障害者手帳は、障害を持つ人が適切な支援を受け、日常生活や社会参加を円滑に行えるようにするために発行される公的な証明書です。障害者手帳は、身体障害、知的障害、精神障害の3つに分類されています。
手帳を持つことで、医療費の補助や交通機関の割引、税制優遇、福祉サービスの利用など、さまざまな支援制度の対象となることができます。また、障害を持つ人々が自立し、より豊かな生活を送るための重要なツールであり、社会的なバリアを減らし、平等な社会参加を推進する役割を果たしています。その一つが障害者枠で働くことがあります。
今回は、どんな人が障害者手帳を申請できるのか、また手帳を持つことによって、生活にどのようなメリットがあるのかについて見ていきます。
障害者手帳の3つの種類
障害者手帳は、身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳と3種類に分類されます。それぞれ異なる障害を対象としています。それぞれの手帳についてみていきます。
身体障害者手帳
身体障害者手帳は、身体障害者福祉法に基づいて、障害程度に該当することが認定された人に交付されるものです。視覚、聴覚、肢体不自由、内部障害など、身体的な障害がある人を対象とした手帳です。これ以外にも、心臓や腎臓、呼吸器系の障害も対象となります。
具体的には、次のような障害が含まれます。
視覚障害:視力や視野に著しい障害がある人。
聴覚障害:聴力に著しい障害がある人。
肢体不自由:手足や体幹の機能に障害がある人。
内部障害:心臓、腎臓、呼吸器、膀胱・直腸、小腸の機能に障害がある人や免疫機能に障害がある人(人工透析を必要とする腎臓障害、心臓のペースメーカーを装着している人など)。
障害の程度によって1級から7級まで等級が分かれており、等級に応じた支援が提供されます。障害が重いほど等級が低くなり、1級が最も重度の障害を示します。
各障害等級の概要は、次のとおりです。
1級: 最も重度の障害を示し、自力での歩行や日常生活の基本的な動作が極めて困難である状態。
2級: 重度の障害であり、常時介助が必要な状態や、重大な機能障害がある。
3級: 中度の障害であり、日常生活において部分的な支援が必要な状態。
4級: 軽度から中度の障害で、一定の制限はあるものの、部分的な自立が可能。
5級: 軽度の障害で、特定の状況下で限定的な支援が必要。
6級: 最も軽度の障害で、日常生活における小さな制限がある。
7級の障害単体では交付の対象とはなりませんが、7級の障害が2つ以上ある場合や、7級のほかに6級以上の障害がある場合に交付の対象となります。また、この等級に応じて受けられる支援内容が変わります。医療費の補助、公共交通機関の無料利用や割引、介護サービスの優先や福祉サービスの利用などで、活用することができます。
療育手帳
療育手帳は、知的障害のある人が対象です。判定基準は各都道府県によって若干異なりますが、知的機能の障害が18歳までに表れ、日常生活に支援が必要と判断される場合に対象となります。
療育手帳の判定基準や支援内容は、各都道府県によって若干異なります。その理由は、障害者手帳のうち、身体障害者手帳は身体障害者福祉法によって、また、精神障害者福祉保健手帳は精神保健福祉法によって定められていますが、療育手帳の制度は法律ではなく、都道府県・政令指定都市がそれぞれ要綱などを制定して行っており、全国で統一された基準をもっていないためです。
そのため障害の程度は、地域によって若干異なりますが、知能や生活習慣、問題行動などを総合的に判断して、4つに区分されています。また、療育手帳の取得基準は、IQ(知能指数)が70程度となっています。
例えば、東京都の場合は1度(最重度)2度(重度)3度(中度)4度(軽度)と表記し、次のような区分に分類されています。
1度(最重度)
最重度とは、知能指数(IQ)がおおむね19以下で、生活全般にわたり常時個別的な援助が必要となります。例えば、言葉でのやり取りやごく身近なことについての理解も難しく、意思表示はごく簡単なものに限られます。
2度(重度)
重度とは、知能指数(IQ)がおおむね20から34で、社会生活をするには、個別的な援助が必要となります。例えば、読み書きや計算は不得手ですが、単純な会話はできます。生活習慣になっていることであれば、言葉での指示を理解し、ごく身近なことについては、身振りや2語文程度の短い言葉で自ら表現することができます。日常生活では、個別的援助を必要とすることが多くなります。
3度(中度)
中度とは、知能指数(IQ)がおおむね35から49で、何らかの援助のもとに社会生活が可能です。例えば、ごく簡単な読み書き計算ができますが、それを生活場面で実際に使うのは困難です。具体的な事柄についての理解や簡単な日常会話はできますが、日常生活では声かけなどの配慮が必要です。
