2026年7月31日更新
「合理的配慮は、2024年から企業に義務化されたのではないですか」
「障害者雇用では、以前から義務だったと聞きました」
合理的配慮について調べると、2016年と2024年という二つの時期が出てくるため、違いが分かりにくいことがあります。
これは、企業が「従業員を雇用する事業主」として対応する場合と、「顧客へ商品やサービスを提供する事業者」として対応する場合で、主に関係する法律が異なるためです。
合理的配慮が義務化されたのは、障害のある本人だけに環境へ適応する努力を求めるのではなく、社会や職場にある障壁を調整し、他の人と平等に参加できる条件を整えるためです。雇用分野では障害者雇用促進法、商品・サービスなどの分野では障害者差別解消法を中心に整理する必要があります。
- 合理的配慮が必要とされるようになった背景
- 障害者権利条約と日本の国内法の関係
- 雇用分野で2016年から義務化されている理由
- 2024年の障害者差別解消法改正との違い
- 合理的配慮の義務化によって企業に求められること
合理的配慮はなぜ必要になったのか
障害のある人が仕事や社会生活へ参加しにくい理由は、本人の障害だけにあるとは限りません。建物の構造、情報の伝え方、制度、仕事の進め方、周囲の思い込みなどが、参加を難しくしている場合があります。
これまで、そのような環境でも、障害のある本人が周囲に合わせることを求められがちでした。しかし、本人の努力だけでは取り除けない障壁もあります。
そこで、社会や職場の側も、個別の状況に応じて必要な変更や調整を行い、障害のある人が他の人と同じように参加できる条件を整えるという考え方が重視されるようになりました。これが合理的配慮の基本的な考え方です。
合理的配慮は、単なる親切や特別扱いではありません。障害によって生じている参加上の障壁を確認し、平等な機会を確保するために必要な調整を行うものです。
障害者権利条約が示した障害の捉え方
合理的配慮の考え方を理解するうえで重要なのが、国連の障害者権利条約です。障害者権利条約は、障害のある人を保護されるだけの存在ではなく、他の人と同じ権利を持つ主体として位置づけています。
また、障害によって生じる困難を、本人の心身機能だけの問題として捉えるのではなく、社会にあるさまざまな障壁との関係から考えます。
条約では、合理的配慮について、障害のある人が他の人と平等に権利を行使するために必要となる変更や調整であり、均衡を失した、または過度の負担を課さないものとしています。
さらに、合理的配慮を提供しないことも、障害に基づく差別に含まれるという考え方が示されました。雇用についても、募集・採用、雇用条件、雇用の継続、昇進などにおける差別を禁止し、職場で合理的配慮が提供されることを求めています。
日本は国内法を整備してから障害者権利条約を批准した
日本は2007年に障害者権利条約へ署名しました。その後、条約の内容を国内で実施するため、障害者制度の見直しが進められました。
主な流れは次のとおりです。
- 2011年:障害者基本法を改正
- 2013年:障害者差別解消法を制定
- 2013年:障害者雇用促進法を改正
- 2014年:日本が障害者権利条約を批准
- 2016年:障害者差別解消法と改正障害者雇用促進法が施行
つまり、条約を批准してから国内法を考え始めたのではありません。条約が求める差別禁止や合理的配慮の考え方を国内制度へ反映したうえで、日本は条約を批准しています。
雇用分野の合理的配慮は2016年から義務
採用や職場での合理的配慮については、障害者雇用促進法で定められています。
改正障害者雇用促進法の施行により、2016年4月から、雇用分野では次の二つが事業主に求められています。
- 障害を理由とする差別の禁止
- 過重な負担にならない範囲での合理的配慮の提供
対象となるのは、募集・採用から、配置、業務の進め方、職場環境、雇用の継続まで、雇用に関わる場面です。
これは法定雇用率の対象となる企業だけに関係する制度ではありません。
障害のある人を採用する場合や、すでに雇用している社員から配慮について相談を受けた場合には、企業規模にかかわらず、事業主として検討する必要があります。
障害者差別解消法では2024年から事業者も義務化
障害者差別解消法は、商品やサービスの提供、施設の利用、行政手続きなど、社会生活上の幅広い場面における障害を理由とする差別の解消を目的としています。
この法律では、行政機関等による合理的配慮は、2016年の施行時から義務でした。
一方、民間事業者については、当初は努力義務とされていました。その後、改正障害者差別解消法が2024年4月に施行され、民間事業者による合理的配慮の提供も法的義務になりました。
そのため、「2024年から企業の合理的配慮が初めて義務化された」と理解すると、雇用分野の制度との関係が分かりにくくなります。
雇用分野では、すでに2016年から障害者雇用促進法に基づく義務がありました。2024年に変わったのは、主に商品・サービスの提供などにおける民間事業者の合理的配慮が、努力義務から法的義務へ変わった点です。
障害者雇用促進法と障害者差別解消法の違い
企業は、状況によって二つの立場を持っています。
| 項目 | 障害者雇用促進法 | 障害者差別解消法 |
|---|---|---|
| 企業の立場 | 従業員を雇用する事業主 | 商品・サービスなどを提供する事業者 |
| 主な場面 | 募集、採用、配置、業務、職場環境、雇用継続など | 店舗、施設、窓口、商品・サービスの提供など |
| 合理的配慮の義務 | 2016年4月から事業主の義務 | 民間事業者は2024年4月から義務 |
