特例子会社は、障害者雇用の推進をするために立ち上げられることが多く、その業務内容は親会社やグループ会社のサポート的な業務や労働集約的な業務などを担っていることがほとんどです。そのため企業としての運営が難しかったり、障害者社員の長期的なキャリアップなどで課題を感じているところも少なくありません。
そんな中、株式会社デジタルハーツの特例子会社株式会社デジタルハーツプラスさんでは、異能を持つ人材が活躍できる業務づくりや研修制度、キャリアアップの仕組みづくりを進めています。特例子会社の取締役畑田康二郎様は、元経済産業省のご出身。違った世界から障害者雇用に関わられるようになって、これから特例子会社でどのような取り組みや展開を構想しているのか、また、これからの障害者雇用についてのお考えなどをお聞きしました。
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株式会社デジタルハーツプラスの概要
親会社:株式会社デジタルハーツ
事業内容
・事務補助業務(個人情報管理)
・ゲームのデバック業務、検証業務
・サイバーセキュリティ、セキュリティチェック
設立:2019年10月
従業員数:48人(障害者34人)(2022年9月1日現在)
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東京ソーシャルファーム事例紹介
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Q:経済産業省では、障害分野に関わられたことはありましたか。障害者雇用に携わられるようになったきっかけ、障害者雇用と関わられて感じられていることなどをお聞かせください。
A:もともと理系で研究者を目指していたのですが、研究は1つのことを掘り下げるのが好きな人が突き詰める世界。私はもっといろんな人と話をしたい、議論したいということが好きだったので、研究者はあんまり向いていないかもしれないと思っていたときに、経済産業省の方と話す機会がありました。
その方の話がとても面白くて、空飛ぶ車があったら世の中がどのように変わるのかなんて話をされたんです。そのときに国として必要な制度とか、産業が出てくるのを支援する仕組みとか。そういう話がとても楽しく、それでそういった制度を作る側の人間になろうと思って、経済産業省に入り、14年ほど勤めました。
その中で中心的に関わってきたのが、新しい産業をつくるということです。ビジョンを作ったり、産業振興のための法律を作ったりしている中で、ベンチャー企業として出会ったのがデジタルハーツという会社でした。創業者の宮澤さんが(今は会長)非常にユニークな方で、「とにかくうちのゲーマーたちがすごいんですよ。」と言われるので、私もすぐにその場で現場に視察に行きました。
実際に現場を見学に行ったところ、みんながゲームのバグをチェックしていました。いわゆる引きこもりと言われている人たちだと聞いていましたが、そんなことを感じさせないくらい元気に挨拶をしてくれ、いろいろバグの検出の手順などを教えてくれたりして、素敵な方たちが働いていました。
でも、よくよく話を聞くと、何年間か家で引きこもってゲームしかしていなかった期間があるとか、学校に途中でいかなくなったとか、そういう経験をしてきた人もいたんです。それでも、そういう経歴は関係なく、ある種の実力主義のように好きなゲームで集中力を発揮していて、それができる人がデジタルハーツで活躍している、別に学歴や職歴は一切問わないというところがとても素晴らしいと感じました。そこで、私も一緒にそのデジタルハーツのメンバーとして拡大していくところを一緒にやりたいと思い、2018年に入社しました。
(写真:ゲームデバッグ拠点の様子)
経産省にいたときには、障害者雇用とか、障害分野とかは全く関わったことはありませんでした。ただ、役所の繋がりはあったので、厚生労働省の知り合いとかをたどりながら、障害者の就労支援をしているところとか、NPOなどをご紹介いただきながら1年間いろいろ見て回りました。知らないからフラットに見ることができたのがすごく良かったと思っています。
清掃や農業とか言った伝統的な業務に就労していく道については、ある程度完成された、長年にわたって培われたシステムがある一方で、最近出てきた高知能型の発達障害とかグレーゾーンの方に対しては、なかなか医学的な診断が難しかったり、支援のアプローチも様々で支援者もどうやって扱ってよいかわからない、戸惑っているというのをいろんな人と話しながら気づきました。
特例子会社設立の経緯と事業内容
Q:特例子会社の事業内容や概要についてお聞かせください。
