障害者の合理的配慮、企業が知っておくべき義務とその対応

障害者の合理的配慮、企業が知っておくべき義務とその対応

2016年04月10日 | 障害者雇用に関する法律・制度

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平成28年4月に障害を理由とする差別解消の促進に関する法律(以下、障害者差別解消法)と改正障害者雇用促進法が施行されました。この法律では、全ての企業での雇用現場において、事業主が雇用する障害者へ合理的配慮の提供を行うことが義務化されます。

平成30年には精神障害者の雇用義務化と法定雇用率の引上げが予定されており、企業の中で障害のある方が働く動きがますます進んでいくことが予想されます。企業の中における障害者雇用を進めていくにあたり、障害者に対する差別の禁止、及び合理的配慮の提供義務について考えていきます。

障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮の提供義務について

差別の禁止及び合理的配慮について聞いても、なんとなくわかったような、でもやっぱりわからないような・・・という気持ちになるのは、どこが誰に何を求めているかがわかりにくいからかもしれません。下の図をみて、整理してみたいとおもいます。

内閣府と厚生労働省の合理的配慮

引用:厚生労働省

内閣府からは、平成25年6月に「障害者差別解消法」が制定、平成28年4月1日から施行となりました。これにより、雇用分野以外の全般的な面について、差別的取扱いの禁止は法的義務、合理的配慮の不提供の禁止は、国・地方公共団体等は法的義務、民間事業主は努力義務となっています。

厚生労働省からは、平成25年6月に、「障害者雇用促進法」を一部改正し、雇用の事業主に対して、障害を理由とする差別的取扱いの禁止は法的義務、合理的配慮の提供義務は法的義務としています。

内閣府からの対象は雇用以外の全般的な社会面、厚生労働省からの対象は雇用事業主の雇用に関わる面となるので、雇用する企業においては、厚生労働省が示している差別的取扱いの禁止と合理的配慮を示すことが求められています。

ですから企業にとっては、厚生労働省から出されている「障害者の雇用の促進等に関する法律」の改正内容を理解する必要があります。

※ 2021年5月、障害者差別解消法の一部が改正・可決されました。これにより、障害者差別解消法の民間事業者による合理的配慮の提供が努力義務だったものが、法的義務になります。

障害者雇用促進法の改正において企業に求められていること

障害者雇用促進法の改正では、雇用の場面において障害者に対する差別の禁止及び障害者が職場で働くにあたっての支障を改善するための措置(合理的配慮の提供義務)を定めるとともに、障害者の雇用の状況から精神障害者を法定雇用率の算定基礎に加えることが含まれています。

障害者に対する差別の禁止

雇用を行う中で、障害を理由とする差別的取り扱いを禁止するものです。(障害者差別解消法は、日常生活や社会生活に関わる分野を対象としていますが、ここで扱う内容は障害者雇用促進法の障害を理由とする差別的取扱いの禁止です。)

この差別禁止の基本的な考え方では、対象はすべての事業主となっており、従業員を雇用する企業です。対象となる障害者は、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)、その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者とされており、障害者手帳所持者に限定されていません。

障害者であることを理由とする差別(直接差別)を禁止しています。直接差別は、差別意図があるため、差別するほうが意識していることになるため禁止されていますが、間接差別である差別意図がなく、無知や無理解によって差別が放置されることは、禁止事項の対象外となっています。

また、車いす、補助犬その他の支援器具などの利用や、介助者の付き添いなどの利用を理由とする不当な不利益取扱いは、禁止事項になっています。そのため事業主や同じ職場で働く人が、障害特性に関する正しい知識の取得や理解を深めることが大切です。

では、どのような状況における差別が禁止されているのでしょうか。募集・採用、賃金、配置、昇進、降格、教育訓練などにおいて、障害者であることを理由に障害者を排除することや、障害者に対してのみ不利な条件とすることは、差別に該当することになります。

例えば、募集・採用するときに、障害者であることを理由として、障害者を募集又は採用の対象から排除することや、募集又は採用に当たって、障害者に対してのみ不利な条件を付すこと、採用の基準を満たす者の中から障害者でない者を優先して採用することは禁止されています。

ただ、厚生労働省の見解では、以下のような場合に措置を講ずることは、障害者であることを理由とする差別に該当しないと判断しています。

  • 積極的差別是正措置として、障害者を有利に取り扱うこと
  • 合理的配慮を提供し、労働能力などを適正に評価した結果、異なる取扱いを行うこと
  • 合理的配慮の措置を講ずること

