2026年8月9日更新
社員が病気やメンタルヘルス不調などで休職に入ると、本人は治療や療養に専念することになります。
では企業は、本人から「復職したい」という申し出があるまで、待っていればよいのでしょうか。もちろん、本人の回復を会社が急がせるものではありません。
一方で、職場復帰の段階になってから初めて、「どの仕事に戻すのか」「どの程度働けるのか」「どのような配慮が必要なのか」「現場は受け入れられるのか」を考え始めると、判断材料が十分にそろわないことがあります。
採用後に障害者となった従業員への企業対応を調べた調査を見ると、休職期間中には、本人の復職についての意向確認や制度に関する情報提供だけでなく、主治医からの情報収集や、復職後の配慮について現場と事前に調整するといった対応も行われています。
そして、職場復帰を判断するときに企業が大きな課題として挙げているのが、「どの程度仕事ができるのか分からない」という問題です。
休職期間は、単に「回復を待つ期間」ではありません。本人が安心して療養できる状態を守りながら、企業側では、復職時に必要になる情報や仕事・職場の条件を整理しておく期間でもあります。
この記事では、企業調査の結果をもとに、休職期間中に企業がどのような対応を行っているのか、職場復帰では何を重視しているのか、そして人事が休職中から何を準備しておく必要があるのかを整理します。
- 企業が休職期間中に行っている主な対応
- 本人への情報提供や復職意思の確認が重要な理由
- 休職中から主治医・産業保健・現場との連携を考える意味
- 企業が職場復帰の判断で重視している要素
- 調査結果をそのまま「復職基準」にしてはいけない理由
- 企業が復職判断で最も困りやすい「どの程度仕事ができるか」という問題
- 休職期間中から復帰後の仕事・職場を整理しておく意味
調査から見る、休職期間中に企業が行っていること
休職中の企業対応を考えるうえで参考になる調査があります。障害者職業総合センターが実施した企業調査をもとに、日本労働研究雑誌に掲載された「採用後に障害者となった従業員に対する企業の対応や課題」です。
この調査は、常用労働者50人以上の民間企業7,000社を対象に実施され、1,567社から回答を得ています。ここでいう「採用後障害者」は、採用後に身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳を取得した人のほか、一定の疾患について診断書を取得した人などを含んでいます。そのため、すべての休職者を対象にした調査ではありません。
また、以下で紹介する結果は、採用後に身体障害者となった従業員の割合が多い企業と、採用後に精神障害者となった従業員の割合が多い企業を比較したものです。
一般の休職者すべてにそのまま当てはめるものではありませんが、企業が休職期間中に何を行い、職場復帰に向けて何を確認しているのかを見る参考になります。
休職期間中に多く行われていた対応
調査では、休職期間中に行っている対応として、次のような結果が示されています。
| 休職期間中の対応 | 身体障害者の割合が多い企業 | 精神障害者の割合が多い企業 |
|---|---|---|
| 復職について本人の希望を確認 | 90.3% | 92.5% |
| 休職期間・補償・復職支援等の情報を本人等へ説明 | 82.6% | 80.0% |
| 会社担当者が定期的に本人と接点を持つ | 57.4% | 61.3% |
| 労務・上司・産業保健スタッフ等で必要な情報を共有 | 54.8% | 61.3% |
| 本人等の了解を得て主治医から復職上の留意点を収集 | 28.4% | 43.8% |
| 復職後の配慮や協力について現場と事前に調整 | 54.8% | 68.8% |
この調査で特に多かったのは、本人の復職についての希望を確認することと、休職期間や補償、復職支援等について情報を提供することです。
つまり、休職期間中の企業対応は、「体調を確認する」ということだけではありません。
本人が今後の見通しを持てるよう必要な情報を提供するとともに、職場復帰を考えられる段階になったとき、その意思を確認して次の手続きへつなげることが基本になります。
「一度説明したから伝わっている」と考えない
休職に入る社員は、心身の調子が悪い状態で人事から説明を受けることがあります。
そのため、その場では説明を聞いていても、あとから内容を十分に思い出せなかったり、手続きの順番が分からなくなったりすることがあります。
「一度説明したから伝わっている」「本人も覚えているはず」と考えないことが大切です。
休職期間、必要な手続き、経済的な保障に関する情報、問い合わせ先、復職を希望するときの手続きなどは、口頭だけではなく、本人があとから確認できるよう書面や社内の案内等でも整理して伝えておくとよいでしょう。