A:これまでデジタルハーツでは、障害者雇用に対しては特別な施策をしていませんでした。自然体でゲームのテスターとして集まってきた人の中に、入社してから「実は私は手帳をもっています。」という方だけで法定雇用率を満たす社員がいたんです。
しかし、そのデバックの事業自体が拡大する中で、ゲーム以外のシステムテストやセキュリティの仕事、またM&Aなどしながら、従業員の分母が増えていくときに、逆に障害者手帳を持っている人材を増やしていくということに対してノウハウがないという状況になっていました。そこで、特例子会社という形で特化して何十人という形で雇用できるようにすれば、会社の必要に応じて雇用の義務を果たしていくことができると考えて、2019年に特例子会社を設立しました。
説明会などで、ゲームが好きな人に「ゲームのバグを探す仕事や、サイバーセキュリティとか興味ありますか」という話を20人くらいにすると、そのうちの何人か、明らかにセンスがいい人が興味を持ってくれます。また、自分でパソコンを何台も自作で作ったことがある人もいて、そういう人たちが戦力になるということがわかってきました。そこで、特例子会社と言うかたちで異能の人材に特化したチームを作ることになりました。特例子会社設立に関しては、法令の義務を果たすという目的ももちろんありますが、それ以上に戦力になる人材を獲得するという目的が含まれています。
親会社と特例子会社で行っている仕事内容に関してはほぼ同じですが、特例ではサポートが必要な人が中心になっていますので、アサインするときに丁寧に見ていくようにしています。仕事内容が向かないときには別の仕事に切り替えるなどの対応をしたり、勤怠が安定するまでは、実際の仕事に入るのではなく、仕事に入るための準備として研修の時間をとるなど、サポートを厚めにしているという感じです。
現在、従業員は36人ですが、8月にサイバーブートキャンプ研修を修了した12名が加わって48人になる予定です。そのうち障害者手帳を持っている方は34名ですが、手帳を持っていないが就労困難性を抱えている人材もいます。管理側のスタッフはもともとデジタルハーツでグループリーダーやマネジャーをしていた人が中心となっています。
どんな人でも働きやすい雰囲気づくり
Q:もともと社員の方の多くが引きこもり経験のある方が多かったので、社内には障害者雇用に関しても特別感はあまりなかったのでしょうか。
A:そうなんですよ。障害を特別視するような会社風土ではないので、あまり特別な配慮や対応というよりは、どんな人が来ても働きやすいようにという配慮ができる雰囲気になっていた感じですね。デジタルハーツでグループリーダーやマネジャーをしていた人が中心となってマネジメントに携わっていますが、後から福祉の資格を取るなどして、とても適切に管理をしてくれています。
また、いろいろな特例子会社さんを見学したり、お話する中で、福祉のバックグラウンドの方に企業的なことを理解してもらうのが早いのか、もともと企業にいる人に福祉のことを学んでもらうのがいいのか聞いたりしたんですけれど、後者ですと言われる方が多かったですね。福祉に思いがある人ほど、営利活動のためにそこを犠牲にしていいのかのように思いが強くなりすぎて、ともすれば過保護になりがちになる傾向が見られるようです。
企業にいる人のほうが、合理的にこういう配慮をしたほうが効果的だとか、必要な知識を身につけるためにどのように教えたり育成するとよいかという視点はあるというのを、現場を見ても実感しています。障害者雇用というと専門的な知識がいると思われそうですが、福祉のバックグラウンドがないとできないということは殆どないと思っています。
ただ、前職がA型の事業所だったスタッフもいて、福祉系のバックグラウンドがある人材も採用して、そういったケアも手厚めにできているところもあります。福祉で一生懸命にケアされて、いつも彼らは支えられるという環境に甘んじていると、本当の自立にはつながらないと福祉の限界を感じていたようです。
一方で企業との接点のところではなかなか思っているようにいかなかいところもあり、だったら企業側に来て福祉のところと連携して活躍するところを一緒にやりましょうということで、一緒に仕事をすることになりました。意欲的に僕らのビジネスとか、戦力化するところに学んでいただいているので、これはすごくありがたいですね。
仕事内容とキャリアアップの仕組み
Q:仕事内容はどのようなものがあるのでしょうか。
A:大きく分けると3つあります。
