障害者雇用除外率が令和7年度に引き下げられます。また令和6年度に障害者雇用率が2.5%に引き上げられ、令和8年度には2.7%に上昇することも決まっています。これらの変化は、障害者の社会参加を促進し、雇用機会を拡大するための重要な政策の一環です。
今回は除外率引き下げの背景について解説するとともに、企業が今からどのような準備を進めるべきかについて具体的にお伝えします。企業が障害者雇用を進めるための戦略を考える一助としてください。
令和7年度の障害者雇用除外率引き下げの背景と目的
令和7年度に障害者雇用の除外率の引き下げが行われます。また、障害者雇用率に関しては、令和6年度に2.5%に上がりましたが、令和8年度には2.7%に上がることが決まっています。このような背景には、障害者の社会参加を促進し、雇用機会を拡大しようとする政策が大きく関係しています。
障害者除外率とは何?
障害者雇用促進法では、障害者の職業の安定のため、法定雇用率を設定しています。しかし、一律の雇用率を適用することになじまない性質の職務もあることから、障害者の就業が一般的に困難であると認められる業種については、雇用する労働者数を計算する際に、除外率に相当する労働者数を控除する制度(障害者の雇用義務を軽減)を設けていました。つまり、除外率がある業種は、障害者の就業が一般的に困難であると認められる職務の割合に応じて決められていたものとなります。
この除外率制度は、ノーマライゼーションの観点から平成14年法改正により平成16年4月に廃止しています。経過措置として、当分の間除外率設定業種ごとに除外率を設定するとともに、廃止の方向で段階的に除外率を引き下げ、縮小することとされてきました。これまでに、平成16年4月と平成22年7月にそれぞれ一律に10ポイントの引下げを実施しています。そして、令和7年度には、一律に10ポイント引下げ予定となっています。
出典:除外率設定業種及び除外率(令和7年4月以降)(厚生労働省)
障害者雇用除外率引き下げ業種はどうすればよいのか?
一般の企業でも障害者雇用が難しいのに、さらに難しいとされている雇用除外率が設定されている業種で、どのように障害者雇用を進めたらよいのか?と思われるかもしれません。次のような視点からシンプルに考えてみてください。
組織としての方針を決める:企業としての障害者雇用の方針を決め、社内に伝える
障害者雇用に取り組む企業の多くは、法定雇用率が足りないために障害者雇用をなんとかしようとすることがほとんどです。しかし、この考え方で進めていくと、法定雇用率が上がるたびに、それに合わせた障害者雇用をなんとかしようと目の前の数字に追われることになります。そして、これを延々と続けていくことになってしまいます。
そのようにならないためには、企業としてどのような障害者雇用にするのかという方針を決めることが必要です。例えば、「多様性のある人材でも活躍してほしい」とするのであれば、それに合わせた業務を考え、人材を採用していくことが必要です。決して、いつまでに障害者を◯人雇用しなければならないので、なんとか業務を考えるということにはなりません。
組織としての方針を決めるには、中長期を見据えた会社としての経営方針、何に力を注いでいくか、それに合わせた組織全体の人員構成を合わせて考えていくことになります。最近、人的資本経営が注目されてきていますが、この傾向は障害者雇用にとっても、とてもいいことだと感じています。障害者雇用を考えるときにも、経営層の人や経営企画に携わる人が関わることにより、組織として目指すべきことが明確になった上で、障害者雇用を考えることができるからです。
障害者雇用で成功している企業にヒアリングをすると、例外なく経営層や経営企画、事業推進の一定の役職以上の方が関わっています。障害者雇用というと人事や担当者が担うものと考えている組織も多いですが、実務部隊としてそうであっても、大本になる方針づくりはしっかりした組織とした意思決定が求められます。
ニーズが何かを考える:今の業務で人手が求められるものは何?