しかし、現場でこのように障害のある社員とない社員での取扱いがことなることを実際に行なうと、現場の社員のモチベーションに影響したり、不満がでてくることもありますので、実施する際には十分検討することをおすすめします。

企業における合理的配慮の提供義務

事業主は、合理的配慮の提供義務があり、障害者が職場で働くにあたり何らかの支障がある場合には、その支障を改善するための措置を講ずることが義務づけられます。ただし、合理的配慮とされる措置が事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなる場合を除かれます。

合理的とは、「道理や論理にかなっているさま」や「むだなく能率的であるさま」を指します。ですから、合理的配慮を行なうために、事業活動に多大な影響が出る場合や、過度に社員の負担がかかる、費用負担が非常にかかる場合など明らかに対応することが困難な場合には、該当しません。

どの程度が過度な負担にあたるのかは、企業の規模や財務状況等によると思いますので、一概に言えないでしょう。障害の特性上必要な配慮であっても、受け入れ側の企業が大きな負担になるかどうかを、各企業で判断していくことが求められます。

ですから、障害者本人から申し出のあった配慮について、企業で対応できないことも生じてくることがあるでしょう。そのような場合には、どうしてできないのかを申し出のあった障害者本人へ説明する義務を果たす必要があります。その際には、企業側として説明したから、障害者本人はわかっただろうと判断するのではなく、申し出のあった障害者本人が本当に理解しているのかを確認することが大切です。

企業側は説明したつもり(実際にはしっかり説明できていることも多い)でも、障害者本人には伝わっていなかった、または違ったニュアンスで受け止めていたという場合も少なくありません。障害者本人の申し出を検討した結果をわかりやすく伝えるとともに、企業側の意志が伝わったのか、確認していただきたいと思います。合理的配慮の本質は、企業と障害者本人の信頼関係にかかわっていると感じます。

厚生労働省から示されている、合理的配慮として想定される例として、車いすを利用する障害者に合わせて、机や作業台の高さを調整することや、知的障害者に合わせて、口頭だけでなく分かりやすい文書・絵図を用いて説明することなどをあげています。

このような取り組みは、すでに障害者雇用を進めている企業において実施されており、雇用している企業の事例を見学したり、話を聞いたりすることによって、自社においてどのように取り組むことができるかを考えることができるでしょう。

また、合理的配慮指針事例集として、公労使障の四者で構成される労働政策審議会の意見を聴いて定める「指針」において、具体的な事例が示されています。

合理的配慮指針事例集

合理的配所の指針

なお、この合理的配慮指針事例集の「はじめに」にも明記されていますが、事業主が合理的配慮を提供する際に参考になると考えられる事例を幅広く収集したものになっています。中には、ある程度一般的に実施されていると考えられる配慮措置だけでなく、特に進んだ取組と考えられる措置についても記載されています。

合理的配慮は、個々の障害者の障害の状態や職場の状況に応じて提供されるものであるため、多様性があり、個別性が高いものです。したがって、事例集に記載されている措置はあくまで例示であり、あらゆる事業主が必ずしも実施しなければならないわけではなく、また、記載されている事例と同一の規模、同一の業種の事業主が、必ず記載通りの措置を実施できるわけではありません。一方で、本事例集に記載されている措置以外であっても、合理的配慮に該当する措置はあります。

合理的配慮指針事例集をみながら、障害別ごとの合理的配慮について考えてみたいと思います。

知的障害への合理的配慮

実習、採用等の面接時に、就労支援機関のスタッフ等の同席を認める

知的障害のある方には、意思交換(言葉を理解し気持ちを表現することなど)が苦手な場合があり、面接官との意思疎通に支障が生じる可能性があります。さらに、普段と異なる状況の中で、いつも以上に緊張してしまうことも珍しくありません。

このような事情を踏まえ、知的障害者の方と面接官の意思疎通を助けるとともに、普段接している就労支援機関の職員から知的障害者の方の障害特性や強み、弱み等を、企業へ伝えるため、面接時に就労支援機関の職員等の同席を認めている事例があります。

本人・保護者・ハローワーク等職員を対象とした入社前説明会を実施する

就職するのかどうかを決めるのは、知的障害者の方、ご本人です。しかし、会社から雇用契約内容などの説明をした際に、ご本人がその内容を理解できているとは限りません。雇用契約などは、生活にも直結することですし、契約ですので、わかりませんでした、知りませんでしたで、済まないこともあります。