1つ目は、元々特例子会社の母体となっている業務です。こちらは検証作業ではなく、事務作業になります。全国のテスターの個人情報を管理する必要があるため、アルバイト契約の場合でも個人情報を一定期間保有して廃棄する業務が発生していました。これを各拠点ごとに行っていたのですが、かなり業務が大変だったので、全部それを集約して仙台の拠点で行っています。紙の履歴書を電子化してファイリングする、また期限が来たものは廃棄するという個人情報管理の業務や付随するような業務、書類仕事を集約して行っています。
(写真:事務作業の様子)
2つ目は、ゲームのデバック業務、検証作業です。障害者も戦力化していくというところを目指しているので、メンバーの中から適性の高そうな人を中心に、ゲームデバック業務を親会社と一緒に従事しています。実際にいろんなゲーム機を操作して、不具合を見つけたら報告するという業務内容になります。
(写真:デバッグ作業の様子)
3つ目は、今、力を入れているところですが、システムテストとかサイバーセキュリティの分野です。ゲームのデバック業務、検証作業のできる人材がさらにスキルアップして、ゲーム以外のところで活躍できるように動いています。プログラミングができる人やSEの職歴がありますという方を採用して、システム開発やシステムのバグや不具合を修正することもしています。
例えば、ショッピングサイトの中にシステムの脆弱性があったりすると、そこからハッキングされたりするので、そういうものがないかを調べるセキュリティの仕事に従事する人材もいます。ここで経験を積み、難関資格取得もしながら高度な業務ができるようになると、そこから親会社に転籍してさらなるキャリアアップを積む形もイメージしています。
(写真:セキュリティ業務の様子)
既に1人、障害者手帳を持っていない人材でしたが、非ITの領域からリスキリングして入社し、専門的な内容を学んで経験を積んで、親会社に転籍したという人が出ています。このような実績があるので、同じように活躍できる人材をどんどん増やしていきたいなと考えています。
Q:障害者手帳を持っていて特例子会社に入社した方が、3つ目の業務のスキルが身についたら本体に転籍できるということでしょうか。
A:はい、それを目指していきたいと思っています。もちろん特例子会社の中でキャリアアップして、より難しい仕事をして昇給昇格してという道も考えてはいますが、やはり選択肢の幅で言えば、親会社のほうが仕事はいろいろあります。どんどんそちらにいける人材が増えるといいですね。
また、今はそういうケースはありませんが、逆に親会社で働いていたけれど、何らかの不調などで休職するようなケースがあった場合には、復職するときに一旦特例子会社の方で研修や業務に慣れながら、親会社に戻っていくということもあり得ると思っています。
活躍する場を広げる秘訣は、柔軟に対応できる体制づくり
Q:親会社と特例子会社を行ったり来たりすることに対して、社内の雰囲気としてはハードルが低いのでしょうか。
A:そうですね。実際、仕事上も連携しながらやることが多く、親会社の仕事の状況を聞きながら、繁忙期で人が足りないとなればタイミングを見ながら一緒に行なうこともよくあります。また、そのように業務を通して「あの人はいい仕事していましたね。」とフィードバックされることもあるので、こちらからもアピールをしながら、活躍できる場があれば柔軟に対応できるように体制づくりを心がけています。
Q:仕事する場所や業務が変わることに対しては、あまり苦手さがない方が多いんでしょうか。障害者社員の方はどのような特性の方が多いのでしょうか。
A:手帳の種類で言うと精神が多く、双極性障害、うつ、統合失調症、あとは、発達障害でADHD、ASDとか、両方の特性を持っている方もいます。もちろん人によっては新しい環境が苦手というか、行きたいという人ばかりではありませんが、こちらが伝えているのは、「何事もチャレンジしてみて、無理だなというときには、早めに言ってね。我慢しないでね。」ということです。いろんな可能性があると思っているので、とりあえずチャレンジしてほしいと思っています。
実際、脆弱性診断というセキュリティのチェックの業務に携わったときに、1日でちょっと難しいとギブアップする人もいました。でも、このように率直に言ってもらえるのは僕らとしてはありがたくて、そこで無理して1ヶ月頑張って不調になって休職されるのはお互いにマイナスになります。難しければすぐに言ってもらったほうが、じゃあ他のセキュリティの教育のほうの仕事をやってみようとか、パソコンの監視するような仕事をやってみようとか、いろんな仕事に当てはめながら、どこでなら心地よく働けるのかというところを探していくことができるんです。
前編では、業務内容や親会社とのつながりを中心にお聞きしてきました。後編では、採用や人材育成、今後の企業戦略についてお聞きしていきます。
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