発達障害の社会的な認知が広がり、発達障害のある人が障害者雇用枠で採用されるケースが増えてきています。一方で、発達障害とは診断がついていないものの、「もしかしたら、発達障害ではないか・・・」と思われる社員も増えてきています。
ここでは、職場でどのような場面で発達障害かも・・・と感じることがあるのか、どのような対応ができるのかについてみていきたいと思います。
どのようなことが問題になることが多いのか
「周囲が発達障害ではないか・・・」と思っていても、本人は何も自覚がなく、困ってもいないという場合も多く見られます。問題になっている場面を見ると、次のようなことがあります。
・コミュニケーションが苦手で周囲とのトラブルが絶えない。
・注意すると、「はい、わかりました」と答えるものの、同じ失敗を繰り返す。
・取引先の人に対して、敬語を使わずに、友達のような話し方をする。
・自分の意見を曲げることなく、相手の要望を全く取り入れないため、周囲からのクレームが多い。
・自分の得意な分野やこだわりのある点については、細かく突き詰め、必要以上にミスを指摘する。
・例え話や抽象的な話が伝わらない。例えば、「何度同じ事を言ったら分かるんだ」と怒られていることがわからず、「◯回目です」と文字通りの意味にしか捉えることができない。
職場ですぐにできる対応方法
コミュニケーションのとり方を教える
コミュニケーション関係のトラブルの原因のほとんどは、本人がそれを問題や間違っていると気づかないまま、周囲を不快な気持ちにさせてしまうということです。
まず、本人に、ある言葉遣いや態度が、周囲を不快にさせているということを教えることが大切です。人との関わり方やコミュニケーションの取り方、会社のルールやマナーについては、研修や個人的に教えることができるでしょう。
指示事項をメモやホワイトボードに記載する
私たちの多くは、情報を入手するときに、主に視覚情報か聴覚情報をつかって、情報を把握しています。しかし、発達障害者の中には、情報を入手する方法に、どちらかが極端に苦手という人がいます。もし、聴覚情報からの入手が伝わりにくい場合には、メモなどで文字的な情報を与えることで補うことができます。
口頭で伝えただけでは忘れてしまうことが多いので、指示事項などを紙に書いて渡したり、ホワイトボードに記載するとよいでしょう。本人にメモを取らせることもできますが、2つのことを同時にすることが苦手な場合(聞きながら、メモをとる)は、こちらでメモを書くこともできるでしょう。
指示系統を統一する
同じことを伝えたつもりでも、指示する人によって、微妙に表現が異なったり、作業の順番が異なることがあります。このような小さな違いが、発達障害の人にとっては、混乱のもとになることもあります。
基本的には、1人が指示を出すことが望ましいですが、複数の人数で指示を出す場合には、マニュアルなどをあらかじめ作っておくと、指示する人が変わっても、同じ事を伝えやすくなります。指示系統を統一し、本人に二重に指示が伝わらないようにしましょう。
同時に複数の作業を指示しない
同時に複数の作業を指示すると混乱することがあるため、一つの作業が終了してから次の作業の指示を出すとよいでしょう。具体的な指示を出すと、伝わりやすくなります。
特に、口頭で伝えるときには、シンプルに簡潔に伝えましょう。婉曲的な表現では、発達障害の人にとって理解しにくかったり、短期的な記憶が苦手な場合には、長い話をされたり、複数の事を同時に説明されると何をしてよいのかわからないことがあります。
あいまいな表現を避ける
「だいたい」「おおよそ」「できるだけ」などのあいまいな指示では、伝わりにくいことがあります。それは、 発達障害の特性として、想像力が乏しかったり、相手が何を意図しているのかを読み取るのが苦手だったりするということがあるためです。
このような特性があるため、あいまいな表現をするのではなく、何を、どのように、どれくらい、いつまでにやるのかを具体的に示すことができます。例えば、資料の作成を指示するときには、フォーマットを提示することや、時間的な締切があるのであれば、「できるだけ早く」というよりも具体的な日時を示すほうがわかりやすいでしょう。
スケジュールの変更は早めに伝える
発達障害の人の中には、急な予定の変更は混乱を引き起こしてしまうことがあります。例えば、以前から予定されていたものの他に、別の急ぎの仕事や業務が入ったとします。このような場合、一般的には優先順位に合わせてスケジュール調整などをおこなうと思いますが、発達障害の人の中には、このような変更を受け入れるのが難しい人もいます。
スケジュール変更がある場合には、なるべく早めに伝えるとともに、優先順位を示すことができるかもしれません。
専門医の受診は本人が困難さを感じていないと難しい
