合理的配慮の義務化の背景と意義:障害者権利条約と国内法の関係

合理的配慮の義務化の背景と意義:障害者権利条約と国内法の関係

2024年11月11日 | 障害者雇用に関する法律・制度

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障害者が社会に積極的に参加し、平等に機会を享受するためには、物理的なバリアだけでなく、制度的・社会的なバリアも取り除く必要があります。そのため、障害者が個々のニーズに応じた支援を受け、社会に適切に関われる環境を整えるために「合理的配慮」の提供が重要となってきています。

ところで、合理的配慮はどのようにして義務化されるようになったのでしょうか。今回はその経緯に焦点を当てて解説していきます。障害者権利条約の採択が国内法整備にどのような影響を与えたのか、また、合理的配慮が共生社会の実現に向けて果たす役割について考えていきます。

合理的配慮とは何か?

障害者が社会に参加できる環境を整えるためには、物理的なバリアだけでなく、制度的・社会的なバリアも取り除く必要があります。そのために、障害のある人々が個々のニーズに応じた支援を受け、適切な形で参加できる「合理的配慮」の提供が重要となっています。

合理的配慮とは、障害者が社会生活において平等に機会を享受できるようにするための調整や変更を意味し、これにより障害者の「働きやすさ」や「生活のしやすさ」が確保されます。

合理的配慮の意義は、障害者の基本的人権を守ると同時に、すべての人が共生できる社会の基盤を築くことにあります。障害を理由とする不平等が解消され、障害のある人もない人も対等に関わり合える社会の実現には、合理的配慮が欠かせません。

それでは、合理的配慮が日本国内で義務化に至るまでの背景やその意義について見ていきましょう。

障害者権利条約の採択と背景

障害者権利条約は、障害者が社会の中で平等な権利を持ち、基本的自由を享受できるようにするための国際的な枠組みとして、2006年に国連で採択されました。これは、世界各国において障害者の人権が十分に保護されず、多くの障壁によって生活や活動に制約を受けている現実に対する強い問題意識から生まれたものです。

権利条約では、障害者が健常者と同じように社会に参加できる環境の整備を国際的な課題として位置づけ、すべての障害者が平等に権利を享受できるよう各国政府に対し具体的な行動を求めています。

この条約が掲げる基本義務の一つが、「障害に基づく差別の禁止」と「合理的配慮の提供」です。障害を理由とする差別を禁止し、必要に応じて合理的な配慮を提供することで、障害者が教育、雇用、公共の場へのアクセスなどあらゆる生活の場面で平等な機会を持つことを保証することが求められています。これにより、障害のある人が自らの能力を発揮し、社会に貢献することを可能にする環境づくりが推進されることになりました。

国連総会で採択された障害者権利条約では、一般的義務として、障害に基づくいかなる差別(合理的配慮の否定を含む。)することなく、すべての障害者のあらゆる人権及び 基本的自由を完全に実現することを確保し、及び促進すべきこと等を定めています。

労働・雇用分野においては、条約第 27 条で、あらゆる形態の雇用に係るすべての事項(募 集、採用及び雇用の条件、雇用の継続、昇進並びに安全かつ健康的な作業条件を含む。)に関する障害を理由とする差別の禁止、職場において合理的配慮が提供されることの確保等のために適当な措置をとること等を規定しています。

障害者権利条約の背景には、長年にわたる国際社会の障害者権利向上に向けた取り組みがあります。20世紀後半から、各国で障害者の社会参加を支援する法整備が進められてきましたが、依然として障害者が受ける差別や排除の実態は深刻なものでした。そこで、国際社会は障害者の権利を一層確立するために、新たな法的枠組みとしての条約の必要性を認識し、権利の保障を一国の問題にとどめず、世界的な課題として共有する道を選ぶことになりました。

障害者権利条約は、障害者の権利を国際的に保障し、各国にその実現を促す重要な枠組みとして位置づけられています。この条約の採択により、各国は障害者が公平に社会に参加できるよう、法律や制度の整備を進めるきっかけになっています。

国内法の整備の過程

障害者権利条約の採択を受け、日本においても障害者の人権を保障し、障害を理由とした差別を禁止するための法整備が進められてきました。このプロセスには、障害者基本法の改正や障害者差別解消法の制定、障害者雇用促進法の改正が含まれています。