4度(軽度)
軽度とは、知能指数(IQ)がおおむね50から75で、簡単な社会生活の決まりに従って行動することが可能です。例えば、日常生活に差し支えない程度に身辺の事柄を理解できますが、新しい事態や時や場所に応じた対応は不十分です。また、日常会話はできますが、抽象的な思考が不得手で、込み入った話は難しいです。
同じ障害の程度であっても、地域によって判断基準や支援内容が異なることがあり、福祉サービスや施設利用に関する支援の種類や範囲が異なる場合があります。申請者は、住んでいる地域の基準を確認し、それに基づいて手続きを進める必要があります。
療育手帳を持つことによって、教育支援、福祉サービス、就労支援など、知的障害者が自立した生活を送るためのさまざまなサポートを受けることができます。これらの障害者手帳を適切に活用することで、日常生活の質を向上させ、社会参加を促進するための重要な手段となります。
精神障害者保健福祉手帳
精神障害者保健福祉手帳は、精神保健福祉法に基づき精神的な障害がある人を対象にしています。対象となる主な精神疾患には次のようなものがあります。
・うつ病:長期的な気分の低下や無気力感、抑うつ症状が続く疾患。
・双極性障害:躁状態とうつ状態が交互に現れる精神疾患。
・統合失調症:現実と非現実の区別が困難になる幻覚や妄想、思考の混乱が特徴の疾患。
・てんかん:脳内の異常な電気活動により、繰り返し発生する発作が特徴の神経疾患。発作は一時的な意識障害や痙攣、異常行動を引き起こすことがある。
・発達障害:自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)など、生まれつきの発達の偏りによる症状。
精神障害者手帳の等級は、1級から3級までの3つの区分に分けられます。1級が一番重く、3級が一番軽い障害の程度となります。
大まかに分類すると、1級は一人では日常生活が難しい状況、2級は日常生活に著しい制限を受けている状況か著しい制限を加える必要があるもの、3級は日常生活や社会生活に制限を受ける状況か、制限を加える必要があるものとされています。
障害者手帳の申請方法
障害者手帳を取得するには、いくつかの必要な書類や手続きを経て、地方自治体で申請を行う必要があります。申請に必要な書類や手続きについて見ていきます。
申請に必要な書類や手続きでは、次のような書類が必要です。
・医師の診断書
障害者手帳を申請するためには、医師による診断書が必須です。診断書には、障害の種類や程度、診断結果が詳しく記載されており、これに基づいて障害の等級が決定されます。診断書の形式や内容は、申請する手帳の種類(身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳)に応じて異なります。
・申請書類
各自治体で配布される申請書に必要事項を記入します。申請書には、申請者の氏名、住所、障害の種類、連絡先などが含まれます。
・その他
写真(3ヶ月以内に撮影された顔写真が必要となることが多い)や本人確認書類など。
障害者手帳の申請プロセスの流れについてです。申請は、申請者の居住地にある市区町村の役所で行います。基本的な流れは次のとおりです。
・役所での申請受付
まず、市区町村の役所の窓口で、必要な書類(医師の診断書、申請書類、写真など)を提出します。申請手続きは市区町村の福祉課や障害福祉担当窓口で受け付けています。
・審査
提出された診断書を基に、自治体が障害別の医療機関などでの評価を元に審査を行います。
・障害者手帳の発行
審査が通ると、障害者手帳が発行されます。手帳の交付は、通常申請者の住む市区町村の役所で行われます。
障害者手帳の申請から交付までの期間は、自治体や申請する手帳の種類によって異なりますが、通常1ヶ月から3ヶ月程度かかります。審査には時間がかかることもあるため、早めの申請が推奨されます。
なお精神障害者手帳の申請には、診断書は初診日から6ヶ月を経過した日以後に作成されることになっています。早くても診断されてから6ヶ月経過しないと精神障害者手帳の申請をすることはできません。
また、精神障害者手帳には2年間の有効期限があるため、更新する必要があります。身体障害者手帳や療育手帳は、症状や障害の程度に変化がある場合には更新します。
障害者手帳のメリットや支援制度
障害者手帳を取得することで、次のようなメリットや支援制度を受けることができます。
・税制優遇
所得税や住民税の控除を受けることができます。具体的には、障害者控除や特別障害者控除などがあります。
・公共交通機関の割引