職場でいくつかの配慮はしているものの、もう少し踏み込んで対処したい、本人に診断があったほうが周囲への配慮の協力要請などもしやすいと考える方もいるでしょう。本人が、自分がなんらかの困難さを感じていて、発達障害ではないかと感じているのであれば、発達障害の専門医の受診をすることをすすめることもできます。
発達障害は、診療領域では精神科に該当します。特に発達障害専門の医師とするのは、同じ精神科医の医師でも専門的に見ている疾患によって診断の観点が異なるため、他の精神疾患と混同され誤診される恐れがあるからです。発達障害の診断経験の豊富な専門医を受診し、適切な対処法を聞くことによって、適切な薬物療法によって症状が抑えられ、生きづらさを軽減できる可能性があります。
精神医学の世界では、これまで大人の発達障害はあまり認知されてこなかったため、大人の発達障害を専門に診る医療機関はまだ多くありません。受診する場合には、大人の発達障害を専門に診てくれるかどうか、事前に確認しておく必要とよいでしょう。また、自分で専門医が探せないときは、最寄りの地域の保健所や発達障害者支援センター、精神保健福祉センターに問い合わせることもできます。
しかし、これらの専門医の受診は、本人からの希望がなければ進めることはできません。もし、本人が自覚していないようであれば、本人の自尊心を傷つけないように配慮した上で、具体的な業務をおこなっている中で問題となる点を指摘し、自分の問題に気づかせるようにすることが大切です。
身体症状として、睡眠障害、食欲不振、体重減少、頭痛、動悸、パニック症状、考えがまとまらない、ごく簡単なことでも 決められないなどの思考停止、抑うつ、興味や意欲の減退といった症状があるのであれば、それらの理由から病院の受診をすすめることができますが、そうでない場合には、業務の指導を行いながら、マネジメントしていくことが求められます。
例えば、想像性の欠如やコミュニケーション、社会性の問題が見受けられるような場合、組織として業務をおこなうことに支障がないのであれば、それを個性として受け入れることもできますが、業務や取引先に支障がある場合には、指導していく必要があるでしょう。
個人の仕事のパフォーマンスや成果がよい場合には、本人は自分自身に問題がないと思い込んでしまうケースが多く、それが周囲とのギャップや確執をうみやすくなります。また、そのままの状態にしておくと、周囲が日常的にそのしわ寄せを負っている場合には、不満やチームとしての士気が落ちてしまうこともあります。
周囲のメンバーとのコミュニケーションがうまくいかず仕事が進まない、顧客からク レームが届く、感情的になって他の社員に迷惑をかけるなどのトラ ブルが起きた場合には、その問題の起きた理由やどうしたらよいのかを具体的に話し合うことができるでしょう。
ただし、問題点だけを取り上げて責めるようなアプローチをしないよう気をつけることは大切です。指摘だけをすると自尊心が傷つけられ、仕事のモチベーションをなくさせてしまったり、気持ちのコントロールができずに問題行動が増える可能性もあるからです。よい点をほめたり、認めたりしながら、改善点を話し合うようにしていくことが求められます。また、このような話ができるように信頼関係性を築いておくことも大切です。
話し合いをしたり、問題点についての改善について考えることを続けていくと、「嫌なことがあると感情のコントロールが難しい」「物事をよく忘れてしまう」「自分の話したいことを、一方的に話してしまう」「相手の言い分を聞かない」など、自分の問題に気づくようになります。このようなプロセスの中で本人が何らかの困難さを感じているようであれば、専門医の受診をすすめることもできるでしょう。
ただ、とてもセンシティブな内容になりますので、マネジメント層、産業医などとも連携をとりながらおこなっていくことをおすすめします。
動画の解説はこちらから
まとめ
職場に発達障害ではないかと思われる社員がいる場合、どのように対処したらよいのかについて考えてきました。すぐにできる業務指示の対応について、いくつか具体例をあげましたので、まずはこれを試してみるとよいでしょう。
また、信頼関係を築きながら、業務や取引先に支障がある場合には、それは指導していくことも大切です。その中で、自分の問題に気づき、本人が何らかの困難さを感じているようであれば、専門医の受診をすすめることもできるでしょう。ただ、専門医の受診をすすめる場合には、センシティブな内容になりますので、マネジメント層、産業医などとも連携をとりながらおこなっていくことをおすすめします。
参考
発達障害を理解する~eラーニングで学べる発達障害しごとサポーター~
知的障害、発達障害にSNSやLINEの使い方をどのように教えればよいのか
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