障害者雇用のことを聞かれると、障害者雇用では「どんな業務をしているのか?」という点をよく聞かれます。
今回は、障害者雇用で多く見られる業務の内容やその傾向、今後の現在担当している業務の傾向を明らかにするとともに、テクノロジーや社会的要請の変化を受けて、5年から10年後にどのような業務が広がりを見せるのかを探ります。そして、企業や社会が障害者雇用をどのように進化させるべきか、その具体的な方向性について考察します。
障害者の業務で多いものとは?
障害者が担当する業務の多くは、データ入力、清掃業務、軽作業、文書整理といった定型的かつ繰り返し型の業務が中心となっています。
例えば、正確さと丁寧さが求められる業務で、多くの企業が導入しているのは、データ入力や書類整理などの事務作業です。また、日常業務の一部を担う役割として広く行われているのが清掃や軽作業(工場や施設内での業務)です。
また、最近ではIT関連のタスクとして、簡単なプログラミング、ウェブサイト管理、データの整理など、ITスキルを活かした業務が増えています。サービス業などでは、接客補助や社内コミュニケーション支援などの特定のコミュニケーション能力が求められる業務などもあります。
これらの業務は作業内容が明確であり、障害特性に応じて調整がしやすいという特徴があります。また、効率的にタスクを進められるように業務が細分化され、企業にとっても導入しやすくなっています。
ITスキルを活用した業務も見られます。ウェブコンテンツの管理、データ解析、プログラミングといった分野では、特定の障害特性を持つ人々が得意とするスキルセットが活かされています。たとえば、集中力が高い、細かい作業を得意とする特性を持つ人が、データクレンジングやプログラムのテスト工程に大きく貢献するケースがあります。このような業務は、障害者の可能性を広げる新たな領域として注目されています。
しかし、これらの業務は限定的である場合が多く、さらにITやAIの進化、働き方の変化などの影響で業務自体が減少傾向にあるものが多く見られます。また、限定的な業務を中心にしているために、キャリア成長を阻害する可能性もあります。
定型的な作業に特化しすぎると、新しいスキルの習得や業務の幅を広げる機会が減少し、結果として長期的なキャリアパスをつくることが難しくなりがちです。また、このような業務ができる人を中心に採用していくので、別のスキルアップが求められる業務への移行が難しくなりがちです。
近年の障害者雇用のトレンドと変化
近年、障害者雇用における業務内容は多様化しており、新しい分野や働き方が注目されるようになってきました。例えば、日揮パラレルテクノロジーズ(特例子会社)では、日揮グループ向けにIT、DX化の支援をしています。主には、AI系とWeb系の業務が中心となっています。例えば何かWEBアプリを作って欲しいと依頼がくると、1人の社員が顧客と一緒に伴走しながら要件定義をして、自分でプログラミングコードを書き、テストして、納品する、1人で完結するというスタイルを取っています。
障害者雇用の業務では、定型的な業務や与えられた指示に基づいて行うということが一般的ですが、この会社では障害者社員が求められる要件を満たすような方法や解決策を考えて、それを形にしていくということを業務として行っています。
例えば、Web系の仕事の一例として、独身寮の食事の予約を管理するシステムアプリを作ったそうです。日揮グループには独身寮がありましたが、古いソフトを使用していたために「使いにくい」という声がたくさんありました。そこで、Webアプリを作成して、食事の予約アプリを作ることになりました。
作る過程の中では、どのような機能が必要なのか、毎月の請求の時期や方法、何をアウトプットしたらよいのかという要件定義を顧客とすり合わせをして、実際に社員がそのコードを書いてアプリ化してテストするという開発をしました。そして、寮の食事の予約と請求までのシステムを作ったということです。
寮では、朝夜食事が2回あり、予約期限があったり、食事によって値段が違います。寮ではその予約を見て、何食分を作ればよいのかを計算します。そして、月が締まるとそれに合わせて請求をします。例えば、Aさんは10食食べた。そして、朝と夜で金額が異なるので、それをExcelのようなもので出して、その分を給与控除するというフローの仕事がありました。これは、もともとHDの人事部門が担当していた業務で、それなりの工数がかかっていましたが、このような業務を効率化することを業務としています。
もちろんこのような業務ができる人材を集めるために、リモートワークで遠隔地に住んでいても働けるようにしたり、フレックス制度で一番集中力が発揮できる時間で働けるようにしたりという配慮などは行っていますが、社内にあるIT・ DX化したいというニーズに応えながら障害者雇用を進めています。
障害者雇用で求められるスキルの変化
