職場における障害者雇用の合理的配慮、どこまで何をすべきなの?

職場における障害者雇用の合理的配慮、どこまで何をすべきなの?

2024年07月2日 | 障害者雇用に関する法律・制度

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令和5年度にハローワークに寄せられた障害者差別および合理的配慮の提供に関する相談は245 件で、対前年度比 8.9%増加しました。職場における障害者への合理的配慮については障害者雇用促進法で義務付けられています。

一方で、「合理的配慮として職場でどの程度対応する必要があるのか」「合理的配慮を提供する際の法的義務と実際の範囲について明確な理解ができていない」「配慮が必要な障害者の増加に伴い、全体の職場管理が複雑化してしまっている」という声も聞きます。今回は、職場における障害者雇用の合理的配慮についての現状と理解を深め、実際に何をすべきなのかを確認していきます。

障害者の差別禁止・合理的配慮の提供義務に係る相談状況

HW(公共職業安定所)に寄せられた障害者差別および合理的配慮の提供に関する相談は 245 件(対前年度比 8.9%増)ありました。そのうち障害者差別に関する相談は 31 件(対前年度比 16.2%減)、合理的配慮の提供に関する相談は 214 件(対前年度比 13.8%増)でした。相談は、障害当事者からのものが9割以上を占めています。

出典:「雇用の分野における障害者の差別禁止・合理的配慮の提供義務に係る相談等実績(令和5年度)」(厚生労働省)

障害者差別に関する相談内容としては、「募集・採用時」のことについてが 40.0%と最も高く、続いて「配置」「昇進」「退職の勧奨」が10.0%となっています。


出典:「雇用の分野における障害者の差別禁止・合理的配慮の提供義務に係る相談等実績(令和5年度)」(厚生労働省)

合理的配慮の提供に関する相談内容としては、「上司・同僚の障害理解に関するもの」が 26.1%、「相談体制の整備、コミュニケーションに関するもの」が18.0%、「業務内容・業務量に関するもの」が13.9%、「作業負担や移動負担に関するもの」が11.8%、「就業場所・職場環境に関するもの」が11.0%となっています。


出典:「雇用の分野における障害者の差別禁止・合理的配慮の提供義務に係る相談等実績(令和5年度)」(厚生労働省)

なお、相談後の状況の公共職業安定所が行った事業主への法違反に係る助言件数は18 件、指導件数は2件となっていますが、88.2%は「HWにおいて確認後、助言等を実施(法違反は確認されず)」53.7%、「相談のみで終了」が34.5%となっており、大半は法律に関係しないものとなっています。


出典:「雇用の分野における障害者の差別禁止・合理的配慮の提供義務に係る相談等実績(令和5年度)」(厚生労働省)

一方で、法律に関係しなくても、障害当事者からの相談が多くなっていることから、次のことが考えられます。

・障害当事者が、障害者差別および合理的配慮についての知識や理解ができていないことがある。
・法律には触れないものの、障害当事者が、障害者差別および合理的配慮として望んでいることがあり、それを職場では相談できていない。

企業では、どのような対応を取っていくとよいのでしょうか。

ココに注意!障害者差別に該当すると考えられる例

まず、差別に該当すると考えられる例としては、次の点があることを意識しておくことが必要です。

募集及び採用

・ 単に障害者だからという理由で、障害者を募集の対象としないこと。
・ 単に障害者だからという理由で、障害者に対してのみ特定の資格を有することを応募要件とすること。
・ 採用基準を満たす者が複数名存在した場合に、その労働能力等に基づくことなく、障害者でない者から順番に採用すること。

賃金

・ 労働能力等に基づくことなく、単に障害者だからという理由で、障害者に対してのみ賞与を支給しないこと。
・ 昇給に当たって、障害者に対してのみ試験を課すこと。

配置

・労働能力等に基づくことなく、単に障害者だからという理由で、特定の仕事を割り当てること。 (合理的配慮として、障害者本人の障害特性や労働能力、適性等を考慮して特定の仕事を割り当てる場合を除く。)
・ 営業職への配置に当たって、障害者に対してのみ資格取得を条件とすること。
・ 営業職への配置の基準を満たす労働者が障害者を含めて複数いる場合に、障害者でない者から順番に営業職に配置すること。

昇進

・労働能力等に基づくことなく、単に障害者だからという理由で、障害者を昇進の対象としないこと。
・ 障害者に対してのみ上司の推薦を昇進の要件とすること。
・ 昇進基準を満たす者が障害者を含めて複数いる場合に、労働能力等に基づくことなく、単に障害者だからという理由で、障害者でない者 を優先して昇進の対象とすること。

降格

・ 労働能力等に基づくことなく、単に障害者だからという理由で、障害者に対してのみ降格の対象とすること。
・ 障害者でない者については成績が最低の者のみを降格の対象とするが、障害者については成績が平均以下の者を降格の対象とすること。
・ 降格基準を満たす者が障害者を含めて複数いる場合に、労働能力等に基づくことなく、単に障害者だからという理由で、障害者を優先して降格の対象とすること。

