「採用はできる。でも続かない」障害者雇用について、企業の担当者からよく聞く言葉です。
面接では問題がないと思った。現場も最初は受け入れていた。必要な配慮も行ってきた。それでも、数か月すると本人が退職し、現場には疲労感だけが残る。
こうした状況になると、「本人との相性が悪かった」「障害特性への対応が難しかった」と考えられがちです。もちろん、個別の事情が影響していることもあります。
しかし、同じような退職や現場の疲弊が繰り返されているのであれば、本人だけの問題ではないかもしれません。
採用後の役割、現場との連携、判断の流れのどこかが設計されていないことが、定着しない原因になっている場合があります。
- 障害者雇用が定着しない原因を本人だけに求められない理由
- 採用後に現場が疲弊する会社に見られる構造
- 配慮や面談を増やしても問題が続く背景
- 自社の障害者雇用で確認したいポイント
障害者雇用が定着しない原因を、本人だけに求めない
障害者雇用が続かなかったとき、企業では本人の特性や体調、コミュニケーションの問題が振り返られます。一方で、組織側の進め方は十分に振り返られないことがあります。
採用時に任せる仕事は決まっていたか。本人に期待する役割は共有されていたか。現場が困ったときの相談先はあったか。配慮や業務変更について、誰が判断するのか決まっていたか。
これらが曖昧なままであれば、本人が変わっても、同じような問題が起きる可能性があります。
一人の退職だけを見れば、個別の相性の問題に見えるかもしれません。しかし、複数の採用で同じ状況が繰り返されているなら、障害者雇用の進め方そのものを確認する必要があります。
障害者雇用が続かない会社に見られる4つの構造
定着しない企業には、すべてではありませんが、いくつか共通する状態があります。
1.採用後の役割が曖昧になっている
採用することが先に決まり、入社後に仕事を探している場合があります。
本人に何を任せるのか、どこまでの成果を期待するのかが曖昧なため、現場は簡単な仕事や補助的な業務だけを任せ続けることになります。
本人は「何を期待されているのか」がわからず、周囲も「どこまで任せてよいのか」がわかりません。
この状態では、本人の能力や意欲とは関係なく、役割を実感しにくくなります。
採用前の仕事や配慮の考え方については、次の記事で解説しています。
2.配慮だけが増え、期待する役割が見えなくなっている
定着しない会社では、「本人を困らせないこと」が優先されすぎている場合があります。
苦手そうな仕事を外す。負担になりそうな役割は任せない。本人が不安を感じそうなことは避ける。こうした対応が必要な場面もあります。
しかし、何を担ってもらうのかが決まらないまま配慮だけが増えると、本人への期待まで小さくなってしまいます。
問題は、配慮を行うことではありません。配慮と、本人に担ってもらう役割が切り離されていることです。
本人にとって必要な配慮を考えると同時に、その配慮によって、どの仕事を続けられるようにするのかを考える必要があります。
3.現場の管理職や担当者が一人で抱えている
人事が採用までを担当し、配属後の対応は現場に任されていることがあります。
現場の管理職は、「どこまで配慮すればよいのか」「注意や指導をしてよいのか」「困ったときは誰に相談すればよいのか」がわからないまま対応します。
その結果、責任感の強い人ほど、自分で何とかしようとして抱え込みます。面談を増やし、本人への声かけを増やし、周囲との調整も担う。そのうちに、本来の業務まで圧迫されていきます。
障害者雇用が現場任せになっている状態では、担当者の努力で一時的に支えられても、長く続けることは難しくなります。
4.誰が何を判断するのか決まっていない
障害者雇用では、正解が一つに決まらない場面が多くあります。
本人から新しい配慮の希望があった。体調が不安定になってきた。担当業務を変更した方がよいかもしれない。指導を続けるべきか、負担を減らすべきか迷う。
こうした場面で、誰が判断するのか決まっていない会社では、対応が止まります。