ご本人の理解だけで不安な場合は、保護者、就労支援機関のスタッフ等、ご本人をフォローできる人に理解してもらっていると、企業側としても安心できます。企業のリスク管理の面からもよい取り組みだといえるでしょう。

業務指導や相談に関し、担当者を決める

知的障害者の雇用の際に、企業で配慮できる点としてお願いすることの多い点ということもあり、障害者が円滑に職務を遂行するために、業務指導や相談に関し企業内の様々な立場の人を担当者として選任する事例は多くみられます。

担当者を定めることにより、障害者が働く上で支障となっている事情を互いに認識し、その支障となっている事情の解決のためには、どのような配慮が適切かといった相談に対応することができます。

指導・相談の方法

定期的に朝礼や終礼などで声かけを行って、本人の調子などを確認します。いつもと少し違うような場合には面談などを行うことにより、早めに悩みごとや不安を取り除くようにします。

コミュニケーションが難しい場合は、企業と家庭の間で連絡ノートを活用することによって、日々企業・家庭の様子の情報共有しながら、連絡・相談しているケースは、企業の規模・業種、障害者が従事する職種にかかわらず、多くの事例があるようです。

また、相談しやすいように、直接相談しにくい内容については、相談用紙と投函する箱を設置したり、社内のカウンセリングやキャリア支援、定着支援を担う部署を設けたり、定期的に臨床心理士による相談を受けられるようにしているところもあります。

絵や図などを活用した業務マニュアルを作成する

知的障害の方の中には、漢字を読むことや数字を数えることが苦手な人がいます。また、文字がたくさん書かれているマニュアルをみると、読むだけで疲れてしまうこともあるでしょう。絵や図などを活用し、業務指示の内容は端的にわかりやすく示すとよいでしょう。

すべての業務に適用できるわけではありませんが、業務マニュアルは、できるだけ箇条書きにし、一時に一つのことができたら次へ進めるような形式にしておくと、とてもわかりやすいものになるでしょう。

知的障害といっても、知的障害者の方の幅は広く、中には、ほんとうに知的障害なのだろうか・・・と思ってしまうほど、コミュニケーションが取れる方もいます。そんな方でも、文章の理解や表現は苦手というケースもあります。また、言語による指示よりも視覚的指示として、絵や図、写真などの方が理解しやすいという方もいらっしゃいます。そのため状況に合わせて、業務の内容を提示していく方法がよいでしょう。その場合にも、できるだけ具体的で、簡潔に伝えることは、だれにとってもわかりやすいといえます。

業務マニュアルの作成については、必要に応じてジョブコーチ等にサポートしてもらうことができます。また、忙しくてマニュアル作成をする時間がとれない、業務の変更が頻繁にあるなど、マニュアル作成が難しい場合には、口頭の指示だけでなく、指示内容を紙に書いて渡すことで、業務をわかりやすくすることにより配慮を示すこともできます。

業務指示をわかりやすく伝える

1日のスケジュールがわからないと不安に感じる知的障害者の方は多くいます。1 日の業務の流れをスケジュールとして掲示することにより、その日1日、自分はどの仕事をするのか、その仕事が終わったら何をするのかを明確にすることにより、安心できるかもしれません。

複数の指示を一度に出されると混乱してしまう人もいますので、一つの指示を出し、終わったことを確認してから次の指示を出すなど、作業指示を一つずつ行うようにしている企業もあります。もちろん時間やマンパワーの関係で、1つの業務が終わった後にすべてを確認することが難しい場合には、ある一定の時間で質問を受ける時間を設けることや、チェックシートを用いて業務を自己チェックできるようにすることもできます。

それでも、採用を決めるために実習を行う際や、採用後は、できればマンツーマンで、手本、見本を見せ、知的障害者本人の理解度を確認しながら業務指示をすると、業務取得は早くできるでしょう。

ほかにも配慮している点として、急なスケジュール変更が苦手な人がいるので、スケジュール変更があるときには、変更がわかり次第伝えることや、業務の時間的な調整が可能であれば業務の組み替えを行うことができるかもしれません。

また、業務をおこなう際には、わかりやすく作業できるようにすることも大切です。ある企業では、作業で使用する道具や部品等をあらかじめ机上に用意しておき、間違えないように工夫していたり、業務を行う場所や道具を色別に提示したり、仕分けを行う際に各社、各課の箱にプレートをつけて間違えないようにしています。