企業の悩みを聞いていると、「障害者に任せる業務がない」と言われることがよくあります。まず、「障害者」という点を外して、業務だけを考えることが大切です。「できるか、できないか」はとりあえず横に置き、今、組織に求められる業務が何かを考えていきます。
業務内容を考えるときに必要な視点としては、次のような点から考えることができます。
・社員がより活躍できる体制作りができないか
・社員の福利厚生につながるものはないか
・社員が、就業時間以外でおこなっている雑務はないか
・人手が欲しい業務はないか(定期でなくスポットでも可)
・外注している業務や派遣社員を使っている業務はないか
・社内で残業の多い部署や部門の業務を手伝えないか
・やらなければならないけれど手がつけられていない業務はないか
・今できていない業務でも本当は取り組んだほうがよいものはないか
ちなみにここで考えた業務を必ずしも障害者に任せる必要はありません。組織に必要度の高い業務、今後力をいれていかなればならないものが見つかったのであれば、今いる人材の中でそれを任せる人を決め、その人が現在行っている業務を障害者にスライドさせるという方法もあります。もし、長年勤務していてキャリアアップしてほしいものの、今している業務も必要だというのであれば、担当を変えていけばいいのです。
何ができる人であれば仕事ができるのかを考える:その業務で求める基準は何?
組織の中で障害者雇用を進めていくプロセスに携わると、社員の人がもっている「障害」や「障害者」のイメージの違いを感じることがよくあります。
一般的にある程度の業界、職種で仕事をすると、細かく伝えなくても暗黙の情報共有ができていることが多いですが、この「障害」や「障害者」のイメージは千差万別だと感じます。年齢や育った地域、受けてきた教育、家庭環境などによって、この「障害」や「障害者」のイメージは大きく異なります。
例えば、障害者とほとんど接したことのない人だと、TVなどで見る生活介護の必要な障害者をイメージすることが多いようです。一方、透析などで身体障害があり通院していても、職場での配慮はほとんどなく、バリバリ仕事をしている人を知っているのであれば、そのような障害者を想定します。また、家族やきょうだいなどで知的障害や発達障害がある人が身近にいるのであれば、その人たちにとっての障害者は身近に知っている障害の人を考えるでしょう。
このような認識のズレがあることを意識して、障害者雇用を進めていくことが必要です。そのためには「◯◯障害だから・・・難しい」というステレオ的な感覚を捨てることです。その業務で求められているクオリティや基準を担保できるスキルや能力があれば、障害名を問う必要はあまりないかもしれません。
時代に合った障害者雇用をしていく
障害者雇用も雇用率が上がるだけでなく、その実態は刻々と変化しています。時代に合わせた障害者雇用を進めていくために必要な視点を2つ紹介します。
障害者枠で働きたいと考える層の多様化
障害者雇用の採用を見ていると、障害者枠で就職を希望する人たちの層が大きく変化していることを感じます。特に精神障害の方で障害枠で働く人たちは、非常に多様な人材層がいます。その背景には、日本における障害者雇用の進め方が影響しています。日本の障害者雇用は身体障害、知的障害と進み、精神障害の雇用が雇用率としてカウントされるようになってきました。大きな流れとしては、この通りですが、細かく見ていくとさらに変化が見られています。
精神障害者が障害者雇用としてカウントできるようになったのは2006年(平成18年)から、義務化されたのは2018年(平成30年)からです。それ以前は、精神障害(発達障害)は障害者雇用としてはカウントされることがありませんでした。また、ほぼ同じ時期に「障害者自立支援法」(現在の障害者総合支援法)により、就労系障害福祉サービスができました。就労系障害福祉に分類される就労移行支援事業所などは、このときにできたものです。
これは私の体感になりますが、精神障害が雇用率としてカウントできるようになり始めたばかりのときには、知的障害と同じくらいの配慮が必要な方が多くいましたが、精神障害が義務化されるくらいの時期からは、障害者枠を希望する層がかなり多様化してきています。