教育訓練

・ 一定の職務に従事する者を対象とする教育訓練を行うに当たって、障害者でない者は教育訓練の対象としているが、障害者は教育訓 練の対象としないこと。
・ 一定の職務に従事する者を対象とする教育訓練を行うに当たって、労働能力等に基づくことなく、障害者については、障害者でない者と 比較して長い勤続年数を教育訓練の受講要件とすること。

福利厚生

・企業が福利厚生の措置を行っている場合に、単に障害者だからという理由で、当該福利厚生の措置の対象としないこと。
・ 私的保険制度の補助、奨学金の支給等の福利厚生の措置を行っている場合に、障害者に対してのみ、特別な条件を付すこと。
・ 障害者と障害者でない者が等しく要件を満たしているにも関わらず、障害者でない者を優先して住宅資金の貸付等の福利厚生の措置の 対象とすること。

職種の変更

・ 労働能力等に基づくことなく、単に障害者だからという理由で、障害者だけを総合職から一般職に変更させること。
・ 労働能力等に基づくことなく、単に障害者だからという理由で、障害者だけを、一般職から総合職への変更の対象から排除すること。
・ 一般職から総合職への職種の変更に当たって、障害者に対してのみ長期の勤続年数の要件を付すこと。

雇用形態の変更

・ 労働能力等に基づくことなく、単に障害者だからという理由で、障害者だけを、フルタイムからパートタイムに変更させること。
・ 労働能力等に基づくことなく、単に障害者だからという理由で、障害者だけを、パートタイムからフルタイムへの変更の対象から排除する こと。
・ パートタイムからフルタイムへの変更の基準を満たす労働者の中から、障害者でない者を優先してその対象とすること。

退職の勧奨

・ 労働能力等に基づくことなく、単に障害者だからという理由で、障害者のみを退職の勧奨の対象とすること。
・ 障害者でない者については成績が最低の者のみを退職の勧奨の対象とするが、障害者については平均以下の者を退職の勧奨の対象 とすること。
・ 退職の勧奨の対象となる基準を満たす者が障害者を含めて複数いる場合に、労働能力等に基づくことなく、単に障害者だからという理 由で、障害者を優先して退職の勧奨の対象とすること。

定年

・ 障害者でない者には定年を定めない一方で、障害者のみ定年を60歳と定めること。
・ 障害者でない者の定年は65歳とする一方で、障害者の定年は60歳とすること。

解雇

・労働能力等に基づくことなく、単に障害者だからという理由で、解雇の対象とすること。
・ 障害者でない者については成績が最低の者のみを解雇の対象とするが、障害者については成績が平均以下の者を解雇の対象とすること。
・ 労働能力等に基づくことなく、単に障害者だからという理由で、障害者を優先して解雇の対象とすること。

労働契約の更新

・労働能力等に基づくことなく、単に障害者だからという理由で、障害者に対してのみ、労働契約を更新しないこと。
・ 労働契約の更新の際、障害者に対してのみ、一定以上の成績を上げていることを条件とすること。
・ 労働能力等に基づくことなく、障害者でない者を優先して労働契約更新の対象とすること。

障害者の差別・合理的配慮に関する基本的な考え方

基本的な考え方として、募集・採用、賃金、配置、昇進、降格、教育訓練などの各項目において、障害者であることを理由に障害者を排除することや、障害者に対してのみ不利な条件とすることなどが、差別に該当するとなります。ですから、募集・採用時に、障害者であることを理由として、障害者を募集又は採用の対象から排除すること、障害者に対してのみ不利な条件を付すこと、採用の基準を満たす者の中から障害者でない者を優先して採用することは差別とされます。

しかし、次の措置を講ずることは、障害者であることを理由とする差別に該当しません。
・ 積極的差別是正措置として、障害者を有利に取り扱うこと。
・ 合理的配慮を提供し、労働能力などを適正に評価した結果、異なる取扱いを行うこと。
・ 合理的配慮の措置を講ずること。

「積極的差別是正措置として、障害者を有利に取り扱うこと」として、障害者枠の求人を出すことや、「適正に評価した結果、異なる取扱いを行うこと」「 合理的配慮の措置を講ずること」として、研修などの際に障害者に特別なカリキュラムやテキストを準備することなどが含まれます。

合理的配慮についてはいつ確認をすればよいのか?

障害者に必要な合理的配慮については、いつ確認を取るとよいのでしょうか。殆どの場合には、募集・採用時に確認しています。合理的配慮の考え方としては、 障害者から事業主に対し、支障となっている事情などを申し出ることとなっていますが、冒頭の調査結果からも考察されるように合理的配慮等についてしっかり理解している障害者ばかりではありません。そのため募集や採用時に、企業側からも確認しておくことをおすすめしています。

また、書類や面接などだけではわからないことや、本人が自覚していないこともあるので、企業実習などで実際の業務をおこなうことで、どのような合理的配慮が必要なのかが見えてくることもあります。トライアル雇用で確認することもできますが、企業実習をしてから採用するほうが早期離職を防ぐことができ、企業にとっても本人にとってもメリットがあります。