このような障害者雇用の業務が増え、障害者に求められるスキルも多様化しています。ITスキルやデジタルリテラシーの重要性の高まりを受けて、オンラインツールの使用やプログラミングスキルが新たな必須スキルとなりつつあります。
また、チームでの連携や課題への柔軟な対応力が求められる場面が増えており、従来のコミュニケーション能力だけでなく、問題解決能力が重視されていることもあります。障害特性によってはコミュニケーションが苦手な場合もありますが、常に言葉でコミュニケーションを取るだけでなく、チャットなどのテキストベースで活用することなども増えています。障害特性に合わせた柔軟な対応をする職場も増えています。
最近のテクノロジーの進化により、障害者雇用の業務において、ITやAIを活用した業務が増えていくことでしょう。これらの技術は、定型的な作業を自動化するだけでなく、障害者が新しい業務に取り組むための環境を整える役割も果たします。
例えば、AIを活用した音声認識や字幕生成の技術は、聴覚障害者や視覚障害者が情報にアクセスしやすくすることで、業務の幅を広げます。また、RPAが定型作業を代行することで、障害者はより付加価値の高い業務に集中できるようになるでしょう。これにより、管理業務やクリエイティブ分野への業務や、プロジェクト管理、コンテンツ制作など、より戦略的かつ創造的な業務に関わる可能性があります。障害者が担う業務がより多様化し、知識労働が増えていくことが予測されます。また、これらの分野では、デジタルツールやリモート環境が活用されるため、物理的な制約に左右されにくい点が障害者雇用を進めていくうえでも有効的です。
企業が注力すべき取り組みとは?
ここまで紹介したような業務を障害者雇用で実現できるのか?と思われるかもしれません。そのように感じているようであれば、障害者枠で働きたいと考えている求職者の層をじっくり観察することが大切です。
日本の障害者雇用における受け入れは、身体、知的、精神(発達障害含む)と障害種別ごとに進んできました。精神障害の受け入れが始まったのは、2006年の障害者雇用促進法の改正のときです。このときから精神障害者を雇用すると、雇用率としてカウントできるようになりました。そして、障害者法定雇用率の中に組み込まれ義務化されたのが2018年です。精神障害、発達障害の受け入れは遅れてきたことから、今の障害者雇用では、この層で働きたいという人が増えています。
加えて、障害者差別解消法が2014年にでき、大学で障害のある学生の合理的配慮がされるようになってきました。発達障害や精神障害の学生が増えており、特性はあるものの、業務に対しての能力を発揮できる可能性のある人材が増えています。
このような変化の中で、障害者の採用や業務を見直す企業が増えてきています。従来の障害者雇用で考えられていたような業務内容、進め方や指示など、職場環境などで配慮が必要な層だけでなく、仕事の能力面では特別な配慮はなく、職場環境など面だけで配慮が必要な層に注目されています。そして、この層が活躍する仕事を考え、採用しはじめています。
障害者雇用の業務が見つからない、活躍できる分野がないと考えているのであれば、従来の障害者雇用のイメージをパラダイムシフトしていく必要があります。また、苦手さがある分野でもAIなどを活用することで、それを代替できることも多くなっています。障害者雇用率だけを見て障害者採用をするのではなく、中長期的な事業の中で求められる分野や業務を見据えた障害者雇用を進めていくことが必要です。
それには、時代がどのように変化しているのか、それに合わせて何が求められているのかという視点が必要です。障害者雇用は人事が行うものと考えている企業が多いですが、中長期的な視点で事業や組織を考える部門や人が関わって考えていかないと難しいでしょう。
まとめ
障害者雇用における業務内容は、これまで定型的で繰り返し型の業務が中心でしたが、近年ではITやDXの支援、顧客との共同作業を伴う業務など、多様化が進んでいます。特に、障害特性に応じた特性を活かしながら、新しい分野に挑戦するケースが増えており、障害者のキャリアの可能性を広げる動きが見られます。
定型的な業務に偏りすぎると、業務の縮小化の影響を受けたり、障害社員のスキルアップやキャリア成長の機会が難しいという課題があります。そのため、企業は業務の多様化やスキルの習得を支援し、障害者が長期的なキャリアを築ける環境を整備することが必要となっています。
また、社会やテクノロジーの変化を受けて、障害者雇用の業務内容は今後さらに進化することが期待されます。企業は新しい働き方や技術を取り入れ、障害者が活躍できる新たな業務領域を創出するとともに、彼らの能力を最大限に引き出す仕組みを構築することが求められています。
動画で解説
参考
IT・DXと障害者雇用、2つの課題解決を考えたら、精神発達が活躍する会社が誕生していた~日揮パラレルテクノロジーズ
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