障害者社員向けの社内教育や研修を行なう

会社や社会のマナー及びルール、通勤災害や労務災害予防のための勉強会を開催し、学べる機会に取り組んでいる企業もあります。会社独自のルールはもちろんですが、一般的な社会ルールを学ぶ機会を設けているのには、それなりに必要さを感じている企業が多いからでしょう。

特に、特別支援学校の高等部や職業訓練学校から入社した社員は、会社で働くという経験がありません。今まで学生として教えられてきて、困っていると周囲の教員がサポートしてもらっていたのと、職場で一人の社会人として働くのとは、大きな差があります。

また、携帯電話やSNSの利用など、他人との社会的な関係を築くことができる社員がいる一方で、コミュニケーションの頻度や時間などの一般的なルールが通じないこともあるからです。夜遅くまで、友達とLINEでグループのチャットをしていて、翌日の出勤に影響が出たり、寝不足になったりという例が見られます。

しかし、これらのケースをみていくと悪気があってやっているというよりも、夜遅くまでやり取りをするのが非常識だと知らない(教えてもらっていないと本人たちは言います。周りの状況を見ながら学んでいくのが苦手な方が多くいます。)ケースも多いようです。1つの事象を見て非常識な・・・と決めつけてしまう前に、ある程度の社会的なルールを教えて、指導することの大切さを感じている企業は少なくありません。他にも人間関係、金銭トラブル、災害時のリスク管理などに巻き込まれないために必要と感じることもあるようです。

外部の機関との連携をはかる

入社した社員の卒業した特別支援学校や職業訓練校の進路担当の教員や、障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所、また就労支援機関に所属するジョブコーチの支援を活用している企業が多くあります。

企業によっては、定期的に訪問することを希望するケースもありますし、課題があるときに訪問してほしいと希望するケースもあります。

精神障害への合理的配慮

実習、採用等の面接時に、就労支援機関のスタッフ等の同席を認める

精神障害は、統合失調症や気分障害(うつ病、そううつ病)、てんかん等の様々な症状があり、それぞれの障害特性や必要な配慮が異なっています。そのため、精神障害者の方と面接官の意思疎通を助け、また、精神障害者の方の障害特性等を面接官に知ってもらうために、面接時に就労支援機関のスタッフの同席を認めている事例があります。

業務指導や相談に関し、担当者を決める

障害者が円滑に職務を遂行するために、業務指導や相談に関し企業内の様々な立場の人を担当者として選任している事例があります。担当者を定めることにより、障害者が働く
上で支障となっている事情を互いに認識し、その支障となっている事情の解決のためにはどのような配慮が適切かといった相談に対応することができます。

指導・相談の方法を工夫する

定期的に障害者本人との面談や日誌交換を行いながら、仕事の悩みや体調等について把握したり、仕事のフィードバックを行うようにしている企業があります。また、直接相談しにくい内容も相談できるよう、相談用紙と投函する箱を設置しているところもあるようです。

社内カウンセラーや保健師、精神保健福祉士、社会福祉士等を配置し、定期的なカウンセリングやメールによる相談対応を実施しているところもあります。

出退勤時刻・休憩・休暇に関し、通院・体調に関する配慮がある

精神障害特性によっては、通常の時間に通勤することが困難であったり、体調に波があることや通院・服薬を要することがありますが、その場合は個々の障害者の状況に合わせて適切な配慮を行うことができます。

例えば、精神障害者の方は心身が疲れやすい傾向があるため、短時間勤務から始め、徐々に勤務時間を延長していくことや、ラッシュ時の通勤を避けるため、出勤時間を遅めに設定しているところもあります。また、体調に配慮し、休憩時間を複数回に分けたり、残業や夜間の業務は控えているところもあります。

休憩時間は、できるだけ静かな場所で休憩できるようにする

精神障害者の方の中には、新しい環境に対して不安を感じやすかったり、きまじめで手を抜けず、常に緊張感を持ち続けて頑張りすぎたりしてしまう方もいます。このような方には、できるだけ静かな場所で休憩できるようにしたり、本人の希望も聞きながら一人になれるような場所を用意したりするというような配慮を行うことができるでしょう。

スペース的な余裕が難しい場合は、空いている会議室の使用を許可したり、休憩時間をずらして使用することができるかもしれません。また、本人がリラックスできる自由な場所(車の中、外出等)での休憩を認めているところもあります。会社にとって新たな何かを準備するというよりも、今あるリソースの中で活用できるものがないかを考えるとよいかもしれません。