バスや電車、飛行機などの公共交通機関を割引料金で利用することが可能です。多くの自治体や交通機関で、割引や無料乗車券の提供が行われています。
・医療費の助成
医療機関での治療やリハビリテーションにかかる費用が一部または全額助成される場合があります。
・就労支援、障害者枠での雇用
就労支援を受けられたり、障害者枠で働くなどの雇用の機会が広がります。障害者雇用促進法に基づき、企業は障害者を一定数雇用する義務があり、手帳を持つことでこの雇用枠に該当します。また、就労支援機関やハローワークが提供する職業訓練や就職支援プログラムに参加することで、適切な職場を見つけるサポートが受けられます。
・福祉サービス
障害者福祉サービスは、個々の障害者の障害程度や状況(社会活動や介護者、居住等の状況等)により個別に支給決定が行われる「障害福祉サービス」と、市町村の創意工夫により、利用者の方々の状況に応じて柔軟に実施できる「地域生活支援事業」があります。
この中には、就労系障害福祉サービス(就労移行支援事業、就労継続支援A型事業、就労継続支援B型事業、就労定着支援事業)や介護サービスや福祉用具の貸与、住宅改修費の補助などが含まれます。
出典:障害福祉サービスの概要(厚生労働省)
また、働く際には職場の合理的配慮を受けやすくなります。合理的配慮とは、障害者が働きやすい環境を整えるための措置であり、例えば作業環境の調整、勤務時間の短縮、特定の支援機器の導入などが含まれます。合理的配慮を求めることは障害者手帳の有無は問われないことになっていますが、手帳があることで周囲の人の理解を得られやすくなります。
障害者手帳は、単なる証明書ではなく、支援制度を活用することで、生活の質の向上や就労機会の拡大につながり、社会全体で障害者を包括的にサポートする仕組みが強化されます。
障害者手帳を取得することは、障害者が日常生活や社会活動に参加しやすくなるための重要なツールです。日常生活においては、公共交通機関の割引や医療費の助成があったり、福祉サービスの利用によって介護や生活支援を受けやすくなります。働くという面では、障害者雇用枠での就労の機会や職場における合理的配慮の理解や支援が得られやすくなります。
障害者手帳取得と障害者雇用
企業では、障害者雇用促進法で障害者雇用を行うことが定められています。令和6年現在の障害者法定雇用率は2.5%で、従業員40人に対して1人の障害者を雇用することが求められています。
障害者雇用のカウントは、30時間以上の労働者1人に対して1カウントとなりますが、重度身体障害者、重度知的障害者の場合は、1人を2人としてカウントします。また、短時間労働の20時間以上30時間未満の場合には、労働者1人に対して0.5カウントとなりますが(精神障害については1カウントできるようになっている、期限は明確にされていないが特例措置扱い)、短時間重度身体障害者、短時間重度知的障害者は1人としてカウントします。
これまでは障害者を雇用していても、週所定労働時間が20時間以上でないと障害者雇用率としてカウントすることができませんでした。しかし、令和6年4月からは、障害特性により長時間の勤務が困難な障害者の雇用機会を拡大するために、特に短い時間(週所定労働時間が10時間以上20時間未満)で働く重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者の方の雇用は、1人の雇用につき0.5人と算定できるようになっています。
メンタルの不調など精神障害の方が増えていますが、障害者雇用の精神障害としてカウントするには、精神障害者手帳を所持していることが必要となっています。精神障害者手帳を所持することによって、一定程度の精神障害がある状態にあることを認定するものだからです。
まとめ
障害者手帳は、障害を持つ人々が日常生活や社会活動に参加しやすくなるための重要なツールです。身体障害、精神障害、知的障害に応じた3つの種類があり、それぞれの障害に応じてさまざまな支援制度を利用することが可能です。
手帳を取得することは、医療費の助成や公共交通機関の割引、税制優遇などの経済的な支援を受けられるほか、就労支援や障害者枠で働くこと、職場での合理的配慮が得やすくなります。また、企業側では障害者雇用促進法に基づき障害者の雇用に積極的に取り組む必要があります。障害者手帳を持つことは法定雇用率の対象となることから、採用の可能性が広がります。
障害者手帳は、障害者がより自立して生活を営むための環境を整えるために活用することができます。障害のある人々が生活の質を高め、社会における平等な参加を実現することが期待されています。また、社会全体が障害者を支え、共生するための重要な手段ともなっています。
動画で解説
参考
【初めての人でもわかる】障害者雇用促進法の概要をわかりやすく解説
0コメント