障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく企業名公表が行われました。今回発表されたのは、6社です。最近の企業名公表は、0~2社だったので、社名公表が多いというイメージがありますが、今回の発表は、令和元年、2年度のものが対象となっています。
企業名が多くなった理由としては、平成30年の官公庁などにおける障害者不適切計上に伴ない障害者採用が行われたことが影響しています。企業側から公務員に転職する障害者が一定数いたことを考慮して、令和元年度に特例的に「行政措置」の猶予が行われていました。さらに、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて指導期間を延長したことも関係しています。
企業名公表までの流れや、社名公表になる基準、社名公表になった企業の障害者雇用状況について見ていきます。
企業名公表とは
「障害者の雇用の促進等に関する法律」(障害者雇用促進法)では、障害者を従業員の2.3%雇用することが義務づけられています。この障害者雇用が達成できていないと、行政(ハローワーク、労働局、厚生労働省等)からは、障害者を雇用するように指導が入ります。
この指導に従うことが様々な状況によって達成することが難しいと、行政からは障害者雇入れ計画の適正実施勧告に従わないとみなされ、障害者の雇用状況に改善が見られない場合、企業名を公表されることがあります。これは、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(障害者雇用促進法)に基づいたものです。
今回の企業名公表では、厚生労働省から、6社の企業名が公表されています。今回の企業名公表の対象となっている期間は、次の通りです。
・平成29年からの雇入れ計画を作成した企業
平成29年からの雇入れ計画を作成した企業は、令和元年度に特別指導を実施した上で、通常であれば令和2年3月に企業名が公表。
・平成30年からの雇入れ計画を作成した企業
平成30年からの雇入れ計画を作成した企業は、令和2年度に特別指導を実施した上で、通常であれば令和3年3月に企業名が公表。
ここ5、6年の企業名公表は、0~2社だったので今回は6社と多いように感じますが、その背景には、次のような理由があります。
・平成30年に官公庁の障害者不適切計上に伴い、企業側から公務員に転職する障害者が一定数いたことを考慮して、特例的に「行政措置」の猶予。
・新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえて指導期間を延長。
企業名公表までの流れ
「障害者の雇用の促進等に関する法律」(障害者雇用促進法)では、前述したように従業員の2.3%にあたる障害者を雇用するように企業に求めています。しかし、法定雇用率が達成できていないからと言って、すぐに企業名が公表されるわけではありません。
企業名公表までの流れを見ていきたいと思います。
出典:障害者雇用率達成指導の流れ(厚生労働省)
法定雇用率の雇用義務のある企業は、毎年6月1日時点の障害者雇用の状況を報告する義務があります。これは、ロクイチ調査と呼ばれています。これによって行政では、各企業が障害者を何人雇用しているのかを把握することができ、これらの結果がまとめられて障害者雇用状況の集計結果となります。
障害者雇用が未達成であり、一定の基準を超えると、障害者を雇い入れるための「雇入れ計画作成命令」が出されます。これは、2年間のうちに雇用しなければならない障害者をいつ、何人雇用するかについての計画書を作成するものです。企業の事業担当者であれば、事業計画をたてるのと同じように、障害者を雇用する計画を立てることになります。
2年間の雇入れ計画の間に予定通りに雇用が進んでいるかが確認され、予定通りに進んでいない場合には、「雇入れ計画の適正実施勧告」や「特別指導」が行われ、それでも障害者雇用が進まない場合には、企業名が公表されることになります。
企業名公表になる基準は?
今回の企業名公表になった基準を見ていきましょう。
今回の企業名公表の対象となっている企業は、次の30社でした。
・令和元年度の公表を前提としていた特別指導の対象である5社
・令和2年度の公表を前提としていた特別指導の対象である25社
今回は、令和3年1月1日現在において、実雇用率が令和元年の全国平均実雇用率 (2.11%)未満の場合(法定雇用障害者数が4人以下の企業については当該数 が3~4人で雇用障害者数が0人の場合)で、令和3年12月1日現在においても同様の場合、企業名を公表することとしています。
なお、上記が該当する場合でも、下記のいずれかに該当する場合は、 初回の公表に限り、猶予されています。
・ 直近の障害者雇用の取組の状況から、実雇用率が速やかに令和元年の全国平均実雇用率(2.11%)以上、又は不足数が0人となることが見込まれるものである。
・ 特別指導期間終了後の1月1日から1年以内に特例子会社の設立を実現し、かつ、実雇用率が令和元年の全国平均実雇用率(2.11%)以上、又は 不足数が0人となると判断できるものである。
令和3年度の企業名公表の流れ
平成29年からの雇入れ計画を作成した企業
令和元年度の公表を前提としていた特別指導対象企業(5社)に対する指導が行われ、対象企業のうち1社については経営状況の悪化等により、今後の雇入れが見込まれないことから特別指導終了後公表の対象外となりました。また2社は、令和3年12月1日までに公表基準を上回る実雇用率の改善等が認められています。
今回、公表となった残りの2社については改善が認められなかったため、障害者雇用促進法第47条の規定に基づき公表されることになりました。
平成30年からの雇入れ計画を作成した企業
令和2年度の公表を前提としていた特別指導対象企業(25社)に対する指導が行われた結果、対象企業のうち21社は令和3年12月1日までに公表基準を上回り、実雇用率の改善等が認められています。