勤務時間は、本人の状況を見ながら業務量等を調整する

精神障害者本人は、早く通常の勤務時間にしたいと考える方も多くいますが、精神障害者の方の中には、緊張が強く、また何事にも手を抜けず頑張りすぎてしまう傾向の方が多くいらっしゃいます。このような特性を踏まえ、本人の負担や体調に配慮して、業務時間等を調整するといった事例があります。

また、本人の状況や業務の習熟度に合わせて業務量を増やしていくこともできます。特にはじめのうちは、業務内容・量の変更を極力少なくしてパターン化し、本人が混乱しないようにすることや、無理なノルマを課さない、期限の定めのある業務は控えることによって、業務のペースを習得しやすくなるかもしれません。

職場の社員に、障害理解を深める

実習前や採用にともない本人のプライバシーに配慮した上で、同じ職場で働く社員に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明することは大切です。障害者本人も不安を抱えていますが、同様に受け入れる職場の社員の方も不安を抱えていることが多く見受けられます。

障害者がその能力を発揮し円滑に職務を遂行するためには、障害者の障害特性や、働くに当たってどのような支障を感じているか、どのような配慮が必要かといったことについて、周囲の一緒に働く社員の方が理解されていないと難しいからです。合理的配慮の提供は、法律では、事業主である企業に課せられていますが、実際に障害者と接するのは、社員の方たちです。特に一緒に働く社員の方たちの理解は不可欠と言えるでしょう。

障害理解を深めるために、研修を実施するところもあります。特に、精神障害の場合、見た目ではわからないことも多いため、精神障害の障害特性や、具体的に実習者が決まっている場合には、その方に関わっている支援機関から配慮してほしい点などを伝えてもらうと、周りの方の理解は得やすくなります。

例えば、服薬していて眠くなる恐れがある場合などの状況があったときに、事前に周囲が理解していれば、「少し休憩をとりましょう」とか、「トイレに行って顔を洗ってきましょう」などと、声をかけやすいかもしれません。服薬の影響で眠くなることがあるということが伝わっていないと、本当に仕事をやる気があるのかとか、仕事ができないと判断してしまう可能性が高くなってしまうでしょう。

発達障害への合理的配慮

実習、採用等の面接時に、就労支援機関のスタッフ等の同席を認める

発達障害には、自閉症・アスペルガー症候群、学習障害、注意欠陥多動性障害等の様々な障害があり、それぞれその障害特性や必要な配慮が異なります。発達障害者の方と面接官の意思疎通を助け、また、発達障害者の方の障害特性等を会社の方に知ってもらうため、面接時に就労支援機関の職員等の同席を認めている事例があります。

業務指導や相談に関し、担当者を定める

障害者が円滑に職務を遂行するために、業務指導や相談に関し企業内の様々な立場の人を担当者として選任している事例があります。担当者を定めることにより、障害者が働く上で支障となっている事情を互いに認識し、その支障となっている事情の解決のためにはどのような配慮が適切かといった相談に対応することができます。

業務指示やスケジュールを明確にする

自閉症の傾向が強い方の中には、暗黙のルールの理解が苦手であったり、言葉を文字どおりに受け取る傾向があったりする方がいます。また、状況を見ながら判断するのが苦手な方もいます。そのため業務指示やスケジュールを明確にし、業務指示を具体的かつ簡潔に出す等の配慮を行なうことができます。

また、一度にたくさんの情報を処理することが苦手な方もいますので、特にはじめは、指示を一つずつ出し状況を確認しながら、確認していくことをおすすめします。作業手順は、図や絵、写真等を活用したマニュアルを作成すると理解しやすいかもしれません。発達障害の方の中には、学歴の高い方もいらっしゃいますが、情報処理が独特な方もいますので、指示を出したことが、本人に伝わっているか確認することは大切です。

業務指示を出すときには、「午前中はこの仕事を行ってください」、「終わらなくても、午後はこの仕事をしてください」と時間を区切って指示することや、「A が終了したら、次はB です」と業務の終わりを区切ることによって、理解しやすくなります。また、「きれいになったら次のものを洗う」ではなく、「10 回洗ったら次のものを洗う」等、回数や数、時間など、客観的に作業方法を指示するとよいかもしれません。

