は発達障害だったとわかることもあります。生真面目な努力家で評判の人が、疲れ切るまで働いてしまうということで受診し、初めて発達障害と診断されるようなケースもあります。
気になることがあれば、まずは診断受けて自分の特性を知ることが大切です。その上で医師に助言されたことを実行し、身につけることで少しずつ苦手さをカバーできます。職場では上司に支援が必要なことなどを相談し、理解を求めたり、気軽に相談できる理解者を職場につくることも大きな助けとなります。
病院の受診について
発達障害の診断には、本人の生育歴が重要なポイントになります。そのため、できれば生い立ちをよく知っている親などと一緒に受診するとよいでしょう。
医療機関では、もちろん本人だけで受診することもできますが、できれば家族特に親と一緒に受診することによって、医師はよりはっきりとその人の幼少期の特徴や生育環境を知ることができるからです。
また、発達障害の人の中には、もともと人と話すのが苦手で家族以外の人と対面すると緊張や不安が強くなり、うまく話せない人がいます。このような場合には、身内の人と一緒にいることでリラックスし、落ち着いて診察を受けられるという利点もあります。
家族にとっても本人と一緒に受診することは、発達障害の理解深めることができますし、発達障害の知識や本人の特性を理解し、診断後の適切なサポートを行いやすくすることができます。
自閉的特性のある人は、自分に対する認識が客観的ではないことも多くあります。身近な家族から見ると、いろいろな問題があると感じていても、本人は全く気づいていないこともあります。親と一緒に受診することによって、共通の認識を共有することにもつながりますし、本人が実は辛かったり、困っていたことに、家族が気づいていなかったことを知る機会になることもあります。
親や家族とともに病院を受診するメリット
より正確な生育歴を医師に伝えることができる
発達障害の診断で重要なポイントになるのは、8歳ごろまでの幼児期の性格や生活態度だと言われています。このような子どもの頃の記憶はあいまいになりがちで、親から当時の様子をより正確に伝えてもらうことは、医師が的確な情報を知るのに役立ちます。
また、本人の主観的な話と親の客観的な観察の両方を聞くことで、医師にとって発達障害を診断するときの参考にすることができます。
生活上の問題点がより明確になる
本人が考えている問題点と、身近な家族が感じている問題点についてズレがあることは少なくありません。両者がお互いの問題点を理解しあうことによって、適切な治療の参考にすることができます。
本人の特性を理解する機会になる
家族も発達障害について正確に理解できる機会になります。また、本人の特性を知り、その特性がどのような問題を生じさせているのかを知ることは、サポートするときの参考になります。さらに本人から医師への訴えをきくことは、悩みや苦しみを理解し、共感するためにも大切です。
リラックスして受診できる
発達障害の人の中には、人前では不安感や緊張感が極度に強くなる人がいます。そうした人でも身内の人がいるとリラックスして、医師と話をしやすくなります。また、病院の雰囲気にのまれて緊張でうまく話ができないときでも、家族が話を補ったり、代わりに話したりしてくれるメリットがあります。
初診から診断までかかる期間
発達障害の診断は問診の外、いくつかの検査をおこなって確定されます。そのため初診で診断がくだされることはありません。どのような検査項目があるのかを見ていきましょう。なお、この流れは医療機関によって若干異なることもあります。
初診
初診のときには、母子手帳、成績表、通知票、保育園や幼稚園時代の連絡帳などが残って持参し、医師に提出します。問診が始まる前に、自閉スペクトラム症(ASD)、ADHDそれぞれのチェックを行います。チェックリストの質問項目に答える記述式のものになります。この結果を踏まえて、医師や心理士、あるいは精神保健福祉士による問診が行われます。問診では、性格や心身の状態、困っている問題などを聞き、話しているときの表情や態度なども観察します。
問診後に明確な診断はくだされませんが、発達障害の可能性の有無や、本人が持っている発達障害特性についての説明がされます。ここまでで1回目の診療が終了することもあれば、医療機関によっては続けて、次の診察を行うこともあります。
生育歴
発達障害の診断は、幼少期の行動の特徴から判断されます。そのために欠かせないのが、生育歴の聞き取りです。発達障害は幼少期にその特徴がわかりやすく出ている場合が多く、診断基準でも幼少期の特徴を根拠にして、診断をつけるように指示しています。初診の際に母子手帳などを参考にするのも、第三者の目で見た記録が幼少時の様子を知る手がかりとなるからです。