現場が人事に相談すると、「現場で判断してください」と言われる。人事は、「実際の状況は現場にしかわからない」と考えている。
結論が出ないまま、「しばらく様子を見ましょう」となります。支援や面談を増やしても、判断する人と基準が曖昧なままでは、現場の迷いは減りません。
面談や支援を増やしても、定着しない理由
退職やトラブルを防ぐために、企業が面談を増やすことがあります。
本人の話を丁寧に聞く。管理職がこまめに声をかける。支援機関へ相談する。現場向けの研修を行う。これらが有効な場合もあります。
しかし、担当する仕事や期待役割が曖昧なままでは、面談をしても確認する内容が定まりません。誰が判断するのかが決まっていなければ、相談を受けても結論を出せません。
現場だけが抱えている状態で支援を増やせば、担当者の仕事がさらに増えることもあります。
障害者雇用が続かないとき、必ずしも支援の量が足りないとは限りません。支援を行う前提となる、役割・連携・判断の設計が不足している可能性があります。
自社では、どこで定着が止まっているのか
次のような状態がある場合、本人への支援方法だけでなく、障害者雇用の進め方全体を確認する必要があります。
- 採用後に担当業務を探している
- 本人への期待役割を言葉にできない
- 配慮の判断が担当者によって変わる
- 管理職や担当者だけが対応を抱えている
- 人事と現場のどちらが決めるのか曖昧
- 面談を増やしても同じ問題が続いている
- 担当者が変わるたびに対応がリセットされる
- 同じような退職やトラブルが繰り返されている
複数当てはまる場合、問題は特定の本人や管理職の対応力だけではないかもしれません。採用、配属、役割、配慮、判断のどこでつながりが切れているのかは、企業によって異なります。
そのため、一般的な面談方法や支援策を追加する前に、自社ではどこから見直す必要があるのかを整理することが重要です。
よくある質問
Q:障害者雇用が定着しない主な原因は何ですか
本人の障害特性や体調だけでなく、担当業務、期待役割、配慮の考え方、現場の支援体制、判断する人が決まっているかなど、複数の要因が影響します。
どこに原因があるかは企業によって異なるため、退職した本人だけでなく、採用から配属後までの流れを確認する必要があります。
Q:本人との面談を増やせば、定着しやすくなりますか
本人の状況を確認するために面談が有効な場合もあります。
一方で、本人に何を期待するのか、誰が判断するのかが曖昧なままでは、面談を増やしても結論が出ず、同じ問題が続くことがあります。
現場の理解不足には研修を行った方がよいですか
障害特性や合理的配慮への理解が不足している場合には、研修は有効です。
ただし、任せる仕事が決まっていない、現場だけが抱えている、判断する人が決まっていない場合には、研修だけでは解決しにくいことがあります。
研修を行う前に、問題がどの段階から始まっているかを確認することが必要です。
まとめ
障害者雇用が定着しないとき、本人の特性や現場との相性だけが原因だと考えられがちです。
しかし、同じような退職や現場の疲弊が続いているのであれば、
- 採用後の役割が曖昧
- 配慮と期待役割が切り離されている
- 現場の管理職や担当者だけが抱えている
- 誰が何を判断するのか決まっていない
といった組織側の状態が影響している可能性があります。
障害者雇用を続けるために必要なのは、優しい担当者や熱心な管理職に頼ることではありません。本人が働き続けられることと、現場が無理なく業務を進められること。その両方を成り立たせるための仕組みが必要です。
現場への支援や面談を増やす前に、自社の障害者雇用がどこで止まっているのかを確認してみてください。
採用後に現場が困る原因を、採用前の仕事と配慮の設計から解説しています。
採用面接で確認した経験や配慮事項が、配属後の仕事や役割につながらない問題を解説しています。
本人の希望、業務上の必要性、現場の負担の間で迷ったときの考え方を整理しています。
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