感覚過敏を緩和するための道具等の使用を許可する

発達障害者の方の中には、音や光、嗅覚などに独特で過剰な敏感さを持っている方がいます。このような感覚過敏の方に対しては、障害特性に応じて、光に敏感であればサングラスの着用、音に対して敏感であれば耳栓やヘッドフォンの使用を認める、パーティションを使って周囲と遮断された空間をつくることがあります。

聴覚の過敏な方は、静かなところで作業することを希望する方もいますので、可能であれば
机の電話を外したり、電話から遠い席に配置する等の配慮も行えるでしょう。

感覚過敏がなくても、周囲の視線があると集中できないという方も多く、本人の机の前後左右にパーティションを立てたり、人の出入りの少ない席にして、静かな作業環境を整えている職場もあります。

職場の社員に、障害理解を深める

実習前や採用にともない本人のプライバシーに配慮した上で、同じ職場で働く社員に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明することは大切です。特に発達障害は、高学歴の方も多く、履歴書などの書類だけでは伝わってこない部分も多くあります。

また、コミュニケーションが苦手な方も多いので、作業の習得にはそれほど時間はかからないとしても、コミュニケーション能力に困難を抱えているため、質問や相談しやすい体制を作ることなどを周囲が理解しておくと、受け入れやすくなるでしょう。

発達障害は、得意なことと苦手なことの差が大きいのも特徴の一つです。ある業務ができるから、一般的に同レベルの業務もできるかというと、できる場合もありますし、難しい場合もあります。具体的に得意なことや苦手なことを把握しておくと、できない場合に対処しやすくなるかもしれません。

発達障害はコミュニケーションが苦手なものの、コミュニケーションのある場にいることを好む方も多くいます。コミュニケーションは苦手ですが、コミュニケーションが嫌いなわけではありませんので、積極的に声をかけてほしいと思う方がいますので、本人の特性を聞いたうえで、受入先にも伝えておくとよいでしょう。昼休憩時等は、コミュニケーションの場にいたい人、一人で落ち着いて過ごしたい人と様々です。こちらも本人の希望をヒアリングしたうえで、職場に伝えておくと、周囲の社員の方も接しやすくなるでしょう。

障害者本人も不安を抱えていますが、同様に受け入れる職場の社員の方も不安を抱えていることが多く見受けられます。特に発達障害は、個人の差が大きいですので、個人の状況を聞いたうえで、職場で一緒に働く社員の方へ配慮をお願いすることは効果的です。

就労移行支援事業所や職業センターなどの就職に向けた訓練を行なう機関の中には、発達障害の方本人が自己理解を深めるために、ナビゲーションブックや取扱説明書を作成させることがあります。障害者本人身が、自身の特徴やセールスポイント、障害特性、職業上の課題、事業所に配慮をお願いすること等をまとめますので、この内容を一緒に働く社員に方にお伝えすると理解がより深まるでしょう。

採用後にできるその他の配慮

その他にも、以下のような取り組みを行っている企業がありました。

  • 作業に当たっては、集中力やモチベーションを高めるなどの工夫をしている。
  • 定期的に面談の機会を設け、本人の体調を把握している。
  • 障害者本人に対し、ビジネスマナー等に関する研修を実施している。
  • 障害者の集中力やモチベーションを持続してもらう他、業務がしやすい環境を整備して
    いる。
  • 集中力を持続してもらうため、机の周りに棚を作って視覚的な情報の制限を行った。
  • タイマーを導入し、時間内の生産量を把握できるようにした。目標を数値化することでモチベーションを上げることができた。
  • ほめる、評価する、会社に必要な人材だと自己肯定感を高めてもらうような声かけを
    行う。

職場で合理的配慮をおこなうために社内でおこなうこと

いろいろな企業の障害者雇用に携わっていますが、正直なところ、外部に専門家や外部に相談に来られる企業や人事部の方たちは、特に意識しなくても十分に差別禁止や合理的配慮はされていらっしゃる企業さんが多いように思います。

これから障害者を雇用する企業の方や、障害者雇用をしているが退職者が多く定着しない企業の方には、ぜひ他の企業の取り組みを見たり、聞いたりしながら、自社で取り入れられそうなものは積極的に取り入れていただきたいと思います。

相談体制を整える

今までに障害者雇用に取り組んできた企業さんでも、相談体制を整えている企業さんは少ないので、相談体制の整備に関しては、今回の合理的配慮の一環として取り組んでいただきたい点です。実際にどのように相談体制を整えることができるでしょうか。

