2026年8月31日更新
発達障害のある社員について、以前はできていた仕事でミスが増えたり、遅刻や欠勤が目立つようになったりすると、「発達障害の特性が強くなったのではないか」「二次障害ではないか」と考えることがあります。
発達障害のある人では、気分の落ち込みや不安など、発達障害そのものとは別の精神的な不調が重なることがあります。こうした状態について「二次障害」という言葉が使われることがあります。
ただし、職場がその社員について「二次障害になっている」と判断する必要はありません。
企業がまず確認したいのは、診断名ではなく、「以前と比べて仕事や勤務にどのような変化が起きているか」「その前後で、仕事や職場の条件に何が変わったか」です。
仕事量が増えたのか、判断を求められる場面が増えたのか、役割や上司が変わったのか、周囲に合わせ続けることで負荷が蓄積しているのか。本人の特性だけでなく、仕事や職場との関係から見ることが重要です。
この記事では、発達障害のある社員に不調や仕事上の変化が見られたとき、企業や管理職が何を確認し、どのように職場の負荷を見直せばよいのかを整理します。
- 発達障害の「二次障害」を職場ではどう捉えればよいか
- 不調を「症状」ではなく、以前との変化から見る理由
- 本人の特性だけでなく、仕事や職場の負荷を確認する視点
- 仕事量以外に見落としやすい「判断の負荷」
- 管理職・人事・産業保健・医療をどうつなぐか
発達障害の「二次障害」とは何か
発達障害情報・支援センターでは、発達障害のある人の中には、気分障害や不安障害などの精神症状や、ひきこもり、職場不適応などの二次的な問題をきっかけとして医療機関を受診するケースがあることが示されています。
発達障害そのものと、後から生じた精神的不調は同じものではありません。
仕事や人間関係がうまくいかない経験が続いたり、本人に合わない環境へ適応し続けたりすることが、強い負担になる場合があります。ただし、不調が生じる背景は仕事だけではなく、健康状態や生活上の出来事など複数の要因が関係することもあります。
そのため、会社が「発達障害があるから二次障害になった」と結論づけることは適切ではありません。
職場の役割は二次障害を診断することではなく、仕事や勤務に生じている変化に気づき、必要な職場対応や専門的な支援へつなげることです。
見るのは「二次障害のサイン」ではなく、以前との変化
二次障害について知ると、「どんな症状が出たら注意すればよいのか」というチェックリストを探したくなるかもしれません。
しかし、管理職が症状から病気を判断する必要はありません。
厚生労働省の「こころの耳」でも、管理監督者に求められるのは病気を診断することではなく、「いつもと違う」部下に早く気づくこととされています。病気の有無について専門的な判断が必要な場合には、産業医等へつなぐことが示されています。
職場で確認しやすいのは、例えば、以前は期限内に終わっていた仕事が遅れるようになった、ミスが増えた、遅刻や欠勤が続くようになった、報告や相談の仕方が変わったといった仕事上の変化です。
一つの変化だけで不調と決める必要はありません。重要なのは、本人の普段の状態と比較して、「最近何が変わったのか」を見ることです。
症状を見抜こうとするより、「以前と比べて何が違うか」を確認する方が、職場で取れる対応につながりやすくなります。
不調が見えたとき、本人の「発達障害の特性」だけを原因にしない
発達障害があると分かっている社員について問題が起きると、「特性だから仕方がない」「もともとコミュニケーションが苦手だから」と捉えてしまうことがあります。
しかし、以前は同じ社員が安定して働けていたのであれば、本人側だけでなく仕事側に何か変化がなかったかを見る必要があります。
例えば、担当業務が増えた、上司やチームが変わった、仕事の進め方が変わった、複数の業務を同時に担当するようになった、顧客対応が増えた、裁量や責任が大きくなったという変化も考えられます。
反対に、会社側では「仕事内容は変わっていない」と思っていても、繁忙期になって予定変更が増えていたり、人員が減って一人当たりの調整業務が増えていたりすることもあります。
発達障害のある社員の職場対応では、本人の特性だけを見るのではなく、本人と仕事内容・職場環境との組み合わせを見ることが重要です。
「頑張れている」ことが、安定して働けているとは限らない
本人が休まず出勤し、求められた仕事を続けていると、職場では「問題なく働けている」と判断しやすくなります。
しかし、仕事を続けるために本人がかなり無理をしている場合もあります。例えば、勤務中は何とか対応できていても、仕事の後は疲れて何もできない状態が続いていたり、休日をほぼ回復だけに使っていたりすることがあります。