また、一度にすべてを説明するのではなく、休職開始時に必要なことと、その後の時期に必要になることを分けて案内することも考えられます。
重要なのは、「説明をしたか」ではなく、本人が必要なときに必要な情報を確認できる状態になっているかです。
休職中の対応は「本人への連絡」だけではない
休職中の対応というと、「人事はどのくらいの頻度で本人に連絡すればよいか」という話になりがちです。しかし、調査を見ると、企業が行っていることは本人との連絡だけではありません。
精神障害者の割合が多い企業では、身体障害者の割合が多い企業と比べて、本人等の了解を得たうえで主治医から復職上の情報を得ることや、復職後の配慮について事前に現場と調整することが多く行われていました。
ここから見えるのは、本人・医療や産業保健・人事・現場の間で、職場復帰に必要となる情報や条件を少しずつ整えているということです。
ただし、休職した直後から復職の判断を急ぐという意味ではありません。本人の療養が必要な時期には療養を優先します。
一方で企業側では、
- 復職を希望した場合の手続きはどうなっているか
- どのような医学的・産業保健上の意見が必要になるか
- 復帰するとすれば、どの仕事を想定するのか
- 職場側ではどのような準備が必要になるか
といったことを整理しておくことができます。
本人の回復を待つ一方で、会社側では、復職を検討する段階になったときに必要な判断ができるよう、制度・仕事・職場側の条件を整理しておくことができます。
企業は職場復帰を何で判断しているのか
同じ調査では、職場復帰を判断するときに「最も重要」と考える要素を一つ選んでもらっています。
主な結果は次のとおりです。
| 復職判断で重視された要素 | 身体障害者の割合が多い企業 | 精神障害者の割合が多い企業 |
|---|---|---|
| 症状・病気が安定していること | 44.8% | 41.3% |
| 本人に復職する意欲があること | 21.4% | 9.3% |
| 復帰予定の仕事を行える能力があること | 9.1% | 8.0% |
| 復帰後、その仕事によって症状等が悪化しないこと | 6.5% | 14.7% |
| 仕事を安定して行え、安全上の問題がないこと | 16.9% | 10.7% |
両方の企業群で最も多く選ばれていたのは、症状や病気が安定していることでした。
一方で、本人の復職意欲、実際の職務を遂行できるか、復帰後に状態が悪化しないか、安全に安定して働けるかなど、複数の視点が挙げられています。
ここで重要なのは、職場復帰は一つの情報だけで判断されているわけではないということです。
この調査結果をそのまま「復職基準」にはしない
この調査結果を見ると、「では、症状が安定していれば復職できるのか」と考えたくなるかもしれません。
しかし、この数字は、企業が実際に何を重視していたかを示した調査結果です。「この条件を満たせば復職できる」という医学的・法的な復職基準を示したものではありません。
例えば、「症状が安定しているか」という医学的な状態について、人事担当者が独自に判断するものではありません。主治医や産業医等の医学・健康管理上の意見が必要になります。
一方で、「実際にどの仕事へ戻るのか」「どのような勤務条件なのか」「職場でどの程度の業務遂行が求められるのか」は、医療側だけでは決められません。これは会社側が具体化する必要があります。
職場復帰では、本人の状態、本人の意向、主治医や産業医等の意見、実際の仕事、職場環境などを合わせて検討する必要があります。
企業が復職判断で最も困っているのは「どの程度仕事ができるか」
この調査で、さらに注目したい結果があります。
職場復帰を判断するときに問題となった点を尋ねたところ、「どの程度仕事ができるのか分からなかった」という趣旨の回答が、
- 採用後身体障害者の割合が多い企業:89.9%
- 採用後精神障害者の割合が多い企業:86.7%
と、どちらの企業群でも最も多く選ばれていました。
これは、復職判断の難しさをよく示しています。
「病状が改善した」「本人は戻りたいと言っている」「主治医から復職可能と言われた」という情報があっても、実際に会社でどの仕事を、どの程度できるのかが分からなければ、企業は最終的な判断をしにくいからです。
そして、この問題は復職時だけではありません。安定して勤務を継続するうえでの課題としても、「復職後の仕事の与え方や配置」が、身体障害者の割合が多い企業で75.3%、精神障害者の割合が多い企業で86.3%と、最も多く挙げられています。
つまり、「復職できるか」を考えることと、「復職後に何の仕事を任せるか」を考えることは切り離せません。