ある企業さんでは、すでにパワハラや職場の課題を相談できる窓口を設けているところがあります。ここに障害に関する相談窓口を付加することによって、相談体制を整えることができるかもしれません。

また、別の企業さんでは、社員の方専用のイントラネットがあります。こちらのページに相談ができる窓口の案内や、メールでの問合せができるように整備することによって相談体制とすることもできます。

相談体制を整える上で配慮したいこと

相談体制を整備する上では、次のような点を配慮するとよいでしょう。

    • 相談に応じる体制の整備

事業主である企業は、障害者からの相談に適切に対応するために、必要な体制の整備や、相談者のプライバシーを保護するために必要な準備を行い、それを従業員に知らせる必要があります。具体的には、相談窓口の設置、相談窓口の社員への周知、社内苦情処理機関による処理などです。

    • 相談時の適切な対応

相談窓口を設置したら、窓口相談で対応する担当者を決めます。相談者の相談をしっかり受け止め、配慮事項の確認ができる人が求められます。また、相談内容はセンシティブな内容も多いと思いますので、相談者の話を受け止めつつ、会社としての立場も上手に伝えられる人がよいでしょう。

    • 相談者のプライバシー保護

相談者のプライバシーの保護のために必要な事項をあらかじめマニュアルに定め、相談窓口の担当者が相談を受けた際には、そのマニュアルに基づき対応します。また、相談者のプライバシーの保護のために、相談窓口の担当者に必要な研修を行ないます。

相談窓口においては相談者のプライバシーを保護するために必要な措置を実施します。従業員の個人情報については、「個人情報の保護に関する法律」及び「雇用管理に関する個人情報の適正な取扱いを確保するために事業者が構ずべき措置に関する指針」に基づき適切に取り扱うことが求められます。

    • 相談者に対する不利益取り扱いの禁止

相談したことを理由とする不利益取扱いの禁止を定め、労働者が安心して申告できるようにするために、会社が労働者の申告を理由として解雇その他不利益な取り扱いをすることを禁ずる規定も置いています。

    • 社内における周知・啓発

社内で決まった合理的配慮の方針が定まったら、社内に周知します。全社員が集まる機会があれば全体に向けて周知することもできますし、社内報やイントラネットなども活用できるでしょう。また、社内研修などの機会を用いることもできるかもしれません。

発信側は一度周知したから大丈夫と考えてしまいがちですが、現場の社員には届いていないことがよく見られます。機会があるごとに広報していくことは大切です。

合理的配慮の会社方針をきめる

事業主に合理的配慮が求められているからといって、障害者が要望することを全て受け入れるというものではありません。財政的、労働負担など検討して、企業として対応ができること、難しいことがあります。

たとえ障害の特性上、必要であったとしても、受け入れる企業が多大な負担がかかるものは、合理的配慮には含まれません。例えば、ある中小企業は、自社ビルではなく事業所を借りています。設備的には特別な施設がないため、車椅子の障害者を採用するためには多目的トイレを設置する必要があります。しかし、多目的トイレを設置するための金銭的な負担は厳しい状況です。このような場合は、合理的とはいえないでしょう。

企業によって、経営環境、財政、マンパワー、持っているリソースが異なります。他の企業の合理的配慮は参考にしつつ、自社としてできることかできないことかを判断することが大切です。

全てのことを決めておくのは難しいかもしれませんが、ある程度の基準を事前に社内の方針として決めておくと、実際に障害者から合理的配慮の相談があったときに、検討しやすくなるかもしれません。

社内における合理的配慮の手続

合理的配慮の方法は、採用前と採用後に分けることができます。
採用前であれば、応募する障害者自身から事業主に対し、支障となっている事情を伝え、配慮できるかどうか検討をお願いすることができるでしょう。
採用後は、事業主から障害者に対し、職場で支障となっている事情の有無を確認することもあるでしょうし、障害者本人が合理的配慮に関する相談窓口に問い合わせることもできるでしょう。

合理的配慮に関する措置については、事業主と障害者で話し合うことが大前提となります。また、企業側は、社内で決まった合理的配慮に関する措置の内容及び理由を障害者本人に説明します。もし、企業にとって過重な負担にあたり、配慮の施策をとることが難しい場合は、配慮措置を取ることができないこと、そして、配慮措置を取ることが難しい理由を障害者に説明します。なお、障害者の意向確認が困難な場合、就労支援機関のスタッフ等に同席してもらうこともできます。

