障害者雇用に関わる人事担当者の方と話をしていると、「障害者採用を進めてはいるんです。でも欲しい人材がみつかりません。」という話をよくお聞きします。どのような方法で採用しているのかを聞くと、ハローワークやハローワーク主催の合同面接会が多く上げられます。
もちろんハローワークや合同面接会も大切な採用窓口になりますが、その他にも働きたい障害者に出会える機会はたくさんあります。今回は、働きたい障害者に出会える機会の1つとなる就労移行支援事業所についてお話したいと思います。
就労移行支援事業所とは
就労移行支援事業所とは、障害者総合支援法に定められた障害福祉サービスのひとつである「就労移行支援」を提供する事業所のことです。障害者総合支援法で定める障害福祉施策にはいろいろな障害者を対象としたサービスを行っています。
障害者総合支援法のサービスの内容は、自立支援給付と地域生活支援事業の2つの柱があります。この自立支援給付の中に就労移行支援事業所が含まれます。
就労移行支援事業所は、障害者で働く意志のある人に、仕事をする上で必要なスキル等を身につける職業訓練のほか、面接対策などを通して就職活動のサポートをしています。また、行政やハローワーク、医療機関等の関連機関と連携しながら、安定的に働けるように環境を整えます。就職後の支援は、雇用した障害者が定着できるように事業所を訪問したり、相談に応じます。
障害者総合支援法とは
障害者総合支援法は、障害者自立支援法の一部を改正し、平成24年6月成立、平成25年4月に施行されました。この障害者総合支援法の前身は、平成17年障害者自立支援法として制定され、平成18年4月から施行された障害者自立支援法です。
障害者自立支援法から障害者総合支援法に法律名は変わりましたが、基本的な考え方は変わっていません。この障害者福祉施策の法律では、従来障害の種別ごとに異なる法律に基づいて提供されてきた福祉サービスや公費負担医療などを、共通の制度のもとで一元的に提供する仕組みを創設して、自立支援給付の対象者、内容、手続き等、地域生活支援事業、サービスの整備のための計画の作成、費用の負担等を定めています。
平成18年度から施行された障害者自立支援法以前の法律では、
①身体・知的・精神という障害種別ごとでわかりにくく使いにくい
②サービスの提供において地方公共団体間の格差が大きい
③費用負担の財源を確保することが困難
などの理由により見直されることになりました。
障害者総合支援法の目的は、「障害者及び障害児が基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活または社会生活を営む」こととし、地域生活支援事業による支援を含めた総合的な支援を行うことが明記されています。
この障害者総合支援法(障害者自立支援法からの障害保健福祉施策)のポイントは5つあります。
障害者に対する福祉サービスの一元化
障害の種別(身体障害・知的障害・精神障害)にかかわらず、障害のある人々が必要とするサービスを利用できるよう、サービスを利用するための仕組みを一元化しました。
また、これまでは、サービスの提供主体が県と市町村に分かれていましたが、障害のある方々にとって最も身近な市町村が一元的にサービスを提供することになりました。
障害者が働ける社会へ、就労支援の強化
障害者が地域で自立した生活を送るためには、就労によって収入を得ることが大切です。働きたいと考えている障害者に対して、一般就労を目的とした事業や、企業での雇用機会を増やすための支援を行い、就労の場を確保する支援の強化が進められています。
そのため一般就労を希望する人には、一般就労を目指して支援を行い、一般就労が困難である人には、就労継続支援B型事業所等での工賃の水準が向上するように就労支援を行ないます。
社会資源活用のための規制緩和
地域の実情に合わせた柔軟な社会資源の活用のための規制緩和が可能になり、障害者が地域で生活するための受け皿を準備することができるようになりました。
以前は通所施設の運営主体が、社会福祉法人に限られていましたが、これが社会福祉法人以外の法人でも運営することができるよう規制が緩和されました。そのため株式会社が運営する就労移行支援事業所が増えてきています。
手続きや基準の透明化・明確化
支援の必要度に応じてサービスが利用できるように障害程度区分が設けられました。また、支給手続きの公平公正の観点から市町村審査会における審査を受けた上で支給決定を行うなど、支給決定のプロセスの明確化・透明化が図られました。
費用負担の仕組みの強化
国の財源責任を明確化し、費用の2分の1を義務的に負担することになりました。また、利用したサービスの量や所得に応じて、サービスを受ける利用者負担することになりました。利用者は利用したサービス量及び所得に応じて原則1割の費用を負担することになっています。所得が少ない場合は、個別減免の仕組みを設けるなど利用者負担の軽減措置もあります。
就労移行支援事業所を利用する人
就労移行支援事業所の利用者は、一般就労等を希望する原則18歳以上から65歳未満の障害や難病のある人が利用しています。法律で対象としている障害者の範囲は、身体障害者、知的障害者、精神障害者(発達障害を含む)に加え、制度の谷間となって支援の充実が求められていた難病等も含まれます。