だから、休職中から「復帰する仕事」を具体化しておく
復職を検討する段階になってから、「本人は働けますか」とだけ医療側へ尋ねても、判断は難しくなります。企業側がまず整理したいのは、復帰後に想定している仕事です。
例えば、
- どの職務への復帰を想定しているのか
- 勤務時間はどのようになるのか
- どの程度の業務量があるのか
- 判断や対人対応がどの程度必要なのか
- 安全上、特に確認が必要な業務があるか
といった仕事側の条件です。
こうした情報があって初めて、主治医や産業医等から得られる医学・健康管理上の意見と、実際の仕事を結びつけて考えることができます。
休職中からすべての配置や業務を決定しておくという意味ではありません。復職判断をするときに、「何に戻るのか」が分からない状態にしないことが重要です。
休職期間中には、職場側の準備も進める
休職中の対応は、本人への支援だけではありません。調査では、復職後の配慮や周囲の協力について、事前に現場と調整している企業も多く見られました。
実際に社員が職場へ戻るときには、
- どの仕事を担当してもらうのか
- 勤務や業務上どのような対応が必要なのか
- 管理職はどのようにフォローするのか
- 仕事を調整した場合、職場全体をどう運用するのか
- 復帰後の状況を誰が確認するのか
など、職場側で考えることがあります。
復職日が決まってから、「来週から戻ってくるので、現場で対応してください」と初めて管理職へ伝えるのでは、準備が間に合わないこともあります。
一方で、休職中の社員の病名や治療内容などを、必要以上に現場へ共有するということでもありません。現場に必要なのは、本人の健康情報すべてではなく、仕事を受け入れるために必要な情報と役割です。
本人のプライバシーに配慮しながら、復職後の仕事や必要な対応について準備を進めます。
休職期間は「復職の結論を出す期間」ではなく「判断材料を整える期間」
休職中から復職について考えるというと、「本人に早く戻るよう求めるのではないか」と感じるかもしれません。
しかし、そうではありません。本人が療養に専念することと、会社が将来の職場復帰に向けて準備することは両立します。
休職中に会社側でできるのは、
- 本人が必要な制度や手続きを確認できるようにする
- 復職意思が示されたときの手続きを明確にしておく
- 必要な医学・産業保健上の情報をどう得るか整理する
- 復帰予定の仕事や勤務条件を具体化する
- 現場側で必要となる準備を整理する
といったことです。
この違いを意識することが重要です。
人事の役割は、本人・医療・仕事・現場をつなぐこと
職場復帰では、多くの関係者が関わります。
本人には、現在の状態や復職についての意向があります。主治医には、治療や医学的な回復状態についての情報があります。産業医等は、医学的な情報と実際の就業との関係について専門的な意見を示します。管理職は、復帰予定の仕事内容や職場の状況を把握しています。人事は、休職・復職制度、勤務条件、配置、社内の調整を担います。
重要なのは、誰か一人がすべてを判断することではありません。それぞれが持っている情報を必要な範囲でつなぎ、会社として復職・仕事・配置・就業上の対応を判断できる状態をつくることが人事に求められます。
社内で確認しておきたいポイント
- 休職期間や制度、復職手続きを本人があとから確認できる状態になっているか
- 本人から復職意思が示されたあとの社内手続きが明確になっているか
- 主治医・産業医等からどのような就業上の意見が必要になるか整理されているか
- 復職を検討するとき、どの仕事への復帰を想定するのか明確になっているか
- 医学的な回復状態と、実際の仕事を行えるかという会社判断を混同していないか
- 復職後に必要となる職場側の準備を、誰が調整するのか決まっているか
- 復職可否だけでなく、復帰後の仕事・配置・見直しまでつなげて考えているか
復職対応が難しくなるのは、制度がないからだけではありません。
「本人の状態は分かるが、どの仕事なら任せられるのか分からない」というところで判断が止まる企業もあります。
だからこそ、休職中から、本人への支援だけでなく、復帰後の仕事や職場側の条件も整理しておくことが重要です。
「配慮は必要だが、現場でどこまで対応するのか決まらない」
「復職はできたが、その後の仕事や配置で再び迷っている」
まずは、自社のどこで判断が止まっているのかを整理してみてください。
FAQ|休職中から職場復帰を考えるときに人事が迷いやすいこと
Q:休職中に復職の準備を進めると、本人に復職を急がせることになりませんか
休職中に会社側の準備を進めることと、本人に早い復職を求めることは別です。
本人には必要な治療・療養を優先してもらいます。