残りの4社については改善が認められなかったため、障害者雇用促進法第47条の規定に基づき公表されることになりました。
出典:障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく企業名公表について(厚生労働省)
公表企業の雇用率達成指導の流れは、次のとおりです。
出典:障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく企業名公表について(厚生労働省)
令和3年度公表になった企業
厚生労働省から「障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく企業名公表について~障害者の雇用状況に改善が見られない6社を公表します~」という文章でプレスリリースがされています。この資料には企業概要をはじめ、社名公表に至るまでの経緯、障害者雇用の推移が詳細に示されています。
社名公表になった企業の概要
今回社名公表になった1社目は、不動産賃貸業を行っている企業です。指導経過の内容です。
企業としては、障害者の若干数の採用が行われたものの、店舗増に伴う従業員の増加に対して障害者の雇入れに向けた求人条件や職務の見直しが十分でないため、障害者の雇用が進まなかったようです。また、急速に企業が大きく成長していますが、それに障害者雇用が追いついていかなかったこともうかがえます。
職域開発に努めたようですが、結果的に令和3年12月1日現在の実雇用率が0.46%と低い水準にとどまっていることから、企業名が公表されています。
2社目の企業は、設備工事業を行なっている企業です。指導経過の内容です。
一連の指導の中で、企業としては障害者向けの求人を提出し、若干数の採用は行なったものの、障害者の雇入れに向けた求人条件や職務の見直しが十分でなく、障害者の雇用が進まなかったようです。また、職域開発には努めているものの、令和3年12月1日現在の実雇用率が1.20%と低い水準にとどまっていることから企業名が公表されました。
3社目の企業は、ビルメンテナンス業を行なっている企業です。指導経過の内容です。
障害者向けの求人が令和2年度までの期間で提出され、若干数の採用は進みました。しかし、その後障害者の雇入れに向けた取組が行われておらず、障害者の雇用が進まずに、令和3年12月1日現在の実雇用率が0.49%と低い水準にとどまっていたことから企業名が公表されました。
4社目の企業は、靴・履物小売業を行なっている企業です。指導経過の内容です。
企業では、採用にむけて実習の受け入れを行ない、若干数の採用が進みました。しかし、障害者の雇入れに向けた求人条件や職務の見直しが十分でなく、障害者の雇用が進まなかったようです。また、引き続きさらなる職域開発に努めているものの、令和3年12月1日現在の実雇用率が0.84%と低い水準にとどまっており、企業名公表となっています。
5社目の企業は、電子デバイス製造業を行なっている企業です。指導経過の内容です。
企業では、障害者向けの求人を提出し、若干数の採用が行われましたが、障害者の雇入れに向けた求人条件や職務の見直しが十分でないため、障害者の雇用が進まなかったようです。また、職域開発に努めているものの、令和3年12月1日現在の実雇用率が1.13%と低い水準にとどまっていることから企業名公表になりました。
6社目の企業は、アクセサリー・雑貨小売業を行なっている企業です。指導経過の内容です。
企業は、令和2年度までの間において障害者向けの求人が提出され、若干数の採用が行われています。しかし、その後障害者の雇入れに向けた取組が行われていないため、障害者の雇用は進まず、令和3年6月1日現在の実雇用率が0.59%と低い水準にとどまっていたことから、企業名公表になりました。
出典:障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく企業名公表について(厚生労働省)
動画での解説はこちらから
まとめ
障害者雇用における企業名公表までの流れや令和3年度社名公表になった企業の状況を見てきました。
企業名公表になった企業の状況を見ていくと、障害者雇用に対して何も行動していなかったわけではありません。実習の受け入れや求人票を提出し、採用している企業がほとんどです。一方で、仕事内容の切り出しがうまく行かずに、不足人数に変化がない企業も多く見られます。それまで障害者の採用数0から、数人雇用している企業もあります。それでも、企業名公表される可能性があるのです。
一般的に、障害者雇用の受け入れを成功させている企業が採用までにかけている時間は、おおよそ半年ほどです。付け焼き刃の採用では、せっかく採用できたとしても職場定着することはなく、すぐに退職に至ってしまうことが多くあります。そうすると、今までにかかった労力は無駄になってしまい、またはじめから採用活動をする必要があります。
「雇入れ計画作成命令」が出されて、期限が決まっているということから、採用を焦ってしまう気持ちもわかりますが、採用できる準備ができていなければ、たとえ採用できてもそれが継続できることはありません。時間に追われての障害者雇用は、社内の障害者雇用が進まないまま障害者を採用してしまうケースも見られ、結局、障害者にとっても企業にとっても残念な結果になってしまうことが少なくありません。
できるだけ「雇入れ計画作成命令」の対象となる前に、障害者雇用の取り組みをはじめることが大切です。そのためには事前に準備が必要です。障害者雇用を社内で進めていくために必要なことを整理し、社内の経営者・幹部層が理解できるような方法でプレゼンすることが大切です。組織として障害者雇用を進める意思決定ができるようにすると、障害者雇用のステップを進みやすくすることができます。
参考
令和2年障害者雇用状況の集計結果からみた今後の障害者雇用とは
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