障害者枠で働いているのに、「職場で障害者としての配慮がされていない。」「採用の面接時に障害特性や対応してほしいことを伝えたのに、職場に伝わっていない。」と感じる人は少なくないようです。
企業では、確かに合理的配慮の提供義務があり、障害者が職場で働くにあたり何らかの支障がある場合には、その支障を改善するための措置を講ずることが義務づけられます。しかし、合理的配慮とわがままは異なります。
合理的配慮とはどのようなことを示しているのか、また合理的配慮とわがままの違い、企業に合理的配慮をいつ伝えたらよいのかなどについて見ていきます。
合理的配慮
合理的配慮とは、どのようなものなのでしょうか。合理的配慮は、個々の障害者の障害の状態や職場の状況に応じて提供されるものであるため、多様性があり、個別性が高いものとされています。
また、企業には、障害者雇用促進法に基づいて合理的配慮を提供する義務があります。そのため障害者が職場で働くにあたり何らかの支障がある場合には、その支障を改善するための措置を講ずる必要があります。
厚生労働省からは、「合理的配慮指針事例集」が出されていますが、事例集に記載されている措置はあくまで例示として示されています。それは、合理的配慮は個人や職場などいろいろな状況や環境によって異なるためです。たとえ同じ障害や障害等級であったとしても、また、事業所の業種や規模感が同じであったとしても、企業による合理的配慮の示し方は違ったものになってくるでしょう。
また、合理的とは、「道理や論理にかなっているさま」や「むだなく能率的であるさま」を指します。ですから、合理的配慮を行なうために、事業活動に多大な影響が出る場合や、過度に社員の負担がかかる、費用負担が非常にかかる場合など明らかに対応することが困難な場合には、該当しません。
合理的配慮とされる措置が事業主に対して過重な負担を及ぼすことになる場合には、合理的配慮を免除されています。どの程度が過度な負担にあたるのかは、企業の規模や財務状況等によるため、各企業で判断していくことが求められます。
合理的配慮とわがままは異なる
合理的配慮をわがままと捉えられるのではないかと心配する当事者の方がいますが、多くの企業では真摯に対応していることが多く、過度な心配をする必要はないと感じています。
しかし、時には障害による配慮として依頼する内容であっても、「働く職場」に依頼する内容としては相応しくない伝え方をするケースも見られるのでどのような伝え方をするとよいのか、いくつかの事例から見ていきたいと思います。
ミスをしても注意しないでほしい
障害特性によっては、厳しく注意されると緊張して固まってしまうことがあるかもしれません。しかし、だからといって「職場でミスをしても注意しないで欲しい」ということは、合理的配慮ではなく、わがままと捉えられてしまう可能性が高いでしょう。
仕事をする上で、人間なので失敗したり、ミスすることは、ある程度生じてしまうのは仕方のないことです。ましては、仕事経験が少なかったり、働き始めたばかりであれば、そのようなことは多くなります。しかし、職場でそのようなミスがあった時に注意ができなかったら仕事は進みませんし、本人が気づいていなくてもミスしているケースは結構あります。それができなかったら、企業としてはとても雇用しにくくなるでしょう。
このような場合には、どのように伝えたら良いでしょうか。
例えば、注意を受けたり、指摘を受けることに過剰に反応してしまうことがあるので、穏やかな口調で、どのようなところが間違っているのか、正しく作業するためにはどのような手順で行っていけばよいのかを順を追って説明してほしいなどの伝え方ができるでしょう。
人とのコミュニケーションが苦手なので、職場の人から声をかけてほしい
コミュニケーションが苦手という人は少なくありません。しかし、職場は仕事をする場所で、誰かに面倒を見てもらったり、サービスを受けている場所ではありません。自分の担当している仕事で何かわからないことがあったり、確認したいところがあるのであれば、自分から声をかけていく必要があります。
しかし、もし、どのようなタイミングで声をかけてよいのかわからなかったり、そのタイミングを見極めるのが難しいのであれば、合理的配慮のお願いをしておくことができるでしょう。
例えば、声をかけてよいタイミングを判断することが難しいので、質問の時間を決めてもらうことや、作業の確認の時間を予めとっておいてほしいなどの依頼をすることができるかもしれません。
自分にできない業務は、担当から外してほしい