一方で企業側では、復職を検討できる段階になったときに慌てないよう、復職手続き、復帰予定の仕事、必要な社内調整などを整理しておくことができます。
重要なのは、本人の回復時期を会社が決めることではなく、必要な時期に適切な判断ができる状態をつくっておくことです。
Q:本人が「復職したい」と希望していれば、復職できますか
本人の復職意思は、職場復帰を検討するための重要な要素です。
ただし、本人が希望していることだけで具体的な職場復帰が決まるわけではありません。
本人の状態、主治医や産業医等の意見、復帰予定の仕事内容、勤務条件、職場の状況などを確認し、会社として復職可否を検討します。
本人の「戻りたい」という意思と、会社の「この仕事へ、この条件で復帰できる」という判断は分けて考える必要があります。
Q:調査では「症状や病気が安定していること」が重視されています。これを会社の復職基準にしてよいですか
この調査は、企業が実際に何を重視していたかを示したものであり、統一された復職基準を示したものではありません。
また、症状や病気が医学的にどの程度安定しているかを、人事が独自に判断するものでもありません。
医学・健康管理上の状態については主治医や産業医等の意見を確認し、企業はそれを実際の仕事内容や勤務条件とつないで、就業上の対応を検討します。
調査結果は、自社の復職基準としてそのまま使用するのではなく、「企業がどのような点で判断に迷っているのか」を考える材料として見ることが重要です。
Q:主治医から「復職可能」と言われたあと、会社は何を確認すればよいですか
主治医の「復職可能」という意見は重要な判断材料です。ただし、それだけで具体的な仕事への復帰が決まるわけではありません。
会社側では、どの仕事への復帰を予定しているのか、その仕事にどの程度の業務量・判断・対人対応・安全上の要件があるのかなどを整理します。
そのうえで、本人の状態や専門職の意見と実際の仕事を照らし合わせ、復職可否や必要な就業上の対応を検討します。
職場復帰の具体的な判断プロセスについては、厚生労働省の5ステップをもとに別の記事で詳しく解説しています。
Q:休職中に、復職後の配置や仕事を決めておく必要がありますか
休職中の段階で、最終的な配置や業務内容をすべて確定させるということではありません。
一方で、復職を検討するときに「何の仕事へ戻るのか」が全く決まっていなければ、本人の状態と仕事との適合を判断しにくくなります。
復職時に想定される仕事、勤務条件、現場で調整可能なことなどを会社側で整理しておき、本人の状態や専門職の意見等を踏まえて最終的に検討できる状態をつくっておくことが重要です。
まとめ|休職期間中から「復職後の仕事」まで考えておく
休職期間は、本人の回復を会社が管理する期間ではありません。
本人が治療や療養に専念する一方で、企業側では、将来職場復帰を検討するときに必要になる情報と条件を整理することができます。
企業調査を見ると、休職期間中には、
- 本人の復職についての希望を確認する
- 休職期間や補償、復職支援等について情報を提供する
- 必要に応じて主治医から復職上の情報を得る
- 復職後の配慮等について現場と事前に調整する
といった対応が行われています。
そして、企業が復職判断で特に困っているのは、「実際にどの程度仕事ができるのか分からない」という問題です。
だからこそ、職場復帰を考えるときには、「本人は回復したか」だけではなく、
「どの仕事へ戻るのか」
「その仕事をどの条件で行うのか」
「誰が何を判断するのか」
「職場側で何を準備するのか」
まで整理する必要があります。
休職期間を単なる待機期間にせず、本人の療養を守りながら、会社側では復職判断に必要な条件を整えておく。
それが、職場復帰の段階で人事や現場が「何を基準に決めればよいのか」と迷わないための準備になります。
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参考資料
- 宮澤史穂「採用後に障害者となった従業員に対する企業の対応や課題」日本労働研究雑誌 No.745(2022年8月)
- 厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
- 厚生労働省「こころの耳|15分でわかる職場復帰支援」
※紹介した企業調査は、すべての休職者を対象としたものではなく、採用後に障害者となった従業員に関する調査です。また、調査結果は統一的な職場復帰基準を示すものではありません。職場復帰の判断や就業上の対応は、本人の状態、仕事内容、主治医・産業医等の意見、就業規則、会社の産業保健体制等を踏まえて個別に検討する必要があります。
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