もちろん、会社が本人の私生活を細かく把握する必要はありません。一方で、本人から「以前より疲れが取れない」「仕事を終えるだけで精いっぱいになっている」といった話が出ているのであれば、現在の働き方を継続できる状態なのかを確認する材料にはなります。
「できているか」だけでなく、「その働き方を無理なく続けられているか」という視点も必要です。
本人との面談では「何がつらいですか」だけで終わらせない
本人に変化が見られたとき、「最近大丈夫ですか」「何か困っていますか」と声をかけることは大切です。
ただし、本人から「疲れています」「仕事が大変です」と返ってきても、それだけでは会社として何を見直せばよいのか分からないことがあります。
そこで、本人の状態を聞くことに加えて、仕事との関係を確認します。
いつ頃から負担が大きくなったのか、その頃に仕事内容や役割の変化がなかったか、どの業務で特に負担を感じるのか、本人なりに対処できていることと難しいことは何か、といった視点から整理します。
すべてを一度の面談で聞き出す必要はありません。また、「本人に原因を説明してもらう」ことを目的にするのではなく、会社側が持っている勤務や業務の情報と、本人が感じている負担を合わせて見ることが重要です。
仕事量だけでなく「判断の負荷」も確認する
本人から「仕事が大変です」と言われると、会社はまず業務量を減らすことを考えるかもしれません。
しかし、負荷は仕事の量だけでは決まりません。同じ10件の仕事でも、毎日決まった手順で進められる仕事と、その都度優先順位を考え、関係者と調整しながら進める仕事では、求められる判断の量が異なります。
複数の上司から指示が入る、予定変更が頻繁に起こる、完成基準が曖昧な仕事が増える、相手によって対応を変える必要がある、といった状況も負荷になります。
JEEDでも、発達障害のある人への職場での工夫として、担当作業や優先順位の明示、作業時間や工程の見通しを伝えること、指示の伝え方を工夫することなどが示されています。
仕事量を減らしても状態が変わらない場合には、「何件あるか」だけでなく「その仕事でどの程度の判断や調整を求めているか」を見てみる必要があります。
「休ませる」だけで終わらず、仕事の条件も見直す
不調が強くなり、休養が必要になる場合もあります。ただし、休むことで体調が回復しても、職場へ戻ったときに以前と同じ負荷がそのまま残っていれば、再び同じ問題が起きる可能性があります。
そこで、休養や職場復帰の判断とは別に、仕事側の条件も確認します。どの業務から戻すのか、以前と同じ仕事量でよいのか、判断や対人調整の多い仕事をどうするのか、どの段階で仕事を増やすのかといったことは、会社側で検討する必要があります。
厚生労働省の職場復帰支援の手引きでも、主治医の「職場復帰可能」という判断が、その職場で必要な業務遂行能力まで回復していることを意味するとは限らないとされています。
健康面で仕事へ戻れることと、「どの仕事を、どの条件で任せるか」は分けて考える必要があります。
管理職だけで「もう少し様子を見る」を続けない
変化に気づいても、「本人が大丈夫と言っているから」「もう少し様子を見れば戻るかもしれない」と、管理職だけで対応を続けてしまうことがあります。
しかし、遅刻や欠勤が続いている、仕事への影響が大きくなっている、健康面への懸念があるといった場合には、管理職一人で判断を抱えないことが重要です。
まず、職場でどのような変化が起きているのか、これまでどのような対応をしてきたのかを整理し、人事等と共有します。
健康面について専門的な確認が必要な場合には、産業保健スタッフや医療との連携が必要になることもあります。
ここで重要なのは、管理職が「二次障害かどうか」を判断してから相談する必要はないということです。
管理職の役割は診断することではなく、仕事上の変化を捉え、必要な判断ができる人や専門職へつなぐことです。
医療や産業保健につないでも、仕事の判断は会社に残る
本人が医療機関を受診したり、産業医等から意見を得たりすると、「では会社としてどうすればよいかも決めてもらえる」と考えたくなることがあります。
しかし、医学的に必要な配慮について意見を得ることと、実際の仕事内容を決めることは同じではありません。医療側では、本人の健康状態や治療の状況、健康面から避けた方がよい条件などを確認できます。
一方、どの仕事を任せるのか、誰がフォローするのか、業務量をどう調整するのか、いつ見直すのかといったことは、実際の職場を知っている企業側が考える必要があります。
医療情報は重要な判断材料ですが、会社のマネジメントそのものを医療機関へ委ねるものではありません。