どのような業務が自分の担当になるのかは、事前に求人票や面接の時に確認できますので、まずは、採用する会社がどのような業務を求めているのかをしっかり把握しておくことが必要です。そうすることによって、多くの場合、苦手な業務の担当になる可能性はかなり低くなります。
しかし、業務自体はできるものであっても、その業務の指示がその場によって変わる事が多かったり、口頭での指示で理解しにくいような場合であれば、指示の出し方を変更することを依頼できるかもしれません。
例えば、業務を口頭の指示ではなく、具体的なマニュアルや手順書で示してもらうことや、いくつかのパターンを事前に示してもらうなどの方法を取ることができます。このように何をすべきかを視覚的に示してもらうことで、仕事の流れを理解しやすくすることができます。
業務自体を外してもらうのではなく、指示の内容を自分が理解しやすい方法で教えてほしいと伝えると良いでしょう。
体調に合わせて仕事の時間を変更して欲しい
特に働き始めたばかりや、環境が変化すると、緊張感が強くなったり、ストレスを感じやすくなります。しかし、その日の体調に合わせて仕事の時間の調整を依頼されたら、職場の人はどのように感じるでしょうか。
職場では、締切や納期が決まっている業務がたくさんあります。業種や業務によっては、忙しい時期もあります。これくらいの業務があって、この人数だったら仕事が終わると計算している職場で、突然体調不良なので、勤務時間を短縮してほしいと依頼したらどうなるでしょうか。誰かがあなたの分の仕事を担当することになり、他の業務に影響があったり、残業する必要が生じるかもしれません。
もし、体調に不安があるのであれば、その時々によっての勤務時間変更をお願いするのではなく、自分の責任をもって働ける時間から勤務すべきです。短時間でも働くことが難しいのであれば、今はまだ企業で働くときではなく、準備する期間なのかもしれません。
いくつかの事例をお伝えしてきました。企業側は障害者を雇用するということは、健常者よりも配慮が必要なことを理解していることがほとんどです。しかし、自分の都合だけで職場の仕事体制や他の人の業務に影響が出てしまうような状況を作ってしまうと、それは合理的配慮ではなく「わがまま」と捉えられることが多いでしょう。
まずは、合理的配慮と考えていることが、自分の都合だけでなく、職場の合理的な考え方に合ったものになっているかどうかを考えてみてください。
合理的配慮はいつ伝える?
合理的配慮について、職場に伝えるときには、基本は採用時に伝えることをおすすめします。企業側は、職場で求めている仕事内容ができるかどうかを、採用基準と合わせながら検討することができますし、合わせてその合理的配慮に沿った受け入れる体制が整えられるかを考える機会にもなるからです。
しかし、採用時に伝えたとしても、実際に職場で求めている配慮が得られないと感じる場合にはどうしたら良いでしょうか。
採用時に合理的配慮について伝えた人と、職場で直接関わる人が異なる場合には、職場で直接関わる上司に合理的配慮について伝える時間を作ってもらうとよいかもしれません。採用時に伝えた障害特性とどのような配慮を示してほしいのかについて、直接伝えてみてください。
合理的配慮をお願いした当事者からすると、採用面接時に伝えたので職場の人は知っていると思ってしまいがちです。しかし、企業の中には、障害内容や障害特性などについて、個人情報としてごく限られた人にしか伝えていないことも珍しくありません。「伝わっていないな~」と感じるのであれば、同じ職場の上司に相談してみるとよいでしょう。
会社で働くことは、福祉サービスを受けたり、学校で訓練を受けているのとは違います。誰かから声をかけてもらうのを期待するのではなく、自分から声をかけるようにすることを心がけてみてください。もし、声をかけるのにハードルが高いようであれば、就労移行支援事業所や支援機関のスタッフの方にサポートをお願いすることもできます。
まとめ
合理的配慮をわがままに捉えられていると感じた時、どのように対応できるのかについて考えてきました。
まず、合理的配慮が示されていないと言う前に、合理的配慮とはどのようなことを指しているのかを理解しておいてほしいと思います。多くの企業は、障害者雇用を受け入れる時点で何らかの困難さがあることを理解し、それに対応することは検討してくれることがほとんどです。
しかし、職場に対して依頼することとしては相応しくない要求をされると、わがままと捉えてしまうかもしれません。ここで示した合理的配慮とわがままの違いを確認して、どのように企業に合理的配慮を伝えたらよいのかを考えてみると参考になるでしょう。
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