そのため就労移行支援事業所では、精神障害、統合失調症、うつ病、躁鬱病(双極性障害)、気分障害、不安障害、適応障害、強迫性障害、てんかん、発達障害、アスペルガー症候群、自閉症、ADHD(注意欠如・多動性障害)、学習障害、身体障害(難聴・盲・マヒ等による肢体不自由・内部障害など)、知的障害など、様々な障害のある方が利用することができます。また、自治体によっては障害者手帳等を持っていなくても利用することができます。
このように多様な人たちが就労移行支援事業所を利用し、知識や社会適応能力、コミュニケーションスキルの向上へ向け職業訓練を行い、実習等で自身の適性を把握しています。
就労移行支援事業所を利用するには、障害者総合支援法のポイントでも少しふれましたが、市町村などの障害保健福祉の専門的知見を有する第三者で構成される審査会で公平・公正な支給決定が行われるよう、審査が行われます。障害福祉サービスの利用料金(利用者負担額)は、サービス提供費用の1割を上限として、所得に応じて負担上限額が設けられています。
就労移行支援事業所で行っている内容
就労移行支援事業所は、2年間の訓練期間中に、働くために必要な知識や能力を身につける職業訓練や企業実習等を行います。この職業訓練および実習の内容は、運営する事業所ごとにカラーがあります。就職するための生活リズムの確立や、身だしなみ、挨拶、報告・連絡・相談などをはじめとしたビジネスマナーの習得、履歴書・職務経歴書の作成および面接対策は、多くの就労移行支援事業所が取り組んでいます。
訓練では、作業訓練等で基礎体力や集中力・持続力の向上を目指すところもあれば、就労移行支援事業所によっては、パソコンの操作方法のトレーニングや、擬似会社や部署の中における役割分担をしてコミュニケーション能力や実務スキルの訓練を行なうところもあります。
就労移行支援事業所と一言でいっても、訓練している内容や、その訓練内容を学びたいと集まってくる利用者(利用する障害者のスキルや能力、希望する仕事内容や職種)が違いますし、就労移行支援事業所を運営している事業所のカラーもだいぶ異なります。
そのため同じ障害とはいえ、訓練している障害者の層はかなり違うということを念頭にいれつつ、いくつかの就労移行支援事業所を見学したり、話を聞いてみるとよいかもしれません。
企業で求めている人材と異なる場合は、欲しい人材が訓練していると思われる就労移行支援事業所にコンタクトをとると、採用したい人材に出会える可能性が高くなります。
採用だけでなく定着支援にも活用できる就労移行支援事業所
採用で悩んでいる企業の方には、まず採用する機会の一つとして就労移行支援事業所を検討していただきたいと思いますが、採用後も就労定着支援を活用してほしいと思います。
就労移行支援事業所は、就労移行支援事業所から採用した障害者に対して、職場で定着するためのフォローを行います。このフォローの年限は3年間あります。平成27年4月から障害福祉サービスの報酬体系が大幅に変わったのに伴い、それ以前は就労移行支援事業所の就職後フォローは半年間だったものから3年間に延長されています。
この背景には、企業に就職しても障害者(特に精神)が定着することが難しい状況があったからです。はじめて障害者雇用を行う企業や、精神障害の方を受け入れる部署では、心配も多いと思います。そのようなときには就労移行支援事業所の定着フォローを受けてみるとよいでしょう。企業が雇用した従業員をマネジメントすることは大切ですが、課題がある場合には、企業内で全てを完結しようとするよりも支援機関と連携をとることも必要です。
就労定着支援サービスの詳細は、こちらから
↓
2018年からスタートした就労定着支援サービスとは?
動画の解説はこちらから
まとめ
障害者採用の人材募集で役立つ就労移行支援事業所について見てきました。障害者採用に関わる中で、採用したいと思う人材に出会えない、ハローワークや障害者合同面接会以外の障害者雇用の募集をしたことがないという方には、ぜひ就労移行支援事業所の活用を検討していただきたいと思います。
就労移行支援事業所は、障害者総合支援法のサービスの一つとなっており、2年間の訓練期間中に働くために必要な知識や能力を身につける職業訓練や企業実習等を行います。また、職業訓練のほか、面接対策などを通して就職活動のサポートをしています。行政やハローワーク、医療機関等の関連機関と連携しながら、安定的に働けるように環境を整えることもあります。就職後の支援は、雇用した障害者が定着できるように事業所を訪問したり、相談に応じます。
とはいえ就労移行支援事業所と言っても、訓練している内容や、その訓練内容を学びたいと利用する障害者の方のスキルや能力、希望する仕事内容や職種は異なりますので、いくつかの就労移行支援事業所を見学したり、話を聞いてみるとよいかもしれません。
欲しい人材がいると思われる就労移行支援事業所にコンタクトをとると、採用したい人材に出会える可能性が高くなります。また、就労後にも3年間の定着支援のフォローがありますので、定着支援を活用することもできます。
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