障害者基本法の改正

障害者基本法は、障害者の基本的な権利を保障し、差別をなくすことを目的とした日本の基盤的な法律です。障害者権利条約の批准に向けた国内法の整備としては、同条約の署名に先立ち、2004年に法律が改正され、日常生活及び社会生活全般に係る分野を広く対象とする障害者に対する差別の禁止が基本理念として明確に位置づけられました。

また、2011年の改正の際には、同条約の趣旨を踏まえ、同法第2条第2号において、「障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のもの」と社会的障壁の定義が規定されるとともに、同法第4条第2項において、「(社会的障壁の除去の)実施について必要かつ合理的配慮がなされなければならない」ことが規定されました。

これに加えて、障害者基本法の差別の禁止の基本原則を具体化するため、日常生活及び社会生活全般に係る分野を広く対象とする、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)が制定されています。

障害者差別解消法の制定

障害者差別解消法は、障害者基本法の基本理念をさらに具体的に実現するための法律として2013年に制定されました。この法律は、合理的配慮の提供を具体的に義務化し、すべての国民が共生できる社会の実現を目指しています。

障害者差別解消法では、行政機関や事業者が障害者に対して差別的な取り扱いを行わないことが明記され、合理的配慮を提供する義務が求められるようになりました。これらの措置等を通じて、共生社会の実現を目指すこととしています。合理的配慮の提供については、当初は行政機関等は義務、事業者は努力義務とされていましたが、障害を理由とする差別の解消の一層の推進を図る観点から、2024年4 月から事業者においても義務化されることとなりました。

障害者雇用促進法の改正

なお、雇用の分野においての行政機関等及び事業者が事業主としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置については障害者雇用促進法から見ていくことになっています。これは、障害者と事業者との関係は事業・業種・場面・状況によって様々であり、求められる配慮の内容・程度も多種多様であることから、不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供に関し、事業者が適切に対応するために必要な事項等を盛り込んだ対応指針を定めることとされたことによります。

2016年の障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)の改正により、障害者に対する差別の禁止(第 34 条及び第 35 条)及び合理的配慮の提供義務(第36条の2及び第36条の3)が別途規定されています。事業者は、対応指針を踏まえ、具体的場面や状況 に応じて柔軟に対応することが期待されています。

この一連の法整備は、障害者が日本社会の中で平等に生活し、働くための基盤を築き、障害の有無に関わらず誰もが尊重される共生社会の実現を目指したものです。合理的配慮の提供が義務化されることにより、企業や行政機関は障害者の支援体制を強化し、全ての人が参加できる社会の実現に向けて、さらなる努力が求められています。

合理的配慮の義務化が企業に与える影響

これまで企業では、雇用する障害者に対して、障害者雇用促進法の合理的配慮により、職場における合理的配慮の提供や障害者の就労機会を平等にすることが求められていました。しかし、これに加えて、障害者差別解消法の合理的配慮が2024年から義務化されることになりました。

このような流れは、合理的配慮の義務化は雇用においてだけでなく、社会に対しても求められることを示すものであり、単なる法的対応だけでなく、企業の成長や社会的信頼を築くうえで重要な意義を持つことを示すものとなっています。

雇用する障害者に対する合理的配慮

これまで。雇用する障害者に対する合理的配慮の対応例としては、次のようなものがあります。

・職場環境の調整:作業スペースや通路の拡張、段差の除去、音や光の配慮など、障害者が快適に働ける職場環境を整える。
・業務内容の見直し:障害者の能力や特性に応じた業務内容や役割分担を検討し、無理なく職務に取り組めるようにする。
・技術的な支援:専用のデバイスや支援ツールの導入、作業プロセスのデジタル化など、障害者が効率よく作業できるよう技術的なサポートを提供する。
・柔軟な勤務形態の導入:テレワークやフレックスタイム制度など、柔軟な勤務形態を導入し、障害者が働きやすい労働条件を整える。