| 企業内の主な関係者 | 人事、管理職、障害者雇用担当者など | 店舗、窓口、施設、サービス提供部門など |
同じ企業であっても、従業員への対応と、顧客への対応では、主に確認する法律や社内の担当部門が異なります。
ただし、どちらにも共通しているのは、障害のある人が直面している障壁を確認し、対話を通して必要な調整を検討するという考え方です。
合理的配慮の義務は、すべての要望を認めることではない
合理的配慮が法的義務になっているからといって、本人から出された希望を、すべてそのまま実施しなければならないわけではありません。
合理的配慮では、
- 本人がどのような場面で困っているのか
- 希望する配慮と仕事やサービスにどのような関係があるのか
- 実施できる方法があるか
- 希望どおりが難しい場合に、別の方法があるか
- 企業にとって過重な負担にならないか
などを確認しながら検討します。
重要なのは、要望をすぐに受け入れることでも、前例がないという理由だけで断ることでもありません。本人と企業が必要な情報を共有し、可能な対応を話し合うことです。
具体的にどこまで対応するかについては、次の記事で詳しく整理しています。
義務化によって企業に求められるのは、組織として対応すること
合理的配慮が法律上の義務であるということは、配慮を一部の理解ある管理職や担当者の善意だけに任せないということでもあります。
担当者によって対応が変わったり、上司が変わると配慮が継続されなくなったりすれば、企業として安定した運用とはいえません。
企業には、少なくとも次の点を整理することが求められます。
- 誰が本人から相談を受けるのか
- 誰が必要な情報を確認するのか
- 管理職が迷ったときに誰へ相談するのか
- 誰が最終的な判断に関わるのか
- 決めた配慮をどのように記録し、見直すのか
すべての配慮について同じ答えを出す必要はありません。
一人ひとりの状況に応じて検討しながら、判断の前提と相談の流れは、会社として共有する必要があります。
合理的配慮の理解を確認する5つの質問
自社の状況を確認してみてください。
- 雇用分野と商品・サービス分野で、関係する法律が異なることを理解しているか
- 合理的配慮を、親切や特別扱いだけの問題として捉えていないか
- 本人からの要望をすべて認めることが義務だと考えていないか
- 合理的配慮の判断を、一部の管理職や担当者だけに任せていないか
- 管理職、人事、関係部門で、合理的配慮の基本的な考え方を共有しているか
当てはまらない項目が多い場合、配慮事例を学ぶ前に、合理的配慮の目的と会社としての対応方針を共有する必要があります。
よくある質問
Q:合理的配慮は2024年から企業に義務化されたのですか
商品・サービスなどを提供する民間事業者については、2024年4月から障害者差別解消法に基づく合理的配慮が法的義務になりました。
一方、雇用分野では、障害者雇用促進法に基づき、2016年4月から事業主に合理的配慮の提供が義務付けられています。
Q:法定雇用率の対象外の企業にも合理的配慮は必要ですか
法定雇用率の対象となる企業規模と、雇用分野における合理的配慮の提供義務は別の制度です。
障害のある人を雇用している場合や、採用過程で配慮を求められた場合には、企業規模にかかわらず、事業主として検討する必要があります。
Q:本人から求められた配慮は、すべて実施しなければなりませんか
すべての要望を、そのまま実施する義務ではありません。
本人が困っている状況を確認し、業務やサービスとの関係、実施可能性、企業への負担などを踏まえて話し合います。
希望どおりの対応が難しい場合も、別の方法を検討し、その理由を説明することが重要です。
Q:合理的配慮の事例を管理職へ伝えれば十分ですか
事例を知ることは参考になりますが、事例だけでは、自社で起きるすべてのケースを判断できません。
合理的配慮の目的、判断するときの視点、管理職と人事の役割、相談の流れを共有する必要があります。
Q:雇用分野と顧客対応を同じ研修で扱えますか
共通する合理的配慮の考え方はありますが、関係する法律、担当部門、実際に起きる場面は異なります。
研修を実施する際は、対象者や企業内での役割を明確にし、必要な内容を整理することが重要です。
まとめ
合理的配慮が義務化された背景には、障害のある本人だけに社会や職場へ合わせる努力を求めるのではなく、参加を妨げている障壁を社会の側も調整するという考え方があります。
障害者権利条約は、障害のある人を権利の主体として位置づけ、合理的配慮を提供しないことも差別に含まれるという考え方を示しました。
日本では、条約の批准に向けて国内法が整備されました。
- 雇用分野では、障害者雇用促進法により2016年4月から事業主の義務
- 商品・サービスなどの分野では、障害者差別解消法により2024年4月から民間事業者も義務
という違いがあります。
合理的配慮は、本人の希望をすべて認めることでも、担当者の善意だけで行うことでもありません。
本人が直面している障壁を確認し、対話を通して必要な調整を検討し、企業として継続できる形にすることが重要です。
法律や配慮事例を知っていても、管理職や担当者によって理解が異なれば、実際の判断や対応はばらつきます。
「違いを活かすマネジメント研修【導入版】」では、合理的配慮の正解を覚えるのではなく、なぜ必要なのか、どのような視点で考えるのかを、管理職・人事・経営層で共有します。
本格的な研修の前に、まず社内の共通認識をつくり、合理的配慮を組織として扱う土台を整えたい企業に適した研修です。
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