精神障害者の新規就労者の割合が増えていますが、⼀⽅で精神障害者は離職者も多く、職場定着が課題となっています。精神障害者が就労継続するためには、体調管理をすることが大きなポイントになっています。
しかし、それがわかっていてもなかなか続けられない・・・という現状もあります。それをサポートしようとするのが、川崎就労定着プログラム、K-STEPです。精神障害者など体調管理に課題を抱えている人たちが働き続けるためにセルフケアシートを活用することによって自身で体調を把握しつつ、それを職場や支援者と共有するプログラムです。
ここでは、川崎就労定着プログラム、K-STEPとはどのようなプログラムなのか、また具体的な利用方法、実際に活用している企業の声などを見ていきます。
精神障害者の職場定着に必要な体調管理
平成30年4月から障害者法定雇用率の算定基礎に精神障害者が加わりました。また、近年、精神障害者の新規求職申込件数が増加傾向にあり、企業への就職件数も、身体障害者や知的障害者に比べ、精神障害者が大幅に増えています。一方で、精神障害者は離職者も多く、就労定着が課題となっています。
障害者就労実態調査報告書(平成26年11⽉ 東京都福祉保健局)によると、職場定着に必要なものとして、就労継続意欲、周囲の社員の理解、周囲の社員との人間関係、健康管理、職業遂行能力・スキルがあげられています。
特に精神障害者にとっては、この健康管理や周囲の社員の理解、周囲の社員との人間関係は大切です。なぜ、精神障害は他の障害に比べて大切かというと、なかなか他の人からみてわからない、理解できないところがあるからです。
身体障害であれば、外見からわかったり、内部障害でも医療機関の診断などから、本人でなくても他の人でも理解できやすいものになっています。また、知的障害も実際に一緒に働くと、外見ではわからなくても理解度やスピード感、物事の捉え方などから、何らかのサポートが必要なことがわかります。
しかし、精神障害は一見するとどこが障害なのかわからない、接してみると健常者と変わらないと感じる方も多くいます。実際に精神障害者の実習などを受ける企業では、「どこに障害あるのかわからない(健常者と同じではないか)」と言われることも少なくありません。本人からすると、疲れやすかったり、臨機応変な対応は過度に負担に感じたりと、配慮を求めているから障害者雇用で応募しているわけなのですが、これを言葉でなかなか表現したり、説明することが難しかったりするのも事実です。また、他の人からどのように見られているのかをとても気にされる方も少なくありません。
そんな現状を踏まえて、精神障害者の就労定着を図るためのプログラムとして開発されたのがK-STEPです。精神障害者がセルフケアシートに自分の体調をチェックし、それを職場で毎日上司や同僚に報告することで、障害特性や体調を共有し、就労定着に役立てようとしています。
K-STEPとは
川崎就労定着プログラム、K-STEPは、Kawasaki Syurou TEityaku Programの略称で、精神障害者など体調管理に課題を抱えている方の就労定着を図るためのプログラムです。職場において上司や同僚と良好な人間関係を築くことによって、安定的な就労の継続を実現し、企業の中で戦力として活躍できることを目的として、川崎市が就労移行支援事業所「働くしあわせJINEN-DO」と共同開発したプログラムになります。
K-STEPのプログラムでは、「セルフケアシート」に体調をチェックしながら、自分にあったセルフケアを実行していきます。就職後は毎日、上司や同僚にシートの報告をし、就労定着に向けたコミュニケーションを促進します。
川崎市では、平成26年11月にK-STEPの企画検討を開始し、翌年の2月から市内の就労移行支援事業所を中心に研修を行い、10事業所が導入しました。平成30年12月時点では、利用する事業所は90箇所を声、年間500人以上がK-STEPを利用しています。
K-STEPを活用するメリット
体調の見える化
セルフケアシートを使い「体調を見える化」することで、表面上ではわかりにくい心身の状態がわかりやすくなります。本人自身が自分のことを把握しやすくなるとともに、職場の上司、同僚への病気や障害、セルフケアの理解が進むことが期待されます。
報告のルーチン化
報告は1~2分程度の短時間で済むため、無理なく毎日行うことができます。また、報告の内容が決まっているので、報告をルーチン化することにより、本人も体調を伝えやすくなります。企業としても、短時間で障害特性や体調を共有できるというメリットがあります。
体調の共有化
報告を毎日受けることで情報が共有され、本人からの配慮要求や企業からの配慮提案がしやすくなります。
コミュニケーションUP
毎日の報告で体調を共有することによって、コミュニケーションを深めることができます。また、職場内のコミュニケーションが行なわれることによって、相互の信頼関係の構築にもつながります。
導入にかかるコストはゼロ
導入にあたり、特別な設備や費用・維持費は一切かかりません。
運用方法
障害者社員が自分の状態を毎日セルフケアシートに記入します。職場の上司等は本人から報告を受けます。時間は1~2分程度ですが、これにより体調を共有することができます。気になる点を共有し、体調に応じて業務内容を調整することができます。
出所:K-STEPチラシ(川崎市健康福祉局障害保健福祉部障害者雇用・就労推進課)
セルフケアシート
セルフケアシートは、障害者本人の「変化する心や体の状態」を自分自身で把握し、周囲の方に報告共有し易くするためのコミュニケーションツールとなっています。基本は、良好サイン、注意サイン、悪化サインのリスト化された各項目の中から必要なもので組み立てていくようなイメージです。