精神障害の手帳を取得しないでクローズ(障害を開示しない)で働いていた方が、精神障害手帳を持っていても企業に受け入れられることがわかり、一般枠の就職よりも配慮のある障害者枠での就職を希望するようになってきています。それまで一般枠で働いてきた方たちで、本人が何らかの配慮を必要に感じているなものの、一般的に見るとどこに配慮が必要なのかがわかりにくい層の人が増えています。
合わせて社会の中で発達障害の理解が広がったことで、大人になってから発達障害に気づき、精神障害手帳を取得する人も増えています。このような理由から、現在の障害者採用では、精神障害手帳を持っている人の求職者が増えています。
また、障害者差別解消法の合理的配慮が2014年(平成16年)に行政機関などを中心に適用されたことにより(民間企業の義務化は2024年から)、大学の中では障害のある学生たちの受け入れや支援がおこなわれています。つまり、障害のある大学生(特に発達障害、精神障害)が多くの大学に在籍しており、今後このような学生の障害者枠での新卒採用が増えています。
特に最近では、発達障害や精神障害の学生を中心にインターンシップを取り入れている企業も増えています。このような障害者枠で働きたい人たちの層の変化も考えて、障害者雇用を考えていくとよいでしょう。
業務のAIや自動化の変化
AIやロボットの遠隔操作の技術が進み、業務にも大きな変化が見られています。例えば、重機の「リモートワーク」へ女性事務員が転身したケースは、障害者雇用でも参考になるでしょう。
長崎県島原市のゼネコン、星野建設で事務員だった辰田真里江さん(24)は1年前の冬、突然重機のオペレーターを務めるように言われた。それまでの仕事は入札手続きや許認可の書類作成。戸惑いは大きかった。
だが、辰田さん起用の背景には、会社側のある思いがあった。「技術者として仕事の幅を広げるとともに、デジタル技術によって安全で体力面でも不利にならない女性活躍のモデルケースにしたい」
仕事は、雲仙普賢岳のふもとにたまった噴火堆積(たいせき)物を遠隔操作で運ぶという内容だった。災害復旧のため、94年から世界初といわれる無人化施工で、大規模なゼネコンを主体に20年以上かけてダムや堰堤(えんてい)などの構造物が完成した。
しかし、山肌に残る膨大な噴火堆積物は今も雨で流れ落ちてくる。その維持管理を目的に、2020年から土砂の運搬が地元企業に発注されるようになった。星野建設は21年12月~22年4月にかけての作業を担当。現場は土砂崩れの危険があるため、人の立ち入りができない。1キロ以上離れた遠隔操作室で、平均年齢25歳の6人が作業した。
映像を見ながら油圧ショベルで土砂を掘削し、ダンプの操作はボタンを押すだけ。GPSを使い自動走行させたという。他のゼネコンで無人化施工にあたった経験のある社員がサポートした。
出典:重機の「リモートワーク」へ女性事務員が転身 いずれプロゲーマーも(朝日新聞、2023.1.19)
この他にも、建設業界ではリモート操作のほか、ドローンやロボット、仮想空間の活用が急速に進んでいるそうです。このような新しい技術や機器、AIなどを活用することにより、今までとは異なる仕事の方法などを考えることもできます。
まとめ
令和7年度の障害者雇用除外率引き下げは、企業にとって新たな挑戦であると同時に、大きな成長の機会ともなり得ます。障害者雇用を単なる義務として捉えるのではなく、多様性のある人材が活躍できる環境を整えることは、企業の競争力を高め、社会的責任を果たすための重要なステップになります。組織としての方針決定、必要な業務の見直し、そして多様な障害者の雇用を通じて、新しい視点やスキルを取り入れることができます。
これからの時代に求められるのは、障害者も含めた全ての社員が活躍できる包摂的な職場環境の構築です。今回紹介した準備や対策を参考に、企業が積極的に障害者雇用を推進し、持続可能な組織を作っていくための準備をしてください。
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動画で解説
参考
なぜ企業は障害者雇用を行うべきなのか? 持続可能な成長を支える戦略
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