企業では障害者雇用促進法によって、障害者雇用を行うことが定められています。また、同時に企業の社会的責任(CSR)やダイバーシティ&インクルージョンの一つとして注目されています。
障害者を雇用することは、企業の社会的使命であり、同時に組織の多様性を高めるための重要な要素です。今回は、障害者雇用の対象企業の人数や障害者雇用の背景について解説していきます。
障害者雇用の重要性と背景
障害者雇用は、社会全体の包摂性と多様性を促進するということが重視されています。障害者を雇用することは、障害者が自立して生活し、社会の一員として活躍する場を提供することになります。
日本の障害者雇用は、戦後、身体障害者の雇用から始まりました。これは、戦争で負傷した傷痍軍人の就職を促進するための目的がありました。障害者法定雇用率は1960年に企業への努力義務として導入され、1976年に義務化されました。義務化された当初は、法定雇用率は1.57%です。そして、その後、1998年に知的障害の雇用が義務化、2018年に精神障害の雇用が義務化されました。この間、法定雇用率は1998年に1.8%、2013年に2.0%、2018年に2.2%とあがり、2024年度の現在は2.5%となっています。
出典:労働政策審議会障害者雇用分科会(厚生労働省)
そして「障害者雇用促進法」という法律により一定規模以上の企業には障害者の雇用が義務付けられることになりました。この法律では、障害者の職業生活の安定と向上を図ることを目的としており、企業には法定雇用率を達成する責務が定められています。
このような背景があり障害者雇用は社会貢献の面が捉えられがちですが、もちろん企業は社会貢献のためだけに障害者を雇用しているわけではありません。障害者の雇用は企業にとってもメリットがあります。例えば、多様な視点を培ったり、さまざまなスキルや特性のある従業員を採用することで、組織の創造性や問題解決能力が向上することもあります。
しかし、組織に貢献する障害者雇用を実現するためには、単に障害者を雇用すればよいというものではありません。組織に合わせた業務を設定し、それができる障害者を採用していくことがどうしても必要になってきます。
障害者雇用の対象企業とは?
障害者雇用促進法により企業に障害者雇用率が義務付けられていることについては、先程触れました。令和6年度現在の法定雇用率は2.5%となっています。そのため従業員数が40人につき1人の障害者を雇用する必要があります。
この対象となる従業員は、常用労働者と呼ばれる従業員がすべて含まれ、雇用の形態に関係なく、パートやアルバイトなども含まれます。なお、企業の障害者雇用率は2.5%ですが、令和8年度からは2.7%に引き上げられることが決まっています。
障害者を何人雇用するかを計算する時には、
【常用労働者数 ✕ 法定雇用率2.5%】で算出することができます。
ただし、業種によっては、障害者雇用が難しいこともあります。そのため、障害者の雇用が一般的に難しいと認められる業種では、雇用する労働者数を計算する際に、除外率に相当する労働者数を控除する制度(障害者の雇用義務を軽減)が設けられています。
現在の除外率は、次の通りです。
出典:労働政策審議会障害者雇用分科会(厚生労働省)
障害者雇用の除外率制度については、ノーマライゼーションの観点から、平成14年法改正があり平成16年4月に廃止となりました。現在は経過措置として、除外率設定業種ごとに除外率が設定されていますが、廃止の方向で段階的に除外率を引き下げ、縮小することになっています。令和7年度には、現在の除外率からさらに10ポイント引き下げられることになっています。
なお、障害者法定雇用率は労働状況やその割合の推移を検討しながら、5年毎にその割合の推移を勘案して設定するものとなっています。障害者雇用状況を見ると、雇用障害者数、実雇用率ともに毎年更新されており、障害者の常用労働者数は年々増加しています。そのため今後も障害者雇用率が上がっていくことを見越して、障害者雇用を考えていく必要があります。
障害者雇用が未達成の場合はどうなる?