調整した後に「本当に負荷が下がったか」を確認する
仕事内容や勤務時間を調整すると、その対応をしたことで安心してしまうことがあります。しかし、重要なのは「配慮を行ったか」ではなく、その結果として何が変わったかです。
例えば仕事量を減らした結果、本人の勤務や仕事が安定したのか。優先順位を明確にしたことで、仕事の遅れが減ったのか。対人調整の多い業務を変更したことで、負担が軽くなったのかを見ます。
また、一人の社員を支えるために、別の管理職や同僚へ負担が集中していないかも確認する必要があります。
一度決めた対応を固定するのではなく、仕事を調整する → 実際の変化を見る → 必要なら再び見直すという流れをつくることが大切です。
- 病名を推測する前に、以前との仕事・勤務の変化を整理していますか
- 本人の特性だけでなく、仕事内容や職場環境の変化も確認していますか
- 仕事量だけでなく、判断・調整・対人対応の負荷も見ていますか
- 管理職一人で「様子を見る」状態が続いていませんか
- 仕事を調整した後、その対応が実際に機能したか確認していますか
発達障害と二次障害についてよくある質問
Q:発達障害があると、二次障害になりやすいのでしょうか
発達障害があれば必ず二次的な精神的不調が生じるわけではありません。
本人の特性、仕事や生活上の環境、経験してきた困難、健康状態など、さまざまな要因が関係します。そのため、「発達障害だから二次障害になりやすい」と一括りにせず、本人に現在どのような変化や負担があるのかを個別に見ることが重要です。
Q:最近ミスや欠勤が増えたら、二次障害を疑うべきですか
ミスや欠勤が増えたことだけで二次障害と判断することはできません。
職場では、いつ頃から変化したのか、その前後で仕事や環境に変化がなかったか、本人はどのように感じているのかを確認します。健康面について専門的な判断が必要な場合には、産業保健や医療へつなぎます。
Q:本人が「大丈夫です」と言っている場合は、様子を見てもよいですか
本人の言葉は重要ですが、それだけで判断する必要はありません。
実際に遅刻や欠勤が増えている、以前できていた仕事が進まなくなっているなど客観的な変化がある場合には、その事実について本人と確認します。管理職だけで長期間様子を見るのではなく、必要に応じて人事や産業保健等とも共有します。
Q:仕事を減らせば負担は軽くなりますか
仕事量の調整が有効な場合もありますが、負荷の原因が仕事量だけとは限りません。
優先順位の変更が多い、複数の人から指示が入る、判断を求められる場面が多い、対人調整が続くといった仕事の複雑さが負荷になっていることもあります。どの仕事で負担が大きいのかを確認したうえで調整します。
Q:医療機関に相談すれば、会社としての対応を決めてもらえますか
医療機関からは、健康状態や治療、就業上の留意事項などについて専門的な意見を得ることができます。
一方、実際にどの仕事を任せるか、誰がフォローするか、どのように業務を調整するかは企業側で考える必要があります。医療情報を参考にしながら、実際の仕事との関係から判断します。
まとめ|二次障害を「見抜く」のではなく、負荷が蓄積する条件を見る
発達障害のある社員に、以前とは違う仕事上の変化や不調が見られると、「二次障害ではないか」と心配になることがあります。
しかし、職場が病気を診断する必要はありません。
企業が確認できるのは、以前はできていた仕事が進まなくなった、ミスや欠勤が増えた、報告や相談の仕方が変わったといった、実際の仕事や勤務上の変化です。
そのうえで、本人だけに原因を求めず、仕事量、判断の複雑さ、予定変更、指示系統、対人調整、役割の変化など、職場側の条件も確認します。
必要に応じて人事・産業保健・医療等へつなぐことも重要です。ただし、専門職へ相談した後も、どの仕事をどの条件で任せるかという企業側の判断は残ります。
二次障害を「見抜く」ことより、「以前と何が変わり、どこに負荷が蓄積しているのか」を確認する。
この問いに変えることで、本人の特性だけを問題にせず、仕事や職場の環境も含めて対応を考えやすくなります。
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参考資料・一次情報
青年・成人期の発達障害|医療機関(発達障害情報・支援センター)
15分でわかるラインによるケア(厚生労働省 こころの耳)
発達障害の職場での配慮・雇用管理(高齢・障害・求職者雇用支援機構)
心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(厚生労働省)
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