基本的には、どのような合理的配慮が必要なのかを採用時に確認することが重要ですが、採用後に状況が変わってくることもあります。そのような場合には、個別面談などのときに職場で支障となっている事を確認したり、対応について話し合うことができるでしょう。

ただ、当事者が希望すること全てを合理的配慮として対応することができないこともあるでしょう。そのような場合には、難しい理由等を障害者に説明します。合理的配慮においては企業が「過重な負担」にあたる場合は、合理的配慮の提供の義務として除かれる事となっています。

過重な負担に当たるものとしては、次のものがあげられています。
・事業活動への影響の程度
・実現困難度
・費用・負担の程度
・企業の規模
・企業の財務状況
・公的支援の有無

なお、過重な負担に当たるか否かについては、各事業主の状況によって異なりますので、過重な負担に当たる項目を総合的に勘案しながら個別に判断していくことが必要になります。

職場での合理的配慮を示すために必要な3つのこと

採用時に必要な合理的配慮についての確認

採用面接時や企業実習のときには、職場で示してほしい合理的配慮について当事者に確認してください。合理的配慮は本人から申し出ることとなっていますが、企業に伝える準備ができていない場合には、面接時に質問を通して障害特性や状況等を把握するようにします。

例えば、次のような点を確認するとよいでしょう。
・就業時間・休暇等の労働条件面での配慮を望んでいるか
・職場内で、どのような職務内容の配慮・工夫があると仕事がしやすいか
・今までコミュニケーションを取るときにどのような方法で行ってきたのか、どのような方法だと取りやすいか
・相談員や専門家、外部の支援機関との連携は就労後、どのように考えているのか

障害者が働きやすい職場にするためには、当事者と企業がお互いによくコミュニケーションを取ることが必要です。職場が気を利かせたり、本人によかれと思っての行動も、一方的な配慮では逆効果になることもあります。話し合いを通して本人の意向をよく汲み取って進めるようにします。

継続的な1on1とフィードバック

障害者雇用の職場では、個別面談を定期的にしています。安定的な就労には、定期的なコミュニケーションと適切なサポートが欠かせません。

仕事に対する評価に関しては、企業側が思っていることと、当事者が思っていることとに食い違いが生じることがよくあります。企業側は「頑張っている」と評価していても、当事者は「自分はまだまだダメだ」と思っている場合もありますし、その逆で企業側が「業務の精度やスピードが基準に達していない」と評価しているのに、当事者は「自分は頑張っている」と感じていることもあります。

業務に対するフィードバックをすることで、仕事が他の人にどのように評価されているのかを認識したり、適切な目標設定をすることができます。また、部下が直面している課題や悩みを共有し、上司がサポートを提供する場にもなります。

障害者と一緒に働く社員への理解を広める

障害者と直接一緒に働く社員だけでなく、同じ組織内の社員へも理解を広めることは、職場全体の調和と効率を高めるために非常に重要です。障害者雇用に関する理解を広げていくためには、定期的に研修をおこなうことや情報共有することが大切です。

研修は公的な機関が無料でおこなっているものもあります。例えば、「障害者職業生活相談員資格認定講習」は、2日間(計12時間)で障害者雇用の基本が学べます。障害者雇用の理念、現状と課題、労務管理と人間関係管理などが学べます。

「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座」では、90~120分程度(講義75分、質疑応答15~45分程度)の単日講座で、精神・発達障害についての基礎知識や一緒に働くために必要な配慮などを短時間で学ぶことができます。内容は、最近の障害者雇用で増えている精神・発達障害の特性や一緒に働く上でのポイント(コミュニケーション方法)等などです。

講座は、出前講座と集合講座のどちらでも受講することができます。出前講座では、個別企業からの要請に応じて、講師が各職場へ出向いて講座を実施しており、集合講座では、労働局やハローワーク等を会場に、多くの企業から広く受講を募って実施します。

まとめ

職場における障害者雇用の合理的配慮は、障害者雇用促進法で義務付けられており、適切に対応することが求められています。令和5年度のデータによると、ハローワークに寄せられた障害者差別および合理的配慮の提供に関する相談は245件で、前年より増加しています。特に、合理的配慮の提供に関する相談が多く寄せられています。

合理的配慮の提供範囲については、企業が過重な負担を負わない範囲で行う必要があります。具体的には、障害者に対する差別を防ぎ、適切な職務環境を提供することが求められます。これには、採用時に必要な配慮の確認、継続的な1on1ミーティングとフィードバック、そして障害者と一緒に働く社員への理解を広めることが含まれます。

企業が障害者雇用を進める上で重要なのは、障害者本人の意向を尊重し、労働条件や職務内容についての配慮を適切に行うことです。また、定期的なコミュニケーションを通じて、働く上での課題や改善点を共有し、サポート体制を整えることが重要です。さらに、社内全体で障害者に対する理解を深めるための研修や情報共有を実施し、職場全体が協力して支援できる環境を作ることが求められます。

参考

企業が知っておくべき障がい者雇用の合理的配慮とは(HRプロ)

人事ができる障がい者雇用の職場定着支援とは? 1on1の必要性と有効な進め方(HRプロ)

プロが教える、障がい者雇用に役立つ「無料研修」2選(HRプロ)

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