合理的配慮は、決して難しいものではありません。働く障害者本人が、企業においてより活躍できるように対話の場を設けることです。また、配慮してほしい点を障害者本人から伝えてもらうことにより、より働きやすい環境づくりにもつながります。

動画の解説はこちらから

まとめ

企業における合理的配慮について、基本的な考え方をみてきました。合理的配慮の対象となるのは、すべての事業主です。 対象となる障害は、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)、その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者であり、障害者手帳の有無は問われません。

しかし、一方的に障害者が要望することを全て受け入れるというわけではなく、合理的配慮は、配慮を望む障害者と企業との相互理解の中で提供されるべきものと言えます。また、合理的配慮の提供の義務は、企業に対して「過重な負担」を及ぼさないものですので、事業活動への影響の程度、 実現困難度、 費用・負担の程度、企業の規模、企業の財務状況、公的支援の有無などから判断することになります。ですから、企業の規模、業種、状況によって、その判断は異なるでしょう。

企業側が過重な負担という判断になることもあります。そのような場合は、障害者が希望したことが難しいと判断されたこと、その理由を障害者に説明することは大切です。企業としての判断は難しいという事実は伝えつつも、障害者の意向を十分に尊重していることを伝えると、障害者本人は受け入れやすくなるかもしれません。

合理的配慮の具体的な例は、合理的配慮指針事例集などがありますので、参考にするとよいでしょう。採用時の面接や、就労後の業務対応、指示などに関して、各企業で実践している事例が紹介されています。

参考

企業の担当者が知っておきたい障害者差別解消法と障害者虐待防止法

【障害者】現場で難しい「合理的配慮」の判断基準と対応策とは?

障害者差別解消法改正、企業の障害者雇用にどのように影響する?

合理的配慮に役立つ助成金:障害者相談窓口担当者の配置助成金を解説

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2 コメント

  1. tanko0127

    現在、精神障がい者手帳3級を所持し、障がい者枠でパートで働いている者です。過去在籍していた企業でうつ病と診断され、現在の病名は双極性障害Ⅱ型です。

    これまでは障害を隠して正社員として働いていました。現在の会社では、初めて障がい者手帳を取得し、障がい者枠で働いています。しかし、給与が余りに低く、近日親会社と人事部長と話し合う予定です。

    御社のサイトは、参考になる記事が多いです。私は障がい者枠で働いていますが、常勤正社員と同程度の業務を行っているのに、東京都の最低賃金レベルしか給与をもらえていません。職場では、私が障がい者であることを知らない人もいます。その位、健常者と変わらないレベルです。

    精神障がい者で退職した方を見ると、勝手に薬を辞めたりと、本人が悪いケースも多くあります。しかし、私のように常勤者と変わらないレベルなのに、低賃金に苦しんでいる人も多くいます。
    今の職場は、勤務内容、人間関係など不満はありませんが、障がい者に対する賃金規定が非常にあいまいです。

    例えば、入社時期が私より早い人は、荷物運び程度の仕事しか出来ないのに常勤扱いです。他の精神障がい者のサイトでも、皆低賃金を嘆いています。最近、精神障がい者の就職が急激に増えているそうですが、私のように病状が安定している者に対しては、健常者に近い待遇を認めて欲しいです。

    パートでは、業務内容に対する評価もされません。これでは、仕事に対するモチベーションを上げろというのも無理な話です。今後も、精神障がい者に関する記事を多く掲載して下さい。私も、親会社(一部上場企業)を巻き込んで戦っています。

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    • 障害者雇用ドットコム編集部

      現在の状況を教えていただき、またコメントいただきありがとうございます。
      精神障害に限らず、待遇の面という点からみると、なかなか厳しい状況はあると感じています。

      一方、企業サイドから見ると、ご本人は気づいていない場合も多いのですが、様々な配慮をしていることが少なくありません。仕事内容や勤務時間など、過度なストレスがかからないようにと配慮した結果、または、今までの雇用実績から、現在働かれているような人事制度や待遇になっているのかもしれません。

      雇用は、企業と個人との雇用契約から成り立っていますし、合理的配慮の基本は、相互のコミュニケーションからはじまると考えます。ぜひ、人事部長と面談されて、あなたの思いや仕事の貢献度、これからの働き方についてお話されるとともに、働かれている企業の障害者雇用の考えや方針を確認していただければと思います。納得のいかれるようなかたちになることを願っております。

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