多くの企業は法定雇用率を達成するために取り組んでいますが、すべての企業が法定雇用率を達成できているわけではありません。障害者雇用率が未達成の企業では、法定雇用率に不足する障害者の人数に応じた金額を納める必要があります。これを「障害者雇用納付金」といいます。
「障害者雇用納付金制度」では、障害者雇用を進めるためには、企業にとって一定の負荷がかかることが想定された制度となっています。雇用義務を誠実に履行している事業主とそうでない事業主とを比べると、バリアフリー化など作業設備の改善や障害に配慮した雇用管理などの経済的負担のアンバランスが生じることがあります。
そのため障害者を雇用するのは事業主が共同して果たしていくべき責任であるという社会的連帯責任の理念にたち、「障害者雇用納付金制度」が設けられているのです。そして、集められた障害者雇用納付金は、障害者雇用を促進するための基金として、各種助成金や障害者雇用の環境整備、教育などに活用されています。
出典:事業主と雇用支援者のための障害者雇用促進ハンドブック (東京都産業労働局)
なお、この「障害者雇用納付金」は罰金ではないので、納付金を納めたからと言って障害者雇用が免除されるわけではありません。また、大幅に雇用率が未達成であれば、ハローワークなどから障害者雇用率達成指導や障害者雇入れ計画作成命令が出されます。それでも達成できないときは、企業名が公表になることもあります。
出典:厚生労働省
これからの障害者雇用、どうすればよい?
障害者雇用があまり進んでいない企業にとっては、障害者雇用を進めることに対して高いハードルを感じるかもしれません。障害者雇用をすることを早々に諦めて、障害者雇用代行ビジネスを活用する企業もあります。
障害者雇用代行ビジネスについては、賛否両論、いろいろな意見を見かけますが、個人的には、個別の企業で決められたことなので、周囲があまり意見を言うのはどうかと思うところがあります。しかし、確実に言えるのは、障害者雇用代行ビジネスを活用しても、中長期的に見ると企業の資産にはならないということです。
例えば、農園で障害者を雇用することで雇用率を達成することはできるかもしれませんが、運営している企業に管理費を払い続けることになり、しかも社内で人材として活用することの可能性はほぼありません。
一方で、社内の中で雇用することは、はじめは教育する負担やマンパワーが必要だったり、業務に関しても他の社員よりも時間がかかったりするかもしれませんが、いずれ業務を習得し、人材として活躍できる可能性は大いにあります。また、教育を担当する社員は、さまざまな特性のある人材のマネジメントをすることになり、そのスキルや経験は今後のキャリアに役立つこともあるでしょう。中長期的に見ると、組織の資産や人的資本になる可能性はかなり高いと言えます。
もちろんそのためには、適切な業務を切り分けること、適性や能力のある障害者人材を採用することや、はじめは適切なリソースへの投資も必要かもしれません。しかし、それに見合うリターンは確実に取ることができます。
また、勘違いされやすいのが「障害者は仕事ができない」と思っている方が一定数いると言うことです。障害者雇用でうまくいかないのは、適切な業務設計ができていないか、その業務にあった人材が採用できていない、またはマネジメントができていないことが原因です。障害者雇用は、「雇用」であり、福祉でも教育の場でもありません。組織に合った適切な業務、適性で採用すれば、仕事が全くできないということはないのです。
「障害者雇用に適切な業務があるのかがわからない」「適性のある人材を見つけるためにはどうしたらよいのか」「障害者雇用に取り組んでみたもののうまくいかなかった経験がある」という企業の方は、初回無料の個別相談をしていますので、関心のある方はお問い合わせください。
まとめ
障害者雇用は取り組み方によっては、法定雇用率を達成するための義務に留まらず、企業にとっても多大なメリットをもたらす可能性があります。
実際に、人材不足で悩んでいる企業では、障害者を雇用して人材として活用している事例も少なくありません。また、組織に多様な視点や能力を持つことで、組織の創造性や問題解決能力が向上することもあります。
企業が障害者雇用を成功させるためには、単に障害者を雇用するだけでなく、適切な業務の設定と、適性のある人材の採用、そして効果的なマネジメントが不可欠です。このような取り組みをすることは、長期的に見ると企業の「資産」にすることができます。
動画で解説
参考
「障がい者雇用ビジネス」とは? サービスの仕組みと利用実態を解説【前編】
「障がい者雇用ビジネス」とは? 企業にとってのメリットは何か【後編】(HRプロ)
令和6年の障害者雇用未達成の企業名が公表 企業名公表になる基準とは?
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