また、注意・悪化したときの対処するために注意や悪化サインに気がついた場合の対処方法、調子を乱すきっかけになるかもしれない出来事や状況のヒント、自分の障害内容を他人に理解できるように記述する自分トリセツ、自分のエネルギー残量のチェックやオンタイムに力を発揮するために上手にオフタイムを過ごす(日常生活管理)の項目もオプションとして準備されています。
実際のセルフケアシートは、次のようなものです。
出所:セルフケアシート(K-STEP)(川崎市健康福祉局障害保健福祉部障害者雇用・就労推進課)
出所:セルフケアシート(K-STEP)(川崎市健康福祉局障害保健福祉部障害者雇用・就労推進課)
活用している企業の声
K-STEPを活用している企業の声として、次のようなものがあげられているようです。
セルフケアシートの報告を受けて、相手の体調が分かりやすくなった
・シートを見ることで体調や気持ちに日々変化があることがわかった。
・日々の体調の変化に気づきやすい。状態が「見える化」できるところがよい。
・体調以外にも、「ストレスがかかっているか?」「集中力はどうか?」などメンタル面のことも分かるのでとても分かりやすい。それを見て一日の作業の組み立てを考えて指示が出せる。
コミュニケーションツールとして活用できている
・体調が良いかどうかの報告にとどまらず、その理由も聞けるため役にたつ。本来なら聞きにくいことも声をかけやすくなるし、仕事のことだけでなく雑談になることもある。
・報告の時にこちらからも質問をしていくと、コミュニケーションを深めるきっかけになる。
・報告を始めてから数ヶ月たつと、お互いに慣れてきて、報告の延長で雑談をするようになったり、関係を深めることにも繋がっている。
勤怠の安定や職場定着に役立つ
・役に立つと思う。漠然とではなく、自分に合った項目に沿って、毎日継続してチェックすることで、 自分を客観的に見つめることになると思う。
・注意サインが出た時に適切に対処できるなど、効果的な使い方ができていれば効果はあると思う。
・離職する人は、コミュニケーション・仕事内容・仕事量にミスマッチがあると思う。コミュニケー ションの部分はK-STEPが大きな役割を果たしている。体調が悪い時は、仕事内容や仕事量を 変えたりしているので、K-STEPをきっかけに色々な工夫はできると思う。
出所:企業の声(川崎市健康福祉局障害保健福祉部障害者雇用・就労推進課)
精神障害者を雇用している企業の担当者の中には、どのように声をかけてよいのかと迷われる方も多いようです。このように決まったフォーマットを使って、短い時間で継続的に行うようにすることで、コミュニケーションを図る方法はとても有効的だと思います。
また、「見える化」することで、本人も一緒に働く職場の人も状況が把握しやすくなりますし、配慮を示しやすくなるでしょう。
K-STEPを活用するためには?
K-STEPプログラムを活用したいと思われた企業や支援機関等は、川崎市障害者雇用・就労推進課に『K-STEP利用届出書』を提出してください。
また、実施にあたっては下記の事項を遵守して利用することが求められています。
・本プログラムを実施する際は、必ずプログラムを使用する本人の意思を確認し、同意を得て行うこと。
・本プログラムは、治療を目的としたものではありません。医師からプログラムの中止について、指示や助言等を受けた場合は使用を中止すること。
詳細はこちらから
↓ ↓ ↓
障害のある方の「働くしあわせ」の実現を目指すK-STEPプロジェクト(川崎市健康福祉局障害保健福祉部障害者雇用・就労推進課)
K-STEPチラシ(川崎市健康福祉局障害保健福祉部障害者雇用・就労推進課)
まとめ
精神障害者が就労継続するためには、体調管理をすることが大きなポイントになっています。しかし、現実問題、それがわかっていてもなかなか続けられない・・・ということは少なくありません。また、精神障害者を雇用している企業の担当者の中には、どのように声をかけてよいのかと迷われる方も多いようです。
このような現状をサポートしようとするのが、K-STEPです。定型的なフォーマットを使って、短い時間で継続的に行うようにすることで、コミュニケーションを図る方法はとても有効的だと思います。また、障害者本人の体調を「見える化」することで、本人も一緒に働く職場の人も状況が把握しやすくなりますし、配慮を示しやすくなります。現在では、知的障害や発達障害の方も利用する機会が増えているようです。
私がK-STEPをとてもよいと思うのは、働く障害者自身にセルフケアを促す点です。就職する、働くということは、会社の業務に貢献することに対しての対価として給料が払われるということです。障害者を雇用する企業でも合理的配慮などを示す必要はありますが、やはり障害者本人の自己管理があった上で、成り立つものだと考えています。
このような精神障害者の体調管理をサポートするツールは、今までにもありましたが、無料で行政が提供してくれるのは、川崎市がはじめてでしょう。川崎市では、障害者施策については先進的な取り組みを常にしてきているように感じます。
テレワークや出張の多い職場では、紙媒体でのやり取りは現実的ではなく、WEBを介した体調管理サポートツール(有料)のほうがよいと思いますが、同じ職場で働く会社の場合には、このK-STEPの導入を検討されるとよいでしょう。
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