出生時の状況、親や家族との親密度、学校生活、職歴、病歴など、これまでの生い立ちや学校でのいじめの有無を含めた人間関係、職場での人間関係等について聞きます。話の内容を診断基準に照らして、三つ組の障害があれば自閉スペクトラム症(ASD)、衝動性や多動性の特性があればADHDが疑われます。
【初診の生育歴で聞かれること】
発達障害の診断は、幼少期の特徴をDSM-5などの国際診断基準に照らして判断します。そのため生育歴は、問診の中でも特に重視されます。
出生時
正常分娩かどうか、出産の様子など。
乳幼児期
言葉や知能、運動機能の発達のほか、特に目についた行動やほかの子どもと比較して変わっていると言われた点など。過保護、過干渉、放任といった、保護者の養育態度など。
学校生活
学童期、中高生時代の得意・不得意科目等の学業成績。また、いじめや不登校、非行の有無などの生活態度。友人関係、部活動や趣味など。
成人期
学校卒業以降の職業の有無や職歴、友人関係など。生活上の問題点や困っていること。
社会生活
職歴、職業の適否、職場での地位、職場での人間関係、職場での評判。職場での問題点や生活上で困っていることなど。
結婚生活
不和や葛藤など、夫婦関係での問題点、配偶者の意見など。家庭での問題点や生活上で困っていることなど。
家族歴
発達障害の原因は、遺伝的要因が大きいと考えられていることもあり、家族や親族などの発達障害、精神疾患の有無などを聞きます。
脳波検査
医療機関によっては行わないところもあります。発達障害の人の約30%は、てんかんを併発するので脳波検査では、まずてんかんの有無を調べます。また、知覚過敏の有無、ストレス耐性の強弱もわかります。
脳波を調べることによって、発達障害の人の訴える生活問題が、薬物療法で治療が可能な脳の機能の問題だと判明することがあります。また、問題を起こしている原因が発達障害以外の疾患であることがわかる場合もあります。
知能検査
発達障害の特性を見極めるために知能検査を行います。16歳以上の知能検査では、一般的にウェクスラー式成人知能検査(WAIS-Ⅲ)が用いられています。本人の主訴や家族からの生育歴を聞いたり、主観的な話と知能検査という客観的なデータをつき合わせることで、その人の得意・不得意などの発達障害の特性を裏付け、確認することができます。
SPECT、MRI
SPECTやMRIで脳画像を撮り、脳の疾患を調べます。SPECTは、脳の血流を図る検査、MRIは脳の断層写真を撮る検査です。医療機関によっては実施しないところもあります。
これらの検査によって、脳腫瘍や脳梗塞、変性疾患など脳そのものに物理的な疾患、器質的欠陥がないかを確認します。いずれかの疾患が見つかれば、治療の領域が変わってきます。脳外科など、該当する診療科を受診して、必要な治療を受けることになります。
総合診断
以上のような検査の結果を踏まえて、最終的な診断が行われます。診断名が決まると、取り組むべき課題が明らかになり、治療がスタートします。
【診断までの流れ】
初診
自閉症スペクトラム症(ASD)やADHDのチェックリストの記述や問診を行ないます。
これまでの経過の確認
生育歴や家族の聞き取りを行ないます。
脳波検査
てんかんの有無などを調べます。
知能検査
知的レベルを調べます。
脳疾患の検査
SPECTやMRIで脳画像を撮り、脳の疾患を調べます。脳疾患の検査は、医療機関によって他の医療機関に委託して施行しているところもあります。
総合診断
診断名を告げアセスメント行います。
これらの検査は、1日で行われるのではなく、初診から総合診断まで複数回受診します。医療機関によって検査項目の種類や診断がつくまでの時間は異なります。診断がでるまでに、1ヵ月から3ヶ月かかることもあります。
動画の解説はこちらから
まとめ
発達障害かもしれない・・・と思ったときに、実際に発達障害専門の医療機関を受診するときの流れや検査の内容、受診することのメリットについて見てきました。発達障害に関する診断を受けることは、発達障害の特性によってさまざまな問題が生じているときに、どのように対応してよいかがわかったり、取り組むべき課題を明確にすることができます。
また、親や家族が受診のときに一緒にいくことによって、発達障害について正確に理解できる機会になります。本人の特性を知り、その特性がどのような問題を生じさせているのかを知ることは、サポートするときの参考になりますし、本人から医師への訴えをきくことは、悩みや苦しみを理解し、共感するためにも役に立つでしょう。
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