これらの対応策を企業が適切に講じることで、雇用されている障害者が安心して働き、自身の能力を発揮できる環境を構築することができています。合理的配慮の義務化は、企業にとっての課題である一方、適切な対応が行われれば、多様性を重視する組織としての発展が期待できる機会ともなっています。

障害者差別解消法での合理的配慮

2024年4月から障害者差別解消法により、合理的配慮の提供が企業においても法的義務となりました。障害者雇用促進法では、雇用している障害者に対する合理的配慮が求められていますが、障害者差別解消法に基づく合理的配慮は、障害のある人が日常生活や社会生活のあらゆる場面で支障なく活動できるようにするための調整や配慮を提供することが求められています。

障害者差別解消法における合理的配慮の具体例としては、次のようなものがあります。

【公共施設等での合理的配慮】
・視覚障害者への音声案内や点字表示の設置:視覚障害者が迷わずに建物内を移動できるよう、エレベーター内の点字表示や音声案内を追加する。
・聴覚障害者への視覚的サイン:災害発生時のアラートを視覚的に表示するなど、聴覚障害者が情報を視覚的に認識できる工夫を行う。

【教育機関での合理的配慮】
・授業内容の補助資料:聴覚障害を持つ学生に対しては、講義資料や字幕を提供する。また、視覚障害者には、授業内容を音声や拡大文字で提供する。
・通訳者の配置や筆記支援:聴覚障害者には手話通訳者を配置したり、ノートテイクの支援を提供するなど、障害のある学生が授業に平等に参加できるようにする。

【公共交通機関での合理的配慮】
・移動に配慮した設備:車椅子の利用者がスムーズに移動できるよう、駅のホームにスロープやエレベーターを設置する。また、車両の優先スペースを設けることで障害者が利用しやすい環境を提供する。
・案内サービスの充実:視覚障害者に向けて、ホームや車内で音声案内を追加し、移動を支援する。また、案内サポートが必要な場合、事前連絡により職員が案内できるサービスも提供する。

【医療機関等での合理的配慮】
・コミュニケーション支援:医師や看護師が聴覚障害者と対応する際に筆談や手話通訳を利用することで、患者が安心して医療サービスを受けられるようにする。
・情報提供の多様化:視覚障害者には、説明文書を点字や音声で提供し、また知的障害者にはわかりやすい言葉や図解を用いて情報を提供する。

【商業施設等での合理的配慮】
・買い物サポート:視覚障害者が商品を選びやすくするため、スタッフが付き添って説明や案内を行う。また、聴覚障害者には視覚的に確認できる案内表示を充実させる。
・バリアフリー設備の充実:店舗の入り口にスロープを設置し、車椅子利用者がスムーズに入店できるようにする。視覚障害者向けには、階段に点字ブロックを設置するなどの対応を行う。

【行政機関での合理的配慮】
・窓口対応の改善:聴覚障害者に対して筆談用の用具を備えたり、視覚障害者には窓口までの案内を行うスタッフを配置する。また、知的障害者にはわかりやすい説明資料を提供する。
・書類提出方法の柔軟化:視覚障害者や肢体不自由な人に対し、オンラインでの手続きが可能な場合はそれを推奨し、また代筆のサポートができる体制を整える。

これらの合理的配慮の事例は、日常生活や社会活動の場面で障害者が円滑に過ごせるよう配慮し、障害を持つ人も持たない人も共に生活できる環境を目指しています。これにより、すべての人が安心して利用できる公共のサービスや施設を実現し、共生社会の形成を促進することが期待されています。

まとめ

企業が合理的配慮の提供を積極的に行う姿勢を見せることは、社会的な信頼や企業価値の向上にもつながります。ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進は、グローバルな企業で重視されており、合理的配慮の義務化への対応が企業の社会的責任(CSR)としても認識されるようになっています。

合理的配慮を適切に実施するためには、状況に応じた柔軟な対応が求められます。合理的配慮には指針等が示されているので、企業が合理的配慮の提供を進める際のガイドラインとして活用することができるでしょう。

また、企業にとって、障害者が持つ多様なニーズに対し、企業が柔軟かつ前向きに対応することは、多様性を重視する組織文化の形成が期待できます。合理的配慮の提供がもたらす変化は、企業の成長や社会の共生の実現に向けた大きな